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2002/12/05
新・障害者基本計画とプラン策定への提言
「障害者の21世紀」そのスタートダッシュに向けて!!
内閣官房長官 福田 康夫 殿


新・障害者基本計画とプラン策定への提言
 「障害者の21世紀」そのスタートダッシュに向けて!!


民主党
政策調査会長     海江田万里
内閣府担当NC大臣   岡崎トミ子
人権・消費者調査会長 石毛えい子

〜障害者の21世紀は2003年度から〜

今年、2002年度は政府による障害者施策の現行長期計画「障害者対策に関する新長期計画」とその達成目標が数値で示された「障害者プラン」の最終年度です。また「国連障害者の10年」を引き継いだESCAP「アジア太平洋障害者の10年」の最終年。それに関連して今秋には4つの大きな障害者国際会議が日本で開催されました。これら長期にわたった取り組みの「成果」と「反省点」を踏まえて、引き続き21世紀初頭10年間の目標を明確に定めることがいま求められています。

〜現行「新長期計画」・「障害者プラン」の評価と課題〜

1982年、「国連障害者の10年」は「ノーマライゼーション」という当時は耳慣れなかった新しい社会のあり方についての理念を広く世界に問題提起しました。その後、二期の長期計画期間を通じた障害者施策の展開で、この基本理念は私たちの社会に着実に根付きつつあるのではないでしょうか。遅れていた在宅サービスの整備スタートで「施設収容」から「在宅・自立生活支援」への道筋が示されたことはきわめて重要でしょう。また、ハートビル法や交通バリアフリー法の成立などもあり物理的なバリアフリーは進んできています。
達成目標が数値で示された「障害者プラン」は、それぞれの施策の進捗状況と問題の所在をわかりやすく国民に示してくれました。施設サービスの達成度に比べて在宅サービスと地域生活支援システムの立ち遅れが問題、特に精神障害者の社会復帰施策の遅れは深刻です。
また、障害者福祉サービスが難病などで長期療養を余儀なくされる人や色覚特性(色弱)の人などのニーズに必ずしも応えきれていない。医療と福祉の制度の狭間で必要なサービスを受けることができないという問題も指摘されてきました。

〜新しい基本計画とプラン策定にあたって〜

政府は次期10年間の「新基本計画」とその前期5ヵ年の数値目標計画「新プラン」の年度内策定を決定し、現在、内閣府に設置された官房長官主催の「新しい障害者基本計画に関する懇談会」で審議されています。
私たち民主党は、すでに示された「新障害者基本計画案」に書かれている「自立と参加の共生社会づくり」に向けた政府の取り組みを全面的にバックアップしていく決意です。この立場を明らかにした上で、以下数点にわたり提言を行うものです。


民主党の新・障害者基本計画とプラン策定への提言

基本的な方針について

〜「行政施策計画」を越えて〜

「基本計画」は「障害者基本法」に基づいて政府が策定する行政施策の計画です。しかし、それら施策の目標は「自立と参加の共生社会づくり」。国や自治体のみならず、障害をもつ人も持たない人も、民間企業もNPOも、大人も子どもも、すべての国民が力をあわせなければ達成できない目標です。
10年をかけて、すべての国民の手で創りあげるにふさわしい理念と目標を、すべての国民にわかりやすく示すことが必要です。

〜「権利に基づく社会」の創造を〜

ESCAP「アジア太平洋障害者の10年」の延長決定をうけて、今年10月、滋賀県大津市でハイレベル政府間会合が開催されました。そこで採択された「びわこミレニアム・フレームワーク」は、「インクルーシブ(すべて包みこむ)で、バリアフリーな、権利に基づく社会に向けた」行動の計画案となっています。
しかし「新基本計画案」では、特に最後の「権利に基づく社会」を創っていくという理念が明確に示されてはいません。「びわこミレニアム・フレームワーク」の理念と目標は、「新基本計画」10年の理念と目標でもあるべきです。

〜新たなサービスの対象拡大には十分なフォローを〜

高次脳機能障害やいわゆる難病の患者さん達など、障害者認定の問題からこれまでは求める福祉サービスが必ずしも十分に提供されてはきませんでした。このような医療と福祉の狭間をうめて、求めるサービスの必要性から判断し柔軟に障害者サービスの対象を拡大するという基本的な考え方は大賛成です。
しかし、学習障害(LD)や注意欠陥・多動性障害(ADHA)、高機能自閉症など、専門医学的な「機能障害」が新たな「障害児」、新たな偏見や差別を生み出すことの無いよう、病気とそのケアについての十分な理解を助ける情報提供や広報啓発も含めていねいに取り組んでいかなければならないでしょう。

重点的に取り組むべき課題について

〜「教育」は「共生社会」の基礎構造〜

私たち民主党が「新基本計画案」に対し最も強くその変更を求めるのは「教育」です。これまで障害をもつ子どもの学校教育は、「盲・聾・養護学校」や「特殊学級」など「障害に応じた分離・別学教育」が原則とされてきました。私たちの社会を共生社会にするのであれば、社会のあり方を学ぶ学校も「共に学び、共に育つ」場所でなければなりません。それは障害を持たない子どもにとってより大切な生きる力を育む学びです。
21世紀新しい共生社会づくりのスタートにあたり、国連標準規則やサラマンカ宣言など国際的な潮流にも沿う「統合教育・保育」を学校教育の原則とすることを「新基本計画」に明記するよう強く求めます。残念ながら学校の校舎のバリアフリー化、障害に配慮された教科書・教材や学習支援機器の配備などの環境整備は遅れています。少なくとも「新基本計画」の10年間を期限とした政策転換をゴールアンドタイムテーブル方式による目標として盛り込むべきです。
 また同時に、すべての教員の教員免許取得に障害児教育を義務づけるとともに、進まない障害を持つ教員の採用も強力に推し進めて行かなければなりません。

〜事実上の「欠格条項」を無くしていこう〜

各種資格制度などの障害を理由とした様々な制限(欠格条項)は、現行「基本計画」に基づいて今年度までに法律の見直しが行われました。
私たち民主党は法律改正の国会審議でも再三指摘してきましたが、教育・養成過程である学校や専門学校の施設・設備や試験方法・カリキュラムなどが、障害を持つ学生への配慮を欠くものである限り、たとえ法律が変わったとしても事実上の「欠格条項」が残ってしまいます。自立と社会参加への入り口としての高等教育機関でのハード・ソフト両面からのバリアフリー化を明確に位置づける必要があると考えます。

〜「雇用・就労」は「社会参加」の基礎構造〜

昨年度の民間企業の障害者実雇用率は1.49%です。昭和52年制度創設時1.09%から四半世紀を経てようやく0.4%伸びたに過ぎません。逆に近年の厳しい経済状況から障害者の解雇は激増しています。昔も今もこれからも、「働くこと」は社会参加の土台です。21世紀の新たな「新基本計画」では、この古くて新しい課題に対して政府をあげてこれまで以上に思い切った姿勢で取り組むことを求めます。
まず、法定雇用率達成への段階的目標値を「新プラン」に数値目標として示すべきです。5年間の目標値を定め、新しいトライアル雇用制度やジョブコーチ制度、職場のハード・ソフト両面でのバリアフリー化など各般の施策の充実強化と徹底した広報・啓発事業に取り組むべきです。
 また、障害を持つ人たちの起業支援や協同組合などNPO支援、身近な働く場としての小規模作業所への支援策充実などさらに積極的に進めるべきです。
〜共生社会を指向するテクノロジーと情報化に〜
急速なIT化にともないデジタルデバイドが大きな社会的課題になりつつあります。一方で、コミュニケーションや移動にハンディを抱える障害を持つ人たちにとってITは社会参加への強力なツールにもなりえます。技術や情報化が高齢者や障害者をとり残して進む社会ではなく、共生社会の土台としての役割を果たす社会をめざさなければなりません。
現状では、IT機器をいきわたらせても障害を持つ人たちがそれを使いこなすための障害にあわせたソフトや支援機器またそれらの利用法を含めて教えることのできる教育担当者が決定的に不足しています。また、ユニバーサルデザイン技術標準化と障害の種類や部位その程度と千差万別の一人一人の状態に応じたアシストテクノロジーの個別化を両面から強力に推進する必要があります。
これらの施策は「総務省」と「経済産業省」、さらに「厚生労働省」、「文部科学省」ときわめて多省庁間の連携が必要な課題。政府部内に一層の調整権限をもった特別の推進体制を急ぎ構築することが必要です。また、アメリカのリハビリテーション法508条に習い、政府関係調達品などについては障害者共用品、ユニバーサルデザインを納入条件とすることを「新基本計画」に書きこむべきです。

〜「まち」と「アクセス」、バリアフリーのバージョンアップ〜

ひとつひとつの建物のバリアフリー(点)から、道路・歩道や公共交通機関(線)へ、ハートビル法や交通バリアフリー法の成立などまちのバリアフリーも進んできました。
さらに住宅や小規模な建物のバリアフリーの標準化や、すべての交通機関、地域の学校・公園なども含めたまち全体のバリアフリー(面)をさらに進めて行かなければなりません。また、公共交通機関のネットワークではカバーしきれない地域内移動をサポートするために、ユニバーサルタクシーやハンディキャブなどドア・ツー・ドアのスペシャルトランスポートサービス(STS)も社会参加のインフラストラクチャー整備として位置づけるべきです。

〜「施設」から「在宅・自立生活支援」を確実に着実に〜

「新基本計画」では総合的な「在宅・自立生活支援」をさらに明確に示すべきです。利用者選択を保障する在宅サービス供給量の確保と情報提供体制・サービス評価システム整備などを「新プラン」前期に集中的に目標化・財源確保する必要があります。また、障害ケアマネジメントの早期制度化と施設・病院からの退所・退院プログラム策定とが明記される必要があります。あわせて地域生活の受け皿となるグループホームの緊急整備と住宅の確保策、とくに公営住宅に知的障害者・精神障害者の単身入居枠を設定し現在の「欠格条項」状態の是正をはかるべきです。同時に、医療機関や消防・警察などとの緊急時支援体制の確立と成年後見制度・福祉オンブズマン制度の拡充、障害者・関係団体の参画による権利擁護委員会の設置など権利擁護システム強化拡充も重要です。
また、小規模作業所や障害当事者・団体のサービス供給事業者化の支援策、障害認定のあり方などの課題について早期に方向性を示すべきと考えます。


〜「入院」から「地域生活支援」を緊急に最重点で〜

現行の「基本計画・プラン」でもっとも取り組みが進まなかったのが「精神障害者福祉サービス」です。これからの10年間では最重点での取り組みを進める必要があります。
まず、「新基本計画」に社会的入院患者について明記するとともに、その解消に向け「新プラン」に一年ごとの目標数を定めた地域生活移行緊急重点実施計画を示すべきです。精神障害を含めた「市町村障害者計画」策定・追加を支援し、当面、すべての市町村での精神障害者グループホームと保健医療福祉担当者と行政が連携する「地域支援チーム」の設置を目標とすべきです。また精神障害者ピアサポート事業を創設し、精神障害者自身が地域での生活支援プログラムを立案・実施できる体制整備も必要です。
21世紀の「新基本計画」では、問題視されながら長らく精神科特例として放置されつづけてきた劣悪な精神科医療体制を一般医療と同等の水準に引上げることを明記すべきです。
また、「基本計画案」にある「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者に対する適切な医療の確保を推進する。」という部分については削除することを強く求めます。


推進体制について

計画の策定はもちろん施策を進めていく具体的な実施過程でも障害をもつ人・関係団体の参画が不可欠です。国の場合で言えば、先に廃止された中央障害者施策推進協議会に代わる常設の障害者団体や関係団体との協議機関を内閣府に設置することも必要です。NPO、NGOとの協力連携体制の強化はいうまでもなく、各地での障害者・関係団体のエンパワメントへの支援、行政や学校、企業における人権教育の推進を求めます。
また、計画の目的は「自立と参加の共生社会づくり」であることを踏まえ、計画や数値自体の絶対化であたかもそれが目的のごとくなってしまう計画行政の陥穽に陥ることないよう、特に障害者・関係者の意見を重視した施策評価の手法とフィードバック手法も計画自体に明記することが必要です。


新しい「障害者プラン」について

数値で示された施策目標は、それぞれの施策の進捗状況と問題の所在をわかりやすく国民に示してくれました。新しい「プラン」策定に当たっては、可能な限りすべての施策分野で数値目標を明確化するべきです。
また、障害者福祉サービスの分野では、新プラン5ヵ年の期間が支援費制度移行さらには介護保険制度見直しと時期的に重なります。利用者・事業者・自治体それぞれに不安が生じることのないよう、「新プラン」5年間の前半を在宅・自立生活支援サービス集中整備期間と位置づけて、在宅サービスと精神障害者社会復帰施設の重点整備とそのための十分な財源確保を図るべきです。

提言を終えるにあたり

近年、障害者・関係団体の関心は「障害者差別禁止法」制定にあります。今秋、日本で開催された障害者国際会議の会場においても同様でした。また「総合的福祉法」の制定や扶養義務に関する「民法改正」なども含め、内閣府に設置されている「新しい障害者基本計画に関する懇談会」でもこれら法制定や法改正についての意見・要望が多く出されています。しかし、政府が策定する行政施策の計画という性格から「基本計画」ではこれらの法整備の問題は掲げられていません。また、自立の前提条件ともなる所得保障の問題。特に無年金障害者の問題も同様です。
私たち民主党は立法府の立場から、これら「基本計画」上には記載されない課題についても真摯に向かい合い検討を進めなければならないと考えます。国際的にも、国連では「障害者の権利条約」が検討されており、またすでに世界43カ国で障害者差別禁止法が制定されています。前述の通り「びわこミレニアム・フレームワーク」も「権利に基づく社会づくり」を掲げています。政府もこれらと共同して課題解決への展望を切りひらいていかれんことを求めます。

以上
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