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1999/12/24
2000年度予算案についての見解
民主党ネクスト・キャビネット
予算・決算担当大臣 横路孝弘

1. 総論

本日、2000年度予算政府案が閣議決定された。民主党は、来年度予算の最大の課題は、混迷混乱を深めるわが国経済・社会において、財政規律に十分留意しつつ産業経済の構造改革を促進するとともに、国民の生活・雇用の安心感を高めることであると考えるが、予算政府案は、こうした課題に応えるものとは到底言えない。

まず第一に、一般歳出の総額84兆9,871億円の内、政策的経費は前年度当初比2.6%増の48兆914億円と二年連続の「積極予算」となっているが、その内実は、従来型の公共事業の羅列にすぎず、その事業分野別、省庁別配分にしても、シェアは固定的でほとんど変動がない。こうした旧来型の公共事業の大盤振る舞いに対して、首相の言う、ミレニアム・プロジェクトなど新規産業創出のための経費は、わずか1206億円を計上するにとどまり、消極的と言わざるを得ない。個人消費、民間設備投資がともに冷え込む中、このような予算では民需主導の自律的な経済再生・景気回復につながるものとはならない。
第二に、今回の予算案は、自自公連立政権の野合体質をまさに露呈するもので、社会保険診療報酬改訂や児童手当問題など、それぞれの選挙目当ての「バラマキ」に終始し、構造改革をめざす姿が全く見えない。
第三に、こうした無軌道なバラマキ予算案の結果、我が国財政赤字は悲劇的な域に達しつつある。今回、当初予算案としては戦後最高の総額32兆6,100億円の国債発行がおこなわれる。国債依存度は実に38.4%に達し、国債発行残高は364兆円と、99年度末見込よりも29兆円の増額となる。

自自公3党が、選挙目当てで作り上げた今回の予算案が示すものは、バラマキと先送りの一覧表であり、「理念」など、その行間にすらうかがえない。このように混乱と矛盾があらゆる局面で噴出し出し、政権としての統治能力さえ疑わしい自自公野合政権を国民の審判によって打倒するため、民主党は引き続き全力を挙げる決意である。


2. 各経費の問題点

 予算案の各経費の問題点については以下の通りである。

(1) 公共事業
 一部で都市型事業が強調されているものの、そのシェアはわずかであり、ほとんどを従来型土木事業が占めている。特に道路や治山治水関係については、必要性の疑わしい事業も多い。
 建設省関連公共事業の事業費別前年度費でみると、道路整備費1.01倍、治山治水費0.96倍、下水道費0.96倍、住宅対策0.98倍と、各事項ほぼ横ばいである。政策課題に対応した機動的な予算配分からはほど遠いものとなっている。
 運輸省関連では、港湾予算について、見込のない過大な需要予測に基づく港湾施設の整備が相変わらず続いており、そのような港湾予算を増額する姿勢は理解しがたい。また、国民に対して十分な採算性の説明もないまま、新幹線の建設をさらに進めようとしている。しかも、地域住民の足である在来線は、JRの経営から分離され、住民の負担は増大するばかりである。将来の負担を含め、国民に対して説明責任を果たすべきである。

(2) 中小企業対策
 通産省予算全体に共通しているのは、スローガンと看板のかけ替えばかりで、旧来の施策を惰性的に積み上げただけの予算と言わざるを得ない。中小企業・ベンチャー対策についても、新しい中小企業基本法の理念に沿う斬新な施策が欠落している。エンジェル税制の拡充等についても中途半端なものにとどまった。

(3) 雇用対策
 現下の厳しい雇用失業情勢を踏まえ、失業対策費は10.4%の大幅な伸びとなっているものの、雇用保険の財政状況からすれば、料率改訂や給付内容見直しなど抜本的対策を前倒しで進めるべきである。
 「21世紀人材立国計画推進」を掲げ、都道府県ごとに地域における産学官結集の場を設置するとしているが、あくまで国主導であり、地域の事情を熟知した都道府県等との連携を欠くものとなっている。

(4) 科学技術
 宇宙開発利用分野では、前年度比9%減の約1,700億円が計上されており、H-・ロケット打ち上げ失敗による信頼性向上対策としての新型H-・A開発強化を新規計上したほか、国際宇宙ステーション計画、月探査衛星等が並んでいるが、いまさらとの懸念がある。

(5) 社会保障
 社会保障関係予算では、重要な分野で「抜本改革先送りと将来世代へのツケ回し」が目立っている。医療保険では、中医協で診療報酬値上げを求める診療側と引き下げを求める支払者側の意見が対立して決裂したのち、特定の圧力団体の意向を受けた自民党が「政治決着」と称して診療報酬の実質0.2%引き上げを決定した。高齢化の進展に伴う医療費の増加は避けられない面があるものの、無駄をなくし、透明な決定ルールのもとで、それぞれが公平に費用を分かち合う制度への抜本改革を国民は求めている。
 第二に、児童手当である。政府は、自公の談合を受けて児童手当の支給対象を3歳未満から就学前児童に拡大した。その財源2,200億円のうち2,000 億円は年少扶養控除の10万円加算措置の廃止でまかない、200億円は赤字国債によるとしている。少子化対策という位置づけ自体が児童手当のあり方をめぐる議論に混乱を持ち込んでいる上、内容的にも中途半端であり、総じて場当たり的なバラマキと言わざるを得ない。
 第三に、介護保険関連予算である。政府・与党はごうごうたる批判の中で保険料減免充当分など1兆円あまりの補正予算を強引に成立させたが、来年度予算でもそれに続く形で低所得者対策等の予算を盛り込んだが、これもサービス提供主体や利用開始時期により適用が限定され不公平であるとの批判が強い。

(6) 文教
 学級崩壊、不登校、学力低下問題など、わが国の教育制度をめぐって深刻な状況が見られるなか、小渕首相も教育改革国民会議を提唱するなど教育に力を注ぐそぶりは見せているものの、予算面からはそのような姿勢を感じることができない。

(7) 農林水産
 WTO貿易交渉は来年から新ラウンドが開始され、政府は「農業・農村の持つ多面的機能」論を前面に出して交渉にあたろうとしているが、その予算面での裏付けは3兆4,000億円超の農林水産関係予算の100分の1以下の300億円余にすぎず、農政改革への意欲はまったく感じられない。かねてから批判の強いUR関連対策費についても、従来事業の延長にすぎない。本気で農政改革を進めるのであれば、UR対策費も含めて農水予算を全面的に見直すべきである。
 また、来年度より導入予定の中山間地域等直接支払いには330億円が計上された。政府は同制度を法制化によらず予算措置のみで導入しようとしているが、賛否の議論が多い本制度については、法律事項として国会審議を十分に行うべきであり、仮に国民的理解を得られる場合でも、公共事業費やUR対策費の振り替えによるべきではないか。

(8) 地方財政
 地方税収の続落の中で、地方財政は6年連続での巨額の通常収支不足が続くこととなっている。総額21兆円余の地方交付税(出口ベース)のうち約10兆円が不足し、交付税特別会計借入金や財源対策債等で補てんされるが、地方の借入金残高は187兆円にも上り、ますます借金頼りの財政となっている。これまで、国の景気対策のために地方団体を巻き添えにした結果、こうした地方財政の極度の悪化がかえって景気の足を引っ張る状況が明白に現れている。景気回復のためにも、国から地方への抜本的な税財源の移譲、地方財政調整制度の抜本改革を進めるべきである。

(9) 防衛
 在日米軍駐留経費負担の日本側負担(いわゆる思いやり予算)の削減は、わが国の財政状況等を勘案して概ね妥当な措置である。駐留経費負担のあり方については、2001年以降の新協定へ向けた米国との交渉の中で率直に議論していくべきである。
 防衛庁では装備品・燃料について不正調達事件が次々と発覚してきたが、正面装備品をはじめとする調達行政の改革とその効果が予算編成に現れているとは到底言えない。

(10) ODA
 ODA予算については、総額では0.5%減の1兆433億円で、「顔の見える援助」の拡充を念頭に置いたというが、民生向上、環境との調和、民主化促進、市場経済化等に資する一層メリハリをつけた予算配分にすべきである。また、わが国の有償資金援助による大型土木型プロジェクトの見直し、外務省以外の他省庁の技術協力予算、評価・モニタリングシステムの強化なども含め、透明性・効率性を高めることで、より大胆なコスト削減を図るべきである。

(11) 情報通信、科学技術、環境等
 あいかわらずの公共事業中心の予算編成である結果、今後ますます重要性の増大する情報通信関係予算がきわめて少額にとどまっている。総理が「ミレニアム・プロジェクト」を盛んに打ち上げてはいるものの、中身や予算面での裏付けを十分に伴ったものとはなっていない。電子政府にしても、導入時期があいまいであり、このままでは研究開発だけが漫然と続く懸念もある。省庁縦割りの弊害除去や法律改正など、制度面の見直しも並行して行うべきである。また、ベンチャー企業との連携ももっと強化すべきである。「通信・放送機構」の委託研究の委託先をみると、ほとんどが既存の大企業である。同機構もベンチャー企業向けに助成金を交付してはいるものの、その金額は2億円とまったくわずかである。研究開発の委託先としてベンチャー企業や若手技術者のシェアを大幅に増やすべきである。
 環境負荷の小さい持続可能な社会を構築するためには、環境面からの大きな政策転換が必要であるが、環境庁が進める各種施策の予算が少いうえ、ダイオキシン対策に典型的なように後手後手の対処型の施策展開となっているため、国民の不安に対して迅速に対応しているとは言いがたい。環境庁の公共事業については、市民参加型の環境保全、環境復元のための事業をめざすべきであるにもかかわらず、他省庁の公共事業とほとんど変わらない状態であり、抜本的な転換が必要である。
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