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2000/03/15
「人間中心の情報化社会をめざして」高度情報化社会プロジェクトチーム提言
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民主党高度情報化社会プロジェクト提言
■はじめに
時代の大きなうねりの中にあって、私たちの国日本は今混迷と不安に彩られている。出口の見えない経済や少子高齢化の波を受けてただ今日を乗り切ることに専念し、次代を担う世代に夢を与え切れずにいる。西暦2000年の大きな節目を迎えた今、政治はそのリーダーシップを発揮して明確な羅針盤を提示し得ているだろうか。経済・社会・文化の全般に渡って、これから起きるであろう大いなる変動を正確に見抜き進むべき道筋を描き得ているだろうか?
私たちは情報通信という全く新しい普遍的な技術の進展こそが、この国の将来を支え社会構造や市民生活を根本から変革してゆくと確信する。経済も福祉も企業活動も日常の暮らしも何もかもが変貌を遂げようとするとき、政治の果たすべき役割は何か? そんな思いから出発し、一年余りにわたって高度情報化社会像と基本的な理念、情報技術を何にどのように活かすか、情報弱者の問題を含む必要な政策・諸施策をどう考えるか、などの諸点にわたって研究と検討を重ねてきた。
進行中の高度情報化そのものは国家の過度な介入を極力抑制し、まさに民主導の進展が望ましいが、自由放任であってはならないと考える。情報強者と弱者が固定化されたり、経済社会の取引の安全が損なわれたり、市民のプライバシーや健全性が害されたり、福祉や市民活動といった経済の枠外の重要な要素が疎外されたりする懸念も常にあり、一部は問題化している事実にどう対処するか、解決に取り組まなければならない課題である。
問題が起きてから対策を立てる『後追い型』の政策と理念なきバラ撒きに終始してきた過去と訣別し、的確な予測に基づいたビジョンと政策の柱を明示して、骨太な『くにのかたち』を市民とともに創造してゆくことこそ私たちに託された使命である。時代の要請に応え私たちは、この提言を取りまとめた。御協力いただいた内外の研究者・実務家を始め、関係各位に衷心より感謝したい。
■基本理念
情報技術を活用して、
経済構造を改革し、チャンスのある社会、チャレンジできる日本をつくります。
高齢者や身障者を疎外せず、多様な生き方や価値観を許容し合う社会をつくります。
誰もが政治や行政へのアクセスと監視のできる情報民主主義を実現します。
国境や民族の垣根を越えた協調と信頼を築き、紛争予防と平和の創造に役立てます。
■提言(サマリー)
経済のソフト化に対応した環境の整備
[ビジネス・チャンスの拡大]…起業家倍増プランの推進
ハイテク中小企業の多段階支援やエンジェル税制を拡充。SOHOを支援。
※ 詳細は『デモクラット 起業家 倍増プラン 2000』参照
[IT控除・税制の改革]
法人等(含むSOHO)の情報化投資について初年度全額償却を認める。
個人の情報化投資に対して医療費控除(200万円)と同様の控除を認める。
ベンチャー企業育成のためストックオプション税制を拡充する。
[雇用構造の改革]
安全ネットとして、職業再訓練とリンクさせつつ失業保険制度を拡充する。
退職金を月々の給与に上乗せしても、税や社会保険等で不利益を被らないよう改める。
[金融構造の改革]
情報公開のより一層の推進とともに、株式や社債の発行条件の緩和を促進する。
投資家保護の推進とあわせ新しい資本市場の整備を促進し、直接金融を拡大する。
[時代に見合った知的所有権制度の確立]
特許法を改正し、ビジネスモデルなど多様化する特許に対応できる知的所有権制度を確立する。
音楽
映像のオンライン配信の手法や金融取引、電子商取引の仕様など新しい特許の判断基準について、日米欧で行う国際的なルールづくりを促進して特許戦争の過熱を防ぎ、明確で公平な特許の国際標準を確立させる。
[電子商取引の政策的推進]
インターネットへのアクセスそのものを対象にした課税は行わない。ソフトやサービスなどの取引には関税を課さないなどの政策原則を確立し、電子商取引を推進する。
高度情報化の促進
[情報通信戦略本部の設置]
内閣府に首相直属の情報通信戦略本部を設け、日本の情報化に向けた諸施策を策定し、関連予算を拡大するとともに、政府の政策執行機関を「情報通信省」に一元化する。
日本の高度情報化に関する基本政策を盛り込んだ「情報基本法」を制定する
[日本型インターネットの構築]… 情報家電・携帯端末を軸とした日本型映像インターネットを構築
移動通信・地上デジタル放送・NTT光ファイバを軸に無線を含むトータルな高速ネットワークを整備する。
世界最高水準の家電製品の利用と次世代携帯電話(2Mbps以上)を軸とした映像インターネット
サービス環境を整備する。
[遠隔医療の普及・促進]… 健康管理は在宅で診断、遠隔医療の普及で地域格差解消
医療サービス向上のため、遠隔医療に関する法整備や保険適用の拡大等を進゜る。
遠隔医療機器の購入に対して支援を講ずる。
[電子政府の実現]…2005年までに全ての行政手続きのオンライン化
2001年から新しい公文書を全て電子化し公開する。
2002年から税務申告手続きのオンライン化を導入する。
※オンライン手続きを行う法人・個人に特別控除導入
2003年までに政府調達手続きの80%を電子化する。
2005年までに全ての行政手続きを24時間オンライン化する。
2005年までに全国に行政サービス・ステーションを整備する。
地域の気軽な情報アクセスポイントとして、全国の公立図書館等にインターネット環境を整備する。
民事訴訟手続の電子化、判決のネット公開、弁護士ネット広告の解禁、テレビ会議による証言など司法の情報化を具体的に進める
[政治の情報化]…2003年から電子投票制度を実施
2003年の選挙から電子投票制度を実施。
インターネット上に選挙公報等を掲載し、ホームページを活用した選挙運動を解禁。
政党、政治家、政治団体の収支報告書等をインターネット上で公開。
情報教育の拡充
[教育の情報化]…全ての小・中学校生徒にインターネット環境を整備
2003年までに全小中学校生徒に一人一台のパソコンとインターネットにアクセスできる環境を完備し、情報教育を充実させる。
教員資格の取得条件に情報教育を盛り込む等、教員の養成を進める。
インターネットの公用語である英語教育を充実させる。
社会人のためのIT教育訓練センターを全国3000箇所以上設置。
情報のユニバーサル化とデジタルデバイドの解消
[情報バリアフリー社会の実現]…2002年より政府が調達する電子機器については身障者対応のものに限定
2002年より政府が調達する電子機器については身障者対応のものに限定。
特殊法人や地方公共団体にも同様の措置を要請し、2005年までに公的機関で完全実施。
障害者・高齢者も含め全国民が利用しやすい機器開発の促進とコストの低廉化を推進。
情報化社会に対応した法環境の整備
[個人情報の保護]…個人情報保護法の制定
野放し状態の個人情報の流通や利用を制限する『個人情報保護法』を制定するとともに、個人が自己の情報をコントロールできる「情報流通権」を確立する。
さらに市民代表も参加する『情報監視委員会』を設置し、個人情報の悪用を監視する。
[ネット犯罪防止策の確立]… サイバー法の制定
サイバーテロ
ハッカー対策をはじめネット上での名誉毀損などネット犯罪全般を包括した『サイバー法』を制定する。
[新しい就労形態に対応]… 新たな就労形態に対応し得る労働法制の制定
今後増加が期待されるSOHOという就労形態に適合した労働法制の整備を進める。
[電子商取引のための法整備]… 電子取引法と電子金融法の制定
電子商取引に関する権利義務関係等を規定した『電子取引法』を制定する。
電子マネー発行体の要件と破綻時の対応を定めた『電子金融法』を制定する。
通信市場活性化のための環境整備
[通信と放送の融合]… 「通信」と「放送」の融合法の制定
2005年までに通信と放送の相互参入を容易にする法体系を整備する。
CATV及び地上放送のハードとソフトの分離を推進し、コンテンツ制作の活性化と光ファイバー等デジタルネットワークの整備促進を図る。
[規制緩和を通じた利用料金の引き下げ]…1種2種規制の撤廃と包括的料金引き下げ
1種2種規制を撤廃し、地域市場におけるサービスやネットワークの再販を認める。
プロバイダーを含めて24時間利用で月額3000円のトータル料金を目指す
[電波資源の有効活用]…地上アナログ放送周波数を国民共有の財産として活用
地上放送デジタル化により返還される周波数帯を利用し、通信と放送が融合した新規サービスの参入を促すとともに、周波数をオークションにかけ新たな高度情報化推進の基金とし、学校・図書館・遠隔医療などのインターネット利用を補助する
情報平和主義の実現
[情報平和主義の実現]… 情報化途上国の通信環境のレベルアップをサポート
人的、資金的、技術的な支援をするための国際機関を設置する。
情報利用ルールのための国際憲章を制定する。
■本文
§I.第3の革命
資本主義はこの数世紀の間、何段階ものドラスティックな質的変化を遂げてきた。そしてその変化の原動力となったのが『新たな技術』であった。新技術を取り込むことができなかった覇権国は、それを自分のものとした新しい国にその覇権を譲り渡してきた。
最初のフェーズは商業を中心とする資本主義であった。スペインやポルトガルなどの国々は船を使って世界中に一次産品を輸送し、莫大な富を築き上げてきた。この時代において勝敗を決したのは、紛れもなく『海運力』であった。
次なるフェーズは、イギリス産業革命以降の工業を中心とするものである。イギリスが一躍世界の檜舞台に踊り出ることとなったが、勝敗を決したのは言うまナもなく『生産力』、しかも大量生産能力であった。そこではヒト、モノ、カネの三要素が大量生産能力を大きく左右し、工業を中心とする資本主義社会で勝ち抜いていくためのキーワードでもあった。
そして次のフェーズへと質的変化を推し進めているのが『情報通信技術力』で、われわれは今情報を中心とする資本主義社会を迎えようとしている。情報通信技術を代表するインターネットは、一個人に世界に向けての情報発信能力を与え、ヒト・モノ・カネを持たなくともアイデアとチャレンジ精神があれば、世界を舞台に活躍できるチャンスを与えた。また地理的・時間的な制約から解き放たれ、既存の組織や流通などは、より高い付加価値を求めてグローバルなスケールで再編されようとしている。このダイナミズムこそが、情報化社会そのものである。当然その本質を理解し得なければ、20世紀の勝者も来る21世紀には他国にその覇権を譲ることになろう。
§II.インターネットの急速な進展
情報化社会を支えるインフラストラクチャーは間違いなく、世界規模のネットワークであるインターネットであろう。今やインターネットなしのビジネスは想像できない。またインターネットは既存の流通経路を始め組織形態、さらには経済構造そのものにまで大きな変革をもたらしている。
インターネットのもつ特徴は、
(ア) 世界に向けたスピーディーな情報発信能力、
(イ) 文字を始め音声・画像・動画・データなど様々な情報の伝達能力、
(ウ) 情報の発信者と受信者を繋ぐ双方向性、
(エ) 誰もが安価に利用できる気軽さ、などである。
そして以上の特徴をもつインターネットが世の中に与え得る影響として、
(ア) ヒト・モノ・カネという従来型の成功への条件が大きく変わり、個人でもアイデア次第で既存の大組織に伍して大きな成功を収められるチャンスを手にしたこと、
(イ) 地理的・時間的な制約から解放され、他にはない付加価値をもつ者や組織あるいは地域などが大きく飛躍する可能性を得たこと、
(ウ) 情報の蓄積や共有を通じて、世界中からのアイデアを結集するグローバル・コラボレーションを可能としたこと、
(エ)情報化の進展により益々迅速な意思決定が求められるようになり、権限の委譲や組織の簡素化等、規格大量生産時代に築き上げられてきた組織のあり方そのものが今問われていること、
(オ)生産者と消費者が直接取引するチャンネルが生まれ、代理店をはじめとする中間業者の必要性が低下し、商取引のありようが大きく変わろうとしていること、
(カ)消費者の情報収集能力が向上し、生産者あるいはサービス提供者の価格面・品質面等での競争が一層高まりつつあること、
(キ)規格大量生産型から一人ひとりのニーズに応じた製品の提供へとパラダイムが変わりつつあること、などである。
こういったインターネットのもつ多くの可能性は、ビジネスを始め、医療・福祉、行政、教育など様々な分野で活かされ、情報化社会の構築に向けた強力な原動力となる。
§III.日本社会が今直面している問題
情報技術の革新の成果をどのように生かすかを検討する際重要なことは、情報化があくまでも手段であり決して目的ではない、ということである。
企業における情報化も当初は、従来からの決裁書の流れに沿ってLANを張っただけのもので、結局さしたる効果も得られず失敗に終わった。目的は経営の効率化や市場の変化への迅速な対応能力向上などにあったはずだ。そのためには先ず現状の組織形態や仕事の中身を見直すことから始め、その上で情報通信技術をどう活用するかを考えるべきであった。何のために情報化を進めるのか? このことを先ず明確にしておかなければならない。
そこで今、日本が置かれている現状を見渡してみると、経済・社会構造に根ざした経済の停滞を始め莫大な財政赤字や急速な少子・高齢化の進展等々、数々の深刻な問題が山積している。他方、先述したようにインターネットは、技術的に言えばグローバルな情報ネットワークに過ぎないが、世の中に及ぼす影響力はビジネスから私たち一人ひとりの価値観まで計り知れないものがある。
私たちは、日本が抱える諸問題を情報化が総て解決してくれるものと安易に考えてはいないが、少なくとも問題解決の方向性を示してくれると考える。そして企業における情報化でも言及したように、その解決策を進めるにあたっては社会・経済構造は言うに及ばず教育や私たち自身の価値観まで、多岐に渡る改革に先ず手を着けなければならない。
以下に今日本が抱える主な問題点とその解決への方向性を述べる。
1.経済の停滞と遅々として進まない構造改革
バブル崩壊後10年近くを経た今日もなお、わが国そして国民は重苦しい閉塞感より脱し切れていない。この10年間、経済対策と称して100兆円を超える財政を投じながらも依然として明るさが見えてこないのは、80年代から90年代にかけての米国の変貌ぶりにその答えの一端を見出すことができよう。
米国は80年代、日本が空前の繁栄を謳歌する中で深刻な不況に見舞われていた。しかし政府は規制緩和を進め、既存の産業は情報化への投資を行いながら徹底したリストラクチャリングを遂行し労働生産性を高めていった。またそのような状況の中、多数の有為な人材が新興の情報関連産業へと向かっていった。そして情報関連産業は今や、実質経済成長率の35%を占め、約5000万人の雇用を創出し、米国を代表する21世紀型基幹産業へと成長し、米国経済の繁栄を力強く支えている。
翻ってわが国はどうかと言えば、依然様々な規制に縛られて高コスト構造から脱却できず、また従来型産業を保護するだけの制度や政策により21世紀型産業も大きく羽ばたくことができず、構造改革が遅々として進まないのが現状である。
21世紀を目前に控えた日本が先ず着手すべきは、過保護な産業保護政策にピリオドを打ち旧態産業に市場からの退出を求める一方、21世紀型産業が誕生し活躍できるよう環境整備に努め、ダイナミックな『産業構造の転換』を推し進めていくことである。そのためには、金融を始め、雇用、税制など、今日の日本を構成してきた戦後の制度、システムそのものを今一度抜本的に見直していかなければならない。
具体的には先ず、硬直的な間接金融から、市場の力で21世紀型の産業構造へと強力に転換を推し進めていく『直接金融への移行』をはかっていくべきである。銀行からの借入金利息が損金算入できる一方で、日本で大半を占める中小企業にとって社債の発行が非常に困難で、株式も流通しにくいような現行制度は再検討されなければならない。
次に定年まで勤め上げることを奨励する現行の賃金制度とそれを支える税制、リスクテイキングを躊躇させるような過度の累進構造をもった所得税制、結果的に女性の労働意欲を抑制してしまっている103万円の非課税限度額等々。これらは産業構造の転換を進めていく上で、貧弱な職業再訓練システムと併せて早急に見直していかなければならない。
さらに制度上、パソコン等10万円以上のOA機器については6年間かけて定額償却することとなっているが、これも現実と余りにも乖離している税制と言わざるを得ない。需要喚起をはかる上でも、また構造改革を促していくためにも、情報関連機器については全額の即時償却を認めるべきである。さらに個人の情報化投資に対しても、政策的観点から医療費と同様の控除を認めていくべきである。
また平成12年度政府予算を見ても、情報化の中心となる郵政省・通産省の関係予算が一般歳出に占める割合は0.35%に過ぎず、公共事業予算のシェアも1.4パーセントに過ぎない。アメリカの政府予算では1.7%が情報通信関係に振り向けられているのに比べ極めて不十分といわざるを得ず、重点的な予算配分が必要である。
2.高齢化社会に対応し得ていない社会環境
あと6年で5人に1人が、38年後には10人に3人が65歳以上となる急速な高齢化が進んでいる。
認定作業が進んでいる介護保険制度は4月から施行されるが、実情に合わない要介護認定を巡る問題のほかにも、人材の育成やボランテイアのネットワーク作りなど課題は山積している。
医療は紙のカルテから電子カルテへの移行が急がれるが、地域医療まで含む改革はまだ進んでいない。
年金についても負担と給付の不公平が世代間・職業間で顕著であるが、抜本的改革が叫ばれつつ一向にその展望が開けずにいる。
また障害者基本法は制定されたが、不況のしわ寄せを真っ先に受ける現状は改善されず、車椅子で自由に行き来できる社会インフラの整備も欧米より遥かに立ち遅れ、在宅での社会参加を可能とする仕組みも確立されていない。
これからもっとも政策的配慮が必要な分野であるだけに、遠隔医療を行うチームを全ての国立病院に設置し関連機器の購入を助成することや地域での介護ボランテイアのための情報ネットワークの整備を進めるとともに、元気なお年寄りの活躍の場としての地域での社会参加活動を政策的に支援していくことが必要である。
また情報弱者をつくってはならないとの基本に沿った機器開発を政策的に推進するため、政府など公的機関の調達機器は必ず障害の有無にかかわらず誰でも使いこなせることを義務づける。
また社会や身の回りのものが障害者の身体特性に合わせて生活しやすいように自動的に調整され、健常者との違いを補うための機能を必ず提供することを国の目標として明示すべきである。
3.膨張し続けるばかりの財政赤字
わが国の国と地方を合わせた借金は今や600兆円、実に国民一人当たり500万円、4人家族であれば2,000万円、先進国で最悪の水準である。他方で急速な高齢化の進展に伴う福祉・医療関連費用の急増は必至であることから、この借金の返済の目処は全く立たない。にも拘らず政府はバラ撒きとツケ回しを一向に止めようとしない。
ところで、日本の財政が歯止めも効かず、悪化の一途を辿り続けるのは何故なのか? その原因として中央集権的な現行の税制--国税として都市から集められた税金が補助金・交付金という形で地方へ再配分される--のなかで、国も地方も当事者意識を持たなくなってしまったことが挙げられる。当事者意識を持たなければ、行政の効率化や予算の効果向上をめざすインセンティブは希薄になるのは当然である。
つまり、巨額の財政赤字解消に向けた第一歩は、現行の国税中心の税体系から地方税中心の税体系へと転換をはかること、換言すれば『財源的な裏付けのある地方分権社会』を築き上げていくことであろう。
ところがここで問題になるのが、地方には雇用を吸収できる産業は少ないという現実であり、また有望な産業を興すことなど出来はしないといった諦めである。しかしそれは従来の固定観念に縛られた発想ではないか。例えば沖縄県。県は今、人材育成や研究開発基盤の整備などを進め、情報関連産業の振興に取り組んでいる。その結果、コールセンターを始め、ハイテク企業やソフトウェア・コンテンツ開発企業の誘致へと実を結びつつある。このことは情報通信技術を活用すれば、地理的な劣勢を克服し、むしろ都市に比べて安い人件費や事務経費、あるいはゆとりある空間などをメリットとして21世紀型産業を誘致できる可能性があることを証明している。
財政赤字解消に向けたシナリオは、先ず地域経済を情報通信技術の力も借りながら活性化させ、そして財源的裏付けのある地方分権社会を実現させる。そして地方は当事者意識を持って、行政サービスの効率化や更なる地域活性化のための諸施策を講ずることになる。
4.情報通信教育の不足
学校教育の現場では情報化に対応した教育の必要性が叫ばれていながら十分に進展しているとは言いがたい。機器の導入やアクセス環境などハード面の問題もあるが、より大きな課題は教える側のスキルと応用能力である。画一的な知識を詰め込む教育ではなく、子どもが教師を凌ぐような発見や情報の組み合わせを発想したときに、どのように導いて創造することの喜びを味合わせることができるかが問われている。
これからは「知識」を運び込む教育から「知恵」をはぐくむ教育に変えていくという視点が必要となる。教育の情報化のための教員実習プログラムを導入するのはもちろん、全ての小中学校の児童生徒に情報端末をもたせ、早期の英語教育も実施して地球規模の子どものネットワークを作り、文字通り「教室から世界へ」直接つながる教育環境・条件を整えて、自ら問題を発見し解決法を探索していくという能動的な教育に転換していく必要がある。
また大学を地域経済の核と位置付け、大学や地域の企業等をネットワーク化し、特に中小企業の技術力を始め受注能力等々を手助けする。一たん社会に出た後、その経験に照らし、もう一度学びなおす仕組みを社会の中に位置付ける一環として、「サイバー大学」や「サイバー留学」制度を創設し、正規の大学並みの単位認定と単位互換制度をつくる。
5.多様なライフスタイルや価値観を許容しない社会
一つの会社に一生勤めることを前提とした、年功序列、終身雇用などのシステムは近年崩壊しつつある。一方で、個人のレベルでは自分のライフスタイルに合わせた多様な就業形態を望む人々も増加している。
その一例はSOHOといわれるもので、自分の自宅などをオフィスとして、個人や数人の仲間と仕事をするものである。高度情報化社会では、こうした個人の集まりがネットワーク上であたかも企業のごとく有機的に連携する、バーチャル・カンパニーという形態が可能になる。会社を退職した高齢者や女性の中にも、労働意欲を持ちながら時間的な制約や雇用機会の少なさのために働くことができない人々も存在する。そうした人々が自分の生活に合わせて就業する機会を提供することがやりがいや生きがいにつながる。
しかし、現実の社会でそのような個人事業者が事業を行うには、資金調達や取引先に対する信用力の問題で困難がともなっている。単に働き方の問題としてではなく個人がよりその人に見合った生き方を選択できることがこれからの社会を形作る最も基本的な要素として要請されているにもかかわらず、会社中心の社会制度と経済構造から脱し切れていない。
高度情報化によって可能となる新しいライフスタイルを政策面から支援することが個人の人生選択の幅を大幅に広げることにつながる。情報機器導入やスキルアップへの支出の控除、起業のための情報提供や融資制度の創設、人材育成など多方面にわたる支援措置が必要である。
§IV.高度情報化社会の構築に向けての提言
1.経済のソフト化に対応した環境の整備
(1)チャレンジできる国を目指し税制・雇用・金融などの改革を推進
[ビジネスチャンスの拡大]
ハイテク中小企業の支援やエンジェル税制の拡充を進めつつ、SOHOを支援する。
[税制の改革]
IT減税として、法人についてはOA機器のヲ時償却の100万円の上限を撤廃して6年定額償却を全面的に改め、また個人についても医療と同様の控除(200万円)を認める。
ベンチャー企業に勤務する社員の勤労意欲をさらに高めるため、ストックオプション税制の拡充(待機期間の短縮、権利行使価格の引き上げ、外資系企業への適用拡大)を行う。
情報化の進展に伴い女性の就労機会は益々増えていくが、その際女性の労働意欲を抑制する非課税限度額を見直し、所得税を世帯単位から個人単位へと切り替えることなども検討する。
[雇用構造の改革]
安全ネットとして、職業再訓練教育とリンクさせつつ失業保険制度を拡充する。
退職金を月々の給与に上乗せして支給しても、税や社会保険等で不利益を被らないよう改める。
女性や高齢者そして身障者等の就労機会を拡大するものとして、また情報化時代における新しいワーク・スタイルとして、SOHO(スモール・オフィス・ホーム・オフィス)という就労形態は今後増加が期待される。この新たな就労形態に適合するよう、労災認定基準を始め労働法制の整備を進める。
[金融構造の改革]
銀行からの借入れは、借入金の利息が損金算入できる点で有利。他方、社債の発行には投資家保護の名目で資本金や財務状況等厳しい条件が課せられ、殆どの中小企業は発行できず、また株を発行しても同様の理由で上場できない。これら間接金融から直接金融への移行を阻んでいる様々な制度等の改善をはかる。
さらに、投資家保護の推進と相俟って、ナスダックジャパンや東証マザーズのような新たな資本市場の整備を一層進め、直接金融の役割を拡大する。
[時代に見合った知的所有権制度の確立]
特許法を改正し、ビジネスモデル特許など多様化する特許に対応できる知的所有権制度を確立する。
先端的で普遍的な情報技術や手法を独占するための訴訟合戦など特許戦争の過熱を防ぐためにも、音楽・映像のオンライン配信の手法や金融取引、電子商取引の仕様など新しい特許の判断基準やあり方について、日米欧による世界共通のルールづくりを最大限促進し、明確で公平な国際標準を確立する。
[電子商取引の政策的推進]
日本における電子商取引普及促進のために、インターネットへのアクセスに対する課税は行わない、ソフトやサービスなどの取引については関税を徴収しないなどの政策原則を、WTO等での課税に関する協議の動向を踏まえつつ、早期に確立する。
2.高度情報化の促進・日本型映像インターネット社会の実現
(1) 情報通信戦略本部の設置
内閣府の情報通信戦略本部にて情報化政策を策定し、政策執行は情報通信省に一元化するとともに、関連予算を拡大する。
高度情報化の基本政策として「情報基本法」を制定する。
(2) 日本型映像インターネットを目標に
インターネットの技術開発は急速に進んできており、関連施設の整備も着々と進んできている。そこで次に進むべき目標「映像インターネット」を掲げ、官民一体となってその実現に取り組んでいく。
これまで我が国はインフラ充実策としてギガビットネットワークなど幹線系に重点を置いてきた。しかしこれから我が国が世界に先駆けていくためには、ここで重点目標を利用者サイドに立ったものに転換していく必要がある。
「通信と放送の融合」という現実的な動きの中で、移動体通信・地上波デジタル放送・光ファイバー網の整備などを総合的に活用し、国民が映像インターネットを利用できるようにする。携帯端末の製造やインターネットを使った子どものゲーム端末など、我が国が先行している分野もあるのでこれらの優位性を生かし技術開発にさらに力を入れていく。
(3) 情報化を促進し国民が良質なサービスを受けられるように
[遠隔医療の普及]
データ・エラーによる誤診の責任所在など遠隔医療に関する法的基準を明確にするとともに、遠隔医療費を設定及び健康保険の適用範囲を遠隔医療にも拡大する。
高価な遠隔医療設備の購入に際して、先述のIT控除を適用する。
国立病院を中心に遠隔医療普及チームを編成し、人材育成ならびに普及促進をはかる。
[電子政府の実現]
政府の情報公開を始め、税務申告や政府調達等総ての行政手続きをオンライン化する。その際、手続きの簡略化に見合った割引など、利用者側にインセンティブを与える。
[政治の情報化]
2003年の選挙から電子投票制度を実施する。
インターネット上に選挙公報等を掲載し、ホームページを活用した選挙運動を解禁する。
政党、政治家、政治団体の収支報告書等をインターネット上で公開する。
3.情報教育の拡充
(1)教育の情報化の推進
小中学校の生徒一人に一台のパソコンとインターネットにアクセスできる環境を用意し、情報教育を充実させる。
教員資格の取得条件に情報教育を盛り込む等、教員の養成を進める。
国の内外を問わず、遠隔授業による単位取得を認めるだけでなく、「サイバースクール」、「オンライン大学」を学校法人と認゜「サイバー留学」を認める教育制度の改正を行う。
(2)社会人のためのIT教育
インターネットを導入した学校施設を夜間休日に開放して、社会人のメディアリテラシー向上のためのIT教育訓練センターを全国市町村に最低各一箇所、合計3000箇所以上設置する。
4.情報のユニバーサル化とデジタルデバイドの解消
(1)情報化による便益を市民が等しく享受するために
[身障者用機器・機能の提供の義務づけ]
電子機器に関して障害者も不自由なく使えるようガイドラインを策定し、政府が調達する機器についてはガイドラインの遵守を義務づける。
(2)地域住民のための開かれた情報アクセス・ポイントの整備
地域住民が気軽に立ち寄り利用できる情報アクセス・ポイントとして、全国2499ヶ所の公立図書館等にインターネット環境を整備する。
5.情報化社会に対応した法環境の整備
(1)ネット犯罪に対して
[有害情報の氾濫 ⇒ コンテンツ規制]
マネーロンダリングや児童ポルノについては源泉規制を行えるよう、国際標準に適合した情報内容のルール『コンテンツ規制』を法制化する。
プロバイダーには自主的なガイドラインの作成を要請し、独立した第三者機関による有害情報の格付けと有害表示の義務づけを進める。
[サイバーテロ・ハッカー対策、プライバシー侵害等 ⇒ サイバー法の制定]
政府機関や企業のホームページ書き換えなど、サイバーテロ・ハッカー対策として、また先に法制化された不正アクセスを始めネット上での名誉毀損やプライバシー侵害等を防止するため、ネット犯罪全般を対象とし、適正手続保障条項を盛り込んだ『サイバー法』を制定する。その際、ネット社会では情報の伝播は現実社会とは比較にならないほど速く広範囲で、被害の回復や悪意の情報発信者の特定は非常に困難であることを考慮すべきである。
ネット運営主体への情報開示請求手続や発信者の匿名性の制限を制度化し、また安全配慮義務や作為義務など管理責任を明確化する。
ネット社会における警察、裁判、電子公証人などの司法機能を創設する。
[個人情報の悪用 ⇒ 個人情報保護法の制定]
個人情報を狭義のプライバシーに限定せずに保護の網を広げた『個人情報保護法』を制定する。
そのポイントは、
(a)情報主体に利用目的を説明し同意を得ること、
(b)信教や犯罪歴など非常にセンシティブな個人情報の収集を禁止すること、
(c)保有する情報項目を公開し、本人からの開示請求・誤情報訂正請求・削除及び使用差し止め請求などの権利を明確にすること、
(d)外部者による窃取や詐欺・強迫など不正手段による取得への刑罰を適用すること、
(e)原状回復のための司法的救済を明確にすること
等である。
また現在、民間による情報収集や利用を規定する法律は存在しないが、同法にて個人が自分の情報流通をコントロールできる権利『情報流通権』を確立する。
(2)新しい就労形態に対応して
[SOHOに対応できる労働法整備]
今後増加が期待されるSOHOという就労形態に適合した労働法制を整備する。
(3)電子商取引の普及に向けて
[電子取引法・電子金融法の制定]
『電子取引法』を制定し、電子取引に関する権利義務関係や認証機関についての要件・業務運営・顧客情報保護・情報開示等を明らかにする。
電子マネー発行体の要件と破綻時の対応を定めた『電子金融法』を制定する。
[消費者保護制度の確立]
国際標準の動向等を踏まえながら、訪問販売法を改正して電子商取引にもクーリング・オフ制度を導入し、事業者の表示を義務化する。
なりすましによる被害者の免責制度を創設する。
国民生活センターや自治体窓口の人材と機器を増強し、有害事業者リストの作成
速報など消費者保護と取引の安全にかかわる情報の調査・公開センター機能を強化す
る。
具体的な電子商取引のモデル約款の制定と取引ルールの明確化を図ると共にセキュリティ評価認証システムを確立する。
[民間事業者による与信機関設立への支援]
プライバシー保護や消費者保護等についてガイドラインを設け、これを満たした者にインターネット上の信頼マークを付与する。この与信機能は民間事業者の自主性に委ねるが、立ち上げ時において、また国際的な取り組みにおいて必要があれば支援する。
[著作権保護機関の設置]
電子透かし等違法コピー防止技術の開発と対価徴収方法の確立および専門仲裁機関を設置する。
6.通信市場の活性化に向けた環境整備
[通信と放送の融合]
通信が放送の機能を持ち、放送が双方向の通信の役割を持つようになってきた技術進歩の現状を踏まえ、現行法体系の見直しに取り組む。放送の公共性や通信の秘密という原則を守りながら電気通信事業法と放送法の垣根を取り払う方向を制度としても確立し電話料や接続料の低廉化につなげていく。
相互参入を容易にし、ハードとソフトの分離を推進して、コンテンツ制作の活性化と光ファイバー等デジタルネットワークの整備促進を図る。
[周波数の有効利用]
アナログ放送からデジタル放送への移行に伴い限られた電波資源である周波数の割り当てが課題になるが、電波資源は国民共有の財産であるという観点に立って、既存の放送事業者との調和を図りながら、利用者の立場にたった周波数の具体的割り当てを行っていく。その際あわせてユニバーサルサービス基金を創設し、学校や図書館、遠隔医療を含む医療機関などのインターネット利用を補助する。
[サービス再販の自由化による地域市場の活性化]
インフラ構築に向けた投資意欲を喚起し、自由競争に基づいたより一層の料金の低廉化やサービスの多様化を進めるため、1種・2種規制を撤廃するとともに、地域市場におけるネットワークやサービスの再販を自由化する。
[包括的な利用料金の引き下げ]
規制緩和の進行を前提に、プロバイダーを含めて24時間利用で月額3000円のトータル料金を目指す。
§V.情報平和主義の実現
すべての紛争の原因は人間の誤解と偏見である。コンピューターネットワークが、世界の富める国の国民もまた貧しき国の国民も、言語の違いを超えて、安価でかつ速やかに意思疎通ができるようになれば、誤解と偏見の壁は徐々に低くなり、やがて「情報による平和な世界」が実現するであろう。コンピュータリゼーションの最大の成果は、国境を越えた諸国民の対話の増進に求めるべきである。そして、わが国の情報政策の基本に、この情報平和主義の実現(=情報による平和の創造)を位置付け、この点での積極的な国際貢献を行うべきである。さらに我が国の外交の指針としても、情報先進国と情報途上国との間で起こるであろうさまざまな対立を和らげ、情報を通した平和の実現を目的とするよう位置付けるべきである。
具体的に言えば、
(1)「情報のPKO」活動
情報途上国が、世界的な高度情報化の波に取り残されないよう、情報の積極的な活用方法等のソフト支援や、情報インフラ整備のための技術指導やノウハウ支援等のサポート部隊(情報PKO部隊)を設置して、要請に応じて各国に派遣し、途上国の情報環境の向上のための活動を実施する。
(2)コンピュータインターフェース向上のための国際共同研究の実施
コンピューターを使用しての情報交流を促進するためには、様々な障壁がある。「言語の障壁」、「身体的な機能の障壁」、「経済的な障壁」などの多くの障壁を取り除くための総合的な研究や機器の開発をする国際機関を設立し、グローバルな市民対話の実現を目指して、多国籍の学者や研究者による様々な研究を支援する。
例えば多数の異言語を共同研究し、超軽量、超高速の自動翻訳機や自動通訳の実現に向けて、自然言語処理技術や多言語処理技術、音声処理技術をはじめ様々な研究を行う。
(3)コンピューターコミュニケーションのルール作り
対話のための基本的なエチケットやルール作りのための国際会議を開催する。
※ E-コマース等の経済的な利用についての国際会議は頻繁にあるが、このようなコミュニケーションのルール作りについての国際的な動きはまだまだ不活発である。
(4)情報格差を原因とする国際紛争の予防
情報先進国と情報途上国との間では、様々な情報格差が生まれ、それが原因となった多様な紛争が起こることが予想される。これに対処するために、情報についての各種トラブルが起こった場合の斡旋・調停等の機能を持った情報紛争処理機関を設置する。
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