ニュース
ニュース
2000/02/10
参議院本会議代表質問/朝日俊弘議員


参議院民主党・新緑風会 朝日俊弘

 私は、同僚の本岡議員の質問に引き続いて、民主党・新緑風会を代表し、過日行なわれました小渕総理の施政方針演説に対し、特に、社会保障制度にかかわる課題に絞って総理および関係大臣に質問させていただきます。

 先ず冒頭に、社会保障制度改革に関する総理の基本的な認識について、改めて問い直さざるを得ません。何故ならば、総理は施政方針演説の中で「みな健康で豊かで安心して生活できる社会をつくるために安心への挑戦に取り組みます」と決意を述べておられますが、その現状認識としては「世界に例をみない少子・高齢化が進行する中で、国民の間には社会保障制度の将来に不安を感じる声も出ております」と表現されておられます。率直に申し上げて、総理のご認識はこの程度のものなのでしょうか?

 私に言わせれば、この問題に関する国民の皆さんは、政府・厚生省がいつまで経っても抜本的な改革の道筋を示すことができないため、最早「不安」とか「不信」というレベルを通り越して、苛立ちとある種のあきらめさえ感じている、というのが実感ではないでしょうか。

 この間、小渕内閣は、例えば基礎年金の抜本的な見直しや、医療保険制度の抜本改革など、基本的な改革、構造的な改革はことごとく先送りする一方で、介護保険の保険料徴収を半年間だけ凍結してみたり、あるいは老人の薬剤費一部自己負担を免除してみたり、言わば、その場しのぎ的、場当たり的な制度いじりをくり返し行ってきました。

 こうしたやり方は、社会保障制度そのものの本来のあり方を歪め、国民にとってますます分かりにくい制度にしてしまい、その結果、社会保障制度への信頼感をかえって失わせるものと言う他ありません。これからの諸改革を進めていくに当たって、総理には最低限、こうした問題意識と自覚を持って取り組んでいただきたいと思うのですが、改めて社会保障制度改革に向けての総理の基本認識をお伺いしたいと思います。

 次に、社会保障制度改革の各論に入って、現在、本院で維続審議となっております年金制度改正の中身についていくつかお尋ねしておきたいと思います。

 つい先月、社会保険庁が発表した98年度の事業概況によりますと、国民年金の保険料未納者は、23.4%と過去最悪の数字を示しており、これに加えて保険料免除者が19.9%であることを併せて考えれば、これまでにも再三指摘されてきたことではありますが、国民年金制度の空洞化はここに極まれりと言わざるを得ません。

 もはや制度の抜本的な見直しを先延ばしすることは許されません。私ども民主党はすでに一年前、昨年の通常国会において提案しておりますが、いまこそ、基礎年金に対する国庫負担を現行の1/3から1/2に引き上げるとともに、保険料は凍結するのではなくて、むしろ相応する額を引き下げること。併せて、次期財政再計算までの出来る限り早い時期に、全額税方式に転換を図ること。そのための道筋を明示することが何よりも必要であります。

 このようにプラス方向への制度改革の道筋を明確に示すことによって、はじめて国民年金制度そのものに対する不安感あるいは不信感を多少なりとも和らげることができるのではないでしょうか。この点に関する総理のお考えをお聞かせください。

 さて、今回の改正案では、前回の基礎年金に続いて、厚生年金部分についても支給開始年齢を段階的に引き上げるとしていますが、一体、今日のような雇用情勢の中にあって、何故、強引に支給開始年齢を引き上げようとするのか、私には全く理解できません。

 この点については、総理ご自身の委嘱を受けて本年1月にまとめられた「21世紀日本の構想」の中でも、「高齢者の雇用と無関係に年金支給開始年齢だけを引き上げるのでは、ただでさえ老後の不安を感じている中高年齢層の不安を増幅させ、彼らを生活防衛貯蓄の増強に追い立てるばかりである」と明確に述べられており、私もそのとおりだと思います。

 改めて私から指摘するまでもなく、わが国の失業率は多少持ち直したとは言うものの4.5%程度と相変わらず高く、その中でも年齢階層別の有効求人倍率を見ると、35〜44才がO.89%であるのに比べて、55〜59才ではO.14%と極端に低くなっています。こうした数字は中高年者の雇用状況がいかに厳しいかを物語っています。

 こうした現実があるにもかかわらず、それでもなお総理は厚生年金の支給開始年齢を引き上げるおつもりなのでしょうか?。それはリストラされて再就職もままならない中高年の皆さんの不安感を一層募らせることになり、ひいては不幸にして自殺に追い込まれる人々をさらに増加させることになりはしませんか?。

 それとも総理には中高年者の雇用情勢を一気に改善させることが出来る、なんらかの秘策がおありなのでしょうか?。中高年者の雇用確保対策のあり方を含めて、総理のお考えをお伺いいたします。

 次に、年金の給付水準の在り方に関してお尋ねいたします。今回の改正案は、現行制度の枠組みをほとんどそのまま維持した上で、負担と給付の関係だけをみて、可能な限り給付水準の引下げを計ろうとする内容になっています。

 このような考え方にとらわれて給付水準を設定していこうとすれば、これまでもそうであったように、財政再計算の度に、負担は可能な限り引き上げようとし、給付は可能な限り引き下げようとすることになり、皮肉なことに制度改正の度に、制度に対する信頼を損なうことになりかねません。否、既にそうなりつつあるのではないかと思えてなりません。

 しかし、これから本格的な高齢社会を迎えて、高齢者の皆さんにも医療や介護の保険料を収めていただく、さらにサービスを利用した皆さんには一定の利用者負担をしていただく必要がある。とすれば高齢者にとって主要な所得保障の柱である年金の給付水準は、そのような費用を負担できるような水準でなければなりません。

 言い換えれば、そうした保険料等を差し引いた残りが実質的な「手取りの年金額」となる訳で、こうした考え方を基本に据えて、必要な給付水準の確保を図るべきではないかと思います。そうした観点から考えて、給付水準を物価にスライドさせ、そして賃金水準にも実質的にスライドさせていく手法は今後も維持していくべきと考えますが、この点については担当の厚生大臣のお考えをお聞かせいただきたいと思います。
次に、社会保障制度改革のもう一つの大きな課題である医療制度および医療保険制度改革についてお尋ねしたいと思います。

 まずはじめに、つい先日「医療保険制度の改正について」取りまとめられた社会保障制度審議会の答申に関連してお伺いしたいと思います。同審議会の答申は、冒頭で「今回も抜本改革が先送りされたのは遺憾というほかない」と極めて厳しい調子の書き出しとなっており、続いて「医療保険制度の抜本改革は、もはや一刻も猶予すべきではない」と断言しております。

 その上で「これまでと同様、関係者間において意見の対立が解消されず、改革内容の取りまとめとその実現が遅れるようでは」困るとの認識の下に、特別の法律に基づき、独立かつ中立の立場から抜本改革案を作成する「臨時医療制度改革調査会(仮称)」の設置を求めていることについて、ここは是非、総理ならびに厚生大臣のお考えをお聞きしておきたいと思います。

 私はこの間の経緯をふりかえる中で、この答申にも的確に述べられている如く、医療制度および医療保険制度の抜本改革を阻害してきたのは、従来の利害調整型の政策合意形成プロセスが有効に機能し得なくなったこと。そして、そのような状況にありながら政治の側が適切なリーダーシップを発揮できず、逆に、いったんまとまりかけたものを白紙撤回させるなど、かえって事態を混乱させたことが、決定的要因であったと受け止めております。その意味で、この制度審の意見に私は全面的に賛成であることを申し添えておきたいと思います。

 ところで、改めて読み返してみますと、施政方針演説の中で総理はこの医療制度改革の問題については、ほんの一言「また医療制度改革を進めるとともに」と、文字数にしてわずか十数文字しか触れておられないのですが、何故なのでしょうか?。
 ここで述べられている「医療制度改革」の中身は一体何を指して言っておられるのでしょうか?。

 ズバリ指摘させていただくならば、これでは何ともその中身はさっぱりわからない施政方針演説であると断ぜざるを得ません。

 改めて申し上げるまでもなく、今春に予定されている診療報酬改定をめぐって、診療側と支払い側の対立は昨年来、極めて厳しい状況が続いており、それだけに来年度予算編成とも密接にからんで、医療制度改革は当面する最重要課題のひとつと言うべきでしょう。こうした点について、改めて総理ご自身にお答えいただきたいと思います


 さて、本年4月には介護保険制度の実施を迎えており、その時期に合わせて介護保険制度と老人保健制度、両制度間の整合性を保つための法改正は必須の作業であったと思いますし、少なくともある時期までは、そのような観点から関係する審議会における検討作業が進められていたと記憶しています。

 ところが最近になって、政府・厚生省は医療保険制度改革は二年間、先送りする方針を決定したと報じられていますが、これは明らかに政府の約束違反だとは思いませんか?。是非思い起こしていただきたいのですが、健康保険法の平成9年度改正の時以来、医療制度および医療保険制度の抜本改革は、言わば政府の公約となっていたはずであります。

 平成9年度改正の中身も、もっぱら保険料の引上げと患者自己負担の増に終始した内容となっており、その時は健保財政を支えるために緊急避難的に負担をお願いせざるを得ないけれども、平成12年度までには薬価制度や診療報酬の在り方、医療提供体制および高齢者医療保険制度等に関わる抜本改革を行う、というふうに説明されていました。

 ところが、今回提案されようとしている健康保険法等の改正案の中身は、約束の抜本改革は先送りした上で、またしても、もっぱら患者自己負担増を求めるものとなっており、とうてい容認できるものではありません。
 一体、これまでの約束はどうなったのか?。医療保険制度改革の二年間先送りというのは本当なのか、こうした点について厚生大臣の明確な答弁を求めます。

 最後に、今、通常国会は、与党三党が自ら描いたシナリオ通りに会議の日程を強引に合わせるという、まことに異例づくめの国会運営の中で、本院で継続審議となっていました年金関連法案についても、国民福祉委員会での審議が進められているやに聞き及んでおります。

 しかし、今回提案されている年金関連法案の中身は、21世紀の社会保障制度改革の第一歩としての改革案には到底値しないものと判断せざるを得ません。従って、私は現在提出されている関連法案のすべてを廃案とし、一日も早く「新しい国会」に「新たな年金制度改革案」を提出して、改めての審議をやり直すことを強く求めて、私の質問を終わります。
記事を印刷する