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2002/05/20
教育職員免許法の一部を改正する法律案に対する質問/神本美恵子
民主党 神本美恵子

私は、民主党・新緑風会を代表して、ただいま議題となりました教育職員免許法の一部を改正する法律案につきまして質問いたします。

 教育は、人が人となるための営みであり、過去と現在、未来をつなぐ営みであります。そして、教育政策は未来に対する私どもの期待の具体化であります。

 国には、憲法、教育基本法が示すように、子供たちの学習する権利、教育の機会均等などを根底として、子供たちが生き生きと学び、その無限の可能性を開花できるような教育の条件整備こそが国の責務として求められています。

 法律案の内容に入る前に、まず教育における国の役割である学びの環境整備という観点から、何点かお伺いいたします。

 小泉総理は、構造改革の痛みに耐える例えとして、米百俵の精神を述べられました。しかし、この米百俵の逸話の本来の趣旨は、越後長岡藩が、戊辰戦争で窮乏しているにもかかわらず、送られた救援米を将来の人材育成のために学校建設に使ったというものであります。これは、正しく私どもの主張である教育は未来への先行投資にほかなりません。

 まず、教育は未来への先行投資であるとの考え方について、それぞれの所管の立場から、文部科学大臣、総務大臣、財務大臣の御所見をお伺いします。

 第二に、学校施設の老朽化の問題についてであります。

 学校施設のうち、建築後二十年以上経過したものが老朽施設とされております。現在、一九七〇年代から八〇年代に掛けての児童生徒急増期に大量に建築された学校施設が一斉に改築、改修の時期を迎えています。公立小中学校の施設では、建築後三十年以上経過したものが全体の約二三%、二十年以上が全体の約六五%を占めております。

 このような老朽施設の面積を今年度予算における公立学校施設整備の事業面積で単純に割りますと、三十年以上経過した施設の改修には約三十年、二十年以上経過した施設の改修のためには約八十五年をも要することになります。当然ながら、その間も年々老朽施設は増加することになります。このままでは、近い将来大半の学校が老朽化し、危険な校舎ばかりという状況が生まれるのです。

 公立学校施設の老朽化について文部科学大臣はどのように御認識されているのか、お伺いします。

 また、本年二月の消防庁の調査によりますと、耐震診断の結果、公立小中高等学校の校舎や体育館の約一五%が改修が必要とされており、さらに、耐震診断すら受けていない校舎が四五%、約七万三千棟に上るということであります。

 先月、沖縄県の築三十年の中学校舎で、コンクリートがはがれ落ち、生徒がけがをするという事故が報じられました。私は、学校現場の切実な要求として、再三にわたり委員会の場で老朽校舎問題を指摘してまいりました。学校は、子供たちの学びやとして安全で安心できる場所であることが最低限の条件であり、早急な対応が求められます。特に、耐震診断は、いざというときに多くの子供の生命にかかわる問題ですから、一九八二年の新耐震設計基準施行以前に建てられたすべての校舎でこれを実施しなければならないと考えます。

 地方自治体によっては、財政逼迫の中で改修はおろか耐震診断さえ遅れがちになる自治体がありますが、改修及び耐震診断の実施にどのように対応されるのか、文部科学大臣、総務大臣にお伺いします。

 公立学校施設整備のための予算額は、一九八〇年の五千七百億円をピークに減少を続け、今年度はわずか一千四百億円となっております。急速に進む老朽化に対処するためには、予算を確保して計画的に整備を行うための年次計画が不可欠です。

 国立大学については、国立大学等施設緊急整備五か年計画が策定され、整備が進められております。公立学校施設の整備についても同様の年次計画策定が喫緊の課題と考えますが、文部科学大臣にお伺いいたします。あわせて、このような年次計画策定について、総務大臣、財務大臣の御見解をお伺いします。

 施設は単なる入れ物ではなく、そこで過ごす人の過ごし方、考え方に大きな影響を与えます。学校もまた、子供たちを豊かにはぐくみ、多様な教育方法や創造的な学びに対応できる施設であることが必要です。

 教えやすい、あるいは管理しやすいといった発想から脱却し、学びの主体である子供たち、そして保護者や地域の意見も取り入れた施設づくりが求められると考えますが、文部科学大臣の御所見をお伺いします。

 第三に、学級規模の縮小についてであります。

 現在、公立小中高等学校の学級編制の標準は法律で原則四十人とされておりますが、四十人の子供たちがひしめくような教室は世界でもほとんど見られない光景です。どんなに経験と力量がある教員であっても、一人一人の子供と触れ合い、個性をはぐくむ行き届いた教育を行うには三十人が限界であると言われております。

 また、一斉授業中心から、集団の中で自ら学び自ら考える力を育てる学習に転換するためにも、学級規模の縮小は不可欠であります。

 昨年の法改正で、都道府県教育委員会の判断によって少人数の学級編制ができるようになりました。しかし、一学級四十人という国の標準は据え置かれたままです。これに対し、我が党を始めとする諸会派の議員によって、四十人から三十人に学級編制を縮小することを内容とする対案を提出いたしましたが、残念ながら成立には至りませんでした。

 現在、多くの自治体で四十人以下の学級編制が行われておりますが、そのための経費はすべてその自治体で負担しなければなりません。公共事業は何年ストップしても待ってくれるが、子供の教育機会は一度しかないと、少人数学級実現のための財源を確保する姿勢を打ち出した自治体もあります。

 国は、教育条件の向上の観点から、このような自治体の取組に対し積極的に支援すべきであり、また、このような取組が全国的に広がるような支援措置を講ずるべきと考えますが、文部科学大臣、総務大臣の御見解をお伺いします。

 教育現場では、学級規模の縮小が子供たちの人格形成、学力保障、更にはいじめや学級崩壊などの課題解決の面で効果があるという実感があります。だからこそ、自治体が、厳しい財政事情の中にあっても少人数の学級編制を行おうとしているのです。

 今後、各自治体において実践が積み上げられていくものと思われますが、その効果を国としてどのように把握されるのか、また、教育の機会均等の観点から、国の学級編制の標準を引き下げるお考えがあるか、文部科学大臣にお伺いします。

 次に、本法律案の内容についてお伺いします。

 第一に、社会人の活用についてであります。

 法案では、特別免許状の授与要件とされている学士要件及び有効期限を撤廃し、社会人の一層の活用を図ることとしております。学校教育の充実を図るために、豊富な社会経験を有する社会人の活用は必要であると思います。しかし、一方で、社会の変化や子供たちの変化に対応するための教員の資質、つまり教職の専門性の一層の向上が求められております。

 特別免許状の授与要件の緩和により、教員となることができる者の範囲を広げることになりますが、このような措置と教職の専門性との関係についてどのようにお考えか、文部科学大臣の御所見を伺います。

 私は、教職の専門性とは、カリキュラムに関する理解や教科の指導方法はもとより、自分の教育観、子供観を絶えず問い直しつつ不断に向上していこうとする姿勢、子供たちの悲しみや喜びに共感する力、これこそ専門性の核を成すものだと考えます。

 教員免許制度の中心的要素である教職の専門性についての大臣の御見解をお伺いします。

 第二に、他校種免許状による専科担任制度の拡充についてであります。

 法案は、中高等学校の免許状による小学校の専科担任教科の拡大を図ることとしております。これにより、小学校の全教科を中高等学校の教科免許状で担任できることになります。

 しかし、学級は学習集団であるとともに生活集団でもあります。教員の接し方、教員の一言がその後の自分の人生に大きな影響を与えたということが言われるように、学校教育の根幹を成すのは子供と教員の日々の触れ合いであり、特に小学校の段階では、子供の成長丸ごとを見守る学級担任の下、子供たちが心のよりどころと感じるような学級づくりが重要です。

 専科担任制の拡充には、子供たちが多くの教員と触れ合うことができるという利点がある一方で、学級の一体感の醸成や生活指導が弱くなるのではないかという懸念がありますが、この点について文部科学大臣の御所見を伺います。

 小泉構造改革は、霧の中を進むかのように展望が見えてまいりません。その結果、内閣支持率は低下を続け、最近では不支持が支持を上回っております。改革の実は上がらず、痛みだけが先行しているのです。

 完全失業率は五%を超え、失業者数は約三百六十万人に達し、今春の高校卒業者の就職率は過去最低であります。小泉内閣の経済無策が教育にも大きな影を落としているのであります。その上、家庭の経済状況が厳しさを増す中で、日本育英会の奨学金は、有利子貸与は増員されたものの、無利子貸与は一万六千人減員されました。育英奨学制度の根幹は無利子貸与であったはずであります。

 構造改革の基本方針である骨太の方針は、教育などの分野に競争原理を導入するとしております。昨今の教育改革論議は、この競争原理、市場原理と復古的な国家主義が基調になっているように見受けられます。しかし、学校教育という公の性質を持つ公教育の理念は、優勝劣敗、弱肉強食の競争原理や市場原理とは本来異なるものです。また、復古的な国家主義で未来を切り開いていけるとはとても思われません。

 私は、学校現場で直接子供たちと向き合ってきた経験を持つ者として、小泉構造改革路線に基づく教育改革の方向は、子供や保護者、現場教職員の願いに逆行するものと言わざるを得ません。個人の努力や情熱ばかりでは限界がありますという切実な現場の声にこそ耳を傾けるべきではないでしょうか。

 今、教育の分野において国に求められているのは、本来の役割である子供たちの学習権、教育の機会均等という理念の下での学びの環境整備であります。

 最後に、この点につきまして文部科学大臣の御所見をお伺いし、私の質問を終わります。
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