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1999/06/29
緊急失業・雇用対策
〜雇用の再生に向けて〜 |
1. 雇用情勢と対策の基本的な考え方
1) 現下の雇用情勢
長引く不景気と産業構造の転換の影響で、1999年5月には完全失業者が334万人、完全失業率が4.6%にのぼり、雇用情勢は危機的な状況に陥っている。有効求人倍率は0.46倍で統計史上最悪となっている。民間シンクタンクは、1999年度から2000年度の完全失業率が5%から6%で推移すると予測しており、適切な景気対策・雇用対策を実施しなければ、今後雇用情勢は更に悪化することが危惧される。
2) いま必要な失業・雇用対策
雇用情勢の改善には、何よりも景気回復が不可欠である。
将来への不安を断ち切り個人消費を拡大するとともに、企業が雇用を維持するためのコストを軽減するという観点から、国民基礎年金の全額国庫負担(税方式)への移行をめざし、国庫負担率を引上げ、保険料水準を引き下げる。
緊急失業・雇用対策として、 1.社会的ニーズの高い事業での雇用創出、 2.失業へのセーフティーネットの強化、を即時に実施する。事業の実施にあたっては、沖縄や北海道など、雇用情勢がとくに厳しい地域について配慮する。
3) 産業構造転換の痛みは最小限に
企業によるコスト削減のための人員整理や、常用雇用の臨時的・一時的雇用への切り替えが横行しているが、こうした措置は、事業計画の見直しや労働時間の短縮など、あらゆる手を尽くした後の最後の手段とするべきである。
止むなく職業転換を迫られた者については、新しいスタートが切れるように、手厚い再就職支援策を提供する。
4) 21世紀に向けた公正な労働市場の整備
民主党は、個人の能力を存分に発揮でき、それが公正に評価される労働市場を構築することこそ、産業構造の転換や技術革新に柔軟に対応できる労働力の確保につながると考える。
転職・再就職した者が、常用雇用・終身雇用の勤労者に比べて労働条件・処遇や社会保障制度で不利益を被らないようにするためのルールや、勤労者が生涯にわたって職業能力開発の機会を得られる制度を早急に構築していく。
2. 緊急雇用対策
1) 雇用の創出
1. 100万人以上の雇用創出
民主党は、土木型の公共事業から福祉、環境、住宅、情報通信関連事業に力点を置いた新型社会資本整備への構造転換をはかる。将来的に社会的ニーズの高い分野で以下のような事業を展開し、100万人以上の雇用を創出する。これらの事業は、国・地方自治体が直接、或いは民間に委託して実施する事業とし、恒久的な事業として継続することを原則とする。
* 「新ゴールドプラン」を上回る施策(「ポスト・ゴールドプラン」)の実施。
o ホームヘルパーを17万人→30万人に増員。 (13万人増)
o ショートステイ(400ヶ所増)・デイサービス施設(5000ヶ所増)増設に伴う建設関連。(8万人増)
o ショートステイ、デイサービス施設の増設に伴う介護士等の増員。 (20万人増)
* 高齢者・障害者住宅250万世帯分のバリアフリー化工事関連。 (5万人)
* 小中高等学校での30人学級実施。 (H13年度から小学校は6年間、中高は3年間で、初年度は合計3万5千人増、完了時合計約13万人増)
* 小中高等学校での社会人講師、スクールカウンセラー(生活指導員)等の配置。
* 地域の事情に即した保育サービスの大幅改善。
待機児童約4万人の解消をめざし、ゼロ歳児保育の拡充、入所時期の弾力化、延長保育・休日保育などの拡充、全保育所で主任保母を専任する、障害児保育の拡充、小規模民間保育所の支援、男性保育士の登用拡大など。 (7万2千人)
* 都市近郊森林の保全と災害防止のための緊急森林整備
人工林の間伐、下刈、つる切り、枝打ち、作業道作路。道路沿、河川、堤防、遊休地林等の新たな花木、果実樹の造林、緑地化(グリーンベルト・防災の森等) (20万人/年 x 3年)
* ダイオキシン対策、産業廃棄物対策などの強化。
* 盲導犬、介助犬、セラピー犬や救助犬インストラクターの養成を支援。
* 国際協力要員と開発援助人材の育成
o 青年海外協力隊の増員 (年間2300名 → 5000名)
o 専門家派遣の増員(1800名→3000名)や一般協力隊員制度(40才以上の隊員を派遣)の創設
o 開発援助・国際協力要員の訓練・養成コースの大幅拡充 (JICAや国際開発高等教育機構(FASID)等での受講者定員の増員、研修期間の延長、技術水準のレベルアップ)
o 海外からの研修員受入増員 (海外派遣経験者をインストラクターとして登用)
o 「国際協力休暇制度」を設ける事業主に助成金を給付
o 国内大学・大学院における開発援助プログラム助成費の拡充
* 農業に参入する者への支援
農業生産法人の設立促進に向け、法人の事業内容の拡充や出資要件の緩和を行なう。
* 「ものづくり基盤技術基本法」にもとづいた、ものづくり産業の強化
尚、政府・地方自治体は、各事業についての雇用創出量と進捗状況に応じた雇用達成度を公表しなければならないこととする。
2. 起業家育成、新規事業創出の促進
ハイテク中小企業を実験段階から商品化までフルサポートし、起業家倍増をめざす。
実施後10年間で、開業率を3.7%→7%、新規設立登記数を年間10万件強→20万件、
新規事業による雇用創出人数を200万人→400万人に倍増する。
下記の内容を盛り込んだ、起業家支援のための租税特別措置法等の一部を改正する法律案の成立をめざす。
* ベンチャー支援税制・エンジェル(ベンチャーへの資金援助者)税制を拡充し、新規事業への投資リスクを軽減する。
* 中小企業者などの新技術を利用した事業活動の支援。商品化、国による調達での優遇等。
* 女性による創業等の支援。女性起業家からの政府調達での優遇等。
* 国立大学等の教員のベンチャー企業との役員兼務の解禁措置等。
3. NPOの基盤強化
NPOは、福祉・教育・環境保全・地域開発など幅広い分野での課題解決をめざして、多様なニーズと潜在的需要を掘り起こしながら、新たな社会的事業を創出しようとしており、NPOの自立的な発展を支援するべきである。
* NPO支援税制(寄付税制の改革)、郵便料金等通信費の割引制度の適用、事業領域の拡大、中小企業対策などのNPOへの適用、対等なパートナーシップに基づく事業契約等の施策を整備し、NPOの活動基盤を強化する。
* 職業能力訓練や失業者の相談などについて、行政とNPOとの連携関係を築く。
* NPOの運営者の育成を支援する。
2)求職者への支援
1. 求職・職業能力訓練・就職までの一貫した支援体制
* 求職者に対する再就職支援のカウンセリング機能の強化や、個人向けの再就職計画と定期的なフォローアップを実施する。
* 失業者の急増で、公共職業安定所や公共職業訓練所で十分に対応できないサービスについては、地方自治体、民間企業、NPOと連携をとり、すべての求職者に対してきめ細かいサービスを提供する。
* 企業からの求人については、求められている人材についてより具体的な条件を調査し、求職者とのマッチングを効率化し、就職に結びつく職業訓練への重点化をはかる。
* 新卒未就労者に対し、職業能力教育・訓練やOJTを無料で提供する。
* より質の高い職業能力開発プログラム(カリキュラム)を国立機関で研究開発する。
* 出向や退職する者への職業訓練・再就職支援に対する助成
出向者・退職者に職業訓練・カウンセリングを提供する事業主に対し、訓練期間中の賃金・訓練費用を 3/4 (大企業 2/3)助成し、「失業なき労働移動」をはかる。
2. 失業給付の拡充
* 全国延長給付(失業給付の対象者に一律90日の給付延長)の実施基準の緩和。
* 公共職業訓練所の訓練期間を現行の平均6ヶ月から12ヶ月に延長する。(その間は訓練延長給付を支給する)
* 倒産などによる失業者に対して、雇用保険に加入していた期間が6ヶ月未満でも90日の失業給付を実施。
* 45歳以上の求職者で、職安のカウンセリング後も就職できなかった場合、失業給付を90日間延長。
* 雇用保険が対象とならない者にも、弾力運用で職業訓練手当を支給。
* 雇用保険の積立金(98年末推定3兆円)の資金的制限に拘らず、失業給付等の拡充をはかる。失業給付の拡充、教育訓練・再就職支援等の雇用保険事業の改善に向け、雇用保険の国庫負担の割合を本則に(求職者給付1/4、雇用継続給付1/8)戻すとともに、各事業への国庫負担、事業主・被保険者の保険料についても早急に見直す。
3) 雇用の維持
現下の厳しい雇用情勢に伴い、企業が雇用を維持するための施策を活用していく必要ある。
1. 雇用調整助成金制度
雇用調整助成金の運用の弾力化し、企業・事業所単位ではなく、地域産業グループ、工業団地単位での受給を可能にする。
2. サービス残業禁止の徹底等、労働時間を短縮し雇用を確保する。
3. 労働市場の整備
外部労働市場を経由した労働移動、雇用形態の違いなどによって雇用が不安定になったり、労働条件が低下しないよう、労働市場の公正さを確保するためのルールづくり、個人の能力開発の支援体制や社会保障制度の改善など、下記のような労働市場の環境整備をはかる。
1. 年齢差別の禁止について法整備を行う。募集、採用、賃金、昇格、解雇など雇用のあらゆるステージにおける年齢、性別、障害の有無などによる差別を撤廃する。
2. 仕事と家庭生活の両立支援制度を一層強化する。 (育児介護休業の取得の徹底、育児介護休業給付の拡充、看護休暇制度の創設、保育サービス、介護サービスの拡充、在宅就労やサテライト勤務のためのインフラ整備等)
3. 若年者の就労支援を強化する。就学中からインターンシップやボランティア活動の機会、実社会で通用する技能を習得する機会を増やすなど、学生から職業人へと円滑に移行できるよう支援する。
4. 職業能力に応じた賃金体系を確立するために、汎用性のある職業能力評価システムを創設する必要がある。そのために、我が国における労働者の職務についての十分な調査・分析を行い、職業能力を体系的に評価する手法を研究するプロジェクトを開始する。その結果をもとに、同等の職業能力を有する勤労者の賃金を企業内外で比較可能にする。
5. 勤労者・求職者に対する職業能力向上の支援体制を強化する。(教育訓練給付の適用要件緩和など個人に対する資金援助の拡充、職業能力訓練の質の向上、長期休暇制度の確立等。)
6. 転職や雇用形態の違いによる年金など社会保障制度上の不利を解消する。全ての勤労者の加入をめざして、雇用保険への加入要件を緩和する。
7. 個人単位の雇用に関するトラブルを迅速に解決するための個別紛争処理機関を整備する。
8. あいまいな雇用形態での労働条件の低下を防止するために、労働契約の明示のと雇用主責任の履行の徹底をはかる。
以上
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