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2002/04/12
「薬事法及び採血及び供血あつせん業取締法の一部を改正する法律案」に対する質問
民主党 参議院議員 山本孝史

 ただいま議題となりました法律案に対し、民主党・新緑風会を代表して質問いたします。
 本法律案は薬害エイズ、薬害ヤコブ事件への反省の下に提出をされました。被害者の皆様に心からのお悔やみとお見舞いを申し上げます。
 血液センターの所長もされたことのある坂口厚生労働大臣には、世界に誇ることのできる血液事業体制を我が国において構築する、これ以上薬害を発生させないとの強い決意あふれるご答弁を期待いたしております。

 まずお聞きしたいのは、国内における献血による血液製剤の自給体制達成という課題です。
 今般改正される「採血及び供血あつせん業取締法」が施行された昭和31年当時は、売血が主体でした。売血常習者の健康悪化や黄色い血が社会問題となり、同法が制定されるとともに、献血への転換の必要性が指摘されました。
 東京オリンピックが開催された昭和39年の3月、ライシャワー駐日大使が暴漢に襲われて負傷し、治療のため受けた輸血で肝炎に感染するという事態を受けて、政府は、8月に、可及的速やかに保存血液を献血により確保する体制を確立するとの閣議決定を行いました。
 しかし、残念なことに、その当時から政府は、血液を加工して製造する血友病治療薬やアルブミン等の血漿分画製剤の自給体制については言及を避けてきました。昭和50年には、厚生大臣の諮問機関である血液問題研究会が、血漿分画製剤のための血液も含めて、医療に必要な血液はすべて献血でと厚生大臣に意見具申しましたが、政府はこれを無視し、原料血漿の輸入が決定をされました。そして同じ年、ベトナム戦争が終結をし、行き先を失った大量の血液製剤が日本に流入して、悲惨な薬害エイズを招いたのです。
 血液には未知の病原体が潜んでおり、より安全な血液は献血によって得られるというのは常識です。昭和63年のエイズ予防法の審議に際しても、衆参の社会労働委員会で決議がなされ、国内自給を求めています。
 しかしながら、今般提出された改正案では、第3条「基本理念」には、血液製剤は、原則として国内で行われた献血によって得られた血液を原料として製造されるとともにと、いまだ「原則として」との表現にとどまっています。
 そこで、坂口厚生労働大臣にお尋ねをします。
 これまで何度も厚生大臣の諮問機関などから答申や勧告がなされても、なぜ献血による血液製剤の国内自給は達成されなかったのでしょうか。
 そもそも国は、すべての血液製剤を国内で得られた献血によって賄うという考えはあるのですか。あるのであれば、原則として法律に書くべきことは、血液製剤の輸入禁止ではないでしょうか。そして、本法で規定される需給計画において、国内献血による血液製剤全量確保への道筋を明確にすべきではないでしょうか。坂口大臣の御答弁をお願いいたします。

 その際に問題になるのは、遺伝子組換えによる血液製剤の安全性の問題です。
 厚生労働省は、遺伝子組換えによる血液製剤は100%安全だと言い切れますか。私は、それらの製剤も安全性が確認されているわけではないと考え、遺伝子組換え製剤も特定生物由来製品として扱うべきだと考えます。坂口大臣の御答弁をお願いします。

 当初、厚生労働省は、本法で定められる需給計画に、採血業者が原料血漿を血液製剤製造業者に提供する際の標準的な価格、標準価格を盛り込むこととしていました。しかし、価格、原料血漿提供契約など、原料血漿の配分に関する規定は省令に定められることになりました。それによって、私は、献血によって原料血漿の配分に関しての透明性の確保が新法においても明確にされないままになっていると思います。血液事業に関する情報の開示を積極的に行わないようでは、献血者の増加にはつながりません。需給計画に、採血業者が原料血漿を血液製剤製造業者に提供する際の標準価格を盛り込むべきだと考えますが、ご所見をお聞かせください。

 また、ヒトの血液で製造された血液製剤の供給によって利益を生じないようにするには、供給を民間業者に任せるのではなく、公的機関が一元的に担う制度を確立すべきではないでしょうか。望ましい血漿分画製剤の製造並びに供給の在り方について、坂口大臣の答弁を求めます。

 現在、血友病Aの治療薬の7割を輸入の遺伝子組換え製品が占めていますが、昨年3月、国内市場の4割を占めるバイエルの第8因子製剤コージネイトの日本への供給が、相手方の事情により突如ストップをいたしました。
 WHOは、1975年に、無償を基本とする国営の血液事業を推進することとの勧告を行っていますが、重要医薬品の供給が外国の血液事情に左右される事態は問題ですし、人道的に見ても必要な血液は国内で賄うべきです。遺伝子組換え製剤に過度に依存することの危険性も明らかになりました。
 そこで、官房長官にお尋ねをいたします。
 危機管理の観点からも、血液製剤は、感染症のワクチンなどとともに、国が積極的に関与をして製造、備蓄する体制を整えるべきではないでしょうか。
 また、本法では、生物由来製品の安全監視機関を薬事・食品審議会に置くことになっていますが、旧ミドリ十字の血液製剤フィブリノゲンによるC型肝炎感染に対する中央薬事審議会の対応を見ておりますと、審議会が安全性確保の機能を十分に果たすとは思えません。血液製剤を含む医薬品の安全監視は、国、日赤、患者団体等による首相に直属をした常設の監視機関を設置して行うべきと考えますが、ご見解をお伺いします。

 血液製剤の適正使用について、坂口大臣にお伺いをします。
 日本国内で使用されるグロブリン製剤の3割、アルブミン製剤の7割が輸入品です。使用量は都道府県格差が大きく、厚生省調査では、アルブミンの使用量は最大と最小で9倍、グロブリンは6倍の開きがあります。かねてから医療機関での血液製剤の使い過ぎが指摘されていますが、全く解消されていません。血液製剤の使用に関するガイドライン等をいかなる措置によって医療機関に遵守させるのか、坂口大臣には、具体的にその方策をお示しください。

 血液製剤使用者の救済について、厚生労働省では次期通常国会での関連法案の提出を予定していると承知いたしておりますが、血液製剤による健康被害を製造・供給業者の拠出金でカバーするのはいささか無理があるというふうに思います。国も一定の割合で拠出する無過失救済制度の創設を検討すべきと考えます。
 また、旧ミドリ十字のフィブリノゲンがどのように扱われてきたのか、なぜ国の対応が遅れたのか、実態を早急に解明すべきです。
 また、注射針の打ち回しなどが行われてきたことなどによってC型肝炎感染者の大量発症も今後予想されます。早期に治療ができるよう、20歳以上の者を対象に公費による検査を実施すべきです。厚生労働大臣のお考えをお聞かせください。
 一方、献血者の被害救済については、採血事業者が措置すべきと厚生労働省はお考えですが、献血を国家事業と考えるならば国が責任を持つべきです。坂口大臣の見解を伺います。

 薬事法の改正に関して質問します。
 新薬事法では、医薬関係者等からの副作用等の厚生労働大臣への報告が義務付けられますが、現状では、副作用報告は企業報告が圧倒的に多く、医療機関からの報告は極めて限られています。市販後報告制度は有名無実化しています。坂口大臣のご認識と、厚生労働省の対応策を伺います。

 新薬事法では、緊急やむを得ない場合には、治験開始後30日以内に厚生労働大臣に届け出れば治験対象薬等を使用してもよい旨の規定が新設されます。どのような事態を想定しての規定でしょうか。治験制度を厳格化した平成8年改正に逆行するのではありませんか。坂口大臣のご所見を伺います。

 東京女子医科大学で起きました心臓手術中の人工心肺装置停止による死亡事故は、臨床工学技士の存在の重要性を明らかにしたと思います。
 臨床工学技士は、87年の誕生以来これまでに1万5,280名が資格を得ていますが、2000年の厚生省調査では、病院における従事者は6,372名で、病院100床当たり0.4人にとどまり、技士が1人以上いるという病院は全体の3分の1にすぎないと言われています。
 生命維持管理装置に限定された臨床工学技士の業務を拡大するとともに、積極的に定員化を図るべきではありませんか。

 小児用の医薬品や医療用具は、市場が小さく、製造者にとっては採算に合わないことから、開発が遅れがちだと指摘をされています。さらに、現場では、小児に対して大人用の医薬品や医療用具を使うことが多く、医療事故につながっているとの指摘もあります。厚生労働省に迅速な対策を求めます。坂口大臣のご所見をお聞かせください。

 医学部・薬学部教育の在り方について、文部科学大臣にお尋ねをします。
 薬害の発生防止には臨床薬理学講座を、救急救命率の向上のためには救急医療講座を設けることが求められていますが、どちらも100%達成からはほど遠い状況です。今後の対応策も含めて、大臣のご所見をお聞かせください。

 最後に、新薬の開発や再生医療の進歩につながるバイオ産業政策の課題について、経済産業大臣にお尋ねをします。
 政府は、現在は市場規模1.3兆円規模のバイオ産業を2010年には25兆円にまで増大する目標を立てています。今後、どのような施策を講じるのか、また、解決するべき課題は何か、経済産業大臣のお考えをお聞かせください。

 イギリスの社会学者ティトマスは、献血を健康な人から患者に贈られる無償の贈り物と定義をして、利他的なギフトリレーションシップこそ貨幣経済中心の現代社会において必要とされる関係だと論じました。
 ところがどうでしょうか、日本は、世界中から原料血漿や血液製剤を買いあさり、貴重な資源を浪費しています。そんな日本人の生き方を、本法律案の審議を通じて真剣に問い直し、正していこうではありませんか。
 悲惨な薬害をこれ以上起こさないこと、献血による国内自給体制の推進によって血液製剤による健康被害を防止すること、医療事故を少しでも減少させることを願って、私の質問を終わります。
 ありがとうございました。
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