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1998/12/15
消費税の抜本改革について
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民 主 党
1. 今般の景気・雇用対策における消費税問題への対応
1. 高齢社会の進展に伴い、現役世代への税負担の集中を緩和し国民が薄く広く負担を分かち合う税制として、消費税は今後ますます重要な役割を果たすことになると考えられる。近い将来において、基礎年金や介護、高齢者医療等の財源を賄うために消費税の一部を福祉目的税とすることも政策上の重要な選択肢となっている。景気対策を理由に消費税率を一時的に引き下げることは、このような将来のあるべき税制の方向に逆行するものであり、再び税率を引き上げる際に多大な政治的困難を伴うことに比して経済的効果がさほど期待できないことからも、政策としての適切性・合理性を欠き、到底賛成できない。
2. 民主党は、所得減税とあわせて基礎年金の国庫負担率を1/3から1/2に引き上げ、これによって国民年金保険料を1人月額約3,000円(年額 36,000円)、厚生年金保険料率を1%(これを労使折半、1人平均約1,800円(男子加入者の平均給与月額の0.5%、年額21,600円)ただちに引き下げる。これは、将来の基礎年金財源全額税方式への移行を一部前倒しで実施するものであり、未加入者や保険料滞納・免除者の増大によって崩壊寸前にあるといわれる国民年金・基礎年金制度の財政を安定化させると同時に、所得税非課税世帯や赤字法人にも減税と同等の経済的効果をもたらす。
3. 基礎年金国庫負担率の1/2への引き上げと保険料引き下げのために必要な財源は年間2.2兆円であり、消費税1%分の正味の税収に概ね相当する。また、昨年春に引き上げられた消費税率2%のうち1%は地方自治体の住民向けサービス等の財源に充てられている地方消費税である。民主党は、消費税の一時的引き下げよりも、その財源を基礎年金等の福祉財源や地方財源の安定化のために充てることによって、将来に向けた国民生活の安心の基礎を確立する方向に政策を一歩進めるべきであると考える。
2. 消費税の抜本改革の方向性
1. 消費税抜本改革の検討課題
来年4月で消費税導入から10年を迎えるにあたって、民主党は消費税を真に国民に信頼される公正かつ透明な税制にするための抜本改革について国民的議論を呼びかける。
抜本改革の主なテーマは、次の通り。
[1] 消費税の福祉目的税化
[2] 逆進性緩和策の実施
[3] 仕入れ税額控除に係るインボイス方式の導入
[4] 地方税財源の拡充策
2. 消費税の目的税化について
[1]
基礎年金国庫負担率の1/2への引き上げに引き続き、基礎年金財源全額税方式に移行するため、消費税を福祉目的税に改める(介護については、2000年からの介護保険制度導入をふまえ、また老人医療については、今後の制度設計の議論をふまえ、いずれも将来の検討課題とする)。
福祉目的税については、「給付と負担の関係が明確な社会保険方式の長所が失われる」との指摘もあるが、基礎年金はすべての国民を対象とする制度であり、これをすべての国民の負担する消費税(福祉目的税)によってまかなうことには、相当の合理性がある。また、現行の保険料方式による基礎年金は、すでに免除・未加入・滞納者が相当な割合に上り、このような給付と負担の明確な関係が成立しているとはいえない。
[2]
基礎年金給付総額は今後の高齢化の進展に伴って増加するが、福祉目的税の税率については、行政改革などによる歳出削減、福祉目的税の課税べースの見直し等によってできる限り維持・抑制する。
一部には、消費税率をいったん0%にして福祉目的税に改め、以降2%ずつ隔年で引き上げていくという提案もあるが、頻繁な税率改正は納税義務者に多大な負担をもたらすなど、国民の理解を得にくいこと、税率改正時前後のかけ込み需要やその反動が繰り返されることによる経済攪乱効果が大きいことから、適切とはいえない。
[3]
地方一般財源である地方消費税(1%)については、地方税法上の別の制度であり、消費税の福祉目的税化後も地方一般財源として存続させる。
民主党は、今後の地方税源充実については、国・地方の税源配分を現行の2:1から1:1に改めることを目標としている。このための具体的な方策として、現行所得税の比例税率(最低税率)部分を地方に移譲し、現行住民税と合わせた新しい「地方所得税」(仮称)に改めることを基本にすえるが、地方消費税はこれを補完する役割を持つものと考える。その将来の税率については、地方分権推進の観点に立った国から地方への税源移譲のあり方等を踏まえてさらに検討する必要がある。
[4]
法人事業税の外形標準課税化を進める際、基礎年金の年金目的税化にともなって引き下げられる保険料負担相当額を、法人事業税賃金割(賃金を外形標準とする部分)課税に転換することを検討する。
3. 逆進性緩和策について
[1]
この税の持つ問題点として収入(支出)に対する税負担の逆進性があるが、定額制の国民年金保険料から税方式への変更自体が国民負担の逆進性を一定程度緩和することを意味すること、どのような方法であれ逆進性緩和策を講じることにより税収の減少や歳出の増加を招くために結果的に基本税率の引き上げが必要になること――という2点の理由から、福祉目的税化する時点でただちに逆進性緩和策を講じるべきであるとは考えない。また、民主党としては、今般の緊急経済対策の中で、児童手当の対象年齢・給付額等を大幅に拡充した「子ども手当」の創設も含め、トータル・パーケージでの逆進的負担の緩和に十分配慮しているところである。
[2]
しかし、今後、福祉目的税率や地方消費税率の引き上げや課税ベースの見直しが具体的課題となる段階では、何らかの逆進性緩和措置が必要である。その場合の具体的方策として、基礎消費支出に係る福祉目的税額及び地方消費税額相当分の一律還付制度(カナダのGST税額控除方式の例=Goods and Services Tax Credit:家族を構成する成人・子供それぞれの人数に応じて定額を小切手等で還付)を創設することを提案する。
[3]
逆進性緩和の具体的方策としては、EU諸国の付加価値税で採用されている軽減(複数)税率や、英国のゼロ税率の例もあるが、EU型付加価値税の基本となっているEC指令ではゼロ税率や超軽減税率(15%以上とされる基本税率に対して5%未満の軽減税率をいう)は解消すべきものとされている。軽減(複数)税率やゼロ税率(輸出品を除く)は、税収の減少から基本税率を高くせざるを得なくなること、納税義務者の事務負担が大きくなること、対象品目が政治的圧力によって左右され、税制の中立性や水平的公平性を損ないやすいことなどの欠点があると考えられる。わが国の福祉目的税について逆進性緩和策を講じる場合には、もともとの消費税・付加価値税の特徴である広い課税ベース、経済への中立性や所得に対する水平的公平性を損なうやり方は採るべきではなく、税制そのものに組み込むよりも、上述の消費税額控除方式のように財政支出面で低所得者層に配慮することを基本とすべきであると考える。
[4]
非課税措置についても、課税ベースを損なうものであることから、性格上課税対象とならない取引(土地、有価証券、利子等)を除いて見直すべきであり、少なくともこれを拡大することには慎重であるべきと考える。
4. インボイス方式の導入によりフェアな税制に改める
「益税」「損税」を生じる原因である仕入れ税額控除のあり方については、現行の帳簿方式からEU型付加価値税と同様のインボイス方式に変更することにより、フェアな税制に改める。これに伴い、簡易課税制度(みなし仕入れ率)を見直すとともに、EU諸国の付加価値税とくらべて高過ぎる免税点(現行 3,000万円)についても、インボイス導入に伴う納税義務者の負担増も勘案しつつ、適切な水準に引き下げる。
5. 地方交付税をどうするか
消費税の福祉目的税化を行った時点での消費税に係る地方交付税率(現行29.5%)のあり方については、地方財政調整制度の必要性、国から地方への税源移譲のあり方等を踏まえてさらに検討する。
6. 納税者番号制度の導入
納税者番号制度は、所得税率の引き下げ等による所得税恒久減税の前提として総合課税化を図る際には不可欠であるが、このような納税制度の面ばかりでなく、カナダ型の消費税額控除(還付)制度のような歳出面での逆進性緩和策を実施する場合にも、その公正さを担保するために必要となる。その意味では、納税者番号制度は同時に「安心保障番号制度」とも称しうるものである。これらの必要を満たす納税者番号制度の導入を、プライバシー保護策とあわせて来年通常国会で法制化し、一定の準備期間の後に速やかに実施する。
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