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1999/08/12
小川敏夫議員の盗聴法案反対討論
参議院本会議議事速報から

○議長(斎藤十朗君)三案に対し、討論の通告がございます。順次発言を許します。小川敏夫君。

〔小川敏夫君登壇、拍手〕

○小川敏夫君 私は、民主党・新緑風会を代表して、ただいまの三法案に対し、反対の立場で討論いたします。

 まず最初に、去る八月九日に行われた委員会の採決というものについて、その事実経過について説明いたします。

 私は、当日、法務委員としてその審議に参加しておりました。そして、円理事が荒木委員長に対し質疑を行っていたところ、荒木委員長が返答中、突然、鈴木正幸理事が手を挙げて立ち上がり、発言を始めました。この発言につきましては、これまで多くの人から指摘があったように、委員長の指名を受けないで勝手に発言を始めたものであります。

 そして、さらに重要なことを一つ指摘しなければならないのは、鈴木正孝理事の席にはマイクが備えてあるのに、鈴木理事はそのマイクを殊さら外して、マイクに音声が入らないような方法でただいまの動議と称する発言を述べたことであります。

 これは、私が聞き漏らしたのではないということは、速記者にも聞こえていない、すなわち全く記録されていないことから明らかであります。また、ビデオテープを繰り返し見ても、鈴木正孝理事の発言は全く音声が入っておりません。すなわち、マイクが自席の前にあるのにそのマイクに入らないような発言方法で発言をしたということでございます。これは大変に重要なことであります。動議を採決するのに、いかなる動議が委員に提案されその内容が示されたのかわからなければ賛否のしようがないからであります。

 私は、何やら鈴木正孝理事が挙手して発言を始め、荒木委員長は当初それに気がつかなかったようでしたが、何かその鈴木正孝理事の不規則発言に答えるような行動をとるしぐさをいたしました。それで私は、何を発言しているのか、何が行われようとしているのか、それを法務委員として確認するため、直ちに委員長席の前に駆けつけました。

 しかし、鈴木正孝理事の発言は全く聞こえませんでした。すなわち、委員長の指名も受けないで勝手に不規則に発言し、あらかじめその内容を知っていると思われる与党の方や委員長の方に内容はわかっても、それ以外の私を含めた野党の委員には内容が全くわからない、この発言をもってなぜ動議と言えるのでしょうか。これをもって動議とし、突然動議についてその採決をとったという荒木委員長、その発言は確かにあったようでありますが、しかし動議と認められないこのようなものについて採決をとったとしても、それが動議の採決とならないことは明らかでありますし、またその採決についていかなる者が何名挙手をしたのか全く明らかになっていないということを荒木委員長自身がテレビのインタビューで述べておりました。

 さらに重要なことは、私が法務委員として不規則発言をしている鈴木正孝理事の発言や委員長が何をしようとしているのか確認するために委員長席の前に駆けつけたところ、法務委員ではない自民党の議員が数名で私の体に飛びつき、私の委員としての職務の執行を不可能にいたしました。私の体に飛びついた委員の中には、御本人はその認識がないかもしれませんが、私の右手をとって高く取り上げた者もおります。まるであたかも私が動議に賛成の挙手を強いられているような外形的事実がありました。恐らく本人はそこまで思ってしたことではないと信じておりますが、そのような外形的な行為も暴力行為として私は受けたということを指摘いたします。現に私は、何者かにけ飛ばされたために足にあざがありますし、ねじり上げられた右腕に今でも痛みを覚えております。

 委員長はこのような法務委員会の秩序を適正に保つために、私が法務委員として発言の内容を確認している、それを数人の自民党議員が寄ってたかってその職務を妨害し私を取り押さえた、そうしたことを適正に中止し、議事の進行を進めなければならないのに、そのようなことは全く行いませんでした。やはり大変に不適当だと思います。そして、私は、委員長席の一番前で、委員長がいかなる発言をし、いかに注視しておりましたが、法案の採決に至るというそのような行為はありませんでした。ないまま自民党の議員から委員長を退席させるという指示のもと、委員長を取り巻いていた与党の方と思われる多数の議員が委員長を室外に連れ出してしまったものであります。

 このように、動議の採決の事実、法案の採決の事実も全くありません。あると言っておられた荒木委員長の報告は事実に反するものであります。このような事実に反する採決と称するものが採決として認められ、法案が成立するならば、いずれ歴史がこれを裁くことになるでしょう。

 私は、本法案に反対の立場で、本法案、通信傍受法案について憲法上の視点から、この法案が著しい憲法違反、あるいはその精神に反するものであるということを次に述べさせていただきます。

 通信傍受法案は、憲法二十一条で保障された通信の秘密を犯罪の捜査という公共の福祉によって制限しようとするものであります。この性質上、通信の秘密の制限は必要最小限でなくてはならないことは言うまでもありません。

 本法案の審議は、十分な論議が尽くされないまま法務委員会における審議が打ち切られ、採決の実態がないのにこれがあったものとして今ここで採決がなされようとしておりますが、その不十分な審議の中においても、本法案の重大な欠陥が指摘されるなど、多くの問題が明らかになっております。


 まず第一に、本法案が予定する通信傍受は、その実効性が乏しいことが明らかとなっております。

 審議を通じて、当局が期待する傍受の手段は携帯電話を傍受することであることがわかりました。ところが、審議が後半に入ってから、通信事業者の参考人質疑によって、現在の携帯電話システムにおいては、発信については傍受不可能で、着信については傍受は著しく困難であることが判明しました。着信の場合、使用回線を探索するのに二十分程度もの時間を要し、また通話区域が移動すれば探索を最初からやり直すことになるからであります。

 このような重要な事実を説明しないまま法案の審議を求めていた政府当局の議会軽視は強く非難されるべきことであります。

 携帯電話が技術的に傍受できないのでは、本法案の実効性は余りにも乏しいものと言えます。当局は、この点について、予算措置を講じ、通信事業者に対し通信システムを傍受が可能となるように変更してもらうよう要請すると説明しております。しかし、その具体的方法や相当に高額と予想される費用について具体的な説明はありません。

 このような技術的問題ばかりでなく、この問題は通信事業者の経営に重大な影響を及ぼします。事業者の一部が当局の要請に応じなかった場合や、仮に現在の事業者のすべてが応じたとしても、新規参入事業者が登場した場合、通信傍受が不可能なシステムによる携帯電話だけが普及し、当局の要請に応じた事業者が競争上著しく不利になると考えられるからであります。この面についての対策には、その是非は別として、法的措置を講ずる必要があると考えられるのに、これについては何の対処もされていません。

 このように、携帯電話について、傍受が不可能な携帯電話が普及する余地を少なからず残したまま本法を施行しても、組織犯罪者は当然に傍受不可能な携帯電話を選んで使用するでしょうから、結局は携帯電話を傍受するとの本法の実効性は著しく乏しいと断じざるを得ません。

 また、衛星通信を用いた携帯電話は現在も将来も傍受不可能であることは当局も認めています。

 これから飛躍的に普及増大すると見込まれるインターネット通信の場合、高度な暗号技術を用いられた場合、これを解読することはほとんど不可能であります。与党が招致したインターネット事業者の参考人も同旨述ぺております。仮に、ある暗号を解読する技術を取得したとしても、そのときにはさらに高度な暗号が登場しているでしょう。犯罪のプロは当然このような防御措置をとるでしょうから、この点においても本法の実効性が乏しいことは明らかです。

 前述のとおり、本法案は憲法で保障された基本的人権である通信の秘密に犯罪捜査の必要性という公共性によって制約を加えるものであります。したがって、…

○議長(斎ております。簡単にお願いします。

○小川敏夫君(続)はい、間もなく終わります。間もなく終わります。

 したがって、犯罪捜査の必要性は高度に緊急性、実効性が高いものでなければならず、この点は人の考え方にゆだねられているものではありません。しかしながら、ただいま述べたとおり、実効性が著しく乏しいのが本法の実際の姿です。これでは、通信の秘密に制約を加えるだけの合理的必要性に欠ける結果、本法は憲法に違反することに帰着します。

 そして、通信の秘密に制約を加える以上、その制約は必要最小限度にとどまらなければならないとともに、最小化原則が制度的に保障される措置が講じられる必要があります。本法は、該当性判断のための傍受などが認められていますが、その実施については、最小化原則を具体的に定める規定がなく、当局の自主的判断に任せることになっており、最小化原則が制度的には担保されていません。

 また、本法は、捜査官の乱用を防止する制度的保障が極めて不十分であります。この点については、本法に対する代表質疑の際に具体的にしたとおりでありますので簡略に述べます。

 通信傍受を裁判官の発する令状によるとする事前審査は、有効なチェック機能ですが、必ずしも完全でないことは、過去に露見した令状の不正取得事件や、松本サリン事件のように全な誤認捜査においても令状が発行されてしまった例などから明らかです。

○議長(斎藤十朗君)小川君、時間が超過しております。簡単に願います。

○小川敏夫君(続)はい、間もなく終わります。間もなく終わります。

 そして、令状は、令状を発行した後の執行に関しては何らチェック機能を発揮しないという制度の本質からくる制約がありますので、令状による事前審査だけでは乱用防止が十分とは言えません。

 本法では、令状の執行すなわち傍受時においては立会人の制度が設けられていますが、立会人は外形判断のみのチェックにとどまるもので、傍受の内容には関知しません。したがって、立会人制度による乱用防止機能は脆弱であると言わざるを得ません。

 であるなら、事後的なチェック機能が絶対に必要であります。しかしながら、乱用にわたる傍受の通信当事者には傍受の通知がなされないので、本法が規定している当事者による通信記録の確認や不服申し立てによる事後チェックは全く機能しません。

 以上述べたとおり、本法は、憲法で保障された基本的人権を制約するためには絶対に必要である制約の最小化原則及び乱用防止の制度的担保が実質的になされていないと同様であり、したがって、本法はこの点からも憲法の精神に反するものであります。


 なお、本法に賛成する立場の参考人や公述人らが、賛成の前提として乱用防止が十分に担保されることを強調していたことを付言します。

 本法は、強制捜査を実施した傍受対象者本人であっても、傍受記録を作成しなければ、強制処分を行ったのにその通知を行わないもので、憲法の保障する適正手続の精神に違反します。

 また、逆探知の場合、令状もないまま通信事業者に協力義務を課していることは、逆探知の事業者が傍受に係る通信事業者と異なる場合には令状主義を定めた憲法に違反します。

 最後に申し述べます。仮に本法が成立することになれば、近い将来に必ずやこれを成立させた国会に対する批判の目が向けられるでしょう。私たちは本法に真筆に反対したことを誇りとして、語り続けられることを述べて、私の反対討論とさせていただきます。(拍手)
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