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1999/08/02
産業活力再生法案に対する代表質問(簗瀬進議員)
参議院本会議
産業活力再生法案に対する代表質問
民主党・新緑風会 簗瀬 進

 私は、民主党・新緑風会を代表して、ただいま議題となりました「産業活力再生特別措置法案」について総理及び関係大臣に質問を行います。

 経済構造の大きな変化を予測してからもう十年を超える歳月が経ちます。産業構造の変化は必然的に失業者を増やす。とするなら、この間の政治の最大の課題は、新しい雇用をいかにつくりだすかにあったはずであります。

 第一に新規雇用を増やし、第二に効果的な労働転換政策をたて、そして第三に緊急非難的な失業対策をうちながら失業率を押さえ込んでいく。これが望ましい政策の手順です。
しかし残念ながら、新規雇用の拡大策はまさに十年一日のごとく、また今回の補正予算のように、長期的対策と緊急非難策が支離滅裂に列挙されるなど政策手順はまったく逆立ちし、後手後手に回っているではありませんか。さらには、今回の経済再生関連法案のように、関連分野が広汎な大きな施策については、「小出し」を避けて「統合的」「網羅的」な法案提出を心がけるべきではありませんか。

 この十年、何もやってこなかったとは申しません。それなりにやってきたことも認めましょう。しかし、その効果はまったくあがっていません。そして完全失業率はいまや過去最悪の四・九%になり、いよいよわが国は大失業時代に突入しようとしています。

 古来より「恒産なければ恒心なし」と言うとおり、失業対策は政治の根本命題です。二十一世紀を目前にして「恒産」と「恒心」をともに失おうとしているわが国の現在。それはまさに政策的な失敗が導いたものであります。構造変革の波を乗りきる展望が今もって開けていない現状、これをどう認識し、またその原因をどう分析しているのか。まず、総理のご見解をお聞かせください。


 さて、この間の政策的な失敗の原因を分析すると、以下の五点に集約できるのではないかと考えます。
 まず第一に、政府自身が世界的な経済構造変革の本質を十分に捉えていなかったこと。
 その結果として、第二に、従来と同様の対症療法的政策しか取らず、規制緩和策に代表されるように、政策実現のスピードが遅すぎたこと。
 第三に、雇用拡大の方向を「成長十五分野」などと、総花的に拡散してしまった結果、焦点がボケてしまったこと。
 第四は、関連する政策を、時期をずらしながら分散的に立法化したため、政策のインパクトが極めて低くなってしまったこと。
 第五は、結果評価についての仕組みが入っていないために、政策実現のチエックが出来ていないこと。
などがあげられると思います。
 そこで、このような反省と教訓が、今回の産業活力再生化法案にどのように生かされているのか、総理および通産大臣の見解をお聞きしたいと思います。

 さて、それでは現在、世界を襲っている構造変革の波、その本質をどうとらえるかと言うことであります。
 私は、その根本的な原因を、世界的規模の情報革命にあると考えます。コンピューターネットワークの世界的な広がりは経済の姿を変え、軍事や安全保障の姿を変え、国境を超えた市民活動を生み出し、人々の意識やライフスタイルさえ変えています。まさに「プロメティウスの火」、「原子の火」、に続く「情報の光」であり、農業革命、産業革命に続く第三の革命が情報革命です。
 これが日本のみならず世界を襲っている構造変革の本質です。これを真正面から捉えながら対策を立てるべきでした。ところが、いままでは、「情報政策」といえば、直ちに「情報産業」のための振興策と理解されてきました。この短絡的な誤解と、本質の矮小化が、日本の経済や政策の全般的な遅れの原因になってきたものと考えます。したがって、これからは、「成長十五分野」という考え方も、この情報革命を基本的な座標軸にすえて、もっとメリハリのきいた形に見直しをすべきではないかと考えますが、以上の指摘についての総理の見解をお伺いします。


 さて、次に、今回の経済活力再生法に欠けている重要な観点を二つ指摘したいと思います。その第一は、「国民の勇気を奮い立たせるようなメッセージ」であり、また第二は、不安な国民のよりどころとなる「セーフティーネット」であります。     
 かつてケネディー大統領は「人類を月に送ろう」というナショナルゴールを提案しました。このビジョンは、アメリカ国民のプライドに訴えるとともに、科学技術をはじめ経済全般に大きな刺激を与えました。
 今、わが国の政治にもっとも求められているのは、まさに、難局に恐れずに挑戦できるような「国家的な目標」すなわちナショナル・ゴールの提示ではないでしょうか。国民ひとりひとりの「名誉」と「誇り」に訴えつつ、同時に経済的なインパクトをもつビジョン。政治は必死になってこのことを考えるべきです。
 総理、真空の掃除機のようになって人々の意見を吸収することも結構です。しかし、一国のリーダーとしてのもっとも大きな責務は、難局にあたって「国民の勇気を奮い起こすビジョンや理想」を、自らの言葉で高らかに語ることだと思いませんか。「ボキャ貧」とうそぶきながらこの責任から逃げるのは許されないと思います。
 そこで、総理、あえて提言いたします。
私は、わが国のナショナルゴールを「情報による平和と安心の実現」におくべきであると考えますがいかがでしょうか。情報は、「福祉」や「医療」そして「教育」の格差をなくすことに大きな力を発揮します。また新しいビジネスのチャンスを拡大しつづけています。それどころか、国境を超えた情報の交流は、世界的なNPO活動を生み出し、さらには戦争の背景に横たわる相互不信を取り除き、平和の実現に貢献することも可能です。
 幸いなことに、わが国は現在でも情報のハード面では世界でトップレベルです。そして一貫して核兵器廃絶を訴え、平和を希求してきた日本国民の「誇り」があります。
 このように考えたとき、「情報による平和と安心の実現」をナショナルゴールとして設定し、すべての政策の根本に位置付けるべきものと考えますが、総理のご意見をお伺いします。

 さて経済の再生を図る場合にもっとも大切なこと、それは経営者の厳しい自己批判であり、そのうえでの自助努力であります。過剰雇用、過剰設備、過剰債務の、三つの「過剰」を、あたかも構造問題のように語りながら、論点をすりかえてはなりません。「失敗の原因は、経営判断にあり。」この点の反省をなおざりにして、「苦しくなったから国の救済を」というのでは、再び同じ過ちを繰り返すのは明らかです。
 そこで、この法案のなかで、企業のモラルハザードを防止し、経営責任を明かにする原則がどのように貫かれているのか、通産大臣にお聞きします。

 ところで、総理は、施政方針演説で、「旧来システムとの決別」を高らかに宣言しました。そして「事前コントロールの社会」から「事後チエック型の社会」に改革すると明言したはずであります。しかし、言葉とは裏腹に、今回の法案の枠組みはまさに「事前コントロール」の復活強化ではありませんか。担当大臣による「事業再構築計画」の「認定」、あるいは都道府県知事による「経営資源活用新事業計画」の「認定」など、お役所の「お墨付き」がなければ優遇措置は一切受けられないような枠組みになっています。総理、まさにこれは、厚顔無恥の言行不一致ではありませんか。総理の御所見をお伺いしたいと思います。

 またこの「認定」制度に関連してですが、今回の法律の仕組みでは、「認定」の有無によって優遇措置の適用が二分されてしまいます。このような大雑把な二分法では実情に応じた柔軟な対応が出来ないのではないでしょうか。通産大臣の見解をお聞かせください。

 さらに今回の法案については、産業界の内部で激しい不公平感が出ていると聞いています。すなわち、大規模な設備や装置をかかえる産業には法案の恩恵はあるが、それ以外の産業にはあまり意味がないと言った批判です。この批判にどう答えるか。通産大臣の見解をお聞きしたいと思います。

 さて次に、法案の定める優遇措置の問題点を指摘したいと思います。
 まず、過剰な設備を廃棄したときに出る欠損金についての優遇税制についてです。これについては、自力で競争力をつけ過剰設備問題を処理した企業よりも、その努力を怠った企業のほうを優遇すると言った大きな矛盾があります。
 さらに、欠損金の繰越期間は、米国では二十年、英国やドイツでは無制限となっており、今までの五年間を二年間だけ延長することにどの程度の意味があるのか疑問です。また恩恵の対象を「機械装置・建物廃棄」のみに限定している点もかなり姑息な感がします。まさに「出し惜しみ」の「小出し」政策の典型ではないでしょうか。以上についての総理、通産大臣の見解を求めます。
 
 次に「過剰債務の株式化」という施策についてです。いわゆるデット・エクイティ・スワップと呼ばれるこの制度は、会社の債務を株式に振り替えるので、会計上は負債を消すメリットはあるものの、債権者としての金融機関にとっては資産の不安定化につながるのではないか、また銀行と企業の株式の持合が認められているわが国では、企業のモラルハザードを助長しかねないのではないか、との疑問があります。金融再生委員長の見解をお聞かせください。
 
 さて、この法案については、労働者のリストラを一方的に促進するのではないかとの大きな不安があります。
 「分社化」や「過剰設備の整理」を中心にした事業再構築が、更なる雇用の削減につながらないような考慮、あるいは経営失敗のつけが「働く者」に転嫁されないようなセーフティーネットが、法案上どう考慮されているのか。総理および労働大臣の答弁を求めます。
 
 これらの懸念に対し、確かに、法案の第一条には、「雇用の安定等に配慮しつつ」との文言が、また第三条第六項の六号では、事業再構築計画の認定にあたって「従業員の地位を不当に害するものでないこと」の文言がそれぞれ入り、さらに第十八条では、事業者に対して、『失業の予防、その他雇用の安定を図るため必要な措置を構ずる』努力を求めています。
 しかし、いずれも具体的な内容は明記されていません。また、規定の仕方も単なる努力義務の宣言にとどまっています。これでは「セーフティーネット」どころか、「くもの巣」のような「あぶないネット」ではありませんか。実効性を担保するためには、努力規定ではなく、事業主に対する義務規定に改めるべきであると考えますが、総理及び通産大臣の答弁を求めます。

 さらに、この際、企業組織の変更における労働者保護についての一般的な法律を制定すべきであると考えますが、総理及び労働大臣から政府の今後の取り組みについてお示し願いたいと思います。

 次に 新規事業・ベンチャー企業支援策についてお聞きします。
 衆議院において、民主党は「起業家支援法案」を提出しました。これは政府案を上回る、総合的な施策の集大成とも言える法案でしたが、残念ながら可決には至りませんでした。
 そこで、まず通産大臣にお尋ねいたします。大臣は衆議院の論議においては明確に民主党案に反対との態度を示されたそうですが、民主党の提案している
「女性起業家を育成する必要性」
「補助金を交付されなかった理由の開示の必要性」
「エンジェル税制やストックオプション税制などを拡充する必要性」
「国立大学教官の民間役員兼務の必要性」という諸点について、よもやその必要性を否定するものとも思えません。もし、これらの必要性をお認めになるのならなぜ今回の法案とセットで立法化しなかったのでしょうか。小出しにする積極的な理由でもあるのでしょうか。通産大臣の見解をお伺いします。

 さて、アメリカの例を見るまでもなく、これからはむしろ中小企業やベンチャーこそ新たな雇用を生み出す主要な分野であります。
 そしてベンチャー育成策のポイントは、
第一に、直接的な投資環境の整備であり、第二には、失敗が致命傷にならない社会環境づくりであり、第三は、産業と学術の連携の促進であります。
この三点が早急に取り組まねばならないポイントであることは、いまや共通の認識になっています。
 しかしながら、今回の法案で取られた政策手段は、従来の制度金融の延長でしかありませんでした。多くの税制についての規定を置きながら、ベンチャーへの投資優遇税制に踏み込まなかったのは、「画竜点睛を欠く」との批判を免れません。さらに、総理自ら 補正予算の審議の過程で、ベンチャーへの投資の促進策が不充分であることを、認めているではありませんか。後出ししてはインパクトがありません。なぜ一括でおだしにならなかったのか。総理の見解を伺います。

 さらに、勇気を持って創業に挑戦した起業家たちが、失敗しても何度でも再挑戦できるような社会を目指すべきです。この点 日本の倒産法制は、どうしても清算を中心に規定されており、いわば「企業の幕引」法制になっています。しかし、これからは、敗者復活が容易に出来るような、新たな企業整理法の構築をしていくべきだと考えますが、この点について法務大臣の所見を伺いたいと思います。

 以上のとおり、今回もまたしても「小出し」「後出し」「先送り」の法案が提出されました。フルコースを「小皿」料理で出されても、料理の醍醐味は国民には伝わりません。関連法案を統合し、インパクト強く出す。このようなダイナミックな政策展開を行わねば第三次産業革命は絶対にのりきれません。政治的な思惑を優先させ、未熟児のまま法律を誕生させていく。モラルハザードを助長し、自己責任を放棄したまま、経済の自立を妨げていく。真空という無原則と無定見、そのなかで失われていくわが国の未来。総理のにこやかな笑顔を見つめながら、「大悪は小善に似たり」と言う中国のことわざを指摘し、質問を終ります。
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