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1999/07/28
国旗及び国歌に関する法律案に対する代表質問(広中和歌子議員)
参議院本会議
国旗及び国歌に関する法律案に対する代表質問
民主党・新緑風会 広中 和歌子

 私は、民主党・新緑風会を代表して、ただいま議題となりました「国旗及び国歌に関する法律案」に対して、総理並びに関係大臣に質問させていただきます。

 「日の丸」は「日出る国」日本の力強さと誇りを表すシンボルとして、多くの国民に親しまれており、また古今和歌集をもとうた原歌とする君が代は、荘厳な雅楽の旋律の元で悠久、共生、愛などを表象する国歌であるとされています。

 「日の丸」「君が代」は共に、古来より親しまれ、今日まで引き継がれてきており、事実、「日の丸」「君が代」に代わるわが国の国旗・国歌は存在しておりません。


(本案の提出経緯について)

 本法案の最大の問題点は、その提出経緯です。政府は、国旗・国歌という日本国の基本的枠組みや象徴天皇制に関わる重要な法案を、通常国会の会期末一週間前に提出しましたが、延長国会でけいけい軽々に処理すべき問題でないことは明らかです。

 本法案は、自自公という、数にモノを言わせた世紀末的政権・九十九年体制が生まれつつある、まさにその時に提出されました。国旗・国歌を、政争の具として用い、自自公の流れの中で、本法案を含め、いわゆる盗聴法案や、国民全員がそれぞれ番号を持つ住民基本台帳改正案など十分な議論も無しに通されようとしています。国家の管理がますます強まりそうな勢いで、個人の生活が窒息してしまいそうな気配が感じられるのです。

 二月末に総理は「国旗・国歌の法制化については考えていない。」と発言して一週間もたたないうちに、法制化の検討を言い出しました。この早変わりについて、「よくよく考えてみたら法制化の必要性があった」と誠に国民を小馬鹿にしたコメントを総理は平然と言ってのけられました。何をよくよく考えられてのことでしょうか。

 政府・自自公路線は、わが国の伝統・慣習に基づく価値観の共有の意味を、あまりにも安易に受け止めているのではないでしょうか。民主党では長時間、国旗・国歌の法制化について議論を積み重ねました。愚直なほど何度も議論を重ねたのは、「日の丸」「君が代」にまつわる種々の事情と、国旗・国歌を法制化する際のデリケートな問題が重なり、党内に多様な意見があったからです。それほどこの問題は深いテーマです。

 国旗・国歌の法制化については、国会での慎重な審議を通じ、より多くの国民の意見を聴取し、国民間のコンセンサスを形成していくことが何よりも重要だと考えております。この議論を通じて、二十一世紀に向けた日本国の在り方について大局的な議論が国民間で起きる契機になるよう国会は努力していくべきだと考えます。

 そこで第1の質問です。小渕総理は、国旗・国歌の法制化についてどのような認識をお持ちなのでしょうか。延長国会で数時間審議すれば足りるとお考えなのでしょうか。何故、国家の根本に係る重要法案を会期末ギリギリに提出したのか、総理の真意をお聞かせ下さい。


 (国旗・国歌の法制化について)

 第二に、国旗・国歌の法制化の意義をお伺い致します。

 日の丸・君が代は、オリンピックをはじめ種々の行事で使用され、国際的にも国内的にも、日本の国旗・国歌として扱われています。さらに、各種世論調査の結果をみても、広く国民の間に定着していると考えられます。一方で、「日の丸」を国旗として、「君が代」を国歌として法制化することに対しては、約半数以上が慎重な態度です。

 この結果にこそ、国旗・国歌の法制化の難しさが現れていると考えます。つまり、「日の丸」「君が代」には抵抗感が少ないが、国旗・国歌の法制化にはためら躊躇う気持ちがあるのが今の一般的な日本人の感覚なのではないでしょうか。総理のお考えを伺います。

 国旗・国歌の法制化が愛国心を強要する手段になるのではないか。国旗・国歌を愛国心の踏み絵に使うのではないかという強い懸念が、私たち日本人の奥底に横たわっているように感じますが、「日の丸・君が代」に対する態度により差別されたり、不利益に扱われることはないのでしょうか。憲法十九条で保障される「思想・良心の自由」は尊重されるのでしょうか。総理の見解を求めます。

 また、国旗・国歌の法制化はあたかも親孝行を義務づける法律を作るようなものではないかという白けた思いもあります。自発的だからこそ意味のあるものを、わざわざ法制化することにより、その本髄を壊すことになります。

 長い歴史をもつわが国は、国旗・国歌を敢えて法制化しなくても、日本国・日本人としてのアイデンティティーは自然と確立できるだけの悠久の歴史があるとも言えます。慣習によることも、一つの選択肢であったと言えます。

 そこでお伺いします。歴史と伝統のある日本が今、国旗・国歌について慣習もしくは憲法によらず、いかなる理由から法律で規定するとしたのか。国旗・国歌に係る規定を慣習、憲法、法律で行ったとき、どのような効果の相違が発生するのか、総理のご所見をお聞かせ下さい。


(「日の丸」「君が代」の分離について)

 政府案は「日の丸」と「君が代」の法制化をセットで考えております。しかし、各種の世論調査を見ると、「君が代」に対しては「日の丸」よりも抵抗感を持つ人が多く、法制化については、その差がさらに顕著に表れます。

 そこで、民主党は、以下の理由により「日の丸」と「君が代」は別々に対応すべきだと考えます。

 「日の丸」掲揚と「君が代」斉唱という行為は本質的に性質が異なります。国旗掲揚は眺める動作、つまり不作為で済みますが、国歌斉唱はみずから歌うという作為が要求されます。また、国旗は国籍を表わす標識であり、船舶に旗を掲げる等の慣例に見られるように、制度的な側面を有しますが、国歌はもっぱら儀式的な要素の強いものといえます。

 よって、両者の法制化の意味は全く異なり、両者に対して異なる対応が求められるのは当然です。つまり「君が代」に対しては、「日の丸」に対して以上に法制化について慎重な配慮が必要とされます。

 そこで総理にお聞きします。「日の丸」と「君が代」は、同様な取り扱いをしてよいのか、一括で扱う根拠は何か、世論調査では両者に対して差があり、更にその性質に差異があるとしたら、何故「日の丸」と「君が代」をセットで扱うのでしょうか。


(「君が代」の解釈について)

 第四に「君が代」の解釈についてお聞きします。「君が代」は「日の丸」と異なり、歌詞を持っているので、ストレートにメッセージを発信します。それだけに、「日の丸」以上に「君が代」は慎重な対応が必要とされる所以でもあります。

 政府は「君が代」における「君」を「日本国憲法下では、日本国及び日本国民統合の象徴である天皇」としていましたが、先月の総理の答弁では、「日本国憲法下においては、日本国及び日本国民統合の象徴であり、その地位が主権の存する国民の総意に基づく天皇」という新しい見解が出されました。

 しかし、そもそも歌詞の意味を政府が一方的に公示して、統一すること自体、甚だ疑問が多いと言えます。つまり、それは、国民の解釈の自由を奪うことに他ならないからです。

 「君が代」は、千二百年にもわたる歴史を有し、その歌詞の意味も豊かな広がりを持っております。だからこそ、人々に謡い継がれてきたのです。昨年の夏、屋久島を訪れ、苔むす原生林の中を歩きながら、頭に浮かんだのは「君が代」の和歌でした。

 総理にお聞きします。「君が代」を解釈する権限が内閣にあるとお考えですか。あるとしたら、その根拠はどこにあるのでしょうか。

 私はあくまでも「君が代」の解釈は国民一人ひとりの胸のうちの豊かな発想に委ねるべきと考えますが、その点について、総理はどのようにお考えですか。


(立法化の強制力について)

 第五に、国旗・国歌の法制化による立法効果・強制力についてお伺いします。

 先般示された政府見解では「国旗の掲揚等に関し義務付けを行うようなことは、考えていない。したがって、現行の運用に変更が生ずることとはならないと考えている。」としております。何ら変化が生じないのであれば、そもそも法制化する必要がないことになります。

 教育現場では、長い間、日の丸・君が代をめぐり多くの混乱が生じてきました。今年2月の広島でおきた不幸な事件が契機となって、政府は自自公路線で強行に「日の丸」「君が代」を法制化しようとしております。

 官房長官は、国公立学校の教職員については「少なくとも教育公務員として公務員法に基づいて職責を得る人は、わが国の法律に忠実であるべきだ」と述べております。この発言は、法制化に伴い、教職員に対する国旗掲揚・国歌斉唱の指導が強化されることを意味しているのではありませんか、明確な答弁を求めます。

 本法案が根拠となって、学習指導要領の「国旗掲揚と国歌斉唱の指導」に一層の強制力を持たせることのない様に都道府県教育委員会に徹底すべきであります。総理、官房長官、文部大臣の答弁を伺います。

 つい最近、「君が代」の伴奏を拒否した教諭が校長の職務命令違反として戒告処分を受けました。法制化後さらに職務命令での「日の丸」「君が代」の指導に対する強制力が強くなるのか。これにより、さらに教育現場での混乱が拡大するおそれはないのか、野中官房長官・文部大臣の具体的な答弁を求めます。


(結び)

 「日の丸」が過去において、アジアに対する侵略の象徴であった事実があります。さらに沖縄からの声も含め、辛く悲しい存在であったことも決して忘れてはならないことです。しかし、私はこういったマイナスの過去を踏まえて、日本は「日の丸」を国旗と定めるべきだと考えます。

 「過去を直視し、それを戒めとして、誇りに思える日本の未来を切り開いていく」という日本国民の意思を、「日の丸」の法制化に託したいと思います。

 「君が代」は主権天皇制から現在の象徴天皇制に連続しているため、抵抗感を持つ人も少なくありません。不幸な歴史を引き起こした戦前の天皇制をきっぱりと否定し、現憲法における国民主権下での象徴天皇制を、積極的に位置づけるためにも、国民間での一層の議論が必要とされていると考えます。会期末まで2週間足らずで、どうして十分な議論がつくせましょう。

 最後に、私は、本法案の国会内外での論議を通じ、自国の国旗及び国歌に対する正しい理解と態度が培われ、引いては他国の国旗・国歌を尊重し、さらには日本と他の国々の文化や歴史・伝統を敬愛する態度が定着することを、心から期待し、質問を終わります。
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