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1999/06/14
地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律案趣旨説明に対する質疑(峰崎議員)
参議院本会議
地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律案趣旨説明に対する質疑
民主党・新緑風会 峰 崎 直 樹

(はじめに)

 私は民主党を代表して、ただいま趣旨説明を受けました地方分権一括法案に対して、総理及び関係大臣に質問いたします。

 今から四年前の地方分権推進法制定を出発点とするわが国の地方分権推進の取り組みは、明治以来の集権的な中央・地方関係を改め、両者の対等・協力関係を築くとともに、日常的な行政事務のほとんどは、住民に身近な政府である地方自治体が住民参加のもとに自主的・自立的に遂行する社会をめざして進められてきたものであります。

 政府が提出した地方分権一括法案は、地方分権推進委員会の累次の勧告及びこれを踏まえた政府の地方分権推進計画に基づいて法制化の作業が行われたものとされています。本法案では、これまで長い間わが国の中央集権型行政システムの象徴となってきた機関委任事務を廃止し、これらの事務のほとんどを自治体の事務と位置づけたこと、国と地方自治体の関係を対等協力関係と位置づけ、自治体の事務についての国の包括的な指揮監督権限を廃止し、事務区分に応じた国の関与のあり方を地方自治法に一般ルールとして規定したこと、国の関与について不服がある場合の国地方係争処理委員会や裁判所による係争処理の仕組みを整備したこと等、その基本的な枠組みについては評価に値するものであると考えます。

 しかし、同時に、本法案については、二百五十余名の学者らによって、内容の見直しを求める声明が出され、またわが参議院の野党各会派所属議員で構成する参議院地方分権推進研究会からも、「地方分権一括法案の徹底審議と残された課題の早期取り組みを」と題するアピールが各大臣・各党代表宛に提出されているなど、その内容上の問題点を指摘する声が少なくありません。本法案は、衆議院において与野党五会派共同修正がなされた上で本院に送付されたものでありますが、本院において、ぜひとも十分な審議を行い、問題点の解明と残された課題の解決に精力的取り組む必要があることをまず申し上げておきたいと思います。


(機関委任事務廃止に伴うあらたな事務編成について)

 次に、具体的に法案の内容についてお尋ねします。
 本法案の主な柱の一つは、機関委任事務制度の廃止と、それにともなう事務の再編成であります。そこでまず、この機関委任事務廃止後の地方自治体の処理する事務の性質等について総理及び自治大臣にお尋ねいたします。

 法案の地方自治法改正部分に示された法定受託事務の定義をめぐって、なぜ地方分権推進委員会が勧告で用いた「国民の利便性又は事務処理の効率性の観点」という文言が消えて「国においてその適正な処理を特に確保する必要があるもの」という文言が用いられることとなったのか、という点が大変疑問であります。政府の説明によれば、勧告が用いた文言は、国と地方の事務の振り分けに関わるものであるが、この法案においては、すでに国の処理する事務と地方の処理する事務の振り分けが終わった後の法定受託事務と自治事務の振り分けに関わる定義規定なのでこのようになっているということであります。

 しかし、私は、このような説明では、疑問がすっきりと解消するものとは思えません。地方自治法改正部分では、まず第一条の二で地方公共団体と国の役割分担を明らかにし、これを踏まえて第二条第二項で普通地方公共団体の処理する事務を明らかにし、第九項で、そのうち「国が本来果たすべき役割に係るものであって、国においてその適正な処理を特に確保する必要があるもの」については法律・政令で特に指定することによって法定受託事務となり、それ以外は第八項の規定によってすべて自治事務と分類されることとしております。もし、先の説明の通りであるとすると、第一条の二に示された国・地方の役割分担の規定についても、いまさら地方自治法に書く必要はないことになるのではありませんか。かりに、今後の立法の指針として第一条の二の存在意義があるのであるとすれば、法定受託事務の定義も勧告通りで何ら差し支えないはずです。政府案の規定では、なぜ「国の果たすべき役割」に関わる事務が、地方の処理する事務となるのかがさっぱり分かりません。これらの点について、自治大臣からわかりやすいご説明をいただきたいと思います。

 また、今回の地方自治法改正部分では、「地域における行政」「住民に身近な行政」「地域における事務」「地方公共団体が処理する事務」「当該普通地方公共団体の事務」などの文言がいろいろ用いられていますが、その使い分けが明快とは言えません。それぞれの文言の意味、使い分けについて自治大臣の答弁を求めます。

 さて、自治体の事務の自治事務と法定受託事務への区分については、省庁の頑強な抵抗によって、「原則として自治事務」という考え方からは著しく後退を余儀なくされております。「地方公共団体は、住民の福祉の増進を図ることを基本として、地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担うものとする」という第一条の二の精神はいったいどこに反映されているのでしょうか。総理のご所見をお示しください。

 この事務区分について、衆議院での五会派共同修正により、今回法定受託事務と区分されたものについても地方分権を推進する観点から検討を加え、適宜、適切な見直しを行うものとされました。私は、地方自治体が今後いっそう自治体行政の充実・向上を図り、着実に力をつけていく中で、より多くの事務を自治事務として地域の実情に応じて自主的・自立的に遂行できる環境が調っていくものと思います。また、政府としても、今後例えば三年ごとに事務区分について総点検を行うなどのの方法によって積極的に法定受託事務から自治事務への区分替えを進めるべきだと思います。総理は、衆議院で五会派共同でこの見直し条項が追加されたことの意味をどのように受け止め、具体的にどのように見直しを進めるお考えか、ご所見をお示しください。


(自治事務への国の過度の関与について)

 次に、法案の二番目の柱である国の自治体に対する関与のあり方についてお尋ねします。

 法案は、機関委任事務の廃止に伴って、これまでの国から自治体に対する包括的な指揮監督を見直し、国から自治体への関与を地方自治法に一般ルールとして規定するとともに、自治事務に対する国の権力的関与を原則として否定することとしております。

 ところが、その地方自治法自体が、自治事務の処理について各大臣から是正の要求があった場合に、自治体に是正・改善の措置を講ずることを義務づけることとしております。このような自治事務についての自治体の是正・改善義務は、現行法上存在せず、委員会の勧告等にももちろん何ら盛り込まれていなかったものであります。

 また、地方自治法改正部分においては、普通地方公共団体の組織及び運営の合理化に係る助言等についての自治大臣の指示、財務に係る実地検査、市町村に関する調査についての自治大臣の指示など、いわゆる個別法としての地方自治法上の権力的関与の規定も設けられております。

 自治事務に対してこのような国の権力的関与の規定を設けるのはいったいどのような理由からでしょうか。このような規定は、「自治体は誤りを犯すが、国は誤りを犯さない」という中央官僚の傲慢な考えの表れではありませんか。仮に自治事務の処理に誤りがあっても、それは当該地方自治体の議会や住民によって当然に是正されるべきものと考えるのが地方自治の精神なのではないでしょうか。自治大臣の見解をお尋ねします。

 以上の地方自治法改正部分に加え、個別法改正部分においても、関与の一般ルールから逸脱していると言わざるを得ない自治事務への権力的関与の規定が多数設けられております。まず、先ほど述べました地方自治法上の是正の要求、これに対する是正改善の措置義務と同様の規定が港湾法、漁港法、道路法等、多数存在します。これらは、なぜ地方自治法上の是正の要求によらず、個別法上でわざわざ同様の規定を置いているのでしょうか。総理から、それぞれの個別法の規定ごとに、その理由を明らかにしていただきたいと考えます。

 また、地方自治法上の一般ルールでは、自治事務に関しては代執行を設けないという原則が明確にされているにもかかわらず、国土利用計画法、建築基準法、土地収用法、都市計画法などの個別法において、ほとんど代執行と同種の国の直接執行の規定が置かれております。勧告・計画では、このような国の直接執行については、その要件を「国民の利益を保護する緊急の必要がある場合」に厳しく限るべきだとされていました。しかし、これらの個別法の規定は、「国の利害に重大な関係がある事項に関し、必要があると認めるとき」というようなきわめて緩やかな要件で国が直接執行できるものとされています。この法案の書き方では、例えば国家公務員宿舎を建てるからという程度の理由でも国が直接執行できてしまいます。私は、このような安易な規定は、到底容認すべきものではないと考えます。これらの点につきまして、建設大臣、自治大臣それぞれの立場からのご見解をお尋ねします。

 自治事務に対する国の関与については、以上申し上げました通り、非常に多くの問題を含んでいると言わざるを得ず、少なくとも今後これをできるだけ地方自治法の一般ルールに合致したものに改めていく方向での見直しを不断に行っていくべきと考えますが、総理のご見解をお尋ねします。


(税財源移譲の棚上げについて)

 次に、税財源移譲問題についてお尋ねします。
 国から地方への税財源の移譲については、これまで大蔵省などの抵抗が強く、今回の法案ではまったくふれられておりません。国・自治体間の租税収入と歳出総額の乖離を縮小する方向で、個人所得課税をはじめとする基幹税目について税源配分を抜本的に見直し、地方の充実した自主財源の確保を図ることが今後の大きな課題であると考えます。

 この点について、衆議院では、五会派共同修正により「国と地方公共団体との役割分担に応じた地方税財源の充実確保の方途について、経済情勢の推移等を勘案しつつ検討し、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする」とする附則が追加されました。また、宮澤大蔵大臣は、委員会での民主党所属委員に対する答弁の中で、「経済状況が正常化するまでは待つべき」だが、「そのときにはしかし、徹底的にやはり行財政の再分配にかからなければならない」と思い切った発言をされたと聞いております。自治大臣及び総理としても、この蔵相の決意表明を受けて、景気回復後、すみやかに、かつ徹底的に行財政の再分配を行うという考えをお持ちかどうか、明確にお答えいただきたいと思います。


(地方事務官問題について)

 最後に、地方事務官問題に関連してお尋ねします。
 法案では、戦後五十年以上にわたって暫定的に地方事務官が従事するとされてきた社会保険と職業安定に関する機関委任事務を廃止し、これらを国の直接執行事務とすること、そして地方事務官を廃止し、国の職員とするとしています。

 私は、社会保険行政など住民に身近な行政サービスは、地域住民の利便性向上を一番に考えれば、身近な自治体で行うべきと考えております。今回、衆議院では、五会派共同修正により、社会保険関係の地方事務官であった方々について、職員団体の加入等についての一定期間の特例等を設けるとともに、今後の医療保険・年金制度改革等に伴い、被保険者等の利便性の確保、事務処理の効率化等の視点からの見直しを行う旨の附則が追加されました。私も、これはぎりぎり最小限の必要な修正であると考えます。これらの修正内容について、厚生大臣としての所見をお尋ねします。


(むすび)

 以上申し上げました通り、本法案は、地方分権推進にとって半歩前進をもたらすものであることは率直に評価申し上げますが、いずれにせよ、その内容は本来の分権改革という目で見れば、衆議院での修正にもかかわらず、なお不十分と言わざるを得ません。今後、その個別法改正部分も含めて十分な国会審議を行い、よりよいものに仕上げていくことが本院の使命であることを申し上げて、私の質問を終わります。
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