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1998/12/11
平成十年度第三次補正予算案に対して反対する討論/簗瀬 進
民主党・新緑風会 簗瀬 進

 私は民主党・新緑風会を代表して、政府提出の平成十年度第三次補正予算案に対し「反対」の討論を行うものであります。

 わが国は未曾有の長期不況にあります。国民は未来への展望を描けず、「希望」を失おうとしています。「破綻」は金融システムだけではありません。日本経済全体が、過去の成功の条件を失いました。そして、世紀末の沈滞を迎えています。高度成長時代に通用した、官僚主導の経済システムや「親方日の丸」の護送船団方式、含み益をあてこんだ経済、情報を丸めた二重帳簿、これらがすべて通用しなくなっています。土地が上がり、経済のパイが拡大しているときは、「問題の先送り」で事がすみました。しかしもはやかつての成功の環境は失われたのです。

私たちは、現在の経済危機の原因が単なる循環的なものではないこと、冷戦構造が終焉を迎え、デジタル革命のもとでグローバル経済が確実に進行していることなど、いまや世界的な構造変革期を迎えている事をしっかりと認識すべきであります。そして成熟した・少子・高齢化社会に対応する新たな経済システムの構築に全力を注ぐべきであります。したがって、私たちは今、長期不況の脱却と、経済構造改革の二つを、同時にやり遂げねばならないという大変困難な課題に直面しているのです。
これがまさに「経済再生」の意味だと思います。だからこそ、リーダーは、勇気と決断力そして洞察力を持ち、事においては逡巡せず、常に明確な指針を示しながら、断固として前進しなければなりません。小渕総理、「ドン牛」の歩みでは、国民は不幸になるばかりではありませんか。

 さて、民主党は、先の臨時国会にあっては、延長してでも補正予算を成立させ、恒久減税を含む抜本的な景気対策を早急に実施すべきであると、主張しました。しかし、政府は早々と先の国会を閉じ、景気対策の実行を先送りしたのです。政府にあっては、景気対策よりも、自らの政治的思惑を優先させたのは明らかです。
 そして、今国会においても、景気対策と補正予算の編成に手間取り、その開会を遅らせました。このように、政府・自民党は財政当局の事情を最優先し、景気対策を常に先送りし、構造改革を後退させ、経済危機をいたずらに深刻化させてきたことは明らかです。

 私たち民主党は、十一月十二日に「減税、安心、未来への投資」をキーワードに、国費で総額二十兆円規模の「構造改革につながる景気・雇用対策」を発表いたしました。私たちの主張に少しでも耳を傾ければ、もう少しましな補正予算になったはずであります。日本経済を再生させるという看板とはまったく裏腹の、数字だけを膨らました、従来手法を一歩も出ない、メリハリの欠けた補正予算。こんな「こけおどし」の予算で経済が再生するとしたらお笑い種ではありませんか。
 危機感が欠如し、従来の利権構造を温存し、そのうえ、国民の不安と痛みを一切共有しない補正予算には、断じて賛成するわけにはまいりません。
 以下具体的に反対の理由を申し述べます。

 第一に、来年一月からの減税が何等措置されていないことであります。
 現在の経済情勢を考え、国民の将来への不安な心理に思いを致すなら、目先の需要喚起の補正予算だけではなく、減税についても速やかに前倒しをして行うべきであります。次期通常国会に先送りなら、その成立は早くて来年の年度末。今回の補正予算は、景気回復への国民のみならず財界の期待すら見事に裏切ってくれました。
 民主党の提案する、中堅層に手厚い所得税減税経済への波及効果が大きい住宅減税、法人税の国際水準となる引き下げなどの約六兆円の減税を直ちに行うべきであります。

 第二に、今回の経済対策も公共事業中心の従来型予算編成であることであります。
 本年四月の総合経済対策における事業消化すら円滑に行われていません。それにもかかわらず、さらに公共事業を追加する。この感覚は理解できません。四月の総合経済対策の都道府県分の契約率は、十月末現在でわずか二五・二%にすぎないのです。このような状況でさらに追加的な公共事業を行っても、即効的な景気刺激策になるはずもありません。また、今回の経済対策の公共事業についても、国が事業の種類・箇所付けまで決めて行うものであり、地方の自主性は全く尊重されておりません。国民が本当に必要とする社会資本とほど遠い、単なる利権保持のための公共事業が延々と続けられているのであります。

 公共事業を柱とする社会資本整備は、あくまでも国民の豊かさを実現することを目的とすべきです。環境・安全・福祉等に配慮しながら、透明性・効率性を確保する、そして限られた資源を、ニーズが最も高い分野に最適配分する、これらによって初めて景気刺激・雇用増の効果が生まれてくるのです。
 そのためには、中央官庁による過度なコントロールを改め、地方自治体が主体的に事業を選択できるシステムの構築をすべきであります。このような構造改革なしで、従来型の公共事業を続けても、早期の景気回復が望めないことは明らかであります。

第三に、今回の緊急経済対策では、地方に二兆八千億円の支出を強制していますが、今や地方の財政はこの重い負担に息も絶え絶えになっています。
最近東京、大阪、愛知、神奈川の四都府県が相次いで「財政危機宣言」を行いました。これらの四都府県だけで実はわが国の行政投資の四分の一を占めております。このような状況のもとで、今回の経済対策の迅速な実施は不可能に近いと言わざるを得ません。
 また、今回の経済対策における一般公共事業の地方負担分は全て地方債で負担することとされています。しかし、既に公債費負担比率が、「警戒ライン」である一五%を超えている団体は全体の五六%、一八四七団体という危機的な状況にあります。これ以上地方債の発行を強いることは、政府が自治体を強制的に倒産させるようなものであります。このような地方財政の実情を無視した政策を認めるわけにはいきません。

 第四に、今回の予算はさらに弱者切り捨ての傾向を強めていることであります。
 平成十年度における社会保障関係費については、平成九年度からの自然増が八千億円であったにもかかわらず、財政構造改革法の上限規制によって伸びは三千億円に圧縮されました。その結果、平成十年度当初予算においてはすでに五千億円の福祉切り捨てがなされたのです。今回の経済対策においても、そのうち三千八百億円程度が復活したにすぎません。結果として残りの千二百億円は未だに圧縮されたままとなっております。
 景気回復の瀬戸際で、超緊縮予算を作らせた、この財政構造改革法こそ、自民党の経済失政の象徴であります。そしてその失敗は今回の補正予算でも、いまだ修復されていないのです。

 私たち民主党は、所得税減税と同時に、所得税の扶養控除の見直しと児童手当の抜本的拡充をセットにした「子ども手当」を創設すること、さらに基礎年金国庫負担率二分の一への引き上げによって保険料をただちに引き下げることを提案いたしました。また、先般の参院選では、育児休業給付を現行の二五%から六〇%に引き上げる提案を行ってきました。小手先の景気対策よりも、しっかりとした社会的セーフティーネットを確立し生活不安の解消を図ることこそ、もっとも有効な景気対策上であります。
 ところが政府は、金融システム安定と称して、充分な情報開示もないまま銀行に公的資金を湯水のごとく注入する一方で、弱者を切り捨て将来への不安を助長しました。これでは、安心して消費を増やそうなどといった気持ちが国民に起きてこないのは当然ではありませんか。

 第五に、財政赤字がさらに拡大することであります。
 平成十年度の国債発行額は三十四兆円、これによって公債依存度は三十八・六%となり戦後最悪の数字となります。また、国債残高はさらに増加し約三百兆円となり、将来の負担がさらに増加しております。土木工事主体の公共事業を中心に行ってきた景気対策、その大きなつけがこの巨大な国債残高です。
 私たちは、土木工事のすべてを悪と言っているのではありません。しかし、公共工事の景気刺激効果すなわち乗数効果は激減しています。また未来社会に必要な社会資本の配分も大胆に変革すべきです。このような反省のないマンネリズムの公共事業を継続しても、それは単なる利権温存のエセ景気対策にすぎません。そして無意味な投資のツケを将来の世代にまわすことを許すわけには参りません。

 以上の理由から、補正予算に対しては断固反対するものであります。

 そして小渕総理、最後に申し上げたい事があります。
 高村光太郎の「牛」という詩があります。「牛はのろのろと歩く。」で始まるこの詩に書かれた牛を、ぜひ見習ってほしいと思うのです。「必然の一歩」を踏み出し、「出したが最後、牛はあとへはかえらない」、「最善最美を直覚する、未来を明らかに予感する」そして、孤独に耐えながら、がちりがちりと自然につっこみ喰いこんで歩いていく、それが光太郎の「牛」です。
 しかし、光太郎の描く「牛」と、総理はやはりずいぶん違うようです。過去にとらわれて直覚力を失っている、理念なき権力を守るためには、かつて悪魔と唾棄した者でも平然と飲み込んでしまう。これでは光太郎の「牛」にはなれそうもありません。「牛」にもなれないとしたら総理、歴史に名をとどめる最善の方法をお勧めします。それは、欧米の民主主義国が経済の閉塞状況を乗り越えるためにとる最後の手段、すなわち政権交代をなさることです。小渕総理の退陣そして政権交代こそが最大の景気対策であると、声を大にして訴え、私の討論を終わらせていただきます。
 御清聴ありがとうございました。
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