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1998/10/13
民主党提出の「金融機能の早期健全化のための緊急措置に関する法律案に対する修正案」に賛成、自由民主党、平和・改革、自由党提出の「金融機能の早期健全化のための緊急措置に関する法律案に対する修正案」及び自由民主党提出の原案に反対する討論
衆議院議員 古川 元久

私は、民主党を代表して、民主党提出の「金融機能の早期健全化のための緊急措置に関する法律案に対する修正案」に賛成、自由民主党、平和・改革、自由党提出の「金融機能の早期健全化のための緊急措置に関する法律案に対する修正案」及び自由民主党提出の原案に反対する討論を行います。



自民党、平和・改革、自由党が提案する金融早期健全化法案は、中途半端な資産査定と水増しした有価証券の評価を許し、公的資金でいい加減な経営状態にある金融機関の株式等を引き受け、経営者や株主の責任も撫でるようにしか問わず、ずさんな銀行経営者任せで公的資金による不良債権処理を中途半端に行なうという、極めて無責任な、金融早期健全化どころか「金融永久不健全化法案」です。以下に三党案の問題点を述べます。



まず、いい加減な資産査定??つまり、金融機関側は、本来は第III分類に分類されるべき不良債権を第I分類や第II分類に自己査定し、監査法人や金融監督庁がそれにお墨付きを与えるという談合・粉飾査定??と有価証券評価に原価法採用を継続する結果、表に出てくる不良債権の要処理額は銀行経営の健全性を真に担保する水準を百とすれば、せいぜい半分にとどまるでありましょう。残った50の本来処理すべき不良債権は、銀行経営者の責任問題に発展しないよう、従来通り先送り処理されることになります。しかし、これまでの不良債権増殖の経過、そして現下の厳しい経済状況を考えれば、「不良債権は処理しなければ時間の経過とともに増殖する」ことは明白であり、先送りの結果せっかく五十に減った不良債権は数年後にはまた70、80に増えてしまうことでしょう。つまり、不良債権は一括処理しなければ永遠になくならない性質のものですが、三党案はこの肝心かなめの真実に目をつむってしまっています。

提案者は、あるいは、資産査定や引当基準は金融再生委員会が規則を定めて厳格に行なうと強弁されるかもしれません。しかし、第21条はこの最も重要な金融再生委員会の権限を金融監督庁に委任してしまっています。権限の委任を受ける金融監督庁が信頼できるものであればまだ救いがありますが、残念ながら創設以来、金融監督庁が信頼される存在となっていないからこそ、金融再生委員会を設置することとしたのであり、それにもかかわらず、金融監督庁に本来金融再生委員会が担うはずの金融監督行政の根幹の部分を委任してしまうことは、昨日参議院で可決・成立したばかりの金融再生法案が定める財金完全分離・金融行政の一元化にも逆行します。金融再生法案の提出者の中から本金融健全化法案に賛成する党派がいることは、まったく理解できません。



市場経済を原則とする国において、公的資金を投入しなければ経営が立ち行かないということは多かれ少なかれ経営者と株主に経営不振の責任が存することは当然です。最近、経済戦略会議や経団連など財界の一部からは「非常時だから銀行の経営責任・株主責任は棚上げしてとりあえず公的資金だ」という議論が噴出しているようです。このような企業経営者が我が国財界のトップに鎮座ましましているから日本経済の今日の凋落があるのかと妙に納得も致しますが、膨大な金額の公的資金を投入しながら、最低限の責任追及もしないのであれば、我が国の銀行業界だけでなく経済界全体に、モラル・ハザードが蔓延します。

例えば、3月に1766億円の資本注入を受けた日本長期信用銀行は、公的資金を受け入れた後で140億円超の事実上のタコ配当を行ない、さらには、日本ランディックという関連ノンバンクに200億円以上の追貸しという背任的行為まで行なった挙げ句に、事実上破綻してしまいました。中国の歴代王朝の興亡を振り返るまでもなく「倫理と規律の喪失」が国を滅ぼすことは歴史が証明しています。実務的に考えても、今日まで不良債権一括処理に手をこまねき、無為に時間を浪費してここまで事態を悪化させた、能力なき経営者たちに今後も舵取りを委ねるということは、本当に金融システムを安定化させる気があるのか、まったく提案者の気がしれません。



さらに、肝心かなめの不良債権処理を中途半端なままに済ませ、いや、それどころか公的資金で不良債権処理を行なわせるという「順番を間違えた公的資金投入」は、金融健全化勘定にあずかる数十兆円規模の国民の財産を毀損する怖れが非常に高いと言えます。いい加減な資産査定で金融機関を水脹れに評価した上で、金融健全化勘定が増資を引き受けるのですから、その引き受け価格は当然割高なものになります。たとえば、現在株価が600円だが、本来正当な不良債権処理を行なえば実力は300円しかない銀行の株価を600円で引き受けるのです。そして、その後で公的資金を使って不良債権処理を進めるのですから、理論的にも一株あたりの価値は取得時の600円を下回ることになり、25兆円の金融健全化勘定に含み損が発生し、長銀のようなケースが続けばそれは国民に返すときには15兆円に目減りしていたということにもなりかねません。そうなれば、10兆円は国民の現実の負担になるのです。



民主党案は、第II分類債権の細分化や各分類債権ごとに適正な引当て率を定めることや、有価証券の評価方法に低価法をとることを義務付けるなど、厳格で明確なルールを法律で定め、そのもとで一気に不良債権処理を完了させてしまおうというものです。

もちろん、代表取締役や相談役など責任を取るべき経営者には退いて頂きます。不良債権処理にかかる損失を剰余金と準備金で埋め切れなければ、その相当額を減資して株主の責任を問います。

こうした不良債権一括処理の結果、過少資本状態になった銀行に対して、金融再生委員会の判断に基づき、必要な水準まで公的資金による株式引き受けを行なうことを可能にしております。先程の例で言えば、不良債権の処理を済まさせて、実力通り300円になった株価で早期健全化勘定は増資を引き受けるわけです。実際に国民負担が生ずる可能性は、三党案に比べて格段に低いと考えられます。もう一度比喩的に言わせてもらえば、政府は金融健全化勘定という25兆円のファンドを国民から預けてもらい、それを銀行株に投資して運用するわけです。しかし、ファンド・マネージャーが自民党、平和・改革、自由党か、民主党かでその運用実績は雲泥の差が生じます。三党のファンドマネージャーに任せたのではファンドは額面割れが必至です。民主党にファンドマネージャーを任せれば利益も十分期待できるでしょう。



要するに、三党案は、昨日廃止を決めたばかりの金融機能安定化特別措置法の焼き直してであり、これでは日本の金融システムは何も変わりません。株価も目先の反発にとどまるでしょう。また、無意味な財政赤字の拡大によって日本国債の格下げも一段階にはとどまらないかもしれません。不良債権の処理が完了しないのだから、貸し渋りも永遠に続きます。

これに対し、民主党案は、昨日成立した金融再生法案の原則に則り、日本の金融システムを根本から改革するものです。不良債権の処理に一気に目途をつけることから、貸し渋りは収まり、景気全体に良い影響を与えます。株価も大底を打ち、近い将来、2万円台を回復することでしょう。



最後に、国民生活に密接に関わり、国の将来を大きく左右するこのような重要法案を、十分な審議も行なわず、緊急事態だというドサクサに紛れ、我が国金融システムの深い病巣に対する認識と、それを解決するための緊迫感も政治的意志も持たない政府と一部の政党に警告を発して、私の討論を終わります。
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