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1998/08/12
「第143国会における小渕内閣総理大臣所信表明演説」に対する代表質問
民主党・新緑風会 峰崎 直樹

 私は、小渕内閣総理大臣の所信表明に対し、民主党・新緑風会を代表し、また、経済・金融政策、税制改革に焦点を絞り、質問いたします。

◆マクロ経済政策の基本的方向性

 現在、わが国は、経済のみならず政治、行政、社会のあらゆる面が低迷・停滞し、国民の多くが獏とした将来への不安を抱いております。特に、経済は戦後最悪の危機的状況にあり、このような日本経済の惨状を反映し、世界は日本発の世界恐慌が起こりかねないのではと、政府・自民党の展望なき経済政策に疑念を抱いております。

 現在の危機的状況にある日本経済を立て直すためと称してバブル崩壊以降昨年までに計7回、総額66兆円の総合経済対策を実施しました。加えて、先の通常国会では16兆円超の景気対策を打ち出しております。

 小渕総理に伺います。このようにバブル崩壊以降、日本の国家予算を上回る総合経済政策を講じたにもかかわらず、景気が一向に回復しなかったのはどこに誤りがあったとお考えか、今後とも今までのように従来型の公共事業を景気対策の重要な柱として位置づけていくのか、また、景気回復の目途を一両年とされているのは具体的にいつまでなのか、明快なるご所見を求めます。

 このような経済の危機的状況と、いつまで経っても効果的な景気対策を示せずにいる政府・自民党の無為・無策に対する国民の苛立ちを代弁するかのように、一部エコノミストの間で「調整インフレ論」さえ台頭しております。小渕総理は、このような国民の苛立ちに対し「経済再生内閣」としてどう対処し、「調整インフレ論」をどう考えておられるのか、その真意をお聞かせ願います。

◆金融対策

 次に、金融対策について伺います。

 隠蔽、先送り、当事者責任回避による国民への負担押し付け。不良債権問題に対する政府、とりわけ大蔵省の金融行政は、これらの言葉に集約されています。

 政府は、これまでに何度も何度も不良債権処理は順調に進んでいると発言してきました。しかし、政府がこのような発言を繰り返したにもかかわらず、三塚大蔵大臣が破綻させないと公約していた日債銀と拓銀が、その直後に大きな経営危機に見舞われました。預金者や金融市場、そして株式市場は、だれも政府の発言を信用していなかったということであります。それはなぜか。政府が、これらの銀行の真の経営内容、とりわけ不良債権の実態を完全に隠蔽していたからであります。

 それは、昨年の11月に証明されることになります。1997年11月13日の本会議において、ときの橋本総理は「現在、金融機関は、不良債権の早期処理に取り組んでおり、個々の経営状況はさまざまでありますが、全体の状況は改善しております」と発言されました。しかしながら、この四日後、拓銀は都銀としては初めて、経営破綻に至ったのです。

 拓銀の不良債権額は、破綻前の平成9年3月期で9349億円でありましたが、破綻後の平成10年3月期は、2兆3433億円と発表されております。一年たらずで2.5倍に膨れあがっています。一年の間に新たに不良債権が発生した結果なのでしょうか。いや、そうではありません。なぜなら、平成6年8月に大蔵省が拓銀の検査を実施した際に、総資産分類額が2兆499億円もあったことが明らかになったからです。この時点で大蔵省は拓銀の問題債権が公表された数字の4倍にのぼることを知っていたわけです。これを隠蔽といわずして何というのでしょうか。

 このような不良債権の隠蔽が行われていたのは、果たして拓銀だけだったのでしょうか。その問いに対する市場関係者の答えは「ノー」です。いまや、銀行が自ら公表する不良債権の金額は、まったく信用されていません。政府が関係する他の分野の数字も同様です。石油公団に巨額の不良債権があることが判明したことでもわかるとおり、いまだに底知れない巨額の隠された不良債権が存在するのです。このような状態を放置したまま、安易に公的資金を投入することは許されません。総理、この点はいかがお考えでしょうか。

 さて、今年3月、政府は金融安定化法に基づいて大手銀行21行に対して総額1兆8000億円の公的資金を投入しました。これらの銀行は、金融危機管理審査委員会の審査によって、「健全な銀行である」というお墨付きを得て、貸し渋り対策として資本注入を受けたのです。しかし、本当に貸し渋りは解消したのでしょうか。おまけに、資本注入を受けたにもかかわらず、ほとんどの銀行が株主に配当を実施しています。公的資金を受けながらそれを貸出には回さず、株主に対して配当まで実施する。このような理不尽なことが認められるのでしょうか。長銀に至っては、経営危機まで噂され、長銀に対して資本注入した公的資金1766億円さえ危ぶまれるありさまです。

 総理、今年3月に公的資金による資本注入を行った大手銀行21行について、貸し渋りが解消したのかどうかを、それぞれ個別にお答えください。また、貸し渋りを続けている銀行に対しては、公的資金の即時返還を求めるべきと考えますが、ご所見をお聞かせください。

 拓銀の破綻により、北海道経済は大混乱に陥りました。融資を受けられなくなった企業が次々と倒産し、失業者が急増しました。国が主体となって進めてきた苫小牧東部開発も、完全に失敗であったことが明らかになりました。苫東プロジェクトの失敗によって生み出された巨額の負債は、いずれ国民の負担となって跳ね返ってくることがはっきりしています。政府はこの処理をどのような形で行うのか、総理のお考えをお聞きしておきます。また、北海道経済の混乱を収めるため、どのような対策を講じているのか、現時点での効果も含めてお答え願います。

 なお、われわれ民主党は、拓銀の破綻により融資を受けることが難しくなった健全な企業を救済するため、北海道東北開発公庫法の改正案を提出しております。これは、従来設備資金に限るとしてきた融資基準を、一時的に運転資金にも拡大するものです。北海道経済の混乱を少しでも緩和するため、本法案の速やかな成立にご協力をお願いします。


◆税制改革について

 次に、税制改革についてお尋ねします。
 総理は、所得課税・法人課税の6兆円超の恒久的減税を掲げておられますが、その具体的内容については、いまだ十分に明確になっているとはいえません。そこで、今後の議論の考え方について、お尋ね致します。

 まず第一に、どのような理念・ビジョンに基づいて今回の税制改革に取り組もうとするのか。総理は、所信表明の中で「わが国の将来を見据えたより望ましい制度の構築に向け、抜本的な見直しを展望しつつ、景気に最大限配慮して、6兆円を相当程度上回る恒久的な減税を実施」すると述べておりますが、将来を見据えた望ましい税制としてどのような全体像を念頭に置いておられるのでしょうか。例えば、いわゆる国民の租税負担率や「国民負担率」をどのような水準にすることを想定し、また税による所得再分配機能は今後どうあるべきと考えるのか。消費税の在り方を含む直間比率是正についてはどのように取組み、またその中で何が基幹的な税目となっていくと考えるのか。ぜひとも具体的な将来ビジョンをここでお示しいただきたいと思います。

 第二に、個人所得課税見直しの具体案について伺います。
 総理の演説では、国・地方を合わせた最高税率を現行の65%から50%に引き下げると表明されましたが、その具体的方策について総理ご自身はどのようにお考えでしょうか。先日来の宮澤蔵相の発言によりますと、所得税・個人住民税の現在の最高税率区分を廃止してそれぞれの最高税率を40%、10%に引き下げると同時に、景気が回復するまでの間、税額に対する定率の減税を組み合わせて実施するとの具体案が政府・自民党内で検討されているように見受けられますが、かりにそのように実施するとすれば、景気が回復して定率減税を終了する時点では、最高税率区分の廃止という純然たる「金持ち優遇の所得減税」だけが残ることになるのではありませんか。将来を見据えた望ましい税制として、年収700万円から1000万円程度の中間所得層、あるいはそれ以下の所得層についてどのように考慮しようとお考えなのかについて、総理の明快なご説明を求めます。また、直接に所得減税の効果が及ばない低所得層について、福祉給付金等の措置を今回どのようにする予定なのかについてもあわせてお聞かせください。

 また、最高税率を引き下げる際、これまでもしばしば議論になってきた大企業役員等の高額のフリンジベネフィットに対する課税の適正化など、課税ベースの見直しも当然に検討課題になるべきものと思いますが、この点については総理はいかがお考えなのでしょうか。また、わが国ではシャウプ税制以来、包括所得税の考え方を基本に据えてきましたが、これを現時点でも放棄していないとすれば、税率引き下げと合わせて納税者番号制度を導入し、クロヨンといわれる不公平税制の解決や金融資産等による所得を合算して総合課税するという方向を明確にすべきではないでしょうか。納税者番号制度についての総理の認識、その導入についての方針と決意を伺います。

 なお、個人住民税の減税については、地方分権の趣旨に反し、国の都合で地方財源を奪うようなものであり、私たちはこれまでも強く反対してまいりました。地方六団体も同様の趣旨を総理に申し入れたと承知しております。国・地方の合計最高税率を引き下げるために、仮に個人住民税の見直しを行う場合でも、少なくとも地方税収を損なわない形での個人住民税率の単一税率化などの改革を進めることが必要であると考えます。もちろん、その際には、低所得層に増税とならないよう、所得税との間での部分的な税源移譲なども含めた調整も不可欠です。総理は、地方分権の趣旨、地方六団体の要望等も踏まえ、個人住民税の今後のあり方についてどのようにお考えでしょうか。

 所得課税見直しで大きな問題となっている課税最低限の問題ですが、現在の平年度の課税最低限361万6000円という水準は、主要先進諸国とくらべて著しく高いことは事実であり、これを現在以上に引き上げることは避けるべきでありますが、他方、これを引き下げることも、現在の経済情勢の下では困難といわれております。この問題について、留意しなければならないのは、例えば日本よりも課税最低限の低いイギリスやフランスでは、扶養控除がない代わりに日本よりもはるかに充実した児童手当があるということです。わが国でも児童手当制度はありますが、支給対象年齢や金額の点で比較になりません。以上の事実を逆の面から見れば、わが国でも扶養控除を英独仏などの諸国並みの児童手当に振り替えれば、ほぼ同じ財源で課税最低限を約百万円引き下げることが可能であるということです。この点について、総理はどのようにお考えでしょうか。

 さらに、住宅減税について私どもは、景気対策のために当面2年間程度は現行の住宅取得促進税制を思い切って拡充するとともに、これと選択的にローン利子控除制度を導入し、将来的には、ローン利子控除制度に一本化していくことを提案しております。この点について総理のお考えをお尋ねいたします。

 第三に、法人課税の今後のあり方です。総理は、わが国企業が国際社会の中で十分競争力が発揮できるよう、総合的な検討を行い、実効税率を40%程度に引き下げると表明されましたが、まず、国の法人税と地方の法人事業税のそれぞれについてどのように見直しを進めるのか。法人課税見直しを経済構造改革に資するものとするためには、たんに税率を下げるだけでなく、課税ベースについても一層の適正化を図る必要があると考えますが、この点についてどのような見直しを進める予定なのか。また、とくに法人事業税については、現在のように景気に対する感応性の高い仕組みではなく、応益的課税の見地に立ったいわゆる外形標準課税とすることが長年にわたって課題とされてきました。今回、総理としては外形標準化についてどのように取り組むつもりなのでしょうか。

 法人税制については、経済活動のグローバル化にともなって、今後先進国間でも税の引き下げ競争が一層進むことが懸念されます。私は、今回の税率引き下げは国際水準への整合という観点から不可欠と考えますが、今後は、主要先進国間において、法人課税の水準についての租税協調を図り、税の堕落を防止するという観点が求められてくるのではないでしょうか。この点について総理の御所見を伺います。

 第四に、私は、NPO税制の整備についてお尋ねしたいと思います。先般ようやく成立したNPO法の附帯決議では、施行の日から2年以内に政府において関連税制を含めた制度の見直しについて検討し結論を得ることとされました。NPO税制は、これまでのように国が税金を集め、その使途を決めて配分するという中央集権的な税財源のあり方に一石を投じるものであり、国のかたちを変える画期的な意義を持つものともいわれております。総理は、このNPO税制の整備について、どのように取り組むつもりか、その方針と決意をお示しください。

◆公共事業について

 総理は、一刻も早い景気回復を図るため、事業規模で10兆円を超える第二次補正予算を編成することとし、その際、公共投資のあり方については従来の発想にとらわれずに見直すと表明されました。また、総理は、総裁選以来、補助金の使途を地方に委ねる新ふるさと創生事業を提唱されています。
 私たちもまた、従来の公共事業のあり方を見直す具体策として、地方の特性や住民ニーズに応じた未来指向型の社会資本投資を進めるため、4兆円規模の地方自治体が自由に使える包括補助金を交付することを提案しております。
 総理としては、これまでの公共事業の問題点、累次の景気対策における地方財政の悪化等についてどのように認識し、地方主体の社会資本整備推進のために具体的にどのような制度見直しを図るおつもりか、伺います。

◆国会審議の改革を

最後に敢えて申し上げます。私は今、この本会議の壇上、国会論戦の最前線に立ってなお、ある種の空しさを禁じ得ません。国政の議論の在り方として、このままでいいのか。ともすれば質問しっぱなし、答弁しっぱなしで、我が国の進路を決すべき議論の在り方として、国民の負託に応える十分な討論がなされているものとは到底思えません。投票率も上がり、政治に対する関心が高まっているこの期に、国会の議論、審議の在り方を改革すべきであります。

 総理、ご存知のように、本院は与野党逆転しております。与野党が真剣に議論を重ね、合意に達しなければ法案の成立を期すことはできません。この状況は国民にとって、民主主義にとって歓迎すべき事態であります。そして与野党を問わず我々政治家も、改革の格好の機会と捉えるべきであります。今までのように国会審議をおざなりにしたままで与党の数の力に頼る手法と決別し、与野党が率直に意見の応酬を行なうイギリスの「クエッションタイム」のごとく、あらゆる審議の場で政府委員・官僚の介在を排し、国民の前で、議員同士が、また議員と閣僚が自らの責任で真摯な討論を行なうところに、この場を変えていかなければなりません。その勇気とリーダーシップこそ今国民から求められております。

 我々は、我が国の未来に責任を持つ政策本位の政党・会派として、総理のご決意をお待ちします。ともに、国民に信頼される政治を創りあげていこうではありませんか。
どうか総理、与党の国会議員の長として最後にそのご決意をお聞かせ下さい。

 また、私の質問には、どうか、官僚の手になる答弁書を棒読みすることなく、ご自身のお言葉でお答え頂くよう、切にお願いし、私の質問を終わります。
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