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1998/05/12
財政演説及び経済対策関連五法案に対する質問(中野議員)
民主党 中野 寛成

 私は、民主党を代表し、ただいまの財政演説及び経済対策関連五法案のうち、財政構造改革法及び補正予算を中心に質問を行います。

(橋本総理の政治理念・哲学の欠如)
 まず先ほどの蔵相の財政演説等に対する率直な感想を申し上げたいと思います。一言で表現するならば、まさに「臨機応変」に名を借りた「朝令暮改」そのものであります。今回、改正しようとしている財政構造改革法は、わずか五か月ほど前に政府・与党が野党の反対を押し切って強引に成立させたものであります。その結果、金融不安が高まる中での「デフレ政策」が個人消費や企業の投資マインドを冷え込ませ、それらの悪循環によって過去最高の企業倒産や失業率に象徴される「複合政策不況」の一層の深刻化を招いたことは、もはや疑う余地のない事実であります。「日本発世界恐慌」の危険性が国際社会から強く警告されるほど、橋本内閣が経済の先行きを見誤り、経済政策の舵取りを決定的に間違った責任は極めて重大と言わざるを得ません。先ず国民に謝罪すべきです。

 橋本内閣の政策はまさに「脈絡がない」「理念がない」「計画性がない」「信頼がない」「展望がない」まして「反省もない」−−まさに「ないないづくし」と言うほかありません。

 これまでも、政府・自民党は理念や哲学に関する論議を避け、単なる与党マシーンとして利益誘導に狂奔してきました。

 しかし、今、危機の時代だからこそ、政治家や政党は自らが信じる政治思想や哲学を堂々と示して、国民に未来への道を示すべきだと考えます。

 私たちはさる四月二十七日に新しい民主党を結成いたしました。私たちは、これまで既得権益の構造から排除されてきた人々、まじめに働き税金を納めている人々、困難な状況にありながら自立をめざす人々の立場、すなわち、「生活者」「納税者」「消費者」の立場を代表するとの理念を明らかにしています。民主党が掲げる「民主・中道」は、自由放任、弱肉強食に通ずる社会を目指す動きとは一線を画すものであります。私たちの経済政策も、市場原理を尊重することを前提としていますが、同時に、適正な富の配分、公正、透明な競争確保、環境との調和、完全雇用実現等に資するシステムの確立に最重点を置いています。

 前にもここで紹介しましたが、およそ七十年前の世界大恐慌の中からいち早く立ち上がった北欧諸国の例を改めて思い出します。社会保障制度、労使間の調整ルールを確立し、失業、老後、病気の不安を解消したことが消費を活性化させ、最終的には長期の経済的繁栄をもたらしました。時代は移り、たとえば理想の国ともてはやされたスウェーデンも、今や、高い国民負担率を招き、活力を失った国との反面教師として言及される方が多くなり、行政改革を積極的に進めています。英国のブレアー労働党政権も従来の「依存」の福祉から「自立」の福祉へと転換を進めています。

 しかし、それでもなお私は、欧州諸国をはじめとする民主中道勢力が追求してきた路線にやはりこだわりを持ちたいと考えています。政府・自民党が取り組んでいる目先の財政再建や景気回復だけではまったく効果はなく、それとあわせて老後の不安、病気になったときの不安、失業の不安を解消しなければ、国民の消費は回復せず、長期的な安定成長を持続させることは全く不可能であります。

 雇用問題についても、新産業・雇用創出、職業訓練、情報提供の三点セットが有機的に結びついた雇用対策を実施しなければなりません。

 また、人間と自然が共生し、国民一人一人が個性的・創造的に生きる次の世紀・千年紀を切り開くためにも、エコロジーやノーマライゼーションを重視した経済学の確立に取り組んでいかなければなりません。この点から、NPOを経済システムの中に取り入れていく視点も重要であります。

 政府・与党の首脳は、減税をしても消費に回らないといいますが、今、私が提起したような施策を先ず実行し、先ず積極的に減税分や貯蓄が消費に回るための方途を構築するべきです。
 失業・病気・老後の不安を解消するための総理の見識と方策を伺いたい。

(財政構造改革)
 次に、まず財政構造改革法の改正につきまして、お尋ねいたします。
 改正案の内容は、第一に経済情勢に応じて特例公債発行枠の弾力化を可能とする措置、第二に財政健全化目標年度の二年延長、第三に経費別キャップを維持しつつ来年度当初予算における社会保障関係費のキャップのみ緩和、の三点であります。

 しかし、このような中途半端な改正では、仮に恒久減税を実施しなかったとしても、いずれ遠からず再改正は避けられますまい。現に、大蔵省が公表している中期財政試算では、現行法下でも、一般歳出の伸びを〇%と仮置きした場合に二〇〇三年度時点でなお最大五兆円余の要調整額が生じることとなっております。二年間目標年次を延長したとしても、結局同程度の要調整額が特例公債としてそのまま残ることとならざるを得ないのではありませんか。それとも、他の増税や国有財産の売却で償う予定があるのでしょうか。見通しをお示しいただきたい。

 私は、総理の掲げた「六つの改革」のフロントランナーと位置づけられた財政構造改革法自体が、むしろ皮肉にも真の構造改革の妨げとなり、かえって財政再建すら不可能にしていると考えます。現行財政構造改革法の制定段階でも、当時の新進党や民主党など野党側は、この法律が徒に財政再建のみを急ぐあまり、官民の役割分担のあり方や公共事業や社会保障などの中期的な構造改革の視点を一切欠いた一律歳出削減手法による「構造改革なき財政赤字削減法」にすぎないと強く批判をいたしましたが、総理は今回もなお「骨格を変えない」ということに強くこだわっておられます。しかし、この五か月間に現行財政構造改革法が果たした負の役割を直視し、思い切って骨格を含めて抜本的に見直す勇気こそが総理に求められていたのではありませんか。

 私たちは、当面は景気回復を経済運営の最優先課題とし、場当たり的な所得税特別減税の繰り返しではなく、税率構造の見直し等による大規模な恒久減税の実施をはじめとする積極的な施策をためらうことなく実施すべきであると考えます。このためには、恒久減税に対応できない政府の改正案では決定的に不十分であり、この際、現行財政構造改革法の施行を最低二年間停止し、その間の経済情勢の変化も踏まえつつ、財政構造改革のあり方を含め、現行法の抜本的見直しを行う必要があると考えます。総理の御所見を賜りたい。

(補正予算案)
 さて、政府は、総合的な経済対策によって二一世紀の展望をひらくと銘打って、事業費ベースで総額十六兆の景気対策を決定し、その実施のために今般、四・六兆円の補正を行うとしております。

 わが国経済の現状は、将来的の社会保障負担の増大への懸念等による消費マインドの減退、官主導から民主導への経済構造改革の視点を欠落させた硬直的な財政再建策の発動による民間設備投資の下押しなどの「政策デフレ」と、不良債権問題にメドが立たないこと等による「金融デフレ」の複合デフレであります。

 しかしながら、こうした状況に直面して、政府が今提案している景気対策の内容は、景気悪化の根底にある構造問題にメスを入れることなく、相変わらずの従来型公共事業と場当たり的な特別減税を追加するものにすぎず、一時的に実質成長率をわずかに押し上げる効果はあったとしても、民主導による景気の自律回復軌道への復帰はおよそ困難または不可能と断ぜざるを得ません。今回の政府の景気対策の総合的な評価については、すでに対策決定以来のマーケットの反応の中にはっきりと表れているではありませんか。株価はほぼ下がりっぱなしで推移してきたというのが現実です。

 総理は、いつまで構造改革を先送りしようというのでしょうか。今回の補正で追加される事業費総計六兆円の公共事業について、環境・情報・福祉等の分野が六割、物流・防災・中心市街地活性化等の従来型の分野が四割と説明していますが、環境対策といいつつ下水道整備、情報通信といいつつ共同溝整備という具合に、要するに全体の七〜八割が土木型の公共事業というのが実態ではありませんか。総理はこの点をどのようにお考えなのでしょうか。

 いかに景気対策といえども、また経済統計上の乗数が減税より公共投資の方が高いという理屈を用いようとも、国民のニーズに無関係な土木工事を固定的な省庁別シェアにしたがって続ける限り、あとには国有の膨大な不良資産の山、そして国民には借金の山が残るだけです。わが国では、生産性の低い不効率分野ほど多額の国費がつぎ込まれ、しかもその結果生産性が上がって経済構造改革につながった試しがないというのが常です。

 補助事業にしても、一・五兆円の地方単独事業の追加にしても、地方公共団体からは、押しつけはもういい加減にしてくれという声が強くなっております。現在の地方各団体の深刻な財政状況からすれば、事業の消化率は、従来よりも相当に低下するとも考えられますが、総理はいかがお考えでしょうか。

 この際、私は、地方分権推進の先導的な試みとして、追加分の公共投資をすべて包括補助金や第二交付税というような形で地方公共団体に資金を交付し、住民のニーズや地方の特性にあった事業をそれぞれ自主的に実施できるようにすることを改めて提案します。総理の御所見を伺います。

 以上、私の考えを申し上げつつ、総理にお尋ねしてまいりました。
 しかし、橋本内閣のもとで数次にわたって景気対策が発表されましたが、その度に例外なく株価は下がり、「もう何もしてくれるな」という皮肉な悲鳴が上がっています。

 最後に一言申し上げるならば、総理は今こそ「辞め時」を見誤るべきではないということです。このままでは、あなたは日本の政治史上、無能、厚顔無恥、最悪の総理として悪名を残すことになりましょう。これまでの犯罪的経済失政の罪と責任を認め、国民に対して謝罪した上で潔く身を引くことが、せめて橋本総理の後世の評価を高め、また国民の安堵と幸福をもたらすものと信じて止みません。
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