ニュース
ニュース
1998/05/12
財政演説及び経済対策関連五法案に対する質問(上田議員)
民主党  上田 清司

 私は、民主党を代表し、ただいまの財政演説及び経済対策関連五法案の趣旨説明に対して、質問を行います。さきほど、民主党からは中野寛成代表代行が財政構造改革法改正案及び補正予算案を中心に質問されましたので、私は、それ以外の部分に絞って総理及び大蔵大臣に質問することといたします。

(特別減税)
 まず、特別減税の追加について総理にお尋ねいたします。
 政府の提案では、平成十年分所得税特別減税、同個人住民税特別減税を計二兆円、定額控除方式で追加実施し、これにより、夫婦子ども二人の場合、減税額は当初分6.5万円から13.75万円に引き上げられるとのことであります。

 景気回復のためにはGDPの約六割を占める個人消費の回復が不可欠であり、所得減税は、そのために採りうる対策としてはもっとも有効な対策の一つであると考えます。しかし、このような特別減税の小出しの繰り返しでは、効果も半減と言わざるを得ません。ことに、定額減税を繰り返すことについては、総理ご自身も予算委員会での海江田議員の問いに答えて「愚の骨頂である」と認めておられたではありませんか。今でも愚の骨頂であるとお思いですか。

 私たちは、すでに今年のはじめ、統一会派民友連の時期から、税率構造の見直し等による三兆円の所得税恒久減税と法人税率の主要先進国並みの水準への引下げ等、総額六兆円の減税を主張してまいりました。それは、たんに消費を増やすということからだけではなく、中央政府のスリム化を実現するという行政改革の側面からも、きわめて有益と考えるからです。「政府の失敗」がさまざまな分野で明らかになり、規制緩和を進めている今日、中央政府が民間から租税として多くの富を吸い上げ、それを中央政府が必要と考える分野に分配するという仕組み自体も、当然に縮小していくべきものと思われます。この意味から、恒久減税こそ日本経済の活力を取り戻す最善の方法であると考えます。

 恒久減税については、私たちの提案にとどまらず、いまや多くの民間エコノミスト・有識者、外国政府要人等が異口同音にその必要性を論じております。こうした声に押されて、政府が今回の経済対策の中でこれらの恒久減税を今後の検討課題に掲げたことは承知しておりますが、いずれにしても当面の景気への効果という意味からすれば、またもや
トゥー・レイト、つまり遅きに失するものと言うほかありません。

 私たちの提案している三兆円の所得税恒久減税について、総理はこれまで、わが国では課税最低限が諸外国よりも高く、国民の租税負担率が低いこと等を理由に拒絶するような発言を繰り返してこられましたが、現時点では前向きに考えているのか、それともやはり消極的なのか、その理由を含め、明確にしていただきたいと思います。

 もう一つ、強調しておきたいのは、私たちが提案している所得減税の考え方は、すべて国税である所得税だけについて実施すべきだという点であります。個人住民税は、もともと地方公共団体の行政サービスに対する応益的課税の性格が強いものであり、高度の累進税率構造をもち、所得再分配やビルトイン・スタビライザーの機能を求められている国の所得税と同列に扱うべきではないと考えます。「景気回復の果実は地方も享受するから、特別減税は国・地方が車の両輪で」という説明は、もっともらしく聞こえはしますが、実際のところ、この五年間の経済対策の繰り返しの中で、地方に残ったのは膨大な借金の山にすぎず、何の果実も生じてはいないのです。少なからぬ地方公共団体や地方議会から、住民税減税に反対する声が挙がってきていることを、総理はどのように受け止めておられるのか、うかがいます。


(少子高齢化対策、子育て支援)
 ところで、総務庁の公表した昨年一年間の家計調査報告速報を見ますと、世帯主二十歳代から四十歳代の世帯と六十歳以上の無職世帯で可処分所得と消費支出の落ち込みが顕著となっております。これらは、子育て世帯と年金暮らし世帯と見て差し支えないだろうと思います。これらの階層については、今回の特別減税の追加分の効果も限定的か、または全くないという方々も少なくないと思われ、少子高齢化対策という視点も踏まえ、何らかの別途の対策を講じる必要があると考えます。

 特に私が必要と思うのは、税制面よりも給付面の対策です。例えば、子育て世帯に対する税制上の扶養控除は、所得控除であるために、所得が多く高い限界税率が適用される人ほど税の控除額が大きくなるという欠点を持っております。

 一方、給付面で実施されている児童手当については、制度発足以来の幾度かの法改正を経て、現在では三歳未満児のみを対象とし、金額も第二子までは月額五千円と、きわめて貧弱なものとなっております。次代の社会を担う児童の健全育成を目標に創設され、当時の調査でも児童の扶養に要する平均的経費の半額を給付するとした画期的な制度でありましたが、今や貧弱な制度になってしまっています。他方、諸外国の児童手当制度の現状を見ますと、英独仏では、対象児童年齢は概ね十六歳未満、学生の場合には二十歳未満あたりまで、給付額も最近のレート換算で児童一人当たり月額一万円から二万五千円であり、親の所得による給付制限もないというのが平均的な姿といっていいと思います。

 若い世代の国民が安心して出産し、子育てをできる経済環境を整備することは、これからの国づくりの基本中の基本です。私は、このような観点から、児童手当制度を諸外国並みに大幅に拡充し、せめて義務教育修了までの児童一人に月額一万円程度の給付を行うようにすべきではないかと考えます。諸外国と比較したわが国児童手当制度の現状の評価、今後のあり方について、総理の御所見をお聞かせください。

(貸し渋り対策)
 次に、貸し渋り対策について総理にお尋ねいたします。
 現在、民間金融機関による貸し渋りがいかに厳しい状況であるかが各種調査からも明らかになっております。貸し渋りにあった経営者が何人も自殺するという痛ましい事件も起きており、ただでさえ景気の悪化で暗い世相がますます沈み込んでいくような気がいたしております。

 今回の中小企業信用保険法等の改正案と補正予算措置により、新たに二万の事業者が中小企業信用保険等の適用対象となりうることなど、一定の効果は期待できるものと思います。しかし、問題は、先般、野党の反対を押し切って成立させた金融機能安定化緊急措置法による公的資金投入の効果とはいったい何であったのかという点であります。もともと、この公的資金による優先株等引き受けは、「貸し渋り対策のため」と称して提唱されたものであったはずです。それがいつのまにか、「貸し渋り対策にもなる」とトーンダウンし、結局現在も貸し渋りは解消していないというのでは、まるで詐欺のような話ではありませんか。

 この点については、梶山前官房長官も月刊文芸春秋6月号で「政府がこの間打ち出した対策は、貸し渋りの解消に何の効果もないびほう策に過ぎなかったことがわかります」と述べておられます。

 公的資金という国民のおカネを何と考えるのか。総理は、この点についてどのようにお考えか、明確にお答えいただきたい。

(大蔵省接待疑惑関連)
 最後に、私は、先般大蔵省が行った金融関連部局職員等に対する省内調査結果を踏まえた処分に関連して、お尋ねいたします。

 今回の一連の金融不祥事の過程で、中途半端な処分、遅すぎる処分によって、国民の不信とあいまって、職員の士気・モラルにも悪影響を与えています。大蔵委員会野党理事のしつこい要求、いや失礼、ねばり強い要求によって実現した実名公表の処分者32名の5年間の接待の合計数が2200回以上と判明しました。一人70回以上という恐るべき事実です。国民の誰一人、大蔵行政が公平公正であったと思うものはいないでしょう。これで行政をねじ曲げなかったとすれば、これらの人は全く恩知らずと言えます。まさに行政のクレビティ・クライシスであります。

 こうした事態に終止符を打つためには、国民に分かりやすい明快なケジメをつけ、今後の金融行政機関のあり方を明確にし、再出発を期すべきであります。その意味で、先般の省内調査の範囲、資料の公表や処分内容が十分であったのかどうか。改めて総理及び大蔵大臣にお伺いしたいと思います。

 この調査結果を踏まえて停職処分を受けた杉井元審議官、減給処分を受けた長野元証券局長の二名は、同日中に辞職を申し出て受理されましたが、その退職金の取扱いについては、今日もなお、宙に浮いたままとなっております。厳密には、退職後一か月の間、つまりあと半月の間に本人から辞退の申し出がない限り、法律の規定にしたがって退職給与を支給せざるを得ないため、現在は本人らの自発的申し出を待っているにすぎないという状態であろうかと思います。総理としては、国民感情等に照らして、どのような解決が望ましいとお考えでしょうか。大蔵大臣としては、この二名が辞退すべきか否かについてどう思っていらっしゃるかをお伺いしたいと思います。

 また、これら二人にくらべれば内規に基づく軽い処分とはいえ、内閣総理大臣秘書官事務取扱である坂篤郎(さか・あつお)氏が訓告処分対象となったことについては、あるいは総理官邸内の機密事項が接待相手に筒抜けになっていたのでは、と内閣の危機管理についても懸念が残ります。総理としては、このように接待漬けで処分を受けるような者を秘書官として身辺に置いてきたことをどのようにお感じになり、また今後もなお現職にとどめるつもりなのか、明らかにしていただきたいと考えます。

 以上を持ちまして、私の質問を終わります。
記事を印刷する