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2001/11/09
財政演説に対する代表質問/今泉 昭議員
民主党・新緑風会 今泉 昭

 私は、民主党・新緑風会を代表して、只今行われました財務大臣の財政演説に対し、総理並びに関係大臣に質問をいたします。

 小泉内閣が誕生してからもう半年が経過しました。この間、わが国は小泉内閣がかかげた構造改革五つの目標、即ち「努力が報われ、再挑戦できる社会」「民間と地方の知恵が活力と豊かさを生み出す社会」「人をいたわり安全で安心に暮らせる社会」「美しい環境に囲まれ、快適に過ごせる社会」「子供たちの夢と希望を育む社会」という美辞麗旬の看板とは裏腹に、国民生活の基盤とも言うべき経済活動は低下の一途をたどり、毎日50件以上の企業が倒産し、経済活動を支えてきた勤労者の方々は357万人もが仕事を失い、生きる望みを失った人は、一日に100人近くもが自殺をするという状況に追い込まれています。このような状況について総理は一体どう考えておられるのかお聞かせ下さい。

 小泉総理は先の通常国会の所信表明演説において「恐れず、ひるまず、とらわれず」という姿勢を貫き、改革を進めていく事を表明されました。しかし6か月を経過した今日、総理が具体的に改革に手をつけたという行動は全く見えてまいりません。内閣府が現時点で実施したと説明するものはみな「見直し検討を開始」とか「調査を開始」というものばかりであり、何もやっていないも同然ではないですか。総理は「骨太の方針と改革工程表と改革プログラム」を誇らしげに示しておられますが、まるで絵に書いた餅とも言うべきものです。

 今国会は雇用国会とも構造改革国会ではないかと国民は注目して来ました。ところが今、国会に提出された改革関連法案は金融関係がらみの少数の法案のみにすぎません。所信表明演説に示された経済・財政・行政・社会・政治の各分野にわたる構造改革を断行するという意気込みはどうなったのですかご説明下さい。

 小泉総理は改革には常に痛みが伴う、国民の皆様にも改革の為には痛みを分け合い我慢をしてほしいと言うことを、常に口にされています。このため、金融界の改革に際しては多額の不良債権を処理するため、多くの中小企業の倒産や多数の失業者が出るのを当然の如く見すごしています。ところが、今国会に提出された「銀行の株式保有に関する法案」や「金融再生法改正案」等は、国民の負担によって銀行を救済出来るという銀行救済法で、国民の痛みをかえり見ない法案ではないですか。一体誰の為の構造改革ですが、総理の見解をお示し下さい。

 次に補正予算について財務大臣にお伺いいたします。今回の補正予算の柱は一体何ですか。財政赤字の中にあって、当初、補正予算の組み立てに消極的であったといわれる財務大臣が、あえてこの時期に補正予算を国会に提出されるには確たる理由があるはずです。景気の悪化は前々から分かっていた事ですから、景気対策を軸として出されるなら、今国会冒頭にも出し、早急に景気対策を打つべきです。税収の動向が不確かだということは理由になりません。補正予算の中味を見てみると、景気対策と見られる雇用・中小企業対策と構造改革に関係のある対策がもり込まれています。この時期に何にねらいを置いた補正予算なのかご説明下さい。

 本年度の当初予算は、わが国経済が1.7%の実質成長するという見込みの上で組みこまれたはずです。しかITバブルの崩壊に始まる諸環境の激変により、今日ではマイナス成長が当然のこととされており、政府もマイナス0.9%に下向修正をすると伺っています。名目は三年続きのマイナス成長となっていますが、来年度の経済成長も余程の事がないかぎりマイナス成長となるのではないかと危惧されています。ITバブルの崩壊に続き、ニューヨークの同時多発テロによる世界経済への打撃、狂牛病による国内各産業への被害を考えると、よほど思い切った景気対策を実施しないと、わが国経済はこれまでに経験したことのない落ち込みを覚悟しなければなりません。財務大臣、一体この危機にどのような対策を打とうと考えているのか補正予算だけでは論外です。今後の対策と経済の見通しをお聞かせ下さい。

 小泉総理は公約である国債30兆円の枠にこだわっていると聞き及びます。経済は社会の変化により大きな影響を受けます。その為、状況の変化を見極め、柔軟に政策対応が求められます。先見性と柔軟性のない政治は自壊いたします。30兆円の公約にこだわり国民に大きな苦しみを与えてはなりません。塩川財務大臣、あなたは「ここががまんのしどころ、もう少し頑張れば春風が吹いてくる」と11月7日の記者会見で述べられたそうですね。それと同じ様な言葉を思い出します。それは1997年でしたか、時の橋本内閣が5つの構造改革を看板に緊縮予算を断行し、景気が急激に下降した時、時の経済企画庁長官、現小泉内閣で大臣をされていますが、何度もしつこいくらい言われた言葉です。「桜が咲く頃には必ず景気は回復します。我慢です」と言い続けられた事です。私は当時と実に状況が似ていると思います。ですから早くも二次補正の声が与党内からあがっているではないですか。15か月予算の声も聞きます。二次補正は絶対にやらないと断言されますか、考えをお聞かせ下さい。

 次に雇用対策についてお伺い致します。9月の失業率は5.3%となり史上最悪を記録いたしました。12世帯に1世帯の割合で失業者が存在することになります。失業統計のとり方には色々ありますが、内閣府が2月に発表した統計で、「仕事が見つからないから求職活動を止めた人」を含めると何と10,4%の失業率となり、失業者は700万人を上回ります。6軒に1軒の割で失業者が存在することになります。5,3%の失業率はIT不況の影響が含まれていますが、ニューヨークの同時多発テロの影響、狂牛病による影響はまだ含まれておりません。更にこれから始まるであろう小泉内閣の不良債権処理による雇用への影響は全く含まれていないわけですから、10月以降の失業率は悪化することはあるものの、好転する材料はありません。このような事態はまさに緊急事態だと思いますが、どう受けとめておられますか。もし大変な緊急事態であるとお考えなら、補正予算にもり込まれた過去7回の雇用対策と何ら変わることのない内容で、この事態を解決できると考えておられるのでしょうか、お聞かせ下さい。

 小泉内閣は前任の森内閣の諸方針を継承されたと聞きます。前の森内閣はIT基本法を成立させ、わが国を5年以内に世界のIT先進国にすると、意気込んでおられました。IT先進国をめざす事は私も大賛成であります。しかし、森内閣のIT先進国への政策には大きな落とし穴がありました。IT革命というのは高度に技術が発達した国と低生産、低賃金国とを何の障壁もなく結びつけるこです。国際化の流れはこれを一層促進します。このため我が国の富と雇用の受け皿であったすぐれた製造業は、30分の1といわれる低賃金国である中国やベトナムに流れ、空洞化が急速に進展しました。電機産業は21.6%自動車産業は 28.2%が海外生産となり、雇用の場は大きく失う事になっているのです。米国の例を見て先進国の製造業が発展途上国に移るのは、経済の発展過程といわれる人もいます。しかし資源・エネルギーのないわが国が、製造業を無視出来るはずがありません。IT戦略と製造業の組み合せを怠ったことが、今日の構造的雇用減少になっていると思いますが総理の見解をお聞かせ下さい。

 次に雇用対策について、具体的問題を厚生労働大臣にお聞きしたいと思います。
 補正予算において雇用対策費として5500億円が計上されています。この中味は「新たな緊急地域雇用創出特別交付金」と称し、3年3か月で3500億円の予算を計上しています。この制度は1999年6月に出された緊急雇用対策の焼き直しで、何ら新しいものではありませ。しかも前の「緊急地域雇用特別交付金」制度が2002年の3月31日に無くなるので、その延長ともいうべきもので、新しく雇用が創造されるとは考えられません。また、雇用期間が最長6か月に限定され、しかも実際に雇用されている人の多くは失業者以外の人が多いとさえ言われ、バラまき的要素が強いといわれます。この際緊急地域雇用特別交付金は抜本的改革が必要と思われますが如何でしょう。

 次にワーク・シェアリングについてお伺いいたします。これまでわが国は景気変動による雇用の調整を新規雇用の削減、時間外労働の削減、パート・季節工の減少、更には一時帰休等を中に企業内労使の話し合いを軸に行ってまいりました。しかし、国際化による基幹産業の海外展開、産業構造の激変による大量の人員削減に直面し、これまで企業内努力にも限界が見えて来た事は御承知通りであります。そのため新しい雇用調整のあり方としてワークシェアリングの必要性は、第1次石油危機以来常に話題になりながら一向に具体化されませんでした。かんじんの労使双方がちゅうちょしていたからです。しかし今日の雇用危機に直面し労使双方の態度も変化し、前向きに展じて来たと言われます。この時期に政府が積極的に両者の仲介をとり、ワークシアリング制度の実現をめざすべきと考えますが大臣の見解をお聞かせ下さい。

 次に、失業やリストラ等により年収が大幅に減少し、住宅ローン返済等が困難となっている勤労者への施策についておうかがいいたします。

 今回、政府は政府系機関の住宅ローン返済特例措置の拡充を盛り込んだようですが、私は、銀行等の民間住宅ローンについても、その貸し手が政府系機関の住宅ローン返済特例措置に準じた措置を講じた場合には、国がそれに伴う利差補給金等を行うべきではないかと考えます。また、元本据置期間中の上限金利5%については、直近の基準金利を考慮して、3%に引き下げることが適当ではないでしょうか。さらに、借入時期等の個々の条件によっては返済額の引き下げ効果が薄い場合もないとはいえないので、月々の返済額の上限を収入(失業保険給付)の5分の1程度に抑える措置を新たに設けてはいかがでしょうか。

 なお、公団賃貸住宅等についても、世帯主が失業保険給付を受給している期間の家賃を減免・猶予するなどの措置を講じることが望ましいと考えますが、政府のお考えをお聞きします。

 昨今、親のリストラなどによって、高校の学費を支払うことができなくなった、大学進学を断念するといった生徒も増えております。政府は、不運にもこのような状況に陥った若者たちに、「やる気があれば、学校に行くことができるのだ」という強いメッセージを発するべきだと考えます。現行の授業料免除措置、助成措置、奨学金制度を大幅に拡充する必要ではありませんか。この点についても答弁をいただきたいと存じます。

 次に、中小企業政策を中心にお尋ねいたします。厳しい不況は、中小企業の経営者、従業員や家族の生活に打撃を与えています。まずは、喫緊の課題である中小企業金融政策を充実させるべきです。金融機関は、大企業向けの不良債権処理を棚上げし、自己資本比率維持のために、中小企業に対する「貸し渋り、貸しはがし」を行っているという指摘が聞こえてきます。

 民主党は、「地域金融円滑化法案」を前国会で提出いたしました。地域金融円滑化評価委員会が金融機関に資料の提出を求め、金融機関が地域金融の円滑化にどの程度寄与しているかを公表するものです。この法律は、「貸し渋り・貸しはがし」を是正し、金融機関が地元の中小企業に積極的な融資を行う、有益な存在になるための環境をつくることができると確信しています。

 私たちは、借り手ばかりでなく、貸し手の責任を明確にし、事業者がむやみに貸し渋りに合わないためのセーフティーネットを確立すること、担保至上主義を廃止し、個人保証の要らない事業者ローンを実現すること、直接金融市場を整備するとともにベンチャー支援税制を強化することなどを提言しております。

 今般の補正予算を見ますと、旧来の政策を踏襲しているだけの印象を受けます。これでは、中小企業の本格的な業績回復は期待できません。民主党が主張しているような斬新な政策を盛り込むべきだと考えますが、総理の見解をいただきたい。

 また、民主党は、サービス業への適用拡大、資本金区分の見直し、罰則の強化など「下請代金支払遅延等防止法改正案」を本院に提出する予定ですが、下請対策の充実への政府の取り組みについて、総理より答弁をいただきたい。

 中小企業政策・産業政策を進めるにあたっては、ものづくり産業の振興に重点を置くべきだと考えます。

 基本法に従って昨年作成された「ものづくり基盤技術基本計画」を着実に実行することは当然のことでありますが、そもそも、日本政府には、ものづくり産業に関する戦略が欠落しているのではないかと苦言を呈したいのであります。

 政府は、「骨太の方針」で530万人の雇用創出を打ち出していますが、これはサービス業のみを想定しているものであります。製造業――ものづくりをおろそかにしては、国の屋台骨を揺るがしてしまうことにもなりかねません。

 小泉内閣は、将来の日本経済を展望するにあたって、ものづくり産業をいかに位置づけているのか。為替政策、通商政策なども含めて、ものづくり産業を育てていくための戦略をお持ちでしょうか。今般の補正予算においては、どのような具体策を講じていくのか。以上の点について、総理より明らかにしていただきたい。

 今、ITバブルの崩壊が叫ばれていますがITだけを育てようとするのではなく、経済の根幹にある製造業にITをどう応用していくかという発想を持つべきではないでしょうか。すわなち伝統的な産業とITを融合させる切り口が必要ではありませんか。この点についても答弁をいただきたい。

 最後に一言申し上げます。
 21世紀に入り、早くも11か月を経過しようとしています。新しい21世紀に人々は新しい希望とバラ色の未来を期待いたしました。しかし現実はグローバル化という大波と厳しい不況、雇用不安に直面することになりました。そしてニューヨークにおける同時多発テロを契機に、われわれが住むアジアが戦渦の地としてまき込まれることになりました。

 アジアには世界人口の6割近くの人が生活をしております。そしてサミエル・ハンチントン博士の分類によれば8つの世界文明のうち7つの文明が入り込むという複雑な地域であることはよく知られているところです。従ってこの地域の平和と安全は世界の平和と安定につながるといわれています。この地域で唯一の先進国である日本は安定した国力と平和外交を軸にこの地域の発展と安定に貢献しなければなりません。その為には国内においては国民生活の安定、外に向けては信頼される外交が何よりも必要です。

 しかし、日本の顔になるべき今日のわが国外交は、外務省の混乱によりいたずらにテレビのワイドショーの材料にされるだけで諸外国からの失笑を買うだけです。

 小泉総理、あなたが常に口にされる聖域なき改革を断行されるなら先ず、外務省の改革こそが必要ではないかと言う事を申し上げ私の質問を終わります。
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