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2000/05/18
税制改革の基本構想〜信頼と安心の税制を築くために
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民 主 党
はじめに
改革をとりまく情勢
〈1〉国民意識の変化
地方自治体やNPO活動を通じた人々の共助のコミュニティの活発化の中で、自助・公助・共助の適切な役割分担、とりわけ共助の役割を重視するという市民意識が広がっている。こうした意識をいっそう育み、パートナーシップに支えられたしなやかで強靱な地域社会を形成することが重要な課題となっている。
〈2〉少子・高齢社会への対応
合計特殊出生率の98年確定値は1.38となり、低下を続ける一方、老年人口割合(推計)は95年の14.5%に対して2000年に17.2%、25年には27.4%に上昇するといわれている。このように少子高齢化は従来の予想を超える速さで進展しており、今後の高齢者福祉等の負担は国民にずっしりと重くのしかかってくる。いかに少子高齢社会の社会保障負担を賄うかという問題は今後の税制・財政設計において最大の課題となっている。
〈3〉資源循環型社会
大量生産・大量消費・大量廃棄の経済社会システム、モータリゼーションや家庭用電化製品の普及は、国民生活に利便や豊かさをもたらした反面、化石燃料をはじめとする天然資源の浪費、地球温暖化、廃棄物の増加などの環境負荷を地球規模で増加させている。かけがえのない地球環境、自然環境を次世代に引き継ぐためには、経済社会システムのあり方を省エネルギー・資源循環型に転換していくことが不可欠であり、このために有効とされる税制などの経済的手法の具体化が課題となっている。
〈4〉グローバルな競争・IT革命
情報通信技術(IT)等の飛躍的な発達にともない、金融市場・経済システムのボーダレス化・グローバル化が本格的に進展しており、重い租税負担は一瞬のうちに海外への資本逃避をもたらす。経済システムにとって従来の国民国家という枠組みが狭小なものになった反面、他方では国民生活に身近な課題にきめ細かく対応し、社会的セーフティネットのシステムを再構築することの重要性も増しており、その担い手として国から地方自治体への分権化の流れが不可避となっている。
〈5〉国・地方の財政破綻への懸念
経済の枠組みが大きく変化する中で、これまでの国民国家の枠組みを前提とした財政による景気調節の有効性について疑問が投げかけられている。加えて、わが国では、バブル経済崩壊後のこの10年間に国・地方の長期債務残高は266兆円から645兆円へと2倍以上に増加し、その対GDP比は主要先進国中最悪の129.3%にも達している。この累積債務は、今後景気が回復しても自然増収だけでは償還しきれずに累増し続けるという水準に達しており、歳入・歳出両面からの抜本的構造改革が不可避である。
1. 改革の基本理念
1. 国民の自己決定を重視する税制をめざす
〈1〉税制の基本は簡素・公平・中立であることはいうまでもない。税務行政上簡素であるだけでなく、政策上のさまざまな複雑かつ不公平な取り扱いをやめ、国民の自己決定を重視する透明な税制を構築する。
〈2〉徴税当局の効率のみを重視する給与所得者の源泉徴収・年末調整制度を見直し、納税者の自主的な申告と権利を重視する。そのため、学校教育等においても納税者教育を重視する。
〈3〉国が税を一手に徴収し配分するというあり方から、部分的には配分方式そのものについて民営化する手法も視野にいれて税制のあり方を総合的に見直す。
2. 社会保障のための強い財政を創る税制をめざす
〈1〉財政構造改革の目的は、今後一層重要性を増す社会保障サービスの充実や環境保全のための財政支出をまかなうことにある。
〈2〉財政構造改革と経済再生を同時に実現するという観点から、財政構造改革の基本的手段は安易な増税や一律歳出カットではなく、国から地方へのヒモ付き個別補助金の廃止と地方への税財源移譲、縦割り行政のもとで既得権化した歳出の見直しなど、行政改革と一体での支出の組み替えによるべきである。それでも必要となる税収の確保については、増税ではなく、不公平是正や課税ベースの拡大によるべきである。
〈3〉社会保障のための強い財政をめざし、共同の利益のために租税を負担しあうという立場から、国民が広く薄く負担するという税制改革を進める。子育て世代と年金受給世代、低所得者と高所得者、個人と企業などが公平に痛みを分かち合うべきである。
3. 持続可能な資源循環型社会をめざす環境税制を構築する
〈1〉21世紀は環境の時代。持続可能な資源循環型社会をめざし、環境保全や快適な生活環境整備のための事業を支える環境税制を構築する。
4. 雇用を確保し、新産業を創設するための税制を構築する
〈1〉特定業界・特定事業者への既存の優遇税制を原則として廃止し、IT分野などグローバルな競争にチャレンジする新産業・新規事業者に公平なチャンスと活力をもたらす税制をめざす。
〈2〉IT革命の進展につれて所得格差が著しく拡大することを防止するには、税制による直接的な所得再分配だけではなく、学校教育やリカレント教育を通じて全国民が情報技術の習得や職業能力の向上を図ることを国家戦略に据えるべきであり、これを税制面からも支援する。
2. 改革の基本構想
1. 地方分権に対応できる税財源配分
国・地方関係を分権連邦型に改革するという基本的視座をすえつつ、地域の社会資本整備や福祉・教育等の対人サービスを自主的に効率よく遂行できる基礎的自治体の行政体制の確立とあわせ、次のような税財源配分の抜本的改革を進める。
〈1〉国税=応能原則、地方税=応益原則という考え方に沿って国・地方の税源を抜本的に再整理する。
〈2〉国と地方の税源配分を国:地方=2:1から1:1へ変える。そのために、国税の基幹税である所得税の最低税率部分を地方税に移譲する。これにより、現在所得税と同様の超過累進課税となっている住民税(所得割)を比例税率の「地方所得税」と改める。地方所得税の税率は10%前後の一定の幅の中で市区町村ごとに定めるものとする。市区町村の事務の中で準私的財である福祉・医療・教育などの対人社会サービスの比率が今後ますます増大するが、もともと地域社会構成員が協力して「労務提供」によって賄ってきたこれらの対人社会サービスを支える財源としては、比例税率の地方所得税が最も適していると考えられる(いわゆる「ワークフェア原理に基づく比例的所得税」)。
〈3〉都道府県の地域サービスを支えあうための税として、地方消費税を拡充する。
〈4〉都道府県は地方消費税・外形標準法人課税、市町村は地方所得税・固定資産税を基幹税目にする。地方消費税・地方所得税は国税の消費税・所得税と同一の課税ベースに共同で税をかけ合うものであるが、都道府県・市町村それぞれが少なくとも一つ、地方団体独自の課税ベースと税率の決定権も持つ税(外形標準法人課税、固定資産税)を基幹税として持つことが重要である。
〈5〉上記税源移譲にともない、国庫負担金を除く国から地方への個別補助金を基本的に廃止し一般財源化を進める。地方交付税を改革し、国から地方への財源調整を減額する。
2. 社会保障財源と税制の関係
(社会保障財源のあり方については現在、党社会保障制度調査会で審議中である)
〈1〉税と社会保険との関係の基本的な考え方
リスク分散を目的とするもののうち、特に民間に任せると逆選択の危険性があるものは社会保険で行い、所得再分配を目的とするものは税制で行うことを基本としながら、何よりも公平性・効率性を追求できるものとすることが重要である。
〈2〉現金給付と現物給付
高齢になるにしたがって収入や資産や健康面での格差が大きく、一律に経済的弱者として給付を行うことができなくなる。一般に年金は現金給付で、医療や介護は現物給付を基本とする。
〈3〉所得再分配について
最近、ジニ係数が高まり、日本社会の所得格差が拡大しはじめたといわれる。この大きな要因の一つとして、高齢化の進展が挙げられる。高齢世代の格差の拡大に対してどう政策的対応ができるのか検討する必要がある。所得再分配を行うためには、一定の累進性と課税最低限等を持つ所得税が必要である。また、同様の理由から資産課税のあり方についても別途検討する。
〈4〉世代会計について
現役世代の利害と将来世代の利害は、たしかにトレードオフの関係にあり、将来世代の負担割合が高まることが予想されている。しかし、社会保障は損得感情で割り切るべきではなく、社会連帯の立場から考えるべきものである。
考えなければならないことは、社会連帯としてサステイナブルなものにしていかなければならない。
〈5〉年金、医療、介護・福祉の関係について
1. 高齢者にとって安心できる老後生活を送れるようにするため、現金給付としての年金を充実し、医療保険料や介護保険料について高齢者自身が賄え、かつ最低生活を営めるようにしていくことを基本とする。
その上にたって、
2. 年金については2階建てとし、基礎年金については全額税方式に転換する。
3. 年金の報酬比例部分は保険方式とする。
4. 医療保険や介護保険については、所得再分配的機能に対応する部分について、公的負担(国庫負担)を投入する。
3. 基幹税目について
21世紀の税制については、所得税・法人税、そして消費税が引き続き基幹税となる。一方、基幹税と呼ぶか否かは別として、環境税の創設や税制のグリーン化が今後の税制改革の大きな課題となる。そのような考えの上に立って、各税目についての改革を次のように進める。
〈1〉所得税
1. 総合課税か分離課税かの論議にかかわりなく、適正な税務行政を行う目的に限定した「納税者番号制度」を導入し、所得・資産の正確な捕捉を進める。他方、納税者権利憲章を定め、納税者の権利を明確にする。脱法行為に対しては罰則を強化する。
2. 現行の人的控除制度は、きわめて複雑であるうえ、
1. 所得控除であるため、適用最高限界税率の高い高額所得者ほど税額軽減の恩恵が大きくなっていること
2. 本人の基礎控除よりも配偶者や扶養親族の控除額が高いこと
3. 老年者控除や老親扶養控除のように本人や親族の経済状態(特に資産の状況)に関係なく年齢だけに着目して手厚い控除を行う仕組みになっていること
など、控除の効果、各控除の存在理由やバランスについて様々な問題を含んでいる。したがって、社会政策上設けられている税制上の各種人的控除については、これを大幅に見直すこととし、これによって生じる増収分については、児童手当等の社会保障給付の財源に充てるべきである。また、人的控除制度抜本改革の実現に至る過渡的なあり方として、現行の所得控除方式を税額控除方式に変更することも検討に値する。
3. 上記人的控除の見直しと合わせ、社会保険料控除、生損保控除、退職金課税、年金課税、フリンジベネフィット課税等についても総合的な検討を行う。
4. 所得税については総合課税を原則とし、所得再分配を通じた社会の安定化のために現状程度の累進構造を維持する。
5. 機会の平等を確保する観点から、相続税については基本的に現状の最高税率を含む累進税率を維持すべきである。
6. その上で、最低税率部分を地方財源である地方所得税として移行させる。地方所得税の標準税率を10%とすれば、現在の個人住民税の最低税率部分では5%が国から移譲されることになる。所得税では地方税への移行分を差し引いた残りの税率である5%が新たな最低税率になる。
7. 所得税の課税単位は個人単位を維持すべきである。男女共同参画社会をめざすという視点から、税制が女性の就業の妨げとならないよう、また、家庭で育児・介護などの役割を負っている人びとも「自立した納税者」としての責任と権利を持ち社会に参画することができるよう、配偶者控除・配偶者特別控除の見直しを進める。
〈2〉法人税
1. 法人税は、税制の中でももっとも国際的整合性が求められる分野であるが、現在の法人税率(30%)そのものはすでに主要先進国とほぼ横並びの水準であり、国際的整合性の観点からは、現時点でこれを引き下げる必要性は特段見い出しがたい。
2. 特定業界・業態への優遇税制として機能している法人税関係の現存の租税特別措置については、抜本的に見直し、廃止することによって課税ベースを拡大することを基本とする。これにより、IT分野などグローバルな競争にチャレンジする新産業・新規事業者に公平なチャンスと活力をもたらす税制をめざすべき。当面、経済対策として投資促進等の観点から一時的に税制上の特例措置を講じることをただちに否定するものではないが、その場合にも、IT投資やベンチャー企業等の起業促進のための支援税制に重点化・特化すべきである。
3. 法人事業税については、外形標準化を行い、都道府県の基幹税とする(外形標準を付加価値に求める場合、その税率は1.6%でよいとする試算がある)。なお、外形標準課税の導入時期については、景気の動向等を十分に見極める必要がある。
〈3〉消費税
1. 現行消費税にはインボイスを導入し、簡易課税制度や非課税事業者制度の改革に取り組む。
2. その上で、消費税の一定割合を、社会保障財源のうち、基礎年金の財源として目的税化をすすめる。
3. 消費税は、扶養する子供の人数が多いほど負担が重いことから、将来的には世帯人員数に応じた基礎的消費支出(この点については家計調査による国民平均の基礎的消費支出を確定する)にかかる消費税額を国民に還付することによって逆進性対策を行う必要がある。
4. ただし、消費税は、国民の中で最もアレルギーの強い税目であると同時に、インフレ時にはギャロッピング・インフレーション(急速に進むインフレ)を引き起こしやすい税であることから、その今後の税率の引き上げについては慎重に検討する必要がある。特に、財政赤字を返済するために安易に消費税を引き上げるという政策は採用すべきではない。
〈4〉環境関連税制
1. 現在、油種別にさまざまな政策的配慮から設けられている現行の燃料課税等を抜本的に見直し、燃料の炭素含有量とエネルギー消費を課税対象とし、省エネ等の観点も加味した環境税に組み替える。環境税は、国・地方における省エネルギー・新エネルギー導入促進支援等の環境対策に重点的に充てることとし、その税収の一部は地方譲与税として地方団体に移転する。
*他に転換不可能な原料炭・ナフサ等の原材料としての使用については環境税の対象とはしない。
2. 複雑・多岐にわたり自動車ユーザーに過重な負担をもたらしている自動車関係諸税については、環境税導入にあわせて抜本的に見直す。
3. 地方税においても、使い捨て税(デポジット制)等の環境課税を検討する。
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