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2001/09/30
<オピニオン>今回の同時多発テロにどう対応するか=次の危機にどう備えるか
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<オピニオン>とは
その時々に話題になっているテーマについて、民主党議員や党関係者が自分の考えを発言するコーナーです。
■テーマ=「同時多発テロ対策・日本のやるべきことは?」
衆議院議員 首藤信彦
1.危機は一過性のものでなく、サイクル的に襲ってくる
多くの日本人にとって、「危機」とは所詮、「地震・雷・火事・オヤジ」すなわち、突然前触れもなく現れ、その事態に為す術もなく右往左往し、そしてその惨事や暴力が去るとすぐに忘れるようなものかもしれない。
今回のアメリカの経済/軍事力のシンボルに対するテロ攻撃に対し、日本では、ブッシュ大統領のオサマ・ビン・ラディンとタリバンへの報復攻撃に自衛隊を参加させるべきか否かが主として論議されている。言うまでもないことだが、日本は国際社会全体への脅威となるテロリズムの根絶に包括的かつ積極的に行動すべきであり、国連システムにおけるテロ防止諸条約締結、実行犯に対する国際司法的追求、さまざまな国連制裁決議に参加する一方で、アメリカに対しても日米安保および憲法の枠組みのなかで最大限の協力をすべきであろう。
しかし、課題はそれだけではない。このテロにおいて、日本もまたターゲットになっているからである。それは旅客機の自爆とビルの崩壊にる日本人犠牲者だけの問題ではない。世界の片隅で繰り返されている悲劇たとえばパレスティナの惨状、飢餓・絶対的貧困・差別などへの無関心、伝統社会を崩壊させ格差を急激に拡大するグローバリズム、インターネット利用のコミュニケーションの発展や年間1300万人の海外旅行者数を可能にする安価な航空輸送など、われわれ日本人のごく普通の性向や生活パターンや当然のように享受しているシステムの中に、テログループが攻撃の根拠として主張し手段として利用しているものがある。
要するに、これほどのテロも決して、世紀に一度のことではなく、これから何度も、そして今度は日本を主なターゲットとして襲ってくる可能性があるということである。危機管理の要諦は、なによりも“preparedness”すなわち、どれだけ準備ができているかにある。次の危機への対応は、今の危機の間に構築しておかなければならない。
2.現代世界の構造が生み出すテロリズム
テロを凶悪犯罪程度に考えていた方は、今回の高度なテロに驚かれたであろうが、伏線としては、すでにさまざまな事件が発生している。旅客機をハイジャックしてアメリカのシンボル的存在の世界貿易センタービルに突っ込むというテロも、決してとっぴなものではなく、現代文明を批判しておこしたユナボマーの航空機テロ、さらに94年には、アルジェリアのGIAというグループ(オサマ・ビン・ラディンとも近い)がエアバスをハイジャックしてパリのエッフェル塔に激突を試みた事件も発生している。無差別テロという点では東京の地下鉄サリン事件こそが新次元テロリズムのパンドラの箱を開けたといわれる。
現代テロリズムは現代社会の「構造」によって作られている。しかし、そうは言っても、極端な貧富格差や差別などテロを生み出す構造を作り変えるのは容易ではない。明らかにテロの病根となっているパレスティナの中東和平交渉ですら、解決の糸口すら見つからない。
3.次の危機にむけての努力
すでに日本政府においても、さまざまな対策が実行されているが、ここでは将来の危機に備える努力について考えてみたい。
(1) 国連のテロ対策機能強化
本質的に国家中心の国連は、亜国家(国家以下の組織)やテロ・犯罪組織や人権抑圧組織に対して無知・無力であった。しかし、最近はUNDCP(麻薬・薬物対策)など、国家の内部まで立ち入っての積極的な活動が見られるようになった。同時に、中東和平ではノルウェー、地雷廃絶ではNGOと協力してカナダ政府というように、一国が世界の問題の一テーマを引き受けて集中的に問題解決に取り組む状況が生まれている。そこで、日本がリーダーシップを発揮して国連に国際テロ対策の特別機関を作り、事務局を日本に置き、世界の有識者を集め、積極的にテロリズムや地域紛争に取り組むような姿勢が重要となろう。このような努力によって初めて日本にこの問題の情報が流れ込み、そして世界に日本のメッセージを発信することを可能にする人脈のチャネルが生まれる。
(2)アジアの視点
これからは常に東洋文化の視点、アジア友邦との協働が重要となる。今回の問題に関しても、事件直後から日本がリーダーシップをとってアジア諸国に点在するテロネットワークの洗い出しを呼びかけるべきであったが、現実にはシンガポールが先行した。またタリバンそしてその支援国であったパキスタンに対する説得も、世界最大のイスラム人口を抱えるインドネシア、バングラデシュそしてイスラムと他宗教との摩擦を最小限に抑えているマレーシアのようなアジア友邦と協働して事件の司法的・平和的解決に向けて動くべきであった。
(3)アメリカ軍の報復後の平和再建にそなえる
2000万人の人口のアフガニスタンで、この20年間の紛争の連続によってその一割、約200万人がすでに飢餓線上にあると言われる。その意味で、事件直後にイランやパキスタンが国境を閉鎖したことだけで、食料配給が滞ったことによる飢餓者は、ニューヨークのテロの犠牲者数をはるかに越えたであろう。楽観的に考えれば、アメリカ軍の行動は最小限の報復あるいは実行犯と特定されるオサマ・ビン・ラディンの逮捕によって早期に終息するかも知れない、しかしながら、どのような最小限の軍事活動でも、タリバン制圧のための軍事行動は膨大な難民・避難民そして飢餓・疾病による犠牲者を生み出すことは誰の目にもあきらかである。
日本はこのような軍事行動後の平和再建にこそ、持てる能力のすべてを使って支援すべきであろう。食料や保健・医療援助のみならず、学校と教育の再建、環境・農業・上下水道の再建そして行政システムや民主化教育など、資金提供のみならず、日本が蓄積された人材とノウハウを持っている分野が多い。日本は紛争解決の最終段階を、全力をもって支えることを世界に明言し、そしてアフガニスタンが再度、飢餓と暴政のカオスに落ち込まないように努力すべきであろう。それが国際社会における日本の名誉となり、また結果的に、海外における日本人の安全と活動を護ることにつながっていくと確信する。
すとう・のぶひこ/1945年大連市生まれ。1969年慶應義塾大学経済学部卒業後、伊藤忠商事入社。1979年慶應義塾大学院研究科博士課程修了。その後、貿易研修センター講師を経て、東海大学助教授、教授を歴任。その間、フランス、中国、アメリカ(ジョンホプキンス大学・メリーランド大学)において研究活動を行う。(専門分野は、危機管理、国際政治経済、社会開発、NGO、民主化支援)また、2000年夏の衆院選で初当選し、衆議院として活動中。同時に、社会活動としては、NGO−インターバンド・市民政策バンド・アフリカ平和再建委員会− を主宰。日本はもとより、アジア、アフリカ各地を舞台に、民主化支援、紛争解決、予防外交を目的とした実践活動も展開している。
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