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2001/09/30
<オピニオン>「新しい戦争」の戦い方
<オピニオン>とは

その時々に話題になっているテーマについて、民主党議員や党関係者が自分の考えを発言するコーナーです。

■テーマ=「同時多発テロ対策・日本のやるべきことは?」

長島 昭久(東京財団主任研究員/民主党東京都第21区総支部長)

日本は、この「新しい戦争」をどう戦うべきだろうか。

第1に、テロ根絶のための国際協力ネットワークの中核を担う。
第2に、パウエル米国務長官が推進する「外交的包囲作戦」を全面支援する。
第3に、長期的なパレスティナ紛争解決のためにヒト、モノ、カネで積極貢献する。

 日本では、このまったく新しい事態を前にして、二つの極論が横行し議論を混乱させているようにみえる。

 一つは、外務省を中心とした政府関係者に、「湾岸シンドローム」とも呼ぶべき強迫観念がある。これに火をつけたのが、リチャード・アーミテイジ国務副長官が柳井駐米大使を通じて日本政府に伝えたとされる「旗(日の丸)を見せてくれ」("Show the flag")という言葉だ。

 我が国には、1991年の湾岸戦争で130億ドルもの戦費を拠出しながらヒトの貢献を拒んだために、世界から「一国平和主義」の烙印を押され冷笑された苦い経験がある。今回はその轍を踏まず、「見える貢献を」ということになり、事件勃発から10日という日本政府としては異例の速さで7項目からなる対米協力措置を発表した。しかし、そこには、これまでの我が国の憲法原則を逸脱しかねない海外における自衛隊の任務が含まれている。

 筆者は、当面の措置として、今回のテロを「国際の平和および安全に対する脅威」と認定した国連安保理決議1368号に基づき、武力行使を含む多国間協力に日本(の自衛隊)が参加することに賛成であるし、集団的自衛権の行使を禁ずる政府解釈にはかねてから疑義を持ってきた。

 しかし、そうであるとしても、これまで積み重ねてきた憲法解釈の枠を「泥縄式」に逸脱してはならないと考える。他国の領土へ自衛隊を派遣することや、派遣された自衛隊部隊の武器使用基準の緩和は、我が国戦後の安全保障政策における「哲学」の変更を伴うものであるから、国民的な議論を尽くさなければならない。そして、国会の審議が効果的な適時の行動を妨げるようであれば、とりあえず現行の法解釈の枠内でできることから行動すべきである。公海上の後方支援や避難民の救援などはいますぐでもできる。

 その結果として、当初計画していたことがすべてできなかったとしても、法治国家である以上それはやむを得ない。特別立法で「今回限りだから勘弁して」というわけには行かない。このチャンスにこれまで果たせなかった宿題を片付けてしまおうというのは、便乗ならぬ悪乗りといわねばならない。

 いま一つの極論は、テロに対して武力による報復は事態を悪化させるばかりだから、米国が行うとしている軍事作戦への協力を拒否すべきだ、とする見解である。確かに、泥沼化しているイスラエル・パレスティナ紛争の例を引くまでもなく、憎悪に燃え死をも恐れぬテロリストたちに対し、単に軍事報復を加えたところで、何らの問題解決ももたらさないであろう。イスラム社会をめぐる根本的な問題――貧困や不平等――を解決しなければ、紛争の火種は永遠に除去されないとの指摘は正しい。したがって、中東諸国とこれまで比較的良好な関係を維持してきた我が国として、長期的な視座に立って同地域の平和と安定に貢献する道を探ることはきわめて重要な外交課題である。しかし、そのことと国際テロを根絶するための協力――それは、米国をはじめとする同盟国の軍事作戦を含む広範な国際協力となるであろう――に背を向けることは決して同義ではない。

 むしろ、筆者が強調したいのは、米軍が主導し同盟国や友好国が支援する「対テロ総力戦」に積極的に参加することによって、日本の発言力が高まり、日本の政策提案に対し説得力が出てくる点である。逆にいえば、国際努力の輪にも加わらないで、賢者ぶって「正論」をとくとくと唱えても、誰も聞く耳を持たないであろうということだ。

 米国をはじめ、世界のいかなる国も自国の若者を戦場に送り、国際テロの脅威に自国民をさらすことの危険の前に苦悩しているのだ。国民の支持率が9割を超えたブッシュ大統領でさえ、軍事行動に対してはきわめて慎重な姿勢を見せている。

 とくに、湾岸戦争の英雄として名高いパウエル米国務長官は、「新しい戦争とは、これまでのように軍事力だけで決着がつくものではない。外交力、情報力、経済力を駆使して、自由と民主主義を愛する世界中の国々が協調しなければ、国際テロリズムとの新しい戦争に勝利することはできない」と明言している。

 したがって、彼は、いま、同盟、友好諸国はもとより、これまで米国の政策に懐疑的だったロシアや中国、あるいは敵対的だったイランやパキスタンなどといった国々とも粘り強く交渉を続けながら、首謀者と目されるオサマ・ビン・ラディンおよび国際テロの中核組織「アル・カーイダ」を徹底的に包囲し追い詰める外交作戦を展開しているのである。その意味で、パウエル国務長官が指摘しているように、これは、自国民を6000人も殺されたことへの単なる「報復」などではない。より正確に言うならば、国際テロの活動を封じ込める「予防」と「抑止」のための努力に他ならない。

 日本が戦うべき「戦場」は大きく三つある。
 第1は、我が国におけるテロ対策である。在日米軍基地や原発施設をはじめ、国民の安全を確保する上での中枢システムをテロの攻撃から防御しなければならない。それには、警察と防衛、出入国管理など関係各省庁の連携を緊密にし危機管理体制を整備する必要がある。
 第2に、地球規模の対テロ包囲網である。日本は、国際的なテロ組織とその動向を監視分析し、各国との情報交換を緊密に行って、テロ組織を追い詰め、また、そのような組織を支援、容認する国家に対する圧力を強め、テロ組織の地球規模の資金調達や移動手段を完全にシャット・アウトしなければならない。アフガニスタンを舞台に軍事作戦があるとすれば、この全体図の一部に過ぎない。
 第3は、中東地域における恒久的な平和をもたらす努力である。それには、長期的なパレスティナ紛争解決のため、日本は、停戦監視・治安維持のための国連平和維持活動を主導する必要があろう。日本を含む国連部隊は、憎しみ合ってきたこれまでの世代が新しい世代に完全に入れ代わる日までパレスティナの地に留まり続けねばならないかもしれない。しかし、そこから目をそむけては、中東和平の道は開かれないであろう。国際テロを地球上から根絶するためには、彼らが抱く憎悪の原因を取り除くために粘り強い国際社会の努力が必要である。


ながしまあきひさ/1962年(昭和37)2月17日横浜市生まれ。39歳。
慶應義塾大学大学院博士課程(憲法学専攻)修了。短大講師、代議士秘書を経て、渡米。ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院(SAIS)で修士号取得。
その後、日本人初の研究員として、世界的な権威のある「米国外交問題評議会」に入り、「朝鮮半島和平構想」プロジェクトに参画。そこで、マイケル・グリーン評議会上席研究員やリチャード・アーミテイジ現米国国防次官らに知己を得る。2000年、外交問題評議会上席研究員に昇任。
 2000年10月に帰国し、衆議院補欠選挙(民主党、東京21区)に立候補するも、惜敗。現在は、母校のジョンズ・ホプキンス大学SAISの客員研究員に就任し、同時に、東京財団主任研究員として、研究プロジェクト「アジア太平洋における米軍の前方プレゼンスと同盟網」を主宰。また、民主党代表安全保障アドバイザーをつとめる傍ら、2児の父親として、妻とともに子育てに奮闘中。
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