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1998/04/27
菅直人民主党代表あいさつ
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民主党代表 菅直人
ただいま皆さんの万雷の拍手のなかで代表就任をご承認いただきました、私、菅直人でございます。副代表の笹野貞子さん、中野寛成さん、畑英次郎さん、鳩山邦夫さん、そして幹事長に選任をいただきました羽田孜さん、そしてきょうお集まりのこの民主党に結集していただいたすべての皆さんととともに、この新しい民主党を、政権交代の1つの軸として歴史のなかで大きな役割が果たせる政党にしていくために、全力を挙げたいと思います。どうか皆さん、よろしくお願いします。(拍手)
副代表の中野寛成さんには代表代行として私を支えていただくことをお願いをいたしております。皆さんのご了解をいただきたいと思います。(拍手)
きょうまでのこの統一の足取りのなかで、本当に多くの皆さんにたいへんなご努力をいただきました。細川護煕元総理をはじめ党内の皆さんはもとより、党の外にあって私たちに対してアドバイスをいただき、またご支援をいただいて、きょうの日が迎えられたことを本当に心から感謝を申し上げたい、このように思うところであります。
今回のこの民主党の結成の意義について、私は約5年前、長期の自民党政権にかわって生まれた細川政権、それ以来の激動のなかで、ある時期では自民党に対抗して、あるいは何かに反対して、そういう集まりの政党ができてきたわけでありますけれども、今回は志を同じくする、考え方の近い者同士が集まるという意味で、そういった前向きの結集であり、政権を担う基盤政党が、この民主党結成によって新たに生まれ出た。このように申し上げることができると思うわけであります。
そして、この民主党がどのような政党であるのか、私はまず国民の良識をきちんと代弁できる政党でなくてはならないと思っております。そしてサラリーマン、あるいは自営業者として働いておられる皆さん、納税者の代表として、生活者の代表として、そして消費者の代表として、私たちが政治のなかにそうした皆さんの思いをきちっとつなげていく役割を果たさなければなりません。
政党というものは、国民の皆さんが国政に参加する上で、ある意味では2階に上がろうと思っても1人ではなかなか上がれないけれども、階段がありはしごがあればそれに上ることができる。つまりは国政参加のための道具として、私たち民主党が果たさなければいけない役割があると思います。
多くの国民の皆さんの要望を政策にし、あるいは法案として国会に出していく、そういう活動を通して国民の皆さんの信頼を1つ1つ積み上げていくことこそ、この政党のスタートに当たってやっていかなければいけない第1歩である。またそのことがこれからの政権交代をめざす上での遠回りなようで最も必要な道である。このように私は確信をいたしているところであります。
さて、皆さん、戦後50年が経過をいたしました。私自身、戦争直後に生まれまして、この50年を日本の戦後とともに生きてまいりました。敗戦のなかから私たちの父親の世代は、何もない中から立ち上がり、そして欧米に追いつき追い越せと本当に頑張ってきた。それを私たちも受け継いできたわけであります。たしかに物の面でたいへん豊かな社会が今日生まれました。しかし、どうでしょうか。いまの子どもたちのいろいろな問題、あるいはこれからの将来、私たちの老後を考えたときに、なにか「こんなはずではなかったんではないか」、こういう思いに駆られている人たちは、決して私だけではないと思うわけであります。
そういった意味で、この国を新しい日本につくり変えていく必要がある。 まず、みんながこの国が好きだと思える国にしていきたい。そして自分たちの子どもをこの国で育て上げたい、こう思える国にしていきたい。 そして老後をこの国で心豊かに暮らしたいと思える国にしていきたい。そしてまたこの国が将来に向かって明るく開けている、こう思える国にしていきたい。このように思うわけであります。
昨年来日されたブレア・イギリス首相とお会いしたときに、イギリスは21世紀のモデルになる、そうした国として頑張るのだと明るく語っておられました。私たちもこの国を21世紀のアジアの、そして世界のモデルの1つになるような国にしていこうではありませんか。そのことをまず申し上げたいと思います。(拍手)
そのために私はまず5つの課題を、改革を実行することを皆さんにお約束をしていきたいと思います。
1つは、分権連邦国家をつくり上げるということであります。いまから130年前の明治維新、そのなかでつくり上げられた中央集権型の国は、欧米の侵略を防ぎ、富国強兵、追いつき追い越せという社会をつくっていく上ではたいへん有効でありました。しかし、その結果生まれた今日の状況は、これから21世紀に同じ原理でこの国を進めていっていいのだろうか。明治の前の時代を振り返ってみますと、それぞれの地域で文化がはぐくまれ、教育が行われ、それぞれの地域の産業や伝統が豊かな時代があったわけであります。あえて申し上げれば、「民主的な江戸時代の幕藩体制」といった形が21世紀の日本の形として考えられるのではないか。それこそ分権連邦国家という形をめざすべきではないかと思うわけであります。そのためには、まず、いま国と地方の財源が2対1の比率になっておりますけれども、それを逆に1対2の比率で地方に重点を置いていく。そのことからこの分権連邦国家の建設に向けてスタートを切りたいと考えております。
第2点としてこれに関連もしますけれども、中央政府の抜本的な改革であります。いま中央に集まっている権限を地方にもちろん移し、また市場・マーケットに移し、さらにはNPO、市民活動に移していって、国はたとえば外交・防衛、あるいは通貨、さらには福祉の基準など、限定された仕事を効率よく効果的にやっていく。そういう中央政府をつくっていかなくてはならない。このように考えるところであります。
そして、いまの国会のあり方、だれのための国会なのか、いまの内閣のあり方、だれの内閣なのかということを考えなくてはなりません。憲法では国民主権の国と明記をされておりますけれども、現実には内閣は、それぞれの大臣は官僚のコントロールのもとにあって、決して国民のコントロールのもとにはない。このことをお互い知っているわけであります。そういった意味で副大臣制や、あるいは大臣にかわって官僚の皆さんか答弁するといった政府委員制度の廃止を含め、政治家である大臣や副大臣がきちっと行政をコントロールできる。そういう国にすることが、憲法のいう国民主権の国であると、このように考えているところであります。
先週と先々週、私は橋本総理との間で予算委員会、行革特別委員会で議論をいたしました。このなかで国民の前で、政策についてどちらが正しいのか、それを皆さんにご判断いただこうと議論を進めたわけであります。そうした形こそ国会の活性化であると同時に、国会に対して、さらには国民に対して責任を負うている内閣のあり方、それを進めていく道ではないか、このように考えるところであります。
さらにもう1つ加えますと、内閣は国民に対してアカウンタビリティ、つまり説明をする責任を持っております。あの薬害エイズの原因、あるいは不良債権が一体いくらあったのか、そういった問題についてもなにひとつ説明をしないまま、官僚のシナリオで押し切ろうとしている。情報公開はそういった意味でいまの中央政府を変えていく大きなキーになる。とくにこの点に重点を置いて申し上げておきたいと思います。
第3に、いまの経済の問題であります。バブルに始まります不良債権は、まさに人間でいえば心臓ともいえる金融の機能を麻痺させております。こういった金融が麻痺されているなかでは、残念ながら一時的には財政再建を先送りをしてでも財政出動による内需拡大、つまりは人工的な心臓を一時的には動かさざるを得ない。これがいまの状況だと思うわけであります。そして責任と回収の手続を明確にして金融を再生させることがまず必要であります。
加えて、いまの経済状態に対して私は「平成ニューディール計画」という政策案を提示をいたしました。6兆円の恒久減税・制度減税と、4兆円の未来への投資というものを骨格とする提案であります。恒久減税はただ景気の助けになるということではありません。それ以上に、つまり皆さん方からいただいた税金を政府の判断でいろいろなものに投資をする。こういうやり方は明治の初めに鉄道を敷くとか、製鉄所をつくるとか、そういう時代にはたいへん大きな役割を果たしました。しかし、世界に冠たる経済大国になった今日、そういった投資、あるいは消費については、個々の企業や個々の個人に任せていって、国がやるべき役割はそこから大きく撤退すべきだと考える、そういった構造改革につながる改革だからであります。
かつてレーガン大統領がレーガノミックスという形で大きな減税を実行されました。当時は軍拡もありましたから大赤字になるのではないかと心配をいたしましたが、今日のアメリカは年度収支は黒字に転換をいたしております。なぜか。それはポスト冷戦のなかであの巨大な軍事費が半分程度に削減されてきたからであります。いまわが国においてアメリカの軍事費よりももっと大きな支出が行われている。それは公共事業の分野であります。そういった意味で本当に必要な公共事業はもちろんやるわけですけれども、2割も3割も高いと言われる公共事業、そしてむだのたくさんある公共事業を半分に減らすことは、決して不可能ではない。その財源を減税に充て、そして将来の高齢化社会の安心できる社会づくりに充てていく。これが大きな経済の改革の方向でなくてはならない。このことを実行していきたいと考えているところであります。
第4に、美しい日本を取り戻し、また文化や伝統をはぐくむ日本をつくり上げるということであります。私の生まれ育った瀬戸内海の海々も、海岸はコンクリートのかたまりになっております。私の遊んだ川も、砂防ダムが幾つも並んだ川になっております。そうした自然を破壊する工事、もちろん必要なものもありますが、アメリカの産軍複合体にも匹敵する公共事業複合体が、本当に役立つか役立たないかとは関係なく推し進めた自然破壊型の公共事業のその結果もそのなかに多く含まれております。そういった意味で川を取り戻し、海を取り戻す、そうした事業を進めなければならない。そうしてグローバル化が進めば進むほど自分の国にとって何が誇りに思えるのか、日本人の独特な感性を大事にした文化や伝統をはぐくんでいく、そのことに重きを置かなければならないと思っているところであります。
第5に、世界のなかの日本ということであります。数年前ノーベル平和賞を取られた東チモール独立運動にかかわっているラモス・ホルタさんに日本でお会いしたときに、ホルタさんは、日本政府、日本の態度に対して、「お金で物は買えても、お金で尊敬は買えません」、こういう厳しいことを申されました。
いま私たちがこの国を独立国として誇りに思える状態にあるでしょうか。いや、決してわが国が覇権を求めよというのではありません。平和憲法を持つ国として、正しい正義感を持つ国として、そして国際社会で責任ある立場をとる国として、あるときには多少のリスクを冒してでも言うべきことは言っていく、そういう姿勢をとっていくことがわが国にとって必要なときではないでしょうか。
こういった5つの改革を私たちは、民主党を中心とした政権を実現できたときには、衆議院の1期4年間、この4年の間に実行していきたい。このように考えております。つまりいま必要なのはスピードです。いまの橋本内閣のようにヤブ医者がゆっくり手術をやっている。これじゃあ痛くてかなわない。これじゃあ体がめちゃくちゃになってしまうわけであります。しかし、残念ながらいまの自民党政府にはそれができません。なぜできないのか。あの行政改革の案ですら、数年かけた行政改革会議の最終報告がありながら、さらに基本法をつくって5年間かけて大蔵省設置法、国土省設置法、建設省設置法、すべて5年間かけてやりましょうという、なんたるスローモーでありましょうか。このような形になっているのは、自民党が族議員と官僚の癒着によってそうした反対を抑えきれない、そういった体質を持つからであります。
かつて「政治は3流。しかし日本は官僚の皆さんが優秀だから大丈夫だ」、このように言われてまいりました。これは1つには「お上と下々」という国民のなかにまだまだ深く根ざしている感覚にも通じるところであります。あの水戸黄門がいまだに人気が衰えないのも、いざというときにはお上の側から何かが出てくる、こういう意識が強いからではないでしょうか。しかし、いま必要なのは、そうしたお上ではありません。逆に西部劇に出てくるように、悪漢がやってくるならみんなでお金を出し合って自分たちの保安官を雇おうじゃないか。自分たちでリーダーを決めていこうではないか。そういう姿勢こそがいま私たちに必要な、日本に必要な改革を進める主体づくりではないでしょうか。
そういった意味でいま急いでやらなければならないのは、二重の意味の政権交代であります。1つは、自民党政権から民主党を含む、きょう来賓に来られている多くの政党の皆さんと手を握っての政権交代であります。
そしてもう1つは、官僚を主導とした政権から、国民の意見を背にした国民政権への転換であります。(拍手)
こうした二重の政権を生み出していくために、自民党を除くすべての政党の皆さんと政策的な協力のあり方、連合のあり方、さらには選挙における協力や連合のあり方、さらに将来の政権連合も展望する、そうした話し合いをぜひ呼びかけさせていただきたい。このように考えているところであります。(拍手)
とくに衆議院の選挙においては、1人の候補者を選ぶ小選挙区において政権選択肢が示され得るかどうかが、国民にとっても、この選挙が政権選択の選挙になるのか、中選挙区時代のただどの党がどれだけ伸びたという選挙になるのか、の分かれ道になると思います。そういった意味を含めて、ぜひともこの民主党の結成をホップとし、そしてそれに続く参議院選挙で自民党に過半数を回復をさせないという、そうした野党間の選挙協力をステップとして、そして衆議院選挙において政権連合をめざす選挙連合を組んで政権を交代させる、それをジャンプの目標として、これからぜひ多くの皆さんと話し合っていきたい。このことを申し上げさせていただきます。(拍手)
そして最後にもう1つ、ある意味では最も大きなことを呼びかけたいと思うわけであります。それはいま政党に対して信頼が持てない、政党を支持できないと言われている多くの無党派市民の皆さんへの呼びかけであります。
昨年の宮城の選挙、あるいは私たちの仲間である横路孝弘さんの15年前の北海道勝手連、まさに無党派の皆さんが立ち上がって、予想を覆すような選挙の結果を生み出していただいたわけであります。また一昨年には、イタリアにおいて「オリーブの木」という運動が、無党派の皆さんを大きく巻き込んで、あのプロディ政権を誕生させたわけであります。私はこうした動きのなかから、日本においても政権を交代させる運動に、1人ひとりの市民が、1人ひとりの国民がみずから立ち上がって参加をしていく。またそのことが可能である、政権交代を実現することが可能である、こういう思いのなかで参加をしていただけないか。このことを心から呼びかけたいと思うわけであります。
まさに民主党、ここに「民の力」と書いてあります。これは民の力で政権交代が可能である、このことを込めての私たちのスローガンであります。どうか多くの国民の皆さんにそのことをご理解をいただき、そして参加の動きを起こしていただくようお願いを申し上げたいと思います。
きょうこの会場に結集されている民主党に参加していただいた皆さん、またこの話をいろいろな形で聞いていただく全国の皆さん、まさに一緒になって21世紀の日本をつくるために政権交代の実現のための運動に一緒に参加し、立ち上がっていただきたい。このことを申し上げ、私の代表就任に当たってのごあいさつとさせていただきます。
どうもご清聴ありがとうございました。(拍手)
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