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2008/12/17
公会計・公契約のあり方について(中間報告)
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民主党決算行政監視調査会
会長 武正 公一
事務局長 藤本 祐司
主査 尾立 源幸
1.基本認識
2008年11月21日に「平成19年度決算検査報告」が国会に提出された。今回の報告では、不当事項の859件を含め、981件が報告書に記載されている。不当事項あるいは処置要求を受けた事項等の総額は約1253億6千万円と、平成18年度の約310億6千万円比べ4倍で、件数、総額ともに過去最高を記録した。これは、これまでの会計検査院や衆参の決算委員会等での指摘にもかかわらず、政府が真摯に対応してこなかった証左であり、決算および予算などの会計上の制度あるいは仕組みに不備があることを政府が見逃してきたことに起因する。
例えば、国の補助事業については、架空発注を行って代金をプールする「預け」と呼ばれる裏金作りなど、各県で不正経理が横行していることが判明した。しかも、会計検査院が対象とした12道府県すべてにおいて不正経理があったとのことである。この問題は古くから指摘されてきており、会計検査院においても平成17年度決算調査報告ですでに一端について指摘している。しかし、こうした問題が一向に解決されていない実態が浮き彫りとなった。
この問題の最大の原因は、政官の馴れ合い体質である。政府は、1時間程度の財務事務次官を会長とする「補助金等適正化連絡会議」を年1回開催し、補助金の留意点について周知しているとのことである。だが、それは、体裁を取り繕うものにすぎず、全く緊張感がないものであることは、不正が一向になくならないことからも明白である。
また、山田洋行の架空見積書の作成による2.5倍の過払い請求なども含め、不正経理が横行する背景には、制度的、法律的な不備がある。防衛装備品の契約・発注当事者である防衛省も会計検査院も、海外メーカーや商社に照会さえ行おうとせず、山田洋行を告発しようともしない。当事者意識が全く欠如していることには驚きを禁じえない。また、財務省は、補助金の取消、返還などについての各省各庁の実態を把握していない。財務省は、国の予算と決算に責任を負っているにもかかわらず、民主党「決算・行政監視調査会」で各省庁が適切に責任を果たすことを期待しているなどといった回答に終始した。会計法10条には「各省各庁の長は、その所掌に係る支出負担行為及び支出に関する事務を管理する。」とあるが、それは、財務省の予算・決算への責任の免罪符ではない。
わが国は、長期債務残高だけで800兆円近くも抱え、財政運営には予断を許さない状況である。また、経済状況も厳しく、国民の生活は余裕を持てない状況にまで追い込まれている。にもかかわらず、このような緊張感のない財政運営を許している自民党の政権担当能力のなさにあきれ返るばかりである。
このような問題が起こるたびに、いわば「トカゲの尻尾きり」が行われる。単に個人の責任に帰したり、法律を一部だけ改正したりするのみで、組織の腐敗体質には目を瞑ってきた。これでは、弛みきった官僚の意識を変えることはできない。定款を変え、就業規則を変えれば、良い会社経営ができるわけではない。やはり、経営者、すなわち内閣のあり方が一番問われるのである。政権交代を実現し、明治以来の官僚を中心とする国の統治機構を根底から改めなければならない。政権交代の暁には、民主党は100人以上の議員を行政府に入れ、官僚に緊張感を持った対応をとらせる。
2.現行会計制度の問題点
(1)会計検査および予算執行調査のあり方
○ 現在3名いる会計検査院検査官のうち、2名は省庁出身者である。また、相手省庁が了解しないと検査報告書には記載しないという不文律があるともいわれている。また、検査対象団体に多数の職員が天下りしており、会計検査院の独立性を疑わざるを得ない状況にある。また、会計検査院法33条に基づく国の会計職員の犯罪にかかる検察庁への通告義務を会計検査院が果たしているか否かには疑義がある。
○ 財務事務次官を会長とする補助金等適正化連絡会議を年1回開催し、会計検査院の指摘も報告されているとのことである。しかし、不正は一向になくならず、会計検査院の報告が活かされているとは言い難い。
○ 会計法46条1項に「財務大臣は、予算の執行の適正を期するため、各省各庁に対して、収支の実績若しくは見込について報告を徴し、予算の執行状況について実地監査を行い、又は必要に応じ、閣議の決定を経て、予算の執行について必要な指示をなすことができる。」とある。さらに2項には「予算の執行の適正を期するため、自ら又は各省各庁の長に委任して、工事の請負契約者、物品の納入者、補助金の交付を受けた者・・・に対して、その状況を監査し又は報告を徴することができる」とあり、財務大臣には予算執行の適正化について強力な権限が与えられている。しかし、専任の職員は一人しかおらず、おざなりの調査報告しか行われていない。
○ 地方自治体においては、委員に役所のOBが入る等、監査委員制度、外部監査制度が形骸化している。
○ 会計検査院の検査対象は、国が直接支出をした相手となっている。その先の予算の使い方等には、任意調査以上の調査ができないとされ、厳格なチェックが行き届いてない。
(2)決算のあり方
○ 財務省は、財務省設置法第4条にある通り、「国の予算、決算及び会計に関する制度の企画及び立案並びに事務処理の統一」「国の予算及び決算の作成」に責任を負っている。
○ しかし、現在の決算報告は省庁からあがってきたものを単にホチキス止めしているにすぎず、財務省は義務を果たしていない。すなわち、決算報告を踏まえて予算を編成するという民間企業では当たり前のことがまったく行われていないのである。
○ 会計法10条には「各省各庁の長は、その所掌に係る支出負担行為及び支出に関する事務を管理する。」とあるが、それは、財務省の予算・決算への責任の免罪符ではない。
○ 歳出に関し、予算については予算決算及び会計令(予決令)第12条で、予算提出後の各目明細書の財務大臣への送付が義務付けられているが、決算については規定がない。つまり、決算により予算の積算が適正だったかをチェックできない。
(3)公会計・公契約のあり方
○ 公会計は、現金主義、単式簿記、単体決算で、国の財政状況を正確に把握できていない。
○ 特別会計に関する法律により、「財務情報を開示するための書類を企業会計の慣行を参考として作成し」「国会に提出し」なければならないとなったが、あくまで「企業会計の慣行を参考」としたものにすぎないのであって、また、一般会計には義務付けたものではない。
○ また、作成・提出までに時間がかかり、予算編成に活かされていない。
○ 財務省や会計検査院は、予算執行時に会計法10条の各省各庁の分担管理を盾にとり、各省各庁の判断に任せきりで、横断段的な観点に基づくチェックを行っていない。各省各庁の判断でずさんな契約がなされている。契約の相手方に対する責任追及も曖昧にされている。
(4)予算の使い切り
○ 不正経理を生む背景には、年度末になると予算を使い切ろうとするという官僚の体質がある。その最大の原因は、予算を余らせるとその分削減されることを官僚が避けたがることにある。
○ 官僚が予算を削減されることを嫌う原因としては、@予算を確保した官僚は優秀であるという風潮A対前年度比何%増減といった硬直的な予算編成を行っているため、一度廃止・減額した後に新規・増額要求する際手間がかかるB減額された分が他の課、局、省庁に配分されると、必要なときに取り返せないこと――等が指摘されている。
○ そのため、できるだけ前年度実績をつくろうと、年度末に不必要なものを買ってでも、予算消化に走る傾向となる。
○ 特に補助金については、地方自治体の同様の体質も原因ではあるが、予算を使い切るために年度も終わるぎりぎりの段階になって補助金の交付決定をするなど、中央省庁の体質にも原因がある。
○ また、事業を効率的に遂行できたために、補助金が余った場合でも、「補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律」(補助金適正化法)第18条第2項により、補助金の返還を余儀なくされるため、節約するというインセンティブが働きにくい。
(5)公務員の責任
○ 上述した通り、問題が起きたときに、単に個人の責任に帰したり、法律を一部だけを改正したりするのみで、組織の腐敗体質には目を瞑るという対応をとるべきではない。しかし、予算執行における公務員の責任の範囲は極めて限定されている。それが不正経理を生む原因のひとつになっている。
○ 「予算執行職員等の責任に関する法律」(予責法)第3条第2項では、国家公務員は「故意又は重大な過失」の場合のみ弁償責任があるとされている。
○ 懲戒処分については、国家公務員法第82条で、「職務上の義務に違反し、又は職務を怠った」等の場合、懲戒できるとなっているがゆえに不正経理に対する懲戒処分が実施されるかどうかの担保がない。ゆえに別途懲戒要求制度が予責法第6条1項で規定されているが、これも「当該職員の任命権者に対し」て「要求することができる」となっているだけで、義務となっていない。
○ 予算執行を行う地方公務員も地方自治法第243条の2により「故意又は重大な過失」の場合のみ弁償責任があるとされている。懲戒要求制度はない。
3.上記問題点に対する民主党の改革プラン
(1)会計検査および予算執行調査のあり方
政官の馴れ合い体質の中で現行制度すらきちんと運用していないという点が最大の問題であることは改めて指摘しておく。
民主党は、政権交代を実現し、明治以来の官僚を中心とする国の統治機構を根底から改めねばならない。政権交代の暁には、民主党は100人以上の議員を行政府に入れ、官僚に緊張感を持った対応をとらせる。
なお、法改正を含む検討事項については、以下の通りである。
@会計検査院法改正等
○ 会計検査に入った事項と経過をすべて報告させるよう、会計検査院法を改正する。
○ ただし、会計検査院が萎縮して確実性が見込まれる事項にだけ検査を限定することがないよう、経過報告の確実性については、会計検査院の責任を免ずる。
○ 独立性を担保するため、省庁同様、国家公務員の再就職あっせんを禁止するとともに、天下りの背景となっている早期退職勧奨を廃止する。また、定年を段階的に65歳まで延長する。また、事務官の拡充を行う。
○ 会計検査院が会計検査院法33条に基づく検察庁への犯罪の通告義務を適正に果たすことを求める。
A地方自治法改正
○ 公認会計士等の専門性のある監査委員が必要であるとともに、内部けん制が働く仕組みを構築する。
○ 監査委員の半数は弁護士・公認会計士・税理士等から選任するよう、地方自治法を改正する。
(2)決算のあり方
まず、財務省が義務を果たすことが重要であることは改めて強調しておく。その上で、以下の事項について検討する。
@政府調達監視等委員会の設置
○ 政府調達の事後的検証と是正措置を行う「政府調達監視等委員会」を設置する。
A国会の決算監視体制の増強
○ 早急に国会の行政監視体制を強化する。将来的には、国会の下に行政監視・行政評価を行う日本版GAO(Government Accountability Office)を設置する。
B予算書類と決算書類の一致
○ 予決令を見直し、歳出に関し予算について財務大臣への送付が義務付けられている各目明細書と同レベルの書類を決算についても財務大臣への送付を義務付け、決算により予算の積算が適正だったかをチェックできるようにする。
(3)公会計・公契約のあり方
@公会計にかかる立法
○ 国の財務書類作成・国会提出の法定化、提出時期の早期化を図る法案の早期国会提出を目指す。
A政府調達等監視委員会の設置等
○ 前述の「政府調達監視等委員会」には、調達方法の多様化や事前承認等の役割も担わせ、横断的な観点に基づく公契約のチェックを行わせる。
○ 契約形態については、原則として一般競争入札とすることが前提だが、それだけで談合、官製談合を防げるものではない。また、ダンピング、低品質な工事等の問題もあり、「政府調達監視等委員会」が横断的なチェックを行うにあたっては、それらの観点を踏まえる必要がある。
(4)予算の使い切り
@国民のニーズに合った予算編成
○ 対前年度比何%増減といった硬直的な予算編成は行うべきではない。事務事業をきちんと精査し、地方でできることは地方に、時代遅れで必要性に乏しいものは廃止、必要なものは大幅に増額する。官僚の予算の使い切り体質に左右されず、国民のニーズに合った予算編成を政治主導で行う。
○ なお、事務事業を精査するに当たっては、政策評価やコストパフォーマンスという視点も重視すべきある。
A補助金適正化法改正、一括交付金化
○ 補助金も節約すれば手元に一定の資金が残るようにするため、補助金適正化法第18条第2項を改正する。
○ なお、一括交付金化が実現すれば、このような補助金の構造的な問題は解消される。
(5)公務員の責任
民主党は、政権交代の暁には100人以上の議員を行政府に入れ、不正経理問題の徹底的な原因究明と責任追及を行い、組織的な腐敗も一掃する。当然、個人の責任も免罪となるわけではなく、以下のような厳しい対応が必要と考える。
@予責法改正
○ 予責法を改正し、予算執行職員の弁償責任の範囲を「故意又は過失」に広げるとともに、懲戒要求を義務化する法案の早期国会提出を目指す。
A地方自治法改正
○ 地方自治法を改正し、地方公共団体の予算執行を行う職員の弁償責任の範囲を「故意又は過失」に広げるとともに、国家公務員に準じた懲戒要求制度を設ける法案の早期国会提出を目指す。
以上
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