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2004/05/26
民主党農林漁業再生プラン(骨子)
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1:補助金行政から所得政策への転換(直接支払いの導入)
2:食料自給率の向上による食糧安全保障の確保
3:食の安心・安全の確保
4:農山漁村の活性化
5:農山漁村を支える女性支援
6:環境保全型農業の推進
7:バイオマスの推進
8:緑のダム構想による林業の振興
9:資源管理を重視した漁業の振興
農政は大胆に改革しなければならない。その第一歩が、価格支持や共同施設等への助成を中心とした補助金行政から直接支払いへの転換である。
農業・農村の活性化のため、第一に、農政の柱として直接支払いを導入し、我が国の自給率を高めることを目標とする。
従来食料安全保障を重視すべきという掛け声ばかりであり、自給率を上げるための国内施策がとられたこともなければ、国際交渉の場でもそれを具現化する提案がなされたことはなかった。その結果、カロリー自給率は40%と先進国ではずば抜けて低くなってしまった。我が国の農政が怠慢だったのである。長らく政権の座に安住した自民党農政のつけがこれほど如実に現れていることはない。どの世論調査でみても我が国の食料の先行きに不安を感じている国民が大半である。我々は、このような国民の不安を払拭すべく、あらゆる手段を尽くして、自給率を高め、農業・農村の活性化を図らなければならない。
直接支払は、いわゆるプロ農家などの特定の農家だけを対象とするのではなく、農業に意欲的に取り組んでいる農家全てを対象とし、作物としては、当面自給率向上に深く係わる土地利用型作物とする。食料の安定的確保という、国としての基本的責務を果たすため、国会における意思をも明確にしながら自給率目標を立てて、自給率を向上させることとする。
第二に、食の安全を確保し、環境保全型農業を推進する。雪印乳業事件、BSE、輸入野菜の残留農薬、鳥インフルエンザと国民の食の安全を揺るがす問題が立て続けに起きたことから、国民の食への不安・不信が高まっている。
こうした状況に対処するため、まず、地産地消・旬産旬消を推進し、地域内の自給率を高めるとともに、加工食品への原料産地表示の導入、輸入検疫体制の強化等により、食の安全・安心の確保に努める。
同時に、農業の生産現場では、環境保全型農業を推進するとともに、バイオマス利用を促進する。
第三に、農山漁村の活性化である。
都市への人口集中が進んでいるが、農山漁村は我が国の国土の大半を占めており、日本の発展を考えた場合、農山漁村の活性化を抜きに語れない。
農地制度を改め、農業に意欲のあるサラリーマンなどの農業への参入要件を緩和するとした。株式会社の農業への参入も利用権の設定により認めていく。
また、農業就業人口の約6割を占める農村女性の起業や子育てを支援するとともに、農協や農業委員会で女性の声を反映できるように目標を設定し、実現に努める。
以上のような農政の転換により、青年が農業に希望を持って取り組める環境をつくるとともに、農業の生産性を向上し、農村に活力を復活する。また、農林漁業の活性化により停滞を続ける地域経済を活性化する。
1:補助金行政から所得政策への転換(直接支払いの導入)
直接支払いによる食料自給率の向上
国の役割として、国民の生命・安全を守ることが第一にあげられる。これを農業分野にあてはめると、国民の必要とする食料を安定的に供給すること、すなわち食料安全保障に他ならない。ところが、我が国のカロリー自給率は1965年の80%から今や40%と急激に下がってしまった。鳴り物入りで制定された食料・農業・農村基本法に基づく基本計画において10年以内に45%に上げる目標が示されたが、5年後の今日も40%のままである。ほとんどの国はこの間に自給率を上げているのをみても、我が国の農政がいかに怠慢だったかを示す証左である。農業保護といわれているが、農家には補助金は届かず、生産意欲が低下してしまったのだ。我が国は、独立国として少なくとも大半の国民が安心できる食料自給率を維持していく必要がある。
民主党政権が誕生したあかつきには、農政を大胆に改革、従来の補助金行政から直接支払いへ転換する。食の安全・安心を求める国民の声に応え、自給率向上に深く係わる土地利用型作物に対して直接支払いをすることにより自給率を向上させることとする。
直接支払いは、我が国では、中山間地域の直接支払い以外に例はないが、EUでは、かなり前から条件不利地域、環境、代償的措置を理由とした支払いが行われてきた。我が国の場合は、多面的機能のうち、食料安全保障と環境(例:農村景観の維持)を理由として直接支払いする。
直接支払いの単価は、品目ごとに内外コスト差を補てんすることを目標とし、当面、米並みの収入をあげるように設定する。
食料安全保障は、国内生産と輸入と備蓄がうまくかみ合って確保する状態が理想である。しかし、我が国の過去の海外農林水産物の大量輸入とその結果としての急激な自給率の低下をみるかぎり、このままでは自給率を維持し、更に高めることは極めて困難である。今またWTOやFTAといった国際交渉が行なわれているが、過度な食料の輸入が生じてこれ以上食料安全保障を危うくすることがないように対応していく必要がある。
それと同時に、いざという時に備えて国家備蓄を行うとともに、何よりも国内農業生産を維持し、国産の食料の消費を拡大していかなければならない。
(1) 基本方針
1兆円の直接支払いを導入して、農政の転換を図る。
目的は、第一に、我が国の自給率の向上により食の安心・安全を確保すること。第二に、農業の持つ多面的機能を維持すること、第三に、国土の均衡ある発展を図るため地方経済を活性化すること。第四に、土地利用型農業に係る作物が値下がりする中で、農家が農業を持続できるような条件を整備すること、である。
1兆円の財源は、米の生産調整の廃止に伴い浮いてくる生産調整関係補助金、農林水産公共投資、一般公共投資、(将来的には環境税)とする。
(2)直接支払の導入
(直接支払いによる食料自給率の向上)
対象は、当面、自給率の向上に資する、米、麦、大豆、雑穀(そば等)、菜種、飼料作物として作物ごとに面積あたりで耕作者に直接支払いする。
国は、上記の6つの作物についての生産目標が確保されるように、生産数量の目標(備蓄に必要な数量を含む)を設定する。また、都道府県においても同様の目標を設定し、市町村においては、生産者の申請に基づいた地域別の割り当てを実施することにより目標の達成に努める。
耕地利用率を上げるため、田の二毛作を特に促進する。
直接支払いの単価は、当面は、生産者(耕作者)に米並みの収入を確保できるものとし、将来的には、我が国と海外生産コストの差を補てんすることを目標とする。
捨て作りを防止し、生産性の向上に資するため品質加算を行う。また構造政策の推進に資するため規模加算を行う。
直接支払いの導入に伴い、米の生産調整は廃止する。
野菜、果樹、畜産物などの他の農産物については、当面現行の価格支持制度を存続させ、その制度の改革にあわせて、順次直接支払いを導入していく。
(中山間地域における直接支払い)
5年間の経験を活かし、今後はいわゆる地域振興立法8法の指定地域(特定農山村、山村振興、過疎、半島、離島、沖縄、奄美、小笠原)を対象とし、対象農用地も、傾斜等の要件を大幅に緩和して継続する。予算額も年間ベースで330億円だったが、参加農家数なり集落協定数に応じ、漸次増加していく。
(環境保全型農業に対する直接支払い)
消費者が食べ物の安全性に対する関心をますます強めつつあり、今後はこうした消費者ニーズに応え、環境保全型農業を推進していく以外にない。ところが、我が国はヨーロッパと比べると高温多雨であり、病虫害が発生しやすく、また環境保全型農業を導入すると、農薬や化学肥料を利用した慣行栽培に比べて生産量が落ち、収入が減少することから、EU諸国と比べると有機農産物の生産量は非常に少ない。
環境保全型農業を推進するため、5年間以上にわたって環境保全型農業を行うために計画を作成した者に対しては、それに伴う収入の減少や追加的経費について直接支払いする。
(3) 我が国の直接支払い導入の理屈付け
(多面的機能と直接支払い)
農業の多面的機能には、1)食料安全保障、2)環境、3)農村社会の安定、4)食の安全、5)動物の権利等様々なものが含まれる。そして、環境を理由とする直接支払いはWTO上も最も認められやすく、既にEUでも導入されている。
環境支払は農業のポジティブな役割(例.景観の維持)に対する対価とネガティブな面を軽減することに対するもの(例.1ha当たりの牛の肥育頭数を2頭以下に押える)とがあるが、後者の方が生産制限的なので認められやすい。
2003年4月、OECDがレポートを作成して、多面的機能を理由とする直接支払いを認める条件として、1)多面的機能と農作物の生産との結びつき、2)市場の失敗、3)公共財的性格があるか他の支援措置がない、の3つが示された。
(多面的機能のうち食料安全保障と環境を理由とする直接支払い)
そこで考えられるのが、我が国の国民が安心できる食料自給率の確保、すなわち食料安全保障を理由とする直接支払いである。WTO協定上、食料安全保障を理由とする備蓄に要する費用は緑の補助金として例示されているが、食料安全保障を目的とした直接支払いは例示されておらず、かつ生産にリンクしていることから明確な緑の補助金とはいえない面もある。しかし、我が国の特殊な立場を考慮した緊急措置としてWTOに緑の政策として通報する。
これに景観を維持し、国土保全機能も満たすことに対する環境支払も加えることができる。
仮に、緑の補助金として認められないとしても、1兆円の直接支払いは既存の約8000億円と合わせても、WTO農業協定上の約束で農業保護(AMS)の削減に関する2000年の約束水準(3兆9,729億円)の内におさまっており、黄の政策としても何ら問題はない。
2:食料自給率の向上による食料安全保障の確保
食料自給率の向上
(自給率向上目標)
政権交代10年後に自給率40%を50%に上げ、将来は60%以上にすることを目標とする。
(具体的考え方) (資料参照)
2002年
生産量 過去最大生産量
(アップ率) 過去最大面積×最大単収(アップ率)
小麦
83万t
400万t
(8.0%)
779万t
(17%)
雑穀(そば)
3万t
5万t
(0.05%)
9万t
(0.1%)
大豆
27万t
52万t
(0.9%)
86万t
(2.2%)
飼料作物
3,690万t
4,400万t
(0.4%)
4,400万t
(0.4%)
菜種
0.1万t
32万t
(0.9%)
64万t
(1.8%)
アップ率計
10%
21%
目標達成のために10年以内に過去の最大の生産量(すなわち我が国農業の潜在的生産可能量)小麦400万t(自給率8%アップ)、大豆50万t(自給率0.9%アップ)、菜種30万t(自給率0.9%アップ)などを増産し、自給率を50%に上げる。
なお、過去最大の作付面積で過去最大の単収(単収はもっと高くなる可能性がある)をあげると、合計21%アップすることから、将来の目標は60%以上とする。
食料安全保障の見地から米の備蓄
麦、大豆などに米並みの収入を確保することを目的とした直接支払いにより、米の生産が長期的に減少する予測がされるが、米の生産調整を廃止し、かつ米も直接支払いの対象とすることから一時的に余剰が生ずる可能性がある。これらの余剰米を異常気象などによる世界的な食糧危機に備えて備蓄する。
その場合、1993年の冷害の時に259万tを緊急輸入したことからしても、少なくとも300万tの国家備蓄が必要である。
備蓄は余剰米を国が買い上げ、各々の産地でモミのままでカントリーエレベーターに隣接されたサイロに低温のままで保管する棚上げ方式による国家備蓄する。
なお、300万t以上の余剰米や一定期間保有した備蓄米は海外援助やバイオマス利用などに利活用する。
食生活スタイルの見直し
(国産食料の消費拡大)
自給率算定の基となる食料消費すなわち食生活の見直しによる、自給率のアップも考えていく。例えば、米の消費等は、50年前の半分の62kg/1人となっているが、これを1人5kg余計に食べれば、2%自給率がアップする。
また、各地で地産地消・旬産旬消を実践し地域間の自給率を上げれば、日本全体の自給率はたちどころに数%アップする。
この他、日本国民が生活習慣病、食源病等に悩まなくてすむように、適切な食生活指針を示し、学校教育の場などを通じて啓蒙普及していく。
(加工原材料の原料産地表示)
・更に、加工原材料の原料産地表示により、食品産業が国産原料の利用を増やせば、やはり自給率の向上につながることが予測される。
3:食の安心・安全の確保
(地産地消・旬産旬消の計画的推進)
全国的なレベルで地産地消(そこでできたものをそこで食べる)、旬産旬消(その時できたものをその時に食べる)を推進し、地域内の自給率を高めるとともに、我が国全体の自給率向上にも資する。
地方自治体でも地産地消・旬産旬消推進計画を作成し、一般消費者、農林水産関係団体、食品産業界(食品加工業、食品流通業、外食産業を含む)学校給食関係者等に周知徹底し、地域が一丸となって地域経済を活性化する。
(学校給食における地産地消・旬産旬消の推進)
地産地消・旬産旬消は、食農教育の観点からもまず学校給食から始める。野菜や果物、魚といった新鮮さを要求されるものばかりでなく、米・麦・大豆等も地元産を優先的に活用するとともに、地域の農林水産業の実情と重要性を教える手段としても有効活用する。
今、国産小麦が復活しつつあるなかで、近くに製粉工場がないためコストがかさみ、なかなか地場産小麦を給食等に活用できないという事情がある。このため、小麦生産がある程度の量に達した地域においては、中小の製粉工場の復活に対し国が積極的に助成していく。
(加工食品への原料産地表示の導入)
我が国の消費者は、BSEや鳥インフルエンザを経験し、ますますトレーサビリティに関心を持つに至り、原料産地の表示を求めている。こうしたニーズに応えるべく、加工食品、更には外食においても原料産地表示を義務化していく。
農林漁業と食品産業は車の両輪である。しかし、我が国の農林漁業は生鮮食品供給産業化してしまった嫌いがある。原料産地表示を契機として、加工原材料や外食産業用の原材料の提供にも力を注ぐ必要がある。我が国の食は外部化の度合を強め、外食産業のみならず、中食も重要な割合を占めるに至っており、これを抜きには我が国の食も農も語れない状況になっている。逆に食品産業サイドも国産原材料を活用し、我が国の農林漁業の発展に寄与していくモラルを持ち合わせなければならない。これにより、我が国の自給率向上にも拍車がかかることは確実である。
(食品産業と原料産地をつなぐ)
食品加工業は、原料産地に立地する傾向は強く、まさに地域経済の牽引車でもある。また、外食産業は500万人弱の雇用を支える重要な産業である。食品流通業界も地域の大切な雇用の場を提供している。地域経済が停滞する昨今、国産農林水産物を原材料とする食品産業の振興を図っていくことが急務である。このため、我が国の食品産業に対して国産原材料の安定的供給を図っていく観点から、食品業界と農協等が契約栽培を導入した場合には、国産化に伴う値上げ分等(例、2004年春の大豆の高騰)に対しては一時的に補填を行う仕組みを制度化する。
(輸入検疫体制の強化・拡充)
輸入食品について、国内と同等の食品安全基準なり動植物検疫基準を設けるべく、輸入先国に強く求めていく。また、輸出国がその基準を遵守することを我が国の輸入の条件としていく。
食料輸出国の食の安全確保体制については、主要な輸出国に輸入国の立場から調査を行う国際食品検査官(仮称)を配置する。検査官は必要に応じ、輸出国に改善などの申し入れを行う。
また、輸入食品は全国31ヶ所の検疫所でわずか280人の検査官によって検査されているだけであり、わずか5%のモニタリング検査にすぎない。我が国の国境における検疫体制を大幅に拡充・強化する。
(輸入牛肉に対するトレーサビリティの義務付け)
我が国では、BSE発生後、国産牛肉について「牛肉トレーサビリティ(生産履歴)法」が制定され、細切れ肉とひき肉を除くすべての生鮮牛肉について履歴を示すラベル表示を行うことになった。外国産牛肉は、現在何の表示もなく輸入されているので、国産牛肉と同様にトレーサビリティを義務付ける。
4:農山漁村の活性化
都市と農山漁村の交流の推進
21世紀を迎え、今、農山漁村に新しいライフスタイル求めて関心を持つ人たちが増えつつあり、この流れは若者から定年退職者まで幅広い各層に広まっている。また、農山漁村を訪れる人の数も増えつつある。農山漁村はこのような新しい動きに対応して活性化していかなければならない。
(農山漁村の持つ多面的機能の活用)
農山漁村におけるやすらぎ、いやし、医療・療養の機能などの各方面への活用を推進する。特に小・中・高における自然体験、農林漁業体験の学習を重視し、農作業を通じての心身障害の回復・機能向上を促す園芸療法の普及拡大を図る。
(グリーンツーリズムなどへの支援)
グリーンツーリズム、ブルーツーリズム推進に向け、少人数宿泊を目的とした民宿等の消防法、環境衛生法などの規制緩和をする。新規に民宿を設立する場合、既存の施設の改築に際しての無利息融資制度を創設する。
この他農山漁村の優れた点を活用した雇用と所得の拡大のために情報提供等の支援を行う。
農地制度などの改善
農地制度については、できるかぎり参入規制(入り口規制)を緩和するとともに、農地所有者の耕作義務の明確化や転用規制(出口規制)の厳格化により、なるべく意欲のある多くの者が農業に参入できるようにすることを基本として改革を進める。
(株式会社、NPO法人などの農業への参入)
地域の農地は地域の農家等が効率的に利用することが基本としつつも、遊休農地などについて地域の農家や農業生産法人などの引き受け手が見つけ難い場合には、農業生産に意欲のある株式会社、NPO法人などに耕作の継続を条件として利用権の設定を認める。
農業生産法人については現行の要件(農業関係者の構成員が3/4以上の議決権を持つこと、役員全体の半分以上が150日以上の農業従事者であること等)を緩和する。
(農業に意欲のあるサラリーマンなどの農業への参入要件の緩和)
農業を実践したいというサラリーマンや定年退職者などが増えている状況を踏まえ、市町村が一定の要件を満たす地域を指定し、その地域内における農地取得の下限面積条件(現行:都府県50a、北海道2ha)を地域の実情に合わせて緩和する。
この場合、
1)農業を継続すること
2)市町村の農地の利用計画に基づくこと
3)転用を認めないこと
4)原則として他人への譲渡を認めない 等を要件とする。
(農地面積の確保)
農地面積は、昭和36年の609haをピークに減少し続け、平成15年には474万haへと40年余りの間に135万ha減少した。その大きな要因は転用と耕作放棄によるかい廃である。農地は、農業生産にとって最も基礎的な資源であり、わが国の食料安全保障の観点からもその確保と有効利用に積極的に取り組む必要がある。
このため、転用許可制度の趣旨に沿い、しっかりとした土地利用計画策定とその厳格な運用によって、無秩序な転用を防止する。また、耕作放棄農地については、所有者の耕作義務を明らかにし、市町村が耕作勧告をした後、耕作意欲のある者に利用権の設定を命じる権限を与えるなど、市町村の権限を強化した対策を講じる。
以上のような政策を中心に、国は将来にわたって現在の面積(470万ha)程度の農地を確保する。
5:農山漁村を支える女性支援
(女性起業の支援制度の創設)
農村女性は、農業就業人口の約6割(農業就業者数375万人のうち208万人と現在約55.5%も占めている)を占めるなど、農業や地域の活性化に重要な役割を果たしている。ところが、女性が直売所や、加工場を設けたり、レストランを開業したりする場合、いろいろな優遇措置のある制度金融には、馴染みにくい。
このような状況にかんがみ、農山漁村女性が農地を取得したり、その他のビジネスを起業することを積極的に支援するため、農山漁村女性起業支援法を制定し、農山漁村を活性化する。支援の仕組みは、青年就農支援法と同等のものとする。
(農山漁村女性子育て支援ヘルパー制度の創設)
我が国の合計特殊出生率も今や1.32と下がってしまったが、こうした中で、自然条件に恵まれた農山漁村は本来子育てに適した地域であり、いまだ、出生率は大都市に比べ高い水準にある。
ところが、農山漁村女性には都市勤労者に認められている産休制度はなく、また、かつて子育てを助けてくれた祖父母は、今は介護を必要とするようになり、子どもを産み育てる環境はむしろ都市部より劣化しつつあるのが現状である。
こうした状況に対処するため、酪農ヘルパーにならい、農山漁村女性向けに支援ヘルパー制度を導入し、産休・育休期間に農作業等を代替する者を農協等に事前配置し、その賃金の半分を支援する制度を創設する。この制度は介護休業にも同様に適用する。
(女性の声を反映する目標の設定)
男女共同参画法の制定以来、各方面で男女共同参画のためのいろいろな努力がなされている。しかし、やはり農山漁村においては、まだ、女性の声が反映されにくいのが実情である。
このような閉塞的状況を打開するため、農協、森林組合、漁協等の理事、農業委員、土地改良区理事において地域の実態に合わせて女性理事などの数値目標を設定し、その実現に努める。
6:環境保全型農業の推進
(地域農業環境計画(ないし地域資源循環利用計画)に基づく環境保全型農業の推進)
永続的な農業生産を続けるためには、各地域において気候・土壌等の自然条件に合ったバランスのとれた農業生産形態が必要である。
このため、それなりの広さを持つ農協単位あるいは市単位で、地域農業環境計画(ないし地域資源循環利用計画)を作成し、地域全体の農業形態を徐々に循環型に変えていく必要がある。
そうした中で、例えば加工畜産地帯では堆肥を利用した野菜振興を行い、逆に野菜地帯では、近隣の畜産地帯と協議して堆肥の供給してもらうといったいわゆる耕畜連携を強化する。このような耕畜連携に必要な家畜排泄物処理施設などについては国が助成する。
現在家畜排泄物や廃棄物のリサイクルや環境保全型農業の導入についてバラバラの法体系となっているが、これらをまとめて「生物資源の循環利用による環境保全型農業の促進に関する法律」(仮称)として一本化し、統合的・一体的な施策の推進を行う。
(実施の重点化と環境を重視した農業農村整備事業(農業公共事業)の展開)
水路や農業用ダムなどの農業水利施設の整備や水田の区画整備などの農業公共投資については、農地の集積等の農政課題の実現のために重点的に実施する。
農家負担については、特に基幹となる農業水利施設の整備にあたっては、その公共性などにかんがみ、極力軽減する。また、農業水利施設をはじめとする農業公共事業は、維持管理に対する支援を充実する。
また、事業の実施による水路の三面コンクリート化により、メダカを絶滅危機品種に追いやるなど自然生態系を破壊してきた面があることを踏まえ、生産性向上だけではなく自然との調和を考えた、いわば環境回復型事業へ大きく転換する。
更に、生ゴミ、家畜排泄物等による有機質肥料も結局は農地に還元するしかないことから、農業公共予算にこれらの事業を加える。
(循環保全型農業技術の研究)
我が国に限らずここ数10年の農業技術の進歩は品種改良を除けば、専ら物理(農業機械)、化学(農薬・肥料)の分野の研究成果によるものが大きい。それに対し、21世紀は環境の世紀であり、生物学の時代である。環境と調和した農学・生物系の研究を大幅に拡充強化する。
7:バイオマスの推進
(基本方針)
農林漁業は、食だけでなくエネルギーと衣と住をもまかなうことができ、それさえあれば人間が生きられる命の産業である。
日本も江戸時代までは、外国の資源に頼ることなく、まさにバイオマスが中心の循環社会だった。しかし、明治維新以来、工業化が進み化石資源に依存するようになり、農林漁業さえ農薬、化学肥料、抗生物質にまみれとなり工業化した。エネルギーは植物及び植物油から化石燃料となり、衣服も天然繊維から合成繊維になり、住居や家具も国産木材からコンクリートになった。
日本の再生を考えるに当たり、もう一度バイオマスを有効活用する循環を見直し、農林漁業をエネルギーと衣食住を安定的に供給する役割を果たす命の産業に復活させる。バイオマス廃棄物はすべて再利用可能であり、ゼロエミッションにより、循環社会を形成する。
(バイオマスの利用の促進)
バイオマスの利用は多岐にわたる。エネルギー利用としては、木質系廃材や間伐材の直接燃焼、家畜排泄物からメタン発酵によるメタン、廃食用油からバイオディーゼル燃料、でんぷんからエタノール発酵した液体燃料等がある。製品としては、未分解性の木質プラスチックもある。
技術開発途上のものもあれば、完成されつつあるものもあるが、循環社会実現のため、国の研究レベルから地方段階の実験レベルまで、それぞれの段階でバイオマスの利活用を推進する。
(バイオ産業を国家戦略として位置付ける)
我が国では環境汚染や地球温暖化といった環境問題はますます顕在化しつつある。こうした中で、バイオマスを新たなエネルギーや製品に利活用する環境調和型・資源循環型のバイオ産業を、21世紀を担う日本の戦略的産業として育成していく。
このため、試験研究開発に重点投資する他、様々な支援措置を講ずる。更に、バイオ燃料の非課税などバイオ関連産業については税制上の特別措置を講ずる。
(バイオ産業による農山漁村の振興)
農山漁村こそ、大量のバイオマス資源を産出する条件に恵まれた地域である。バイオ産業を育成し、雇用の場を創造し、地域経済の活性化を図るため、一定の地域をモデル地区として指定し、重点的にバイオ産業を育成していく。
この財源は科学技術関係予算やエネルギー関係予算(さらには環境税)等農林水産省予算以外のものから充当する。
8:緑のダム構想による林業の振興
(基本方針)
森林は、林産物の供給はもとより、国土の保全、水源の涵養に加え、自然環境や生活環境の保全、保健文化的な役割が重視されている。特に平成9年に国連気候変動枠組条約第3回締約国会議において、「京都議定書」が締結されたことを契機に、二酸化炭素を固定し地球温暖化を防止する役割が注目されている。
森林の持つこうした役割を効果的にさせるためには、森林の形態に応じた良好な管理によって健全な森林を育成することが必要である。しかしながら、安価な木材輸入の増大、長期にわたる木材価格の低迷などにより、林業の採算性は大きく低下し、林業生産活動の停滞という深刻な事態に直面している。
こうした事態に対応するため、わが国林業は、諸外国に比較して人件費をはじめとして経営コストが高くならざるをえないことを直視し、国家として森林の整備及び保全をしっかり支えることが必要である。
また、木材は再生産可能な資源であるとともに、バイオマスエネルギーとしての利用が化石燃料の使用を抑制できるという点で人と環境にやさしい素材であり、資源循環型の社会を構築するためにもその利用を確保していかなければならない。
(森林整備の目標)
このため、間伐などの森林整備を作業道の整備などとともに10年間で1000万haを実施し、管理された良好な森林(天然生林を含む)を育成すると共に、京都議定書の二酸化炭素削減目標の達成に必要な森林吸収源を確保する。
この整備のため12万人の労働力を確保する。また、将来にわたって林業の労働力を安定的に確保することに資するため、高性能林業機械の導入など森林施業の機械化への支援を充実し、労働強度を軽減した合理的な省力作業を促進する。
(財源の捻出 = 緑のダム事業への転換)
財源として治山治水事業を中心とした公共事業予算全般の見直しなどによって、初年度に1000億円、4年後に2500億円を捻出するとともに、環境破壊型公共事業から環境・緑を守る持続可能な「緑のダム事業」への転換の嚆矢とする。また、揮発油税の一般財源化にあわせ揮発油税率の1パーセント相当分を財源に充当することも検討する。
(国産材の利用拡大)
木材においても地産地消と需要拡大を目指す観点から、国産材を使った住宅建築に対する融資制度の充実、税制上の特例措置や、学校、交番などの公共建築物への一定量の国産材使用の義務付けなど、その利用の促進を図る。
特に、森林整備にともなって発生する間伐材については、公共事業への一定量の使用の義務付け、エネルギー源や生分解性プラスチックといった新素材の開発・普及などの木質バイオマス利用の推進によって、その利用の拡大を図る。
(森林に対する直接支払い制度の導入)
森林の持つ多面的機能に着目して、面積や木の種類等に応じた森林への直接支払いを導入する。この直接支払いにより間伐や草刈り等を行い、上記の雇用創出と森林整備に役立てる。
9:資源管理を重視した漁業の振興
(基本方針)
わが国の漁業は、かつて世界に唯一の水産国として海外へ輸出していたものが、今や世界最大の水産物輸入国(年間1兆8000億円)に転落し、水産物の自給率は53%までに急落した。
円高等の影響により輸入魚の急増による魚価の低迷、乱獲による資源の枯渇で、漁業離れが急速に進んだ結果、現在漁村集落は崩壊の危機に瀕している。ところが水産予算3000億円のうち、2000億円は依然として漁港整備予算であり、インフラの整備は進んだものの、漁船が繋がれない漁港も続出するに至った。
これらを見直して、わが国の水産資源の本格的な回復をはかり、併せて徹底した資源管理をすることにより、諸外国にその範を示し、漁村を再び活性化する。このため、以下のような施策を講じる。
(漁業資源の調査、研究の整備)
水産総合研究センターが、各県の水産試験場と密接な連携のもと、2年間で各魚種ごとに徹底した沿岸、沖合いの資源の調査を実施する。
(資源回復事業の実施)
前記の調査研究をもとに、国において、各海域・魚種ごとに、具体的な資源回復計画を作成する。
資源減少魚種については、秋田のハタハタで成功したように、禁漁期間、禁漁海区を設定し、漁獲方法についてもまき網、底曳などの綱目などの見直し、操業海域などの見直しを図り、資源回復事業を実施する。それらにともなう休業補償、海の掃除などの費用は漁業者と国において負担する。
(資源管理の徹底)
漁船(漁業者)を総番号制にして漁獲量を把握し、TAC制度を徹底して国が責任をもって資源管理を行う。
さらに、日本の沖合い、沿岸の魚種を、資源が豊かな魚種(緑)、減少傾向にある魚種(黄)、減少して保護しなければならない魚種(赤)に分類する「シーフードウオッチ制度」の導入を検討する。また、水産加工品にも原料産地表示を進める。
(資源管理のための合理的な輸入の制限)
わが国で資源管理を徹底しているのに、漁場を共有する外国から無制限に魚介類が輸入されると、漁業者にとって資源管理が意味をなさなくなるので、合理的な輸入規制を行う。
(公共事業による「海中の森」の造成)
産業・生活廃水などで汚れた全国各地の海辺において行われている昆布等の海藻による浮沈式の大型海中の森造成事業は、魚介類の増殖に役立つばかりでなく、水質の浄化やCO2の吸収による地球温暖化対策等、環境保全にも大きく貢献している。
我が国沿岸海域において資源回復を図るため、魚介類の産卵場・養卵場である「海藻による海中の森」を公共事業で造成する。
(漁村集落に対する直接支払い)
漁村集落は、漁業資源の生産力維持、浜辺などの海の環境保全、ところによっては国境における不審船の監視などの役割を担っている。
海辺の持つ魚介類の生産力は、日本の食卓の主要な動物性たんぱく質の供給源であることから、自給率向上のためにも、これら漁村集落が自主的に各浜ごとに行う資源回復事業(海の掃除、一定期間の休漁、稚魚の放流)に対して、農業における中山間地域の直接支払いと同様に、直接支払いを行う。
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