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2004/06/23
民主党「憲法提言中間報告」
民主党

(要約版)

I.文明史的転換に対応する創憲を

〜クローバル化・情報化の中の新しい憲法のかたちをめざして〜

 

1.いま何故、憲法論議が必要なのか?

私たちはいま、文明史的転換期に立っている。

第1に、近代社会の国家間の暴力や戦争、帝国的な民族支配に代わって、国際テロ・民族浄化・宗教紛争や新型ウィルスの発生、地球温暖化問題など「新しい共通の脅威」が地球上を覆い始めている。これに伴い紛争の形態も変化し、「国際協調による共同の解決」が主流となりつつある。

第2に、社会の中心的動力が、これまでの「物質的富」に代わって、「情報」にシフトしていくということである。急速な情報化は、人間社会の基本が、人間と人間、社会と社会の間の「コミュニケーション」にあることをいよいよ明らかにしつつある。物質をめぐるゼロサム・ゲームに対して、情報を通じたプラスサム・ゲームへと歴史は大きく転換する。

第3に、環境権、自己決定権、子どもの発達の権利、少数民族の権利など、21世紀型の新しい権利の台頭は、人間の尊厳が、国家の枠を超えて保障されるべきものであるとの「地球市民的価値」を定着させてきている。

第4に、世界において人間一人ひとりの力が急速に上昇し、情報化技術によって地球規模のネットワークを生み出して、言わば人と人を横に結ぶ「連帯革命」が生まれている。あるいはまた、世界的傾向としての「分権革命」の運動となっている。

 こうした大きな眺望の下に立つとき、いま私たちが試みなければならない憲法論議の質が、懐古的な改憲論や守旧的な護憲論にとどまるものでないことは明らかである。いま必要なのは、こうした歴史の大転換に応えて<前に向かって>歩み出す勇気と、日本が国際社会の先陣を切る決意で、21世紀の新時代のモデルとなる、新たなタイプの憲法を構想する<地球市民的想像力>である。

2.未来を展望し、前に向かって進む

しかしいま、日本では、一方に、既成事実を積み重ねて憲法の「空洞化」を目論む動きがある。他方には、憲法の「形骸化」にもかかわらず、それを放置しようとする人たちがいる。私たちは、憲法の空洞化も形骸化も許さず、これを国民生活の中に生きたものとして発展させていく。目先の利害や政治的駆け引きにとらわれることなく、50年、100年先を見通した、骨太の憲法論議が必要である。

第1は、グローバル社会の到来に対応する「国家」のあり方についてである。

 そもそも、近代憲法は、国民国家創設の時代の、国家独立と国民形成のシンボルとして生まれたものである。それらに共通するものは、国家主権の絶対性であり、国家による戦争の正当化であった。これに対して、21世紀の新しいタイプの憲法は、この主権の縮減、主権の抑制と共有化という、まさに「主権の相対化」の歴史の流れをさらに確実なものとし、これに向けて邁進する国家の基本法として構想されるべきである。それは例えば、ヨーロッパ連合の壮大な実験のように、「国家主権の移譲」あるいは「主権の共有」という新しい姿を提起している。

第2に、急速に進展する情報化が「個人」と「社会」のあり方そのものを劇的に変化させている。個人はこれまで、地域社会や階級・民族など様々な中間的団体組織へ組み込まれて、その中で人生を全うすることを余儀なくされ、私的領域とされたこれらの社会や組織の中では、人権保障はなかなか及ばないとされてきた。しかし、国民の権利意識の向上と個人の自立及び情報化の進展は、家族における抑圧や、民族や宗教の名による人権の侵害、企業権力による不当な差別をも、憲法の下に据えることを要求している。プライバシーの権利や情報へのアクセス権、国民の知る権利、あるいは文化的少数者の権利など「新しい権利」も提起されている。未来志向の憲法は、まずこの課題に応えていかなければいけない。

第3に、「自然と人間の共生」にかかわる環境権の主張もまた例外ではない。21世紀型の新しい人権の確立に向けて、時代は大きく転回しようとしている。私たちは、日本が培ってきた「和の文化」と「自然に対する畏怖」の感情を大切にするべきであると考えている。「和」とは、調和のことであり、社会の「平和」を指すものである。21世紀のキーワードはいまや、「環境」「自然と人間の共生」、そして「平和」であり、日本の伝統的価値観の中にその可能性を見出し、それを憲法規範中に生かす知恵がいま必要である。

そして第4に、人間と人間の多様で自由な結びつきを重視し、さまざまなコミュニティの存在に基礎を据えた社会は、異質な価値観に対しても開かれた、「寛容な多文化社会」をめざすものでなくてはいけない。これもまた、唯一の正義を振りかざすのではなく、多様性を受容する文化という点においては、進取の気風に満ち、日本社会に根付いた文化融合型の価値観を大いに生かすことができるものである。

3.新たなタイプの憲法の創造に向かって

 もともと、「憲法(コンスティテューション)」とは、国家権力の恣意や一方的な暴力を抑制することに意味があった。あるいは国家権力からの自由を確保することにあった。

 新しいタイプの憲法は、何よりもまず、日本国民の意思を表明し、世界に対して国のあり方を示す一種の「宣言」としての意味合いを強く持つものでなければならない。そのことを通じて、これを国民と国家の強い規範として、国民一人ひとりがどのような価値を基本に行動をとるべきなのかを示すものであることが望ましいと考える。同時に、憲法は、法規範としての機能を果たさなければいけない。それを侵すならば、それに相応しいペナルティが課せられる「法の支配」が貫徹されるものとすることが重要だ。未来志向の新タイプの憲法は、日本国民の「精神」あるいは「意志」を謳った部分と、人間の自立を支え、社会の安全を確保する国(中央政府及び地方政府)の活動を律する「枠組み」あるいは「ルール」を謳った部分の二つから構成されるべきである。

 

4.憲法を国民の手に取り戻すために

 今日の日本政治の現実は、こうした時代の流れに逆行し、憲法の形骸化・空洞化を推し進めている。いまや、憲法は「クローゼット中に」押し込まれて、国民の日常生活や現実政治とは遠いところに置かれている。どのように立派な法であっても、それが不断に守られ、生かされるのでなければ、国の枠組みやあり方を規制する基本法としての役割は果たせない。この現状を克服し、「法の支配」を確立することがいま何よりも必要である。

 未来志向の憲法を打ち立てるに際しては、国民の強い意志がそこに反映されることが重要である。しかし、日本ではこれまで、憲法制定や改正において、日本国民の意思がそのまま反映される国民投票を一度も経験したことがない。私たちは、憲法を国民の手に取り戻すためにも、やはり国民による直接的な意思の表明と選択が大事であること強く受け止めている。

II.統治機構

(1)分権国家・日本のかたちを鮮明にした。

 国民の信託により、中央のほか、地域にも政府が存在することを認め、日本が分権国家として構成されることを明確にする。このため、中央政府の役割について限定列記し、地域にできることは地域においてこれを担うことを明記する。

(2)首相主導の議院内閣制度の確立

とくに「政・官関係の見直しと政治任用の拡大」において、イギリスをモデルに新しいルールを提案している。_行政組織権は執行権を有する内閣総理大臣に属することを明確にするとともに、政治的リーダーシップを発揮するため、政府の中に政治任用を拡大する。_内閣以外の議員の行政への関与を厳しく制限して、行政のコントロールに関する内閣の主導性を確保する。具体的には、政治家と公務員との接触に関するルールを設けて、政府にあっては大臣を通じて与党議員は公務員にアクセスできるものとし、野党に対しては第一党のシャドーキャビネット大臣に同様の役割を持たせて、それ以外の政治家が直に接触することを原則禁止する。

(3)二院制のあり方と政党の位置づけ、選挙制度

現行の参議院の役割を大幅に見直し、例えば参議院議員の大臣指名の廃止、衆議院における予算審議と参議院の決算審議の役割分担、長期的視野に立った調査権限や勧告機能の拡充などを検討する。

また、憲法付属法としての性格を持つ政党法を制定する。選挙制度は、憲法の根本規範の一つである国民主権の根幹に関わるものであり、政治家や政党による恣意的な修正を許すものであってはならないとの考えに立ち、選挙制度の基本については憲法上の規定を置く。

(4)違憲立法審査制の確立

 ヨーロッパや韓国などが採り入れている憲法裁判所もしくは憲法院など違憲審査のできる固有の審査機関を新たに設置することを検討すべきである。

(5)硬性憲法と憲法改正手続き

 硬性憲法の実質を維持しつつも、より柔軟な改正を可能とするために、_改正事項によっては、各議院の3分の2以上の賛成があれば、国民投票を経ずとも憲法改正を可能とする、_ただし、主権の移譲など重要な改正案件に限定して国民投票を義務付け、その場合、有効投票の過半数の賛成を条件とする、など改正手続きを見直す。

III.人権保障

 今日、人権の実現と保障は「国際社会の共通の利益」と認識されており、日本における人権もまた、憲法とともに国際法規範によって支えられている。

(1)新しい人権

「プライバシー権・名誉権」「知る権利」「環境権」「自己決定権」を何らかのかたちで憲法上に明記すべきである。

(2)独立性の高い国内人権保障機関の設置

独立した第三者機関としての「人権委員会」の設置を憲法に明記する。人権保障機関には、強制手段を含む救済訴訟の機能を付与する。公権力に対する強制調査手段とともに、私人間についても、一定の厳格な要件の下で強制調査の権限を有するものとする。この権能は、メディアによる人権侵害についても適用される。

(3)「法の下の平等」の現代的保障

「法の下の平等」が確保されることは憲法上の要件であることを踏まえ、「差別禁止」が私人間であっても適用できるものへと憲法及び関係法の見直しを行う。

(4)情報化社会における表現の自由の制約

「表現の自由」については、それが人権侵害につながることないよう配意したものにし、その内容を何らかのかたちで、憲法で明示する必要がある。国家機関から独立した第三者機関としての「人権委員会」設置を憲法上明記し、メディアによる人権侵害に対しても、一定の厳格な要件の下で強制調査の権限を与えるべきである。

(5)職業選択自由の保障のための責務

職業機会は、すべての人々に開かれたものでなければいけない。このため、国及び公共団体は家庭と仕事の両立支援の責任を負い、企業はこの両立を理由として差別的な待遇を行うことは禁止される。「職業選択の自由」を保障するために、職業能力開発支援と年齢や性別による差別を禁止することは国及び地方公共団体の責務であると規定する。

(6)外国人の人権

「地球市民」「連帯の権利」が主張されている現在の国際的な潮流に鑑みても、外国人の人権についてその保障を明確にするために、憲法に明文規定を設けるべきである。永住外国人の地方参政権を認めるべきである。

(7)財産権の保障と制約

戦後ヨーロッパ諸国で確立されてきた、所有権の絶対不可侵を超える社会的利用に関する考え方を採り入れ、現代型の財産権を再定義する必要がある。日本国憲法29条について、土地・エネルギー資源・自然環境資源などもともと公共の福祉に服すべき性質の強いものと、それ以外の財産との違いを考慮した規定を設けて、合理的な財産権の行使と制約を明確にする。

(8)子どもの権利

子どもの権利条約が求めている通り、「恩恵」や「福祉」を施すことではなく、子どもにとっての「最善の利益」を最優先することを基本に、憲法に子どもが権利を享受し、行使する主体である旨を明記する。子どもからの苦情や権利侵害の救済に対応できる独立した「子どもの権利保障機関」の設置も必要である。

(9)信教の自由と政教分離ルールのあり方

国家と宗教との「厳格な」分離を基本理念として規定する。宗教的人格権を、個人の人格的生存に不可欠な権利として、新しい人権に位置づけることを検討する。政治的解決策として、新しい国家追悼施設の建設・整備を進め、靖国神社参拝問題を事実上終焉させる。

IV.地方分権

 日本国憲法は第8章で、地方自治に関する4箇条の原則的規定を置いている。しかし、国(中央政府)の法律と予算による統制によって、日本における地方自治の定着を妨げてきたとされている。いま改めて、「地域のことは地域で決める」という民主主義の文化が定着するよう、憲法を含めて見直し、「分権国家」日本への道を模索すべきときである。

(1)中央集権国家から分権国家へ転換する

「地域でできることは地域に委ねる」という「補完性の原理」に立脚し、住民に身近な行政は優先的に基礎自治体に配分する。

都道府県を広域的に再編して道州を設け、司法・外交・出入国管理など文字通り国家主権に関わる行政を除く大半の広域的行政を道州に移管する。これらの行政権限配分を憲法上明確にする。

(2)自治体の立法権限を強化する

地方自治体に専属的あるいは優先的な立法権限を憲法上保障する。中央政府は、地方自治体の専属的立法分野については立法権を持たず、地方自治体の優先的立法分野については大綱的な基準を定める立法のみ許されることとする。

(3)住民自治に根ざす多様な自治体のあり方を認める

自治体の組織・運営のあり方は住民自身が決めるようにする。これまでの首長と議会の二元代表制だけでなく、「執行委員会制」や「支配人制」など多様な組織形態の採用、地域コミュニティ等を準地方自治体とする三層制の採用、「住民投票」制度の採用などはいずれも自治体に委ねる。

(4)財政自治権・課税自主権・新たな財政調整制度を確立する

地方自治体が自らの事務・事業を適切に遂行できるよう、その課税自主権・財政自治権を憲法上保障する。これらを補完するものとして、現在の地方交付税制度に代えて、新しい水平的財政調整制度を創設する。

V.国際・安全保障

_憲法9条論議の焦点と基本方向_

 以下、主に憲法9条問題に焦点をあて、私たちの基本姿勢と検討方向を提示する。

(1)日本国憲法又は9条の原則的立場

_そもそも日本国憲法は、国連憲章とそれに基づく集団安全保障体制を前提としている。前文に謳われている国際協調主義は、国連憲章の基本精神を受けたものであり、第9条の文言は国連憲章の条文をほぼ忠実に反映したものである。日本は、憲章が掲げる集団安全保障が十分に機能することを願い、その実現のために常に努力することを希求し、決意した。

_日本は、憲法9条を介して、一国による武力の行使を原則禁止した国連憲章の精神に照らし、徹底した平和主義を宣明している。以上の原則的立場は、日本国憲法又は9条の「平和主義」を国民及び海外に表明するものとして今後も引き継ぐべきである。

(2)国際協調主義に立った安全保障の枠組みの確立を

 第1は、憲法の中に、国連の集団安全保障活動を明確に位置づける。国連安保理もしくは国連総会の決議による正統性を有する集団安全保障活動には、これに関与できることを明確にし、地球規模の脅威と国際人権保障のために、日本が責任をもってその役割を果たすことを鮮明にする。

第2は、国連憲章上の「制約された自衛権」について明記する。ここに言う、「制約」とは、(a)緊急やむを得ない場合に限り(つまり他の手段をもっては対処し得ない国家的脅威を受けた場合において)、(b)国連の集団安全保障活動が作動するまでの間の活動であり、かつ(c)その活動の展開に際してはこれを国連に報告すること、の3点を基本要件とすることを指す。

 第3に、「武力の行使」については最大限抑制的であることを宣言し、書き入れる。国連主導の下の集団安全保障行動であっても自衛権の行使であっても、武力の行使は強い抑制的姿勢の下に置かれるべきである。わが国の安全保障活動は、この姿勢を基本として、集団安全保障への参加と、「専守防衛」を明示した自衛権の行使に徹するものとする。
関連URL
  →民主党「憲法提言中間報告」のポイント
 http://www.dpj.or.jp/news/?num=602
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