小渕首相の施政方針演説などに対する代表質問が20日午後から衆議院本会議で始まった。質問の一番手として民主党の羽田幹事長が登壇した。
羽田幹事長は、首相の施政方針演説について、「言葉は美しく勇ましいが、今日の危機的状況を招いた自民党政治への説明と反省がなく、多くの国民の耳には空しく響いた」と前置きし、各論の質問に入った。
〈情報公開法〉
羽田幹事長は、質問の冒頭で情報公開法に触れ「自民党が消極的なのは当然としても、基本理念に『オープン』を掲げる自由党が連立協議で主張しなかったのは理解できない」として、政府提出法案への野党の修正要求への見解を小渕首相と野田自治相に質した。これに対し、野田自治相は「自由党としても主張してきたことで早期成立を願う」と答えた。
〈自自連立の経緯〉
また、自自連立について羽田幹事長は首相と野田自治相の政治姿勢を追及。特に自由党に対し「利権政治と訣別し、構造改革を為し得る政権担当能力を持ったもう一つの勢力をつくる『志』はどうしたのか」「自民党政権の延命に手を貸すことは政治空白をさらに深める」と厳しく批判。連立の経緯をただした。
野田自治相は「国のため国民のため、どの党とも協力すると公言していた」「展望のない閉塞状況の中でいたずらに政争を繰り返すことは国民にとって不幸」と、開き直りともとれる答弁を連発した。
〈安全保障と連立合意〉
自自両党の安全保障に関する政策合意に関しては、多国籍軍の後方支援で「内閣の責任でケース・バイ・ケースで対応する」とした点について、「なし崩しの憲法解釈変更になる」と批判。また新たな日米防衛協力のための指針(ガイドライン)関連法案については、「周辺事態とは、政府の説明してきたような軽い事態ではない」として、政府案で「国会報告」となっている周辺事態の際の対米支援に関する基本計画を「国会承認事項」とするよう求めた。
首相はこれに対し、「周辺事態は武力行使を含まず、国民の権利義務に直接関係しない。迅速な決定が必要だ」として、従来からの「国会への事後報告」とする見解を繰り返した。
〈定数削減・選挙制度〉
羽田幹事長は続いて、自自が合意した「衆院比例区定数50人削減」について「あまりにも安易で・安直な独善的行為で、党利党略の最たるもの」と非難した。また在外邦人の選挙区選挙の投票機会の保障や、船員の洋上投票制度、永住外国人の地方選挙権についての見解を首相に求めたが、首相は「各党各会派でご議論を」とし、明確な答弁を避けた。
〈平成11年度予算・景気対策〉
予算案に対しては「『メリハリのある積極財政』ではなく『なりふりかまわぬバラマキ』のすり替え」「効果の少ないその場しのぎ」と批判。「少子高齢化時代の要請に応えるセーフティネットの確立が健全な個人消費を促す景気対策の基本」「都市型公共事業、医療・福祉や情報インフラなどに集中した公共事業」「一括補助金を交付し地方が自主的に社会資本整備に取り組める仕組み」など民主党の経済、景気対策を披露し、首相の見解を求めた。しかし、首相は「一括補助金は補助金の機能を損なう」など、官僚的発想の答弁を棒読みするだけだった。
〈コンピュータ2000年問題〉
プログラムに西暦表示の下2桁を使用しているコンピュータが「2000年」と「1900年」を混同しトラブルを起こす、いわゆる「2000年問題」についても、羽田幹事長は「米国が大統領直属の委員会と特別法制定で万全の体制を敷いているのに対し、日本の対策は不完全」と指摘し、官民一体での危機克服を求めた。
〈税制改正の問題点〉
政府・与党の税制改正案について、羽田幹事長は、「本来なら1年前に実施されるべきもの」として、対応の遅れを非難。さらに、問題点として、1.所得税・個人住民税の最高税率引き下げのみで不公平是正の先送りにすぎない 2.個人住民税減税は地方財政の危機的状況を無視するもの 3.扶養控除の引き上げは、政府与党の方針に反して課税ベースの縮小につながる――などを指摘し、場当たり的対応を強く批判した。そして、民主党の政策として、個人所得課税については税制の公平性確保と低・中所得層も含めた負担軽減の実現、その具体策として、納税者番号制度と総合課税化の3年以内の実施を明確にした上での所得税の全ての税率の引き下げを提案した。
さらに、所得税の扶養控除の見直しと「こども手当」の創設、基礎年金財源の全額税方式導入に向けた消費税の福祉目的税化について、それぞれ法案を提出する考えを明らかにした。
〈金融システム不安解消〉
羽田幹事長は「民主党がつくった金融再生法はよく機能しているが、自民党のつくった早期健全化法は金融システム不安解消に役立っていない」として、厳格な資産査定と厳正な経営責任の追及を盛り込んだ民主党の早期健全化案を受け入れるように求めた。しかし首相は「受け入れる考えはない」と突っぱねた。
〈中村法相発言について〉
中村法相が法務省内の会合で憲法批判や弁護士批判発言をした問題について、羽田幹事長は、「閣僚の不用意、不適切な発言は内外の不信を招き、健全な憲法論議に冷水を浴びせるもの」として首相の見解を求めたが、首相は「司法制度改革の必要性を強調するあまりの発言だった」と法相をかばうのみで、責任問題には応えなかった。
〈北朝鮮情勢〉
羽田幹事長は、北朝鮮との関係については「日米同盟を含めた軍事的備えと緊張を除去する予防的外交が車の両輪」として、特に外交の重要性を指摘。「韓国、米国、中国、ロシア、カンボジア等とも連携し、北朝鮮の門戸開放を真剣によびかけるべき」と述べ、小渕首相も「不透明な部分が多いが、諸国と共に懸案の処理に当たる」と応じた。
〈沖縄問題に関する基本認識〉
米軍基地問題縮小が全く進展せず膠着状態にある沖縄問題について羽田幹事長は、SACOの合意を見直すべきと求めたが、首相は「SACO最終合意に従って取り組む」と従来の姿勢を崩さなかった。
〈ダイオキシン対策〉
羽田幹事長は、国民の不安を除くためにも汚染状況の実態解明、摂取量削減のための環境基準・排出基準の設定、汚染地域対策の必要性を強調。民主党が今国会にダイオキシン類緊急対策法案を提出する考えを明らかにした。
〈文化振興政策〉
日頃から自らさまざまな芸術に親しんでいる羽田幹事長は、「現在の日本の文化振興支援はもっぱら政府の直接援助によって行われているが、本来は民間やコミュニティーが自発的にその担い手になるべき」として、民間による文化振興支援を促進するために、寄付等を奨励するための税制優遇措置の拡充を求めた。首相は「寄付の公益性の担保に留意しつつ検討したい」と答えた。
〈解散・総選挙〉
「国民の信任のない連立により政権が延命したならば、民主主義の基本である国民の参加による選挙への冒とくであり、それによる政治の安定は見せかけでしかない」。強い口調で羽田幹事長は自自連立の背信行為を批判し、解散を断行するよう首相に迫った。しかし、小渕首相は「解散は現状に鑑み、まったく念頭にない」と否定した。
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21日は午前の参議院本会議で本岡昭次参議院議員会長が、午後からは衆議院本会議で横路孝弘総務会長がそれぞれ代表質問に立つ。
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