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2005/01/24
施政方針演説に対する代表質問(岡田 克也)
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岡田 克也
民主党代表の岡田克也です。民主党・無所属クラブを代表し、先日の施政方針演説に関し小泉総理大臣に質問します。
まず、昨年末のスマトラ沖大地震とインド洋津波被害に関し、死亡された皆様にお悔やみを申し上げるとともに、被災された皆様に対しお見舞い申し上げます。今回大きな被害を出したのは、いずれも日本と同じアジアの国々であり、最大限の支援が必要です。民主党としても、街頭募金活動をすでに開始するとともに、可能な限りの支援活動を行っています。これまでの自衛隊、NGOなどの活動を評価するとともに、今後被災地住民のニーズを見極めながら、息の長い効果的な援助が行われるよう、政府のさらなる努力を求めます。
先週の月曜日は、阪神・淡路大震災の10周年にあたります。私も、神戸市民の皆さんとともに市内を歩き、10周年追悼式典にも参加しました。式典において、被災者を代表して、夫と娘さん2人を亡くされた村松京子さんが、自らの10年間を振り返りつつ、悲しみと苦しみを乗り越えて力強くご挨拶をされました。多くの人々の命と生活を一瞬にして奪う災害の悲惨さとともに、人の命の大切さ・尊さを改めて認識させられました。政治の原点は一人ひとりの人間の命を大切にすること、一生懸命生きている人々をしっかり支えることにあります。その基本認識に立って、内政・外交の重要課題について質問します。
1. 内 政
1) 被災地復興支援
まず、昨年多発した豪雨や台風に対する取り組みについて総理に質問します。補正予算案に1兆3,600億円の災害対策費が計上されました。しかし、国に対する被災地の要望は多様であり、これで十分とは言えません。特に、いま豪雪の中で苦しい生活を送っておられる新潟県の被災者の方々に対する、しっかりとした対応を小泉総理に求めます。
私が理解に苦しむのは、被災者生活再建支援法に対する政府・与党の態度です。秋の臨時国会で、民主党は住宅本体の再建を対象に加える修正のための改正案を国会に提出しましたが、まともに審議さえされずに廃案となりました。なぜ、本当に困っている被災者が求めるささやかな要求が満たされないのでしょうか。内容を充実させて再提出した法案を与野党力を合わせて全会一致で成立させようではありませんか。総理の心のこもった答弁を求めます。
2) 公正な社会
近年、日本社会が変わってきたとの指摘があります。すなわち、所得の格差が拡大し、中間層の厚みが失われつつあるとの指摘です。格差拡大は人々を不安に陥れ、その是正はいま政治が取り組むべき重要な課題です。他方で、アメリカ型の社会が望ましいとの意見もあります。総理はどちらの立場に立つのか、答弁を求めます。
総理は「努力した人が報われる社会が大切」と言われますが、その前提はチャンスが平等にあることです。親の所得によって教育を受ける機会に差が出ることは、人生のスタートにおいて機会の平等が保障されていないことになります。その観点からは、公立の小中学校の建て直しが大きな政治課題です。総理は施政方針演説で、教育基本法の改正や学習指導要領の見直しに言及されました。これらの問題について、議論を行うことを否定するつもりはありません。しかし、教育の建て直しで最も重要なことは、小中学校の「学びの現場」からの改革です。最近、民間出身の校長や、地域が中心となった学校運営などの新たな試みが拡がっています。このような「学びの現場」からの改革をサポートするために、教育の地方分権が不可欠と考えます。教育における国と地方の役割分担について、総理の基本的な考えを伺います。
3) 年金制度改革
昨年、小泉総理によって進められた年金制度改革は甘い前提に基づき、かつ働く世代に過大な負担を押し付ける持続不可能なものであり、問題の本質的な解決にならないことは明らかです。年金制度の改革は、総理が施政方針演説で述べられたように、できることなら与野党の立場を越えてしっかりと議論すべき課題です。しかし、改革の方向性について何の合意もないまま議論しても成案を得ることはできません。総理に改めて質問します。第一に、総理は今国会において、年金制度の抜本改革について集中的に議論する意欲があるのでしょうか。第二に、そもそも年金制度について、昨年の通常国会で成立した改革では不十分であり、抜本改革が必要であるとの認識を総理はお持ちでしょうか。はっきりとお答えください。第三に、私は働く世代に過重な負担をかけないために年金保険料が15%を超えることのないような改革が必要で、そのためには消費税の活用が避けられないと考えます。総理は年金保険料の上限を15%とすること、消費税の活用を議論の対象とすることについてどう考えておられるのでしょうか。第四に、働き方が多様になるなかで、国民年金を含めた年金制度の一元化と、そしてその前提として納税者番号制の検討が必要と考えますが、これらの問題について真剣に検討する用意があるのでしょうか。以上、基本的な4点について総理の見解を求めます。
4) 歳出構造改革
小泉総理は、総理就任後初めての所信表明演説で、国債発行30兆円を公約しました。しかし、この公約は一度も守られませんでした。来年度こそは、当初の公約である国債発行額を30兆円以下にするチャンスだったのではありませんか。小泉総理はかつて30兆円に関し、「大きな約束を守るためには、この程度の約束は守れなくても大したことない」と答弁されました。いま改めて、国債発行を30兆円以下にするという国民に対する公約の重さをどう考えておられるのでしょうか。答弁を求めます。
来年度の公共事業予算は、従来型の自民党的発想が復活し、将来の大型公共事業の予算拡大は必至です。人口減少時代にあって、いま求められているのは、「あれもこれも」という発想ではなく、将来の公共事業予算を着実に削減していくなかでの、より必要なものは何かという選択であるべきです。整備新幹線などの大型公共事業拡大に関し、どのような歯止めと将来の姿を考えておられるのか、総理の基本的な考え方について、明確な説明を求めます。
政府予算案の中で大きなウェイトを占める人件費の問題について質問します。小泉総理になってから、国家公務員の定員はわずか0.2%しか純減していません。2010年代初頭におけるプライマリーバランスの黒字化を目指すというのなら、公務員の定員を削減し、公務員人件費を減らすことは不可欠です。今後5年間の国家公務員の定員の純減ベースの計画を作るべきと考えますが、総理にはその意欲はないのでしょうか。答弁を求めます。
5) 地域再生
活力ある東京に対して、地方経済の回復が遅れ、地域の疲弊が指摘されています。しかし、国の公共事業に依存してきた地域社会がいま自立し、地域の個性を生かして新たな取り組みが始まっていることを私は実感しています。
地域再生にあたり最も重要なことは地方主権、すなわち地域が自らの判断と責任で物事を決められる体制をつくることです。小泉総理の進める、いわゆる三位一体の分権改革は、この点において全く評価できません。小泉総理の分権改革の問題の第一は、将来展望がないことです。民主党は20兆円の補助金のうち、国が責任を持つべきと考えている2兆円を除いた18兆円相当分について、地方に権限・財源を移し、地方の責任で行うべきとの基本的な考え方を持っています。地方6団体からは同様に、9兆円の国庫補助負担金の見直しが提案されています。3兆円という当面の数字のつじつま合わせではなく、総理の考える地方分権のあるべき姿を、まず示す必要があります。答弁を求めます。
問題の第二は、各省庁や族議員に対して総理がリーダーシップを発揮できなかったことです。施政方針演説の中で総理は、地方の提案を真摯に受け止めて改革案を取りまとめたとしていますが、それならなぜ地方案になかった国民健康保険国庫負担金が突然、しかも7,000億円という規模で計上されたのでしょうか。義務教育国庫負担金についても、実質的には単なる補助率の変更にすぎず、文部科学省の権限は温存され、何の改革にもなっていません。地方分権はもう一度ゼロからやり直すべきです。総理に反論があればお聞きします。
地域再生のいま一つのカギは、農林水産業の振興です。民主党は、農業土木を中心とした補助金制度から、米・麦など主要6品目に対する直接支払い、環境保全型農業に対する直接支払いなどに転換することを主張しています。
総理は「攻めの農政に転換する」と述べられました。そのこと自体異論はありませんが、土地改良や農業集落排水に代表される、旧来型の中央集権型でかつ公共事業中心の農政にメスを入れずに、日本の農業を変えることはできません。農政の抜本改革の意思はあるのか、総理の答弁を求めます。
6) 郵政・財投改革
郵政改革について質問します。なぜ郵政民営化が必要なのかについて、未だ国民の理解は深まっていません。
総理は施政方針演説で、郵便局が集めている350兆円の資金の流れを官から民へ変えていくことを郵政民営化の理由に挙げられました。しかし、これは郵政民営化とは無関係に実現できることです。特殊法人の財投機関債の発行が平成17年度で未だ6兆円にとどまり、資金の大部分を財投債という国債に依存し、郵政公社がその国債を買い支えていることに問題の根源があります。なぜ、財投機関債により運営できるように特殊法人を徹底的に改革しないのか、総理の答弁を求めます。
総理は、民間でできることは民間に任せるべきとの観点から郵政民営化を強調されています。私も郵貯・簡保については民間でもできることであり、将来的には民営化が本筋と考えています。しかし、将来展望なき民営化は、340兆円の国民資産をリスクにさらすとともに、日本の経済に大きな混乱をもたらしかねません。もう少し丁寧に民営化を模索することが必要です。次の基本的な疑問に対し、総理の明確な答弁を求めます。第一に、個人金融資産の約25%を占める340兆円の郵貯・簡保資金の運用が民営化された際に、国民の資産を安全・有利に運用する能力をいかにして短期間に高めるのでしょうか。第二に、現在郵政公社が保有する150兆円を超える国債を民営化法人が売却したときに、その国債市場に与える影響は大丈夫なのでしょうか。第三に、仮に220兆円の資金規模の巨大銀行、120兆円の資金規模の巨大保険会社が誕生したときに、金融市場の健全な競争環境はどうするのでしょうか。
2. 外交・安全保障
1) アジア外交
外交問題の最初に、総理の基本的な外交姿勢について質問します。私は、日本にとって米国との信頼関係が重要であるとの基本認識に立っていますが、同時にアジア外交を重視すべきと考えています。アセアン、中国、韓国、インドなど、アジアこそ世界の中で最も経済的に可能性を持った地域です。私は、日本がアジアの中にあることは大きな幸運であり、アジアがさらに平和で豊かな地域になることに日本外交の重点を置くべきと考えています。
しかし、小泉総理のアジア外交には何の理念も感じることができません。東アジア共同体を目指すと言いながら、現在のアセアン諸国との経済連携協定締結交渉は、あまりにも時間がかかっています。個別の利害を超えて大きな政治のリーダーシップが必要です。安全保障・経済両面で極めて重要な存在である中国との信頼関係を築くことに小泉総理は失敗しています。日中双方の国民感情も悪化しています。こういった課題に、総理は今後どう取り組んでいかれるのでしょうか。答弁を求めます。
2) 日米関係
米国との政治、経済、安全保障各面でのしっかりとした関係は、日本にとって極めて重要です。しかし、小泉総理が好んで使われる「世界の中の日米同盟」という言葉については違和感を感じています。同盟とは、基本的には安全保障の問題であり、安易な言葉遣いは日米安保を世界規模に拡大することになりかねません。「世界の中の日米同盟」とは具体的に何を意味するのか、答弁を求めます。
日米両国の国益は、必ずしも一致するものではなく、例えば日本は中東地域においてはパレスチナ問題など米国とは異なる外交を展開してきました。米軍再編問題に関連して、日米間で戦略目標の共通化について議論が進められていると承知していますが、中東地域まで含むいわゆる不安定の弧が日米共通の戦略目標であるとの認識ですでに一致しているのでしょうか。私は日本の中東外交に大きな転換を強いることになるのではないかと危惧しています。総理の答弁を求めます。
また新たな日米安保共同宣言の策定も伝えられていますが、先制攻撃や国連を軽視した単独行動主義・有志連合を強調する今の米国と自衛隊を活用した安全保障協力を深めることには、慎重さが必要です。総理は新たな日米安保共同宣言を考えているのでしょうか。そしてその内容について、アジア・太平洋という従来の地域を越えたものとなるのでしょうか。国連との関係はどうなるのでしょうか。答弁を求めます。
ブッシュ大統領は2期目の就任式で、世界にある圧政に終止符を打ち、自由を世界に拡げることを宣言しました。圧政に苦しむ人々がいるとき、国際社会が無関心であっていいはずはありません。しかし、やり方を間違えると独裁者は排除できてもその後の混乱がかえって住民を苦しめる結果になることは、イラク戦争で既に経験したことです。世界の大国米国には謙虚さが、そして良き友人である日本には必要なときに忠告する賢明さが求められていると思います。今後2期目のブッシュ政権に対し、どのような基本姿勢で臨もうとされるのか、小泉総理の見解を求めます。
3) イラク自衛隊派遣
イラク戦争とその後の死者は、最低5万人、推計によっては10万人を超えるといわれています。今後もイラクの混乱が続くことは確実です。一体何万人の人命が失われるのでしょうか。亡くなられた人々の家族に対して言葉もありません。イラク戦争を無条件で支持された小泉総理に、いまでもイラク戦争は正しかったと思っておられるのか、改めて質問します。
私は現在のイラクに非戦闘地域はなく、自衛隊は直ちに撤退すべきと考えますが、オランダ軍が撤退し、自衛隊の安全が十分に確保することができない3月には、これに加えてイラク特措法上の安全確保義務違反の状態となることは確実です。自衛隊は武器使用を厳しく制限されていますが、誰がこの自衛隊の安全を守るのでしょうか。オランダ軍撤退を機に自衛隊を撤退させるとの考えについて、小泉総理の答弁を求めます。
4) 国連改革
昨年11月、国連ハイレベル委員会において国連改革の方向性が示されました。私は、日本が常任理事国となるとの政府の考え方を支持し、その実現のために協力していきます。
今回の国連改革は、21世紀における新たな脅威の発生に対し、国連がよりよく対応できるために、どう改革すべきかとの大きな問題意識に基づくものです。ハイレベル委員会は武力行使について、第一に、加盟国による予防的な軍事力の行使、すなわち先制攻撃について、リスクが大きすぎると指摘し、第二に、安保理決議が武力行使を容認するに際して、武力行使が最後の手段であること、手段が脅威と比べて必要最小限であることなど、5つの基本原則を示しています。私は、ハイレベル委員会の指摘に基本的に賛成です。
小泉総理に質問します。第一に、加盟国の予防的な軍事力の行使について慎重な見解を示したことについて、第二に、安保理決議が武力行使を容認する際のこの5つの基本原則についてどうお考えですか。第三に、アメリカのイラク攻撃はこの基本原則に照らして正当性があったと考えますか。答弁を求めます。
5) 北朝鮮
自民党は18日の党大会で北朝鮮に対し、「速やかに事態の改善がない場合は、厳しい制裁措置の発動を政治の責任において推進する」旨の運動方針を決定しました。小泉総理は、わずか3日後の施政方針演説で「一日も早い真相究明と生存者の帰国を強く求めていきます」、「対話と圧力の考え方に立って、粘り強く交渉します」と述べるのみです。自民党総裁と総理の使い分けがあまりにも大きすぎ、何が本当なのか、国民に対し正直ではありません。北朝鮮に対しても誤ったメッセージを送ることになりかねません。制裁措置の発動に対する総理の基本方針について、明確な答弁を求めます。
3. 政治倫理
次に、政治倫理の問題について質問します。先の国会で、いわゆる旧橋本派ヤミ献金問題について、小泉総理は「自民党の問題ではない」との一言で責任逃れをしようとしました。しかし、民主党を始めとする野党が関係者の証人喚問を求めたにもかかわらず、小泉総理が総裁を務める自民党はこれを拒否しました。1月12日の村岡元官房長官に関する公判において、旧橋本派の元会計責任者であった滝川氏の証言は、なぜ村岡氏だけが起訴されなければなかったのかとの疑問を生んでいます。今国会において関係者の証人喚問を実現し、事実を国民に明らかにすることは、自民党総裁である小泉総理の責任です。「国会で決めることだ」などの言い訳ではなく、責任ある答弁を求めます。
そして、さらに問題なのが迂回献金・指名献金の問題です。総理は党首討論において、私の質問に対し「迂回献金はない」と断言しました。そうであれば、なぜ政治資金規正法を改正して迂回献金を禁ずる規定を追加することに反対するのでしょうか。総理が施政方針演説で述べられたように、国民の政治への信頼なくして、改革の達成は望めません。迂回献金・指名献金を禁止する政治資金規正法の改正を実現することについて、総理の積極的な答弁を求めます。
次に、最近の報道によると清和会、いわゆる森派の政治資金収支報告書に記載していない資金のやり取りがあったとの指摘がなされています。事実とすれば、その責任は重大です。会長を務めたこともある小泉総理の答弁を求めます。
4. むすび
小泉内閣誕生後、はや4年近くが経過しました。この間、地方分権、道路公団改革、年金制度改革、医療制度改革、政治改革、財政構造改革など、国民の期待は裏切られ続けてきました。改革は進まず、国民の将来に対する不安は高まるばかりです。いま国民の間には、自民党内閣である限り本当の改革はできないという諦めと同時に、将来に対する不安感が高まっています。
小泉総理、あなたはほとんどの改革を中途半端な形で投げ出してしまいました。結局、あなたは何が何でも改革を成し遂げるとの信念を欠いていたか、または自民党政権である限り改革できないことを証明したのです。
私は、細川政権・羽田政権が崩壊し、野党となったときから11年間、まっすぐに、ひたむきに、政権交代ある政治を目指してきました。現在の民主党が結党されて、間もなく7年目を迎えることになります。民主党が政権を担い、改革を成し遂げるだけの準備はすでに整いました。日本がいま置かれた状況は、まさしく待ったなしであり、言葉だけの改革はもう十分です。
「政権交代なくして改革なし」。政権交代に対する国民の熱い期待に応えて必ずや政権交代を成し遂げ、本当の改革を実現することを国民の皆さんに誓い、私の代表質問とします。
(編集部注:本文は最終稿であり、実際に読み上げたものとは若干異なります)
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