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2006/07/10
菅代表代行、「小さな政府を考える」フォーラムで小泉改革を分析


菅直人代表代行は10日午後、東京会議・読売国際経済懇話会(YIES)・読売新聞社の主催・後援で、「新生日本の設計――小さな政府を考える」と題して行われた「読売国際会議2006夏季フォーラム」にパネリストとして参加。「小さな政府」を目指して改革を進めてきた小泉改革の実情を分析するとともに、格差問題、社会保障制度の在り方、公務員削減問題、地方分権等、小泉政権下で積み残された課題について議論を交わした。
 
 パネルディスカッションは榊原英資早稲田大学教授・読売新聞客員研究員の司会で行われ、菅代行のほか、中川秀直自民党政調会長、構想日本代表・慶応大学教授の加藤秀樹氏、三菱UFJリサーチ&コンサルティング客員研究員の森永卓郎氏、カルフォルニア大学バークレー校のスティーブン・ヴォーゲル教授が参加した。
 
 前半の部の議論のなかで菅代行は、「小さな政府」論について「効率のいい中央政府と充実した地方政府という考え方でいくべき」と前置きし、官から民への規制緩和については事前チェック型ではなく事後チェック型にすることに賛成すると表明。単に官から民への規制緩和の流れをつくるなかで、耐震偽装問題やライブドア問題の二の舞を踏むことのないよう、事後チェック体制にすべきだと釘を刺した。
 
 「小泉改革の5年間は精神的な改革であった」とも指摘。官製談合による税金の無駄遣いの是正や地方分権化の推進という点ではまったくといっていいほど改革の手はついていないと批判した。「刺客騒動などで何かを壊していることに違いないが、壊れきているのはある意味でエキサイティングであるが、ある意味では不安なことである」とも述べ、それが社会不安の背景にあるとの見方も示した。

 民主党政権実現後は郵政民営化法案を廃止するのかとの中川自民党政調会長の質問には「小泉流に抵抗勢力のレッテルをはるか貼らないのかの判断にしようかということか」などと述べたうえで、先の総選挙で示した民主党の考え方を提示。ほとんどすべてを国債(財投債)で運用している郵貯の状況を問題視した菅代行は、「今回、民営化してもその流れはそう簡単には変わらない」と指摘し、まともな金融機関とは言えないそうした状況の改善が必要だとして、国債による運用規模を半分から三分の一に引下げるのが妥当との従来の主張を展開した。「国債引き受け機関としての在り方を改善すべきだ」と重ねて述べ、民主党政権獲得後は法の見直し要綱に基づき、必要に応じて法整備していく考えを示した。

 地方公務員の賃金の問題については「変えるべきところは大いに変えるべき」と指摘。財政再建については、政府が骨太の方針でプライマリーバランスをゼロにすると主張する点について、国の借金と利息払いを無視した形で単年度収入と支出を見ているだけにすぎないと分析。借金と利息払いを計算のなかに入れた財政再建案が本来必要であり、政府案は経済成長と金利の上昇とを考慮したものとなっていないと指摘した。

 年金問題に関しては、年金保険料率を政府与党は18・3%にすることで100年間、年金制度が持つと主張したにもかかわらず、合計特殊出生率が1・25となるなど、政府の読みを下回ることで、100年持つといわれたのが一年も持たなかった事態に陥ったことを明らかにした。そのうえで菅代行は、年金を一元化し、基礎年金部分は消費税で賄い、保険料率は上限15%とすることで事業者負担増が雇用を脅かすことのないよう配慮した、民主党の年金改革案を改めて提示した。

 また、官から民へ、中央から地方への議論のなかで菅代行は「公的なサービスの質を落とさないという点では同意する」として中川自民党政調会長の主張に賛同。そのうえで、だれがどういう形で提供するかがポイントになってくるとして、国がやるべきことを限定し、それ以外は住民に一番身近な基礎自治体が多くを担い、そこでやりきれないことは都道府県がという形で役割分担していくべきだと主張。そうした流れのなかで、現在は国国家公務員が担っている仕事が地方公務員に担うことも十分にありうるとした。

 パネルディスカッションの後半で菅代行は年金の問題を中心に問題提起・基調講演を行い、「今から出生率が戻ってきたとしても現在の社会保障システムが今のままで持たせるのは不可能」と分析。ひとりの国民がどのくらいの期間、いくら年金保険料を支払ったかに基づき、いつの段階でいくら給付されるかを明示しているスウェーデンのケースを例に、透明化が年金制度への信頼回復に繋がることに改めて言及した。また、高収入がありながらも高額の年金需給権利をもっていた福井日銀総裁の問題にもふれ、ある種の見直しの契機になるとした。同時に若い世代が支えるという従来の発想だけでなく、高額所得者には高齢となっても払い続けてもらうことによる、制度存続を検討することも一案だと指摘した。

 さらには、少子化の背景には非婚化が大きな要因となっているとの考えを示し、人間関係が希薄になっている現代にあって、昔ながらの「おせっかいを焼いてくれる人」を国として重視するのも必要ではないかと問題提起した。
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