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2002/10/21
第155臨時国会代表質問(中野議員)
民主党幹事長 中野 寛成

(はじめに)
 私は、民主党・無所属クラブを代表し、総理の所信表明に対して質問するとともに、私の意見を表明致したいと思います。とりわけ、私は、内政問題にしぼり小泉内閣の経済無策とその不幸な帰結について問い質します。

 私は、小泉総理の所信表明を聴いて、「この政権はいよいよ活力を失った」との強い印象を持ちました。つい、この間までは「言葉は踊れど、策はなし」だった。いまや、「言葉も踊らず、何もなし」です。経済再生国会だとも言われている時、期待された総合デフレ対策も示さず、いま一つの焦点である日朝国交正常化交渉についても、拉致問題・核開発問題・工作船事件など障碍ばかりが目立って展望が欠けたままであります。手詰まり、空回り、空疎な言葉、散りばめられた官僚用語、かけ声倒れ、説明責任なき政策転換、国民は、もう聞き飽きました。

 市場は、国民生活や日本経済を学者の実験道具のように扱う姿勢に驚愕しています。竹中大臣が打ち出したのは「反省なきペイオフ解禁2年間延期」と「デフレ対策なき不良債権加速化」であり、明らかな政策転換でした。ところが、首相は記者団に対して「政策転換ではない。改革路線を確固たる軌道に乗せるものだ」とかわしています。まさに「撤退」を「転進」と言った戦前の大本営発表そのものではないか。大本営と言えば、小泉総理の不良債権対策などその最たるものであります。説明責任を回避し続ける小泉総理の姿勢に身内の自民党内からも「過ちを改むるにはばかる事なかれ」と言う声が聞こえるほどです。このままでは、日本経済がつぶされてしまいかねないと国民は本気で心配しています。そして、総理の危機意識があまりに欠落していることに驚いています。

 説明なき政策転換の下で、「竹中ショック」はさらなるデフレ圧力を生み出し、景気回復の芽を摘み、市場では企業倒産の噂が飛び交っています。これは、柳沢氏が銀行と企業再生の一体的処理を打ち出した2年前より日本経済がはるかに深刻なデフレに陥っていることを見ない、タイミングを逸した判断の帰結にほかなりません。
 今日の日本では、不良債権問題と物価の継続的な下落のデフレーションが同居しています。その両方同時に手を打たなければ、不良債権処理の加速化が、デフレ圧力をさらに高めるという悪循環に陥ることは火を見るより明らかです。アメリカの大恐慌時代と全く同じで、消費が冷え込み、失業者が急増し、問題企業の連鎖倒産が引き起こされる危機的状況にあります。
 不良債権処理とデフレ対策がパッケージで取り組まれるのでなければなりません。しかし、政府のデフレ対策はいまだ明らかでない。それが「竹中ショック」の背景だということを、総理はよく認識するべきであります。

(経済再生、デフレ対策について)
 しかるに、所信表明では、デフレ退治の具体策は示されず、デフレ不安をそのまま加速するかのようなポーズをとり続けているだけでした。あるのは、総理お得意の逃げ口上、「大胆かつ柔軟な措置を講ずる」という意味不明の一言だけであり、産業人や国民が注目している補正予算についても「大胆かつ柔軟な措置」の一言です。これでは、政府が何をしようとしているのか理解することは不可能です。
 そこで、まずお尋ねしたい。大手企業の倒産も辞さないとの威勢のいい、しかし、経済政策担当者としては実に無責任な言葉を繰り返した「竹中発言」のほかに何も示されていないという事態をどう受け止めているのか。とりわけ、雇用や中小企業経営者の不安を断ち切る安全網対策はどこに消えたのか。それでも、補正予算を見送るという判断はどこから来たのか。一体、何の為の臨時国会なのか、総理の明瞭な回答を求めます。

(一体、何のための改革か)
 無責任な、いわゆる「竹中ショック」で、国民の先行き不安は頂点に達しています。株価下落に続いて、企業倒産の風評被害の続発、個人の消費意欲の低迷、企業の投資意欲の減退、外資の流出、まさに「小泉式デフレスパイラル」が加速しているのです。こうした中で、とりわけ中小企業の経営者が路頭に迷う事態が生まれており、自殺者も後を立たない、これが経済の現実です。
 大阪では、2000万円の融資を申し込んだら、追いつめられた中小企業経営者の足元を見て、1000万円の強制出資を条件に3000万円の融資を示された挙げ句、融資をした信金はつぶれて出資金はフイになって、3000万円の借金だけが残ったという出来事も起こっている。あなたが作りだしたデフレスパイラルはこうした事態を毎日作りだしているのです。そこで伺います。総理は、これら中小企業経営者に対してどんな政策をもって臨もうとしているのでしょうか。

 小泉内閣は、大手ゼネコンなどを救済し、国民や中小企業を切り捨てる政策をとっていますが、これこそ本末転倒と言わざるを得ません。また政府の不良債権処理は、大銀行を助けても、中小企業への貸し渋り・貸し剥しを加速するものであり、その哲学や手法に大きな問題があると言わざるを得ません。
 民主党が主張している不良債権処理は、あくまでも金融機関が本来の姿に戻り、地元の中小企業に積極的に融資を行えるようにすることが目的です。そのため、金融アセスメント法を策定するとともに、中小企業に対する金融上のセイフティネットを確立することが絶対条件です。
 また、私たちは、消費者・生活者の生活支援のため、住宅ローン・教育ローンの利子減税、失業者の住宅ローン負担軽減を断行すべきだと考えます。また、個人投資家から完全に信頼を失った証券市場を活性化するため、大胆なキャピタルゲイン課税の軽減を実施すべきではないかと主張しています。
 さらに、深刻化する失業対策と雇用の場の確保について、政府はもっと真剣に取り組むべきです。失業手当給付期間の延長、自治体やハローワークだけに依存しない柔軟な失業対策、職業訓練など再教育を保障する個人を対象とした給付制度の拡充、そして雇用保険財政の安定化など、政府としていまやるべきことは山積しております。

 そもそも、景気浮揚効果のある十分な補正を組むには、総理の思いつき的な口約束「国債30兆円枠」そのものの撤廃が避けられないのではないか、という声が、閣内からも挙がっているのではないのか。事実を直視せず、自らの勇ましい言葉に酔いしれている間に、政策転換を認める潔さもあなたは見せようとはせず、言葉の上塗りで、どのようにして、この難局を切り抜けることができると考えているのでしょうか。補正問題に対する総理の姿勢を改めてお尋ねします。

 不良債権を一気に処理する案も、公的資金の投入も引当金の引き上げも、すべて4年前の98年で出されていた方策でしかありません。政策に何の新味がないのに、経済財政審議会で検討すると、議論ばかりで決断がない。問題なのは、総理の指導力の欠如にあると言わねばなりません。これから先も、政治責任のない民間人の議論に任せるつもりなのか、総理の所見を伺います。

 早くも、総合的なデフレ対策を打ち出すと豪語した経済財政諮問会議自体が、先送りを繰り返して迷走しています。17日の会合で決定するはずが、まとまらず、総理の所信表明にも間に合わないという体たらくです。これでは、加速化ではなく「遅速化」に他なりません。審議のブレーキは、大胆なデフレ対策に尻込みする財務省に忠実な、総理自身ではなかったのか。いかがですか。それとも、何か反論がありますか。

 小泉総理が威勢良く語るのは、いつも財務省の枠の中での発言ばかりです。税制改革も、国債発行枠も、補正予算の編成も、特殊法人の改革も、みな財務省・金融族そのままではありませんか。自ら「族」に留まっていては、「大胆な改革」などできるわけがない。これでは、改革は加速どころか、日本経済は立ち往生し、のたれ死にすることは火を見るよりも明らかです。
 あなたが「自民党をぶっこわす」前に、「日本経済をぶっこわす」のではないかと強く指摘しておきます。

(無駄な経費を大胆に見直し、新しい需要と雇用の創出を)
 財源は、国債以外にもあります。従来型の公共事業を大胆に見直し、それを介護、医療・健康、環境や新エネルギーなど新しい分野への人材育成や投資などに振り替えれば、それだけでも大きな景気浮揚効果が生まれるはずです。国有財産の売却、特殊法人の改廃、公務員改革などによっても財源は出ます。それらの財源を、バリアフリーの街づくり、いわゆる「ニュータウン」のリニューアルや公立学校の35%に達する老朽校舎の建て替えなどに振り向ければ、地域のコミュニティ活動の活性化や地元中小企業の活力回復にも結びつくはずです。いま、政府に求められているのは、こうした生活密着型の新しい需要と雇用を掘り起こすことだと私は考えます。
 同時に、NPOをはじめ非営利団体の活動を促進し、新しい形の雇用をつくるべきであります。この際、総理も、民主党をはじめとする野党が提出しているNPO支援税制法案に賛同し、その成立を急がせるべきだと考えますが、いかがですか。

(年金改革について)
 今年は医療制度の改革、来年は介護制度の見直し、再来年は年金再計算と再設計と、課題は山積しています。そうしたなか、国民の多くはいま、「将来年金がもらえなくなるのではないか」「失業した時に雇用保険は受け取れないのではないか」という不安を抱いています。セイフティネットをしっかり整備し、その不安を除去しない限り、冷え切った消費や投資を回復することはできません。

 再来年に予定されている年金改革については、現在の少子高齢化傾向をもとに、今の公的年金制度で運営していけば、次期改正はまたぞろ給付削減と保険料率アップで対応するしかないと危惧されています。今年1月に発表された政府の将来推計人口に基づく年金財政試算でも、2025年度には厚生年金保険料が月収の3割を超える高水準になり、年金制度が維持できなくなるとの指摘もあります。
 まさにいま、現行制度を前提に、従来から繰り返されている「逃げ水年金」と揶揄される小手先の見直しを今後も進めるのか、それとも、制度を再設計するような抜本的な改革をめざすのか、問われています。
 そこで伺います。国民の年金不信を解消し、将来に向けて安心できる年金制度にするため、総理はどのような年金制度を構築していこうと考えているのでしょうか。将来の年金ビジョン、そしてそのために必要な制度改正の方向について、総理の明快な答弁を求めます。

 基礎年金の国庫負担引き上げについて、政府は、前回の法改正時に、平成16年までの間に安定した財源を確保し、2分の1への引き上げを図るものとすることを法律に明記しました。坂口大臣は、「国庫負担引き上げには2兆5000億円程度の財源が必要であり、消費税引き上げをお願いできるかどうかにかかっており」、そのことを「明確に国民に示すべきだ」と記者会見で述べています。財源をどうするかという曖昧な議論をする時期は過ぎています。まさに、政治決断が求められている問題だと言わねばなりません。
 私は、基礎年金の国庫負担引き上げの財源として将来税方式で対応していくべきと考えます。年金財源のあり方に対する、総理の明確な答弁を求めます。

(医療保険改革について)
 次に医療制度改革について質問いたします。
 その前に、先の通常国会において、小泉内閣は、健保本人の医療費負担を3割に引き上げ、1兆5000億円もの国民負担増を押しつける「改正健康保険法」を強行成立させました。政府・与党は、97年以来先送りしている「医療制度の抜本改革」をまたも見送り、患者負担だけを押しつけました。国民の生命と生活に重大な影響を与える法律改正を、連立与党の数の暴力で成立させたことは遺憾の極みであります。
 さて、健保法の附則に、医療制度改革の検討項目が羅列されています。なかでも、医療保険制度のあり方、新しい高齢者医療制度の創設、診療報酬体系の見直しの三点について、総理は、今年度中に具体的内容、手順などを含む基本方針をまとめるとしています。医療制度の抜本改革は、10年来の重要課題です。その間、何度も厚生大臣を歴任した小泉総理が、「結局成し遂げられたのは、法律附則に項目を並べただけだ」などと言われないよう、明快な方針を打ち出していただきたい。しっかりとした決意と答弁を求めます。

(緊急事態法制の整備・沖縄振興について)
 先の通常国会で、衆議院で継続審議となったいわゆる有事関連法案について伺います。
民主党は結党以来、緊急事態法制の必要性を認めて積極的にその検討を進めてきました。しかし、先の通常国会では、武力攻撃事態、人権規定、民主的統制と国会の関与、地方公共団体との関係、米軍との関係など多くの問題点が明らかにされ、政府案のずさんさが露呈されました。政府の答弁もまったく要領を得ず、外務省、防衛庁の不祥事も相まって惨憺たる審議となりました。
 その有事法制について、政府内でいま、武力攻撃事態の定義や国民保護法制の見直しを進めているとの報道がありますが事実ですか。また、テロ対策や不審船への対応と有事法制との関連について明快な答弁を頂きたい。
 総理の所信に、沖縄に関する言及が一切なかったことには失望しました。今年8月、民主党は地元沖縄の人々との共同作業のもと、「民主党沖縄ビジョン」を発表しました。その特徴は沖縄の自立に焦点を当てていることです。他方、政府が7月に発表した米軍普天間飛行場の代替施設に関する基本計画案は、環境に最も悪影響を及ぼすと見られる埋立工法による建設や米軍基地の15年使用期限問題の結論を事実上先送りしているなど、大きな問題を孕んでいます。今次代替施設案を見直すつもりはないか、改めて総理に伺いたい。
 次に、個人情報保護関連法案について質問します。私たちはメディア規制法案の色彩が強い同法案に反対し、根本的な見直しを求めてきました。報道によれば7月29日の与党三党首会談では同法案の修正に合意したと言われています。政府は法案の欠陥を認めて修正する方針であるのか、そうであればどのような修正を企図しているのか、総理の答弁を求めます。

(企業による不正行為の防止)
 BSE発生を受け、食肉処理された牛肉の買い取りが行われた際、その手続きが曖昧にされ、業界最大手までもが偽装に手を染め、牛肉業界全体に対する不信が定着してしまったことは周知の通りです。しかも、買い取り手続きが省略された経緯に族議員の暗躍があると報じられています。族議員の関与と政官業癒着の自民党的体質は、いまや国民の健康や命までを危うくするものとなっています。この現実を、総裁・総理の立場からどう受けて止めているでしょうか。

 食品だけではありません。一部の電力会社による、原子力発電の自主点検記録の虚偽報告については不正・ゴマカシの究極ともいうべきものがあります。
 今回の事件は、事の発端が日本で最も尊敬される電力企業の一つであったこと、又、他の企業にも同様の問題が波及したことから、これまでの原発事故や不祥事にくらべ、その社会的インパクトははるかに深刻だったといえるものです。私たちは、原子力発電の推進はいうまでもなく、我が国のエネルギー供給の観点からも重要な施策の一つと考えています。しかし、国民の不信感をそのままにこれまでどおり原子力政策を推し進めることはできません。だからこそ、政府の抜本的な改善策が求められているのです。
 さて、今回の電力会社の自主点検をめぐる虚偽記録の事件においても内部告発が大きな役割を果たしました。ところが、原子力安全・保安院による内部情報の取り扱いは、まことに不適切なものでありました。保安院は、最初の通報があってから2年間もその情報を留保したのみならず、通報者の氏名や個人情報を電力会社に漏らすということまでしてしまったのです。これでは、不正を暴くことはできません。このような担当行政の無神経・無責任な対応を総理はどう受け止めているのでしょうか。また、今後同様の告発があった場合、どのようにして迅速な処理を行うつもりなのか、如何にして告発者の人権と情報を保護するのでしょうか、併せてその見解をお示し願います。

 さらに、今回の事件を契機として、保安院が原子力推進機関と目されている経済産業省の管轄下にあることについて識者などから根本的な疑問が呈示されています。民主党は、以前から、この保安院を完全に独立させ、内閣府に移動させることを主張してきており、実際、西暦2000年4月に、「原子力安全規制委員会設置法案」を提出しております。政府としても当然、この法案に賛成すべきだと考えますが、いかがですか。総理の見解をお尋ねします。

(大島農水大臣の秘書官の斡旋収賄について)
 公共事業に絡み多額の口利き料を得ていた事件がまた発覚しました。大島農水大臣は、当時の国対委員長として国会の中で、斡旋利得収賄処罰の厳格化論議に携わったご本人です。しかも、鈴木宗男前議員の秘書逮捕に絡んで、議員には秘書に対する「監督責任」があると主張していた人です。それだけに、こうした「懲りない面々」の後を絶たない事件の発覚に、国民の政治不信は極まっています。
 総理は「国民の政治への信頼なくして、改革の実現は望めない」と述べました。しかし、通常国会の最中に4人の国会議員が「政治とカネ」で辞職し、現在行われている統一補欠選挙の最大課題とされているというのに、所信表明ではこの問題に一言も触れていません。一体、どういうつもりなのでしょうか。あなたに一貫しているのはこの「政治とカネ」の問題で終始他人事を決め込み、一度としてリーダーシップを発揮しようとしたことがないということです。これでは、総理自身を、ミスター・モラルハザードと呼ばなくてはなりません。
 この「政治とカネ」にかかる欠落した所信について、改めていま、総理の明快な所見をお尋ね致します。

(むすびの言葉)
 長い景気の低迷、絶えることのない「政治とカネ」にまつわる政治家とその秘書の斡旋利得、政治不信、そして企業挙げての隠蔽・不正の発覚の中で、社会の荒廃、社会崩壊の危機が静かに、しかし急速に忍び寄っています。相次ぐ少年犯罪の発生は、少年刑務所までをも満杯にしているとされています。性犯罪や想像を絶する凶悪犯罪も続発しています。
 私は、今日の経済問題は、人々が現在に対して刹那的になり、未来に対して希望を抱けなくなっているのではないかと強い危惧を抱いています。いま、日本は、90年代の「失われた10年」に引き続いて、21世紀初頭の「もう一つの失われた10年」をすごそうとしています。このままでは、社会の崩壊が現実のものとなり、今でさえ年間3万人を超える自殺者がさらに増大し、犯罪の発生率の上昇と検挙率の低下によって社会不安が一気に膨れあがる時がくるのではないかと怖れています。
 民主党は、まず、この国の「経済再生」に取り組むと同時に、崩壊の危機にある「日本社会の再生」に大きくチャレンジするものであることをここに宣明して、私の代表質問を終わります。

※本テキストは質問直前の予定稿であり、実際の発言内容とは一部異なる場合があります
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