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2001/10/02
小泉首相の所信表明に対する代表質問(角田議員)
参議院本会議
小泉首相の所信表明に対する代表質問
民主党・新緑風会 角田 義一

 私は、民主党・新緑風会を代表し、小泉総理の所信表明演説に対して、総理及び関係大臣に質問を行います。
 
第一部:テロ、世界同時不況。21世紀初頭の危機を乗り切れ。

(米国同時多発テロ)


 質問に先立ちまして、去る9月11日にニューヨーク、ワシントン、及びピッツバーグでテロリストが起こした悲惨極まりない同時多発テロにより犠牲になられた方々に深い哀悼の意を表します。未曾有の大惨事となったことに対し、深い悲しみと憤りを禁じ得ません。被害に遭われた方々及び御家族をはじめ、関係者の方々、さらに米国民に対し心からお見舞いを申し上げます。

 テロリズムは、人道と正義に反する卑劣極まりないものであり、どんな理由をもってしても正当化できない、許しがたい行為であります。私たちは、世界が一致して暴力に屈することなく、テロに対して毅然として立ち向かうべきだと考えます。


 小泉総理は、先月25日、ホワイトハウスで、米国のブッシュ大統領と会談を行いました。両首脳は米同時多発テロ事件について、「テロを根絶し、破壊する」目標のため両国が連帯して取り組み、テロ組織の資金源を断ち切ることに全力を挙げることで一致しました。これを受けて、小泉総理は、米軍などの軍事行動への自衛隊の後方支援を可能にする新規法案の早期成立に努力する考えを表明しました。

 これにより、日本が米国と共同してテロと戦うこと、後方支援法を制定することはアメリカとの公約となりました。このことは、わが国の将来にとって重大な意味を負うものとして、深刻に私は受けとめています。

 特にこの際強調されるべきは、テロとの戦いは、あくまでも法と正義の名の下に行うべきであって、報復であってはならないということであります。報復は報復を招くだけであります。私は、ブッシュ大統領が、アメリカの行動を「クルセード」すなわち「十字軍の聖戦」であると発言し、これに対して聖識者会合の側が、アメリカが攻撃すれば「ジハード(聖戦)」を発動すると決定していることに、世界を未曾有の混乱に陥れかねない危険を感じるのであります。こうした、まさに「文明の衝突」ともいうべき事態は、絶対に避けなくてはなりません。その危険は全くないと断言できるのか、総理のご認識を伺います。

 現在、アメリカはもちろん世界各国に、そしてまたわが国国内にも今回のテロに対してアメリカが軍事行動をとるのは当然であるといった風潮が横溢していますが、テロの首謀者、その組織、その支援国を攻撃することは、慎重な上にも慎重でなければなりません。わが国がとるべき対応もまた然りであります。

 なぜなら、軍事行動の結果の責任をとらされるのは、アメリカ一国だけではなく世界のすべての国であり、アメリカ支援を決定した日本政府はもとより日本国民であるからであります。小泉総理、総理が真摯に平和国家日本の役割、対米同盟国日本の役割を考えるなら、こうした基本姿勢をしっかりと踏まえて、わが国の認識をブッシュ大統領に直言すべきでありました。ところが先の訪米では、単に軍事行動の支援表明に終わってしまったのではないかと危惧いたします。大統領との会談内容を国民にご説明願いたい。
 
 ご承知のように、国連憲章を具体化したものとして1970年に国連総会で決議され、国連加盟国が従うべき行動基準とも言うべき「友好関係原則宣言」は、「国は、武力の行使を伴う復仇を慎む義務を有する」として、いわゆる仇討ちを明確に禁止しています。

 今回の国際テロは、伝統的な意味での「戦争」ではなく、かといって私人による犯罪行為と見なすには軽すぎ、極めて政治性の高い、高度に組織的・集団的な無差別暴力行為であって、その意味で「人道に対する罪」を構成する行為であると考えます。我々は現在まで、このような行為に対する確立された対抗措置を形成し得ないままできましたが、少なくとも今我々がとるべき対抗措置は、一国の単独行動によってではなく、国際社会の協調行動、すなわち国連を中心とした集団安全保障の枠組みを基礎にした対抗措置であるべきです。従って国連中心主義を標榜するわが国としては、アメリカの意向はどうあれ、国連に働きかけて、9月12日の安保理決議1368を更に具体化する決議を行うよう、外交努力を展開すべきであります。

 しかし、その形跡は全く見られません。特に、国際社会の協調行動をとる上で、中国の存在は大きいものがあります。しかし、靖国、教科書問題で対中国関係は冷え切っています。今回の事態の対応について、中国政府、韓国政府と対話を持ったことがあるのですか。
もし対話が持てないのであれば、事態をここまでこじらせてしまい、それを放置してきた総理、外務大臣の責任は極めて重いと言わざるを得ません。

 もし、国際的な協調枠組みを軽視して、日本の自衛隊が後方支援とはいえ、遠く海外に派遣される様を中国や韓国の民衆はどのような眼で見るのか、そこまで総理、外務大臣はお考えになって対処しているのか伺います。

 この際、私は次のことを明確にしていただきたい。
 今般、政府が基本姿勢を固めるにあたって、国会を軽視していることは極めて遺憾であります。総理が、「七項目の当面の措置」を記者発表した9月19日には、本院の予算委員会が開催されています。この委員会では、総理が数時間後に記者発表することになった「七項目」の内容には一切触れていません。国会軽視も甚だしいものであり、民主主義の手続きを踏みにじるものではありませんか。反省を求めるとともに、経緯を説明されたい。

 テロとは言っても、今回の事件は、被害の規模からして、従来の域を遥かに超えるものであります。一番の当事者である米国が「戦争」と称し自衛権行使の正当性を主張しています。

 憲法で、集団的自衛権の行使を認めていない日本は、米国の自衛のための戦争に、直接的に、加わることはできません。政府は、どのような根拠に基づいて、自衛隊派遣を正当化されようとするのか。その基本的な原理と法的根拠について、総理から納得のいく説明をいただきたい。

 さらに、新法はいざ知らず、自衛隊護衛艦のインド洋への先行派遣の動きが伝えられるなど「勇み足」と思われる面もあります。護衛艦のインド洋派遣は、防衛庁設置法「所掌事務の遂行に必要な調査及び研究」に基づくものだと伺っています。自衛隊の後方支援を認める新法が成立すれば、インド洋でそのまま、米軍への燃料などの輸送・補給、米軍との情報交換などを行う予定だと言われています。

 そもそも、護衛艦等の先行派遣は、現行法が定める調査・研究という名目で説明がつくのでしょうか。先日、横須賀を母港とする米空母キティホークを自衛隊の護衛艦が近海まで護衛したときにもこの規定が使われています。この根拠をはっきり国民に示していただきたい。これらの諸点について、総理より説明をいただきたい。

 民主党は、2年前の1999年、「安全保障政策」において、いち早く「テロリズムやゲリラ的活動などの新たな脅威に、日本が原則として単独で対処できる体制を早急に整備する」ことを提言しています。

 わが国はテロ資金供与防止条約、爆弾テロ防止条約も未だ批准せず、来年の通常国会にテロ防止関連法案を提出するという悠長な話が聞こえて来ますが、海外での行動ばかりに目が行き、国内のテロ対策が後手後手になっている印象が否めません。テロ、ゲリラ対策強化に向けた法制見直しを含め、政府はどのように取り組むのでしょうか。総理の見解をお尋ねしたい。

 歴史的に見れば、日本はいわゆる十字軍には参加していません。西欧文明とは別の日本文明とも言うべき独自の発展形態をとった日本に対し、イスラム諸国及びイスラム教を信ずる人々はとくに日本に対し、特別な友好的な心情を持っていると言われます。したがって、イスラム世界との共生という点で重要な役割を担えるのではないでしょうか。今回のテロ事件を、「キリスト教対イスラム教」「先進国対開発途上国」の対決にしてはなりません。まずはこの危機を乗り切ることに協力し、世界平和への歩みを進めなくてはなりません。

 特に、中東和平に対しては、欧米諸国を含めた歴史的、宗教的、民族的な要因が複雑に絡んでいることから、日本政府としても、この地域の安定を図るため、交渉当事者の和平実現のための努力を強力に支援すべきと考えます。つい先日までは和平合意が目前に来ていた現実を思い起こし、イスラエル、パレスチナ両交渉当事者に対し、和平実現のための冷静な話合いを進める環境をつくるべきであります。
 そのために日本政府はどのような貢献をするのか、総理のご見解を求めます。

 同時テロの画面を見たパレスチナ人の子どもたちが喜んでいる映像がテレビに映し出されました。本来、悲しむべきことを喜んでいるというのは、いかに子ども達の心が傷ついているか、私は何ともやりきれない悲しい気持ちになりました。子どもたちを何がここまで追い込んだのか、そのことを今深く理解する感性が求められています。

 テロが発生する土壌は、人間の尊厳を認めない圧制と、人間としての誇りをも奪い去るような恐るべき貧困がその基底にあるのではないでしょうか。日本はそのことに深く思いを致し、そこからの解放のためにどう努力していくのかが問われています。総理の見解を伺います。


(不良債権問題と中小企業対策)


 米国テロの影響は、経済分野にも及んでいます。米国景気が調整局面を迎えていたところに、今回のテロで世界各国の株式市況が大幅に下落し、消費マインドも急速に冷え込み始めました。今や、「世界同時不況」ということが囁かれています。一刻も早く、経済の再生を実現しなくてはなりませんが、そのためには、第一に不良債権問題の処理、第二にデフレ対策に取り組まなくてはなりません。

 総理は就任以来、不良債権の早期処理を公約に掲げ、「骨太の方針」や「改革工程表」においても最重要課題と位置づけています。

 今、一番、問題なのは、不良債権の実態が正しく公表されていないどころか、それを金融機関が隠蔽していることです。「要注意債権」はまだ破綻の懸念のない債権と言われますが、大企業を中心に、本来であれば「破綻懸念先」あるいは「実質破綻先」に分類されるべき企業が意図的に「要注意債権」に混入されているという指摘が聞かれます。金融機関は、これらの企業を「破綻懸念先」以下に分類すると、貸倒引当金を積み増さなくてはならないことから、「追い貸し」を行ったり、甘目の財務評価を行い、引当金積み増しを回避しているとのことです。

 総理は、その実態をどう認識しておられるのか。先日、民事再生法の適用申請に至ったマイカルも、その貸出債権は「要注意債権」に分類されていました。不良債権の早期処理を本当に公約だと言うのなら、金融機関に徹底的に真実を公表するよう求めるべきではないですか。この点について、総理に明快なる答弁を求めます。

 また、自己資本比率維持のために、金融機関は中小企業に対する「貸し渋り、貸しはがし」を行っているという指摘が全国で聞かれます。「貸しはがし」のためには、中小企業債権の分類を「要注意先」から「破綻懸念先」に格下げし、「分類ランクが低下したので、もう融資ができない」と言って一方的に貸出を回収するケースもあると聞いています。

 地方銀行や信用金庫、信用組合は地域経済と一体不可分の関係にあります。もしこれらの金融機関が、金融監督庁の指導を忠実に実施すれば、中小企業はバタバタと倒れ、地域経済は壊滅するでしょう。ある中小企業主は、銀行の「貸しはがし」のために、自らの命をたち死亡保険金によって債権整理にあてたいと悲痛な叫びをあげています。総理の叫ぶ痛みを伴う構造改革とは、中小企業主とその従業員にこれほど過酷の運命を強要するものですか。中小企業金融の実態に対する総理の認識と、具体的な対策をはっきりと伺いたい。

 金融機関が預金保険機構・整理回収機構(RCC)に不良債権を売却する際に、実態よりも高い価格で売却し、これら機関に損失が出た場合には税金で穴埋めすることを想定しているようです。総理、不良債権問題の処理方針についてはもう一度自分の目で確かめ、預金保険機構やRCCに不良債権を簿価で買い取らせるようなことはしないということを、あなた自身の口から明らかにしていただきたい。


(デフレ対策と景気対策、証券税制改革と補正予算)


 もうひとつの大きな経済の課題はデフレ対策であります。まず、デフレ対策は「インフレにすればいい」という短絡的なことではないということをはっきり申し上げておきます。
第一に、需要を喚起するための税制改革が不可欠です。民主党は、住宅・耐久消費財取得、教育費等のローンに係る利子を所得控除する制度の導入、さらには住宅譲渡損失繰越控除制度の適用要件の緩和などを提言しています。

 証券税制改革について巷間様々な議論が行われていますが、政官業癒着と利権の温床になっている税制を牛耳っている自民党税調に対して、総理が「戦いを挑めるのか」そして「勝てるのか」ということを、国民は、固唾を飲んで見守っています。総理、あえてあなたを激励しましょう。自民党税調に戦いを挑み、まず証券税制改革をあなたが思うように断行しなさい。自民党税調は総理大臣より偉くないということを国民の前に示しなさい。さもなければ、あなたの実行力を多くの人が疑うこととなるでしょう。

 需要対策の第二として、補正予算が懸案であることも言うまでもありません。しかし、従来型の公共事業中心にしないこと、30兆円の国債発行限度を守ること、このふたつのポイントが守れないようでは、補正予算を編成しても、あなたの改革路線はまやかしだったことが露呈します。

 総理、デフレ対策、ひいては景気対策として、只今申し述べた三つの点について明確な答弁を聞かせてください。


(雇用対策)


 次に雇用対策についてお伺いいたします。
 政府は98年度以降、雇用対策を次々と打ち出してきましたが、完全失業率は本年8月も5.0%です。雇用状況は一向に改善しておらず、国民の目には「失業率をこれ以上あげないため、とりあえず何かをする」といった付け焼刃的政策と映っております。

 総理、米国テロ事件後、「世界同時不況」という言葉も飛びかい、ますます不安が広がりつつあります。政府の度重なる雇用対策にもかかわらず、なぜ雇用失業情勢が悪化の一途をたどっているのか。今後どのような姿勢で、雇用対策に取り組んでいかれるおつもりなのか、まずお伺いいたします。

 次に、政府が昨今出された総合雇用対策も含め、短期的な緊急雇用対策についてお伺いいたします。

 まず、第一に、特に失業期間が長期に及ぶ方々に対して、きちんとしたセーフティネット策を提示し、マンツーマンで再就職に結びつける施策を集中的に行う必要があります。現在、失業期間が1年以上に及ぶ方々は失業者全体の4人に1人、2年以上に及ぶ方は8人に1人となっており、その多くは再就職が難しい中高年で、家族を抱え、経済的にも精神的にも苦しい状況に追い込まれていると予想されます。

 そこで、雇用保険財政安定化のため、2兆円規模の基金を創設するとともに、雇用保険とは別枠で、3年程度の時限立法である「職業能力開発支援制度」を設置することを提案します。これは、雇用保険が終了してもなお就業の見通しのたたない失業者や自営業廃業者に対して、最長2年間までの職業訓練制度の受給を可能とし、この職業訓練を受けることを条件に1ヶ月10万円程度の生活支援を支給するという内容であります。

 第二に、公的部門での雇用創出についてお尋ねします。公的部門での雇用増は、緊急的な失業者の再就職へのつなぎ対策としてとらえるべきですが、その後の民間活力導入につながるような形で、積極的に進めるべきです。少子高齢化、地域の安全確保、環境保全など、公的サービスのニーズの高まっている、先導的な分野に限定して進めるべきであると考えますが、総理の答弁を求めます。

 総理がこの国会を「雇用対策国会」とお呼びになるのであれば、これまでの対策が十分な効果をあげていないことを認識し、反省した上で、雇用のミスマッチ解消をはじめとする新たな施策に邁進すべきです。雇用に関わるセーフティネットがしっかり整っていることを国民にはっきりと提示しなければ、日本経済の再生もありえません。これまでと違って、雇用不安のない社会をつくる、これこそが構造改革の大前提であることを、総理に明言していただきたい。



第二部:自民党政権が創り出してきた政治不信を取り除け。

(高祖問題・天下り禁止)


 次に、参院選で当選した高祖憲治氏の辞職に関連して、質問いたします。

 先月25日、高祖議員が辞職しましたが、遅きに失しました。高祖氏が辞めれば済む話ではなく、政官業の癒着の根は深いものと言わざるを得ません。

 総理は自民党が変わるという幻想を国民に与え、「聖域なき構造改革」への痛みに耐えるよう訴えられましたが、あなたが指揮した選挙で、政官癒着の典型的な選挙が行われたのであります。

 直前まで自らが「長」を勤めていた公務組織を選挙のために利用し、逮捕者を出している事態を生じさせたことは許せません。私が、今回の事件を通じて憂慮の念を益々深くしているのは、時の与党が、幹部公務員を使って自らの党の候補者を当選させようとすることがもたらすであろう「恐ろしき結果」であります。その「恐ろしき結果」とは、現職幹部公務員の政治的中立性の喪失、即ち与党化です。

 高祖問題の真相解明と監督責任を果たす考えがあるのかどうか、明確にご答弁願いたい。
私たちは、高祖氏の証人喚問を求めています。あなたの言う「聖域なき構造改革」が本物であることを証明するためにも、自民党総裁として、与党もこれに応じるべきとの見解をこの場で示していただきたい。また、政府・与党が取り組んでいる公務員制度改革案には、政治的中立性を強化する提言が欠けていると考えますが、総理はこうした批判にどう応えるのか、答弁をいただきたい。

 さらに、政官業の癒着を示す最も象徴的な問題が天下りであります。
 現在、公務員が退職後二年以内に営利企業に天下りすることは原則として禁止されています。しかし、特殊法人や認可法人、公益法人に天下りすることは認められていることから、いったん特殊法人等に天下りした高級官僚が、複数の特殊法人等や営利企業を渡り歩き、高額の役員報酬や退職金を受け取る、いわゆる「渡り鳥」が後を絶ちません。

 民主党は、営利企業だけではなく特殊法人等への天下りも五年間禁止することを柱とする天下り禁止法案を策定、野党三党共同で151通常国会に提出しています。

 私は、この天下り法案に、当然、政府・与党も賛成いただけるものと確信致します。構造改革の痛みを庶民には味わってもらうけど、高級官僚は別とは言わせません。小泉総理は、5月の本会議で、「内容が共鳴できれば、与野党の区別なく、野党も与党の法案に賛成していただきたいし、与党も野党の法案がよければ賛成する」と答弁されています。総理より見解をいただきたい。
 

(狂牛病問題)


 狂牛病問題が日本の食卓を揺るがしています。
 現在EUでは、感染源とされる「肉骨粉」をすべての家畜に与えることを禁止、また食肉にする前の検査対象を拡充、感染可能性が高い特定危険部位は検査結果に関係なく除去することを義務付けています。この取り組みは、新たな感染と食品への混入を防ぐものです。さらに、牛肉の需給バランスが崩れていることから、政府による食肉の買い上げと処分を実施し、肉牛農家の経営安定化策も行っています。

 それに比べて、今回のわが国政府の対応のお粗末ぶりには、呆れるばかりです。行政が事実を隠蔽し、頬かむりしてきたことは厳しく糾弾されねばなりません。肉骨粉を与えることがいかに危険かについて、畜産農家に正確な情報を流すことなく、イギリスからの輸入を禁止すればそれで良しとした政府の杜撰な対応は問題です。また、肉骨粉の牛への使用を控えるよう行政指導という中途半端な措置をとって、実際には数千頭の牛が肉骨粉を食べていたことを放置していたことは、言語道断と言わざるを得ません。

 とりわけ農水省のいいかげんな対応には、言葉がありません。くだんの乳牛は、当初、狂牛病の検査に頭部だけを回し、それ以外は「すでに焼却処分された」と農水省は説明していたのではありませんか。しかし、現実には茨城県の飼料工場に運搬され、他の牛と一緒に肉骨粉がつくられていたのです。疑惑の出た乳牛をどう処分するかで、農水省と厚生労働省の間に軋轢があったと聞いていますが、両省での総合調整がうまくいかなかったことは、内閣の重大な責任であります。国民に嘘の情報を流すとは何事ですか。この責任をどう取りますか。

 武部農水大臣、よくあなたはその席に座っていられますね。これは内閣全体の問題でしょう。また、総理をはじめとする内閣全体の責任も明らかにすべきです。この点について、総理より明快なる答弁を求めます。

 政府は、早急に感染源を解明するとともに、消費者・生活者の立場に立って感染拡大の防止に全力をあげるべきです。安全な食を提供してこそ畜産業も発展することを忘れてはなりません。

 政府はこの期に及んで、国内産の肉骨粉の製造や出荷を一時停止するとともに、海外産も含めて在庫を全て焼却し、費用を国が負担する方針を明らかにしました。また、輸入についても一時的に全面禁止することとしました。

 食の安全を第一に考えれば、当然の措置と思われますが、政治的決断が遅きに失したのではありませんか。今後、風評被害についてどのような対策をとるのか、消費者の不安を取り除くためにいかなる取り組みを行うのか。更に、畜産農家をどう支援するのか。その具体策について、総理及び農水大臣にお伺いします。


(外務省不祥事)


 次に、外務省不祥事に関連してお尋ねします。
 テロ事件の対応を見ても、今日、日本の外交は機能不全に陥っていると言わざるを得ません。外務大臣の、機密費問題を解明し改革をなそうとする意欲は多とします。しかしながら、あなたは外務省職員の人心をしっかりと掌握していますか。部下を心服させていますか。正すべきは正すが、やはり大臣としてその全人格をかけ人心を掌握し、部下を心服させるのがまず第一であります。部下を叱りつけるだけでは人はついてきません。人がついてこなければ外務省は機能せず著しく国益を損じます。今日の外務省の事態を大臣としてどう考えておられるか、その存念を承りたい。

 先月27日、会計検査院は在外公館での外交機密費の実態などを明らかにしました。同時に、総理と外務大臣に、機密費の管理状況を十分把握できる体制や監査体制の整備などを求めた処置要求を提出しました。総理への処置要求は1954年以来、実に47年ぶりであり、重大な事態と言えます。

 先の通常国会において、機密費削減のため、民主党が提出した予算修正案や「機密費流用防止法案」を与党は悉く葬り去りました。民主党の真摯な提言を潰しおいて、政府・与党に本気で外務省を刷新しようとする気はあるのですか。総理の答弁を求めます。



第三部:国民の不安を解消し、明るい未来を切り開こう。

(医療制度改革)


 次に、医療制度改革について伺います。
 政府は、1997年に患者負担増だけを求める健康保険法改正を行って健保財政の危機を乗り切る代わりに、2000年までには医療制度の抜本改革を行うと公約しました。当時の厚生大臣は他でもない小泉総理ご自身でした。

 しかし、これまでに医療制度の「抜本改革」は行われたでしょうか。今日までその道筋さえ見えず公約は破られたと言わざるを得ません。構造改革の実現を力強く主張し、有言実行を旨とする小泉総理にして、なぜ医療の改革が進まないのでしょう。私はその最大の原因は、医師会と自民党の癒着による改革つぶしにあると考えますが、総理いかがですか、見解を伺います。

 その制度改革について、先日、厚生労働省が試案を発表しました。一方で、官邸サイドは、経済財政諮問会議や総合規制改革会議が「市場原理による改革」の方向を出しています。担当の坂口大臣は、そうした考え方のみならず、厚生労働省案に対しても批判的のようにも見えます。これから年末にかけ様々な関係団体が意見表明し、まさに百家争鳴の議論になると予想されます。小泉総理、あなたはこの医療制度改革について、どのような理念を持ち、今後の医療制度をどのように改革していこうとお考えか、まずご見解を伺います。あわせて坂口大臣にも答弁を求めます。

 この際、「市場原理による改革」について伺います。それは、アメリカ型の医療システムを想定していると思われますが、混合診療の導入など国民皆保険制度を放棄するおつもりですか、答弁を求めます。また、医療に効率化と患者サービス向上のための競争は必要ですが、市場原理だけでよいとお考えか、お答え下さい。さらに、医療が私物化されたり、営利目的で行われたりする現実がありますが、株式会社を参入させる前に、医療法人制度の見直しや個人病院のあり方など、医療の公共性を高める改革をすべきではないでしょうか、答弁を求めます。

 さて、厚生労働省案について伺います。試案では、患者本人の3割自己負担や、老人医療を75歳以上にし70歳から74歳までの老人自己負担を2割にするなどの内容が述べられていますが、これではまさに保険財政の危機を乗り切るため自己負担を増やすという97年改正の手法と全く同じではありませんか。結局、構造的な問題解決を先送りし、増加する医療費は患者負担引き上げによって賄おうとするもので、これでは国民に痛みばかりを押し付ける改革になりませんか、総理の見解を求めます。

 また、老人医療制度を75歳以上とする点については、国民皆保険制度をとる国において、年齢によって保険制度を区切っている国はありません。私はエイジフリーを目指す今の時代に逆行する政策だと思いますが、総理のご所見を伺いたい。

 厚生労働省によれば、わが国の自己負担比率はすでに欧州諸国の2倍程度あり、相当高い水準にあります。また自己負担比率の引き上げによって、医療費の適正化に成功した国は無いという教訓もあります。確かに、負担と給付のバランスは必要ですし、国民に対して「価値あるサービスには、相応の対価を支払う」ことの理解を求めることも大切でしょう。しかし、それは「真に価値ある医療サービス」が提供されてこそ、納得できるのではありませんか。その意味では、良質かつ適切な医療、医師と患者が信頼しあえる医療提供体制を作り上げていくことが何より重要だと考えます。

 その際、情報公開や情報提供が大切なポイントであり、民主党は、医療に関わる情報公開を内容とする、いわゆる「患者の権利法」を今国会に提出しました。医師と患者が情報を共有し、患者の理解と選択に基づいた良質かつ適切な医療を促進すること、そしてまた医療の透明性を高め、国民の医療への信頼を向上させ、患者の権利擁護に資することを目的にしています。この「患者の権利法案」の成立こそ、国民の立場からの医療制度改革の第一歩だと考えますが、総理、法案に賛同していただけますか、明快な答弁を求めます。


(最後に)


 同時多発テロに直面し、我々は重大な運命の岐路に立っていると言っても決して過言ではありません。我々の任務は言うまでもなく、まず、国民一人一人の命を守り、その生活基盤を確保することにあります。憲法前文に「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する」とあります。

 テロに対する戦いは、ここでいう戦争とは違います。しかし、国際社会の一員としてこれを撲滅するには、国民一人一人にもそれなりの覚悟が求められます。そして、その覚悟を求める以上、総理の全人格を掛けたリーダーシップの発揮が何よりも求められると思います。

 しかし、その総理は聖域なき構造改革を叫び、国民に痛みに耐えるよう訴えておられます。

 しかし、強い者が生き残れば弱い者は切り捨てる、そういう社会を目指しておられるようにも思われます。これでは、国民の未来に対する安心を得ることはできません。国民一人一人にとっては、未来への安心が保障されてこそ元気が出るのです。そして、自らを犠牲にしても憲法前文が求めている、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めるために奮闘する高い志を持つことができると、私は確信しています。そのような政治を実行することが、今一番求められていることを訴え、私の質問を終わらせていただきます。
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