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1998/02/18
政権運営構想(要約版)
民主党政権運営委員会



第1章 政府の構造改革に向けて


1 新しい政府のための改革課題

(1)政権交代には、政府の基本構造を変えることなく行われるものと、政府の構造改革にチャレンジするものとの2種類がある。細川政権は政権交代という点で画期的なものであったが、政府の構造改革をめざすものとはならず、結果的に官僚に強く依存するものであった。政府の構造改革にまで切り込む政権の実現を目指す必要がある。

(2)いま、求められていることは、「単に政権交代があればよい」というだけでなく、それによって樹立される新しい政府が真に国民生活の現在と将来に有効に機能するものであるか、日本の国益にかなった舵取りを政治の決断と責任において取り進めるものであるか、ということである。
 
日本政府もしくは内閣の構造的問題点

(1)政府運営の内閣・政党二元システム
 日本の政府の構造的特徴は、実質上の政府運営が「内閣」と「与党」との二元構造になっている点にあり、それが責任の曖昧性を生じてきた。

(2)行政官による政府機能への浸透
 長官に行政官が就任し、内閣官房の首席参事官や首相秘書官まで各省出向者が配置されるなど、本来政治的任用者である地位に行政官が充てられてきた。

(3)政府の小さな政治機能の現状
 結果、対政党・対官僚関係における「縮減された政府」が日本政府の特徴となっている。

さらに、

(1)内閣の構成の派閥均衡人事等に伴う制約
 自民党政権下では、政権党派閥が内閣人事を拘束し、総理大臣のリーダーシップが制約され、改革の実行を先送りさせる要因となってきた。 

(2)族議員政治による制約
 70年代以降、「族議員」に注目が集まり、「党高官低」とまで言われるようになったが、それはいわば<内閣の外で>の無責任な行動を創り出してきた。

(3)閣議の意志決定段階における省庁縦割りの制約
 「分担管理の原則」が閣議の中に<省庁縦割型>割拠制をもたらし、慣習としての全会一致制と重なり、総理大臣のリーダーシップを制約してきた。

■課題としての内閣総理大臣のリーダーシップ

 日本の内閣総理大臣のリーダーシップを制約するものには、法制度要因とともに、その政治構造的要因がある。自民党政権の場合、政権党内の会派や派閥という分化構造、官僚と族議員のタテ割型分化構造の双方が、総理大臣の統合的リーダーシップ発現のための阻害要因となっている。

2 政府構造の改革のための「5つの焦点課題」

(1)政府と政党との関係
 内閣と政権党との二元構造を改革し、イギリスの政府のように政権党を内閣の中に統合し、内閣が責任をもって政府を運営できる構造にする必要がある。

(2)政府と行政との関係
 官僚主導をもたらす事務次官会議などのあり方を見直す必要がある。内閣の統一した意志の下に政治主導の政府運営を行う仕組みを工夫すべきである。

(3)政府と国会との関係
 政府委員を廃止し、政治家及び政府責任者中心の審議を促進する。政府の下に対国会対策機能を整備し政府と国会との関係を再構築していく必要がある。

(4)首相のリーダーシップと閣議又は内閣との関係
 全会一致制と「分担管理の原則」に基づく内閣や閣議運営を改革し、首相の統轄権に基づいて行政各部を指揮監督できる仕組みを整備すべきである。

(5)政府と国民との関係
 <首相候補者>と<政権政策>の提示による国民による直接的な政権選択の機会を提供するよう努めて、「国民内閣制」の実現を目指す。

第2章 現行制度の下での政府の構造改革

1 内閣総理大臣のリーダーシップに係る問題点

(1)今日の内閣システムは、合議体としての内閣の補佐機構を優先して、内閣総理大臣の個性的・政治的なリーダーシップを発揮させるための補佐機能はきわめて脆弱なままである。同時に、ある意味でそれ以上に、自民党長期政権下での「与党と内閣の二元構造」が政府の動きを制約し、内閣総理大臣のリーダーシップの発現を大きく制限してきた。

(2)この点、現在進められている政府の行政改革会議の提言は、「政治抜きの機構整備」となっており、内閣総理大臣の政治的リーダーシップのための改革として中途半端なものにとどまっている。

内閣官房機能の拡充と官邸体制の整備

(1)内閣総理大臣の政治的補佐体制の確立
 官邸には、政治任用者を計9人を配置でき、第一次的なチームを構成している。秘書官3名もすべて行政の外からスタッフとし、また、総理大臣の補佐として、非官職の特別補佐、補佐及び秘書を配置する。これにより、総計20人を超えるスタッフ体制を構築することができる。

(2)総理大臣の政治的補佐職の地位・権限の明確化
 総理大臣補佐官及び同秘書官については、総理直結のスタッフとして一体的な行動が可能となる地位と権限を持たせる。例えば、総理大臣室にて行われる会議や総理が出席する会合及び閣議に陪席することができることとする。

(3)政官のインターフェースを担う内閣官房副長官
 政治家の官房副長官のうち一人は、<政策調整>を担当することとし、合同次官会議の運営などを担う。当該副長官は、与党の政調会長を兼務する。また、官房副長官の下に、政治家の官房長官補佐を配置して政調機能を担当させる。他の一名は、院内の国対委員会との連絡調整や官房として求められる対外折衝などを担当する。 

(4)総理の戦略的政策機能のサポート体制の確立
 総理大臣の私的諮問機関その他民間人による政策会議の設置、タスクフォース型組織を積極的に活用する。また、常設のアドバイザー・グループを設置して総理の専門家による補佐体制を確立する。

(5)内閣総理大臣の執行方針(演説草稿)に関する仕組みの明確化
総理大臣は、重要な政策及び内閣運営に関する基本方針の作成を行う。草稿作成の作業は総理大臣補佐官が担うものとする。

(6)報道官機能の整備
 現行では、報道官機能、情報収集、広報などが縦割型のままとなっている。将来的には広報官の政治任用をめざし、当面は、報道担当秘書官を配置しその連携の下に広報官室を有効活用する。

(7)内閣の危機管理体制の確立
 各領域ごとに予測される緊急事態に対応する専門的人材の配置とその任用期間の長期化を検討する必要がある。

(8)総理府の積極活用と人事システムの改善
 現行の総理府を諸外国における「内閣府」と同様に拡充し活性化する。このため、その人事配置については官邸主導で行う。官邸に対するロイヤリティの調達を確保し、総理府配属経験者は省庁横断的な人事において重要なポジションを占めるようにする。

2 対議会・対政党関係と省庁及び省庁間調整の仕組み

内閣と与党の一体化による政府の運営

(1)政府と与党との統合的運営は、責任ある政府運営の要であり、新しい政府の基本線である。このため、与党の党首、幹事長及び政調会長はすべて閣僚とし、政府の外に与党が非責任主体のまま強力な政治的影響力を行使するという事態を避ける。与党の幹事長は、無任所大臣として、党務を指導するとともに、対議会関係の窓口となって任務を遂行する。政調会長は、少なくとも一人が官房副長官を担い、内閣及び各省庁間の政策調整に当たる。与党党首は、内閣総理大臣に就任する者を除いて、政府の副総理格に準ずる閣僚を担い、総理大臣とともに政治的調整の頂点を担う。

(2)国会対策機能は院内に置く。ただし、幹事長を兼務する無任所大臣及び官房副長官の一人が院内と内閣の連絡調整に当たる。院内の与党議員集団をとりまとめ、かつ国会対策を担う総括的な責任者(以下、「院内総務」と呼ぶ)については、閣僚級の人材を配置する。院内総務は、インナーキャビネットとしての「内閣協議会」(後述)に出席することができる。院内総務の下に、10名程度の院内幹事を配置する。院内幹事は、複数の省庁及び議会委員会を担当し、その政治的調整を行う。

政官インターフェース機能の整備と政治主導の閣議案件調整 

(1)大臣の政治的補佐体制の確保
 大臣の補佐機構はその多くを官僚に依存している。将来的には副大臣制度の導入などを検討し、政務次官、大臣秘書官に加えて、政治家の大臣補佐、非官職の大臣付秘書スタッフを置く。省議に上記の政治任用者などを同席させる。

(2)政務次官の政策調整機能の充実
 政務次官は与党の部会長を兼ねる。政党は内閣と一体の政策運営に責任を持ち、省庁に対する政治主導の政策調整が可能となる。省庁間の政策調整についても、各省庁の政務次官から構成される「政務次官政策調整会議」にて行う。

(3)合同次官会議の設定と運営
 「事務次官会議」を改組し、新たに「合同次官会議」を設置する。同会議は、閣議にかける案件を協議し、トップレベルの政治判断を要する事案については閣議に上げる。

3 総理のリーダーシップ発揮と柔軟な内閣運営

「内閣協議会」の柔軟な運営と活用

(1)閣議の活性化
 現在の閣議は形式的なものにとどまっており、花押のサイン会になっている。実質的な合意は事務次官会議の前に形成され、内閣としての政治判断を下すケースも少ない実状にある。閣議の活性化をはかるため、閣議に政治案件を持ち込んで闊達な議論が生まれるよう内閣総理大臣の発議権をフルに活用し、閣僚間の自由な討論が展開される閣議運営を行う。

(2)内閣の意思形成のための柔軟な仕組みの積極活用 
現在でも、全員立ち会い型の閣議運営以外に、「持ち回り閣議」という緩やかな運営方式をとっている。また、特定課題についての「関係閣僚会議」や「閣僚懇談会」など、閣議形式とは異なる意思形成システムも認められている。政治主導の多様な仕組みを大いに生かして、迅速かつ効果的・指導的な政策的意思形成を促進すべきである。

(3)インナーキャビネット方式によるトップダウン型意思形成の確立 
イギリスでは、関係閣僚からなる「内閣委員会」が数多く設置されており、大臣のみが出席する大臣委員会、公務員のみで構成される委員会、政治家と公務員で構成される委員会など形態も多様である。内閣総理大臣の下における統合的意思形成の仕組みとしてインナーキャビネット(内閣協議会)を積極的に展開する必要がある。特に戦略的に重要な課題については、総理大臣及び副総理格の大臣の外、幹事長である無任所大臣、院内総務、関係閣僚の出席による迅速かつ効果的な意思形成のシステムとして活用すべきである。

内閣の意志決定と「閣議・内閣協議会・次官会議」関係

 合同次官会議及び政務次官政策調整会議で基本的な政策事項に関する省庁間調整を担うが、調整が困難な問題は閣議案件には上げないといった従前のやり方を修正し、戦略的な内閣協議会に持ち上げて政策調整を行うこととする。また、内閣協議会で提案された案件がトップダウン型で各省庁の大臣及び次官におろされ、それが合同次官会議にかけられるということも行われる。これにより、省庁からのボトムアップ型案件と内閣総理大臣が発信するトップダウン型案件の双方を閣議案権として処理することになる。

政府と国民との相互的な関係の確立へ

(1)開かれた政府運営
新しい政府は、「国民の知る権利」に裏打ちされた情報公開制度の実現と定着を最優先する。院内における政治調整や政党間の駆け引きを実際的政治の処方として積極的に活用しつつも、それを国民の前に可能な限り開示し、開かれた政府の運営につとめる。総理の下に公開型の政策会議を設置して、専門家や国民各層の意見を積極的に取り入れる仕組みを確保する。

(2)国民とのコミュニケーション重視型の政府
国民は、政府のリーダーであり政治的シンボルでもある総理のメッセージを受け取り、それを自らの判断の素材にしたいと考えている。総理は、政府が直面している問題について直接国民に呼びかけ、そのための政策方針について問いかける努力をすべきである。また、補佐機能としてメディア関係の専門的アドバイザーの確保や報道官機能の確立を早急に検討し整備する必要がある。

(3)首相及び政権政策を実質的に国民が直接選択できる選挙の実現
小選挙区選挙制度は、国民が直接「政権与党」を選択する機会を提供するものとなった。「首相(総理)候補予定者」を確定し、国民に対してどの人物を総理として選択するかを求め、「政権政策」提示して政府の基本政策を国民が直接選ぶことができるようにする。こうして、選ばれた首相(総理)とそれを選んだ国民とが直接結びつくこととなり、これまでのような<業界のための政治>ではなく、<国民のための政府>の基盤が確立することになる。


第3章 内閣システムに関する制度改革

1 内閣の法制度と内閣のシステム改革

(1)戦後の日本国憲法は、内閣総理大臣を内閣の「首長」として位置づけ、その地位・権限を明確に強化した。にもかかわらず、戦前から続いている伝統的な行政法解釈に基づく<内閣中心主義>と<分担管理の原則>が、総理大臣の行動選択及びその指導性の発現を制約してきた。

(2)そもそも、憲法に言う「内閣」とは、単なる合議機関ではない。それは、総理大臣の統轄及び指揮監督の下に成立する執政機関である。日本国憲法66条「首長たる内閣総理大臣」の規定によりその他の国務大臣の上位に位置づけられたこと、同68条で国務大臣の任免権を規定して総理の優越的権限を明確にしていることによってそのことは明かである。

(3)首長たる内閣総理大臣は、内閣の運営に関する優越的権限を背景とする「統轄」の権限を有しており、その点を何よりも明確にすることが重要である。

(4)現行内閣法の改正を進めなくてはならない。将来的には、内閣法そのものを抜本的に見直し、日本国憲法が想定する議院内閣制の本来的な姿に対応する新たな法整備を検討する必要がある。また、内閣総理大臣の本格的な補佐機構としての「首相府」の設置など、大胆な組織機構の変革も必要である。
 
2 現行内閣法に係る主な改正事項

 政党が官僚機構をコントロールする議院内閣制の本来的機能を十全に展開し、総理大臣が政治的リーダーシップを発揮するための内閣法改正を提言する。

内閣法の主な改正点

(1)首長たる内閣総理大臣の統轄権を明記する。
 現行法では、合議体としての内閣についての規定が目立ち、総理大臣の首長としての地位から発生する統轄権限が不明確である。首長たる地位が占める機能と統轄権について、より明確にする。

(2)国務大臣の分担管理の指示は内閣総理大臣の権限であることを明記する。
 現行、「別に定める法律」に委ねられている分担管理及び「主任の大臣」について、内閣総理大臣が直接指示するものであることを明確にする。

(3)内閣総理大臣の発議権及び基本方針に係る権限を明示する。
 総理大臣の基本方針提案・発議権は憲法や現行内閣法の解釈によっても与えられていると判断されるが、より明確な規定を置く。 

(4)内閣総理大臣の指揮監督権を強調・明記する。
 総理大臣の行政各部に対する指揮監督権は、国務大臣の任免権を有する総理の当然の権限である。これらの点をより明確にする。

(5)内閣総理大臣の権限としての裁定権を明確にする。
 「閣議にかけて」の規定を削除し、内閣総理大臣の優越的地位に基づく固有の権限としての裁定権をより明確にする。

(6)中止権は、内閣総理大臣の当然の権限であることを明確にする。
 内閣総理大臣の「中止権」は各国務大臣の権限を超えたものであり、それを「内閣の処置を待つ」現行の仕組みを改正し、固有の権限として明確にする。

(7)内閣副総理大臣の規定を置き、責任及び代理関係を明確にする。
 現行の代理規定を廃止し常設の副総理大臣を置く。これにより、副総理大臣は、日常的に内閣総理大臣の代理の職務を遂行することが可能となる。

(8)副大臣及び政務官の規定を置く。   
 現行の代理規定を廃止し副大臣を置く。これにより、日常的に大臣の代理を可能とすることができる。また、政務官の設置規定を設ける。

(9)内閣総理大臣の発議に係る官房機能を整備する。 
 内閣官房の職務に、内閣総理大臣が発議する一般方針作成及びそれに係る企画立案に関する事務の規定を明記する。

(10)官房副長官を3人以上置くことができるようにする。
 官房副長官を3人以上置くことができるよう、総理大臣の裁量を可能にする規定とする。

(11)内閣危機管理監の任免は内閣総理大臣が行うと明記する。
 内閣危機管理監の任免については、内閣への「申し出」などの拘束的手続きを廃止し、内閣総理大臣の固有の権限事項として明記する。

(12)内閣総理大臣補佐官の員数規定を柔軟化する。
 内閣総理大臣補佐官の数を法規定から政令に移行し、その任用についても内閣総理大臣の裁量が生きる規定とする。

(13)内閣専門官を設置し、内閣参事官、内閣審議官等の任用を柔軟なものにする。
 内閣官房に内閣及び内閣総理大臣の政策的アドバイス機能の担い手として「内閣専門官」を若干名配置する。内閣参事官らの任用について政治任用も可能となる規定に切り替える。

(14)内閣総理大臣秘書官の任用を柔軟化する。 
 内閣総理大臣秘書官の定数及び任用の詳細規定を政令に委ねる。

(15)内閣総理大臣を内閣官房の「主任の大臣」とする規定を廃止する。
 「主任の大臣」規定は、各主任の大臣の上位に位置する総理大臣の地位を曖昧にするものであり、官房は総理の直接管轄の下にあることを明示する。

3 内閣運営に係る包括的な改革事項

内閣総理大臣の権限行使のための機構の整備等

(1)「首相府」及び「内閣府」の設置
 総合調整をより効果的に推進し、行政の統一性と政治のリーダーシップをはかるため、内閣の首長としての内閣総理大臣の積極的な総合調整及び指揮監督機能を補佐する「首相府」を設置する。これと並行して、現行の総理府を「内閣府」に改組し、内閣主導による省庁間政策調整の補佐機構として拡充する。「首相府」がトップマネジメントの機構として政治的意志に係る指示を出して、「内閣府」はそのための補佐機構として機能するという関係を構築する。

(2)内閣又は内閣総理大臣の最高の総合調整権としての予算編成権の取り込み
 内閣総理大臣の指揮監督権は、行政のハイアラキーにおける最高の総合調整権力であることを明確にし、その最高の総合調整機能の発現でもある予算編成権を内閣の下に移行する。具体的に、予算編成方針の策定については首相府が内閣府の強力を得て行い、予算編成のための内閣協議会がその総括的な編成権限を行使する。

(3)行政機構の再編成に関する内閣総理大臣の権限の強化
 イギリスは、成文憲法を持たず、行政組織編成に関する一般法・規格法である日本の国家行政組織法に相当する法律もない。ドイツは、基本法によって、連邦首相に行政組織の編成及び管理に関する強い権限が与えられている。
内閣総理大臣の指揮監督権及び総合調整権限の発現をより効果的に進めるため、省庁等の行政機構の改廃に関する発議及び裁定の権限を内閣総理大臣に付与する。

(4)新官邸の整備と官邸機能の充実
 内閣総理大臣の直接的な補佐機構たる「首相府」の設置が可能な官邸スペースを確保する。また、内閣の政策調整機能を補佐する「内閣府」と連結した施設構造とすることが必要である。将来的には、ニュージーランドのように、内閣を構成する国務大臣が執務をとり相互に会議を実施できるための大臣庁舎のようなものを建設すべきである。

将来における「政府構成法(内閣等関係法)」の検討

 「内閣」は政治の領域に属する<執政>を担当するものであり、行政実務を遂行する官僚機構とは全く異なるものである。日本国憲法第65条の規定(「行政権は、内閣に属する」)は、内閣イコール行政の意味ではなく、行政は内閣に含まれる、あるいは内閣の統轄の下に置かれるという意味に他ならない。
 「政」と「官」の間にこそ決定的な分離線があり、議院内閣制がその「政」の主導性を前提として成立しているものであることを再確認する必要がある。

(1)議院内閣制に関する一般的事項と内閣に関する基本的事項の記述
 内閣と政党との関係及び内閣と議会との関係について一般的な規定を置き、議院内閣制下での内閣と行政との関係についても記述する。

(2)大臣内閣総理の首長としての権限の列記
首長たる内閣総理大臣と内閣との関係を明示する。その上で、首長たる内閣総理大臣が有する各種権限を列記する。具体的には、閣議の統括、基本方針の設定、行政組織編成権、予算編成権、国務大臣の任免権など内閣総理大臣の統括的権限の発揮を明確にする規定を設ける。

(3)行政組織法からの政治任用ポストなどの切り離し。
 行政組織法には政治任用職も一般職の設置と一括規定されている。これでは、「政」と「官」の区分が曖昧となり、責任関係を不明にする可能性がある。「政務官」とその下で行政実務を処理する「行政官」との違いを明確にする。

(4)大臣官房等に係る組織及び任用に関する一般的規定の設定
 省庁の内部局設置や一般職員の配置数などのいわゆる行政機構問題と、大臣の政治的補佐機構としての大臣官房など政府運営にも係る組織体制問題とを切断し、内閣の下での統一的な政府運営を可能とする。


第4章 政府の構造改革に挑むために

1 政府の構造改革のためのプログラム

 日本の内閣制度の機構と運営の実態は、同様に議院内閣制度を採っているイギリスやドイツとは似て非なるものと言えるほどに、その違いが大きい。官僚組織をリードする首相及び内閣を支える補佐機構のスケールや運用のあり方といった実体面の差違は当然として、根本的に、政治と行政の関係に関する思想に決定的な相異が見られる。そもそも、<議院内閣制度は、内閣を通じて政治がリーダーシップを発現するための装置である>という基本認識がその基盤にあって成り立つものであり、<最初に行政ありき>というわが国の内閣制度はこの点でいまだ異質と言わねばならない。議院内閣制の本来機能の確立に向けた大改革を以下の4つのステージを経ることによって実現する。

(1)ステージ1;野党の段階における「政権担当型政党への進化」
政党自体が、政府の構造改革に挑戦し得る政権担当型政党への発展を遂げなくてはならない。政党は、独自の政策形成機能を持ち、政府を運営するに足る組織力や経営能力を磨かなくてはならない。総理大臣となるべき政治家は、自らの周囲に、トップマネジメントを担い、組織的・継続的に政治的リーダーシップ発揮のための補佐を担う固有のスタッフ・チームを形成する必要がある。

(2)ステージ2;現行法制度下における「最大限内閣」の形成と運営
 現行法制度下での創意工夫ある運営の実行、そのための与党を統合した最大限内閣の構成と政治指導体制の確保である。内閣と政党との二元構造を維持して政府の責任を曖昧にする現行の政治システムを変革し、内閣と政党が一体になって改革にチャレンジする。

(3)ステージ3;内閣法等改正により拡充された「実力内閣」の構成と運営
 内閣法改正による内閣総理大臣の政治的補佐機構の拡充、省庁間の消極調整から積極調整への転換、政府委員制度の廃止や副大臣制度の導入、政治任用可能な特別職枠の拡大などを通じて、「政」が「官」をコントロールするにふさわしい制度基盤を確立する。「首相府」及び「内閣府」の整備を進めて、内閣及び内閣総理大臣の政治的リーダーシップが十全に発揮される。

(4)ステージ4;政権基盤の安定の上に築かれた「新しい政府」の確立
 制度改革に加えて、政権与党としての総選挙の実施などを経て確立した安定的政治基盤を前提に、改革のための本格的な政府、「新しい政府」の実現である。本格的な中央省庁の再編成、地方分権改革の断行、情報公開制度の定着と開かれた政府運営、特殊法人の抜本的な整理改革などは、この段階で着手すべき政府の課題となるものである。

2 課題としての「政権担当型政党への進化」への道

 今日の議院内閣制は、与党たる政党が政府の運営を直接担当するという意味で、「政党内閣制」でもあると見ることができる。政府の構造は、政権を担う政党がいかなる構造を有しているかによって大きく規定されることになる。
 政府の担い手たる政党が自己改革にチャレンジし、新たな政権の実現とともに改革を実行しうる政治集団として進化させている当面の使命となる。

○政権担当型政党への進化のための7つの課題

(1) 独自の政策形成力及びシンクタンク機能の確保
(2) 政党の統率力と政党経営能力(マネジメント能力)の確立
(3) 首相候補者として党首コアチームの形成と運営
(4) 国民との対話を重視する政党マーケティング力の発揮
(5) 優れた情報収集力と危機管理システムの形成
(6) 候補者人材の調達と選挙における政党主導の発揮
(7) 政権運営能力を培う人材リクルートシステムの整備
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