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2003/03/31
イラク問題と日本の国益に関する考え方(座長メモ)
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イラク問題等PT座長 前原誠司

【今後の日米同盟】

◎ 日本が米国の武力行使を支持しない場合、50年以上の長きにわたり営々と築いてきた日米同盟に亀裂を生じさせることになり、国益を損ねるのではないか。

(1)日米安保条約は、日本が米国の核の傘に入り、米国が日本の防衛義務を負う一方、日本は米軍に基地を提供し、思いやり予算を支出するなど、非対称的である。
(2)しかし、米軍の基地使用は、日本の防衛を超え、アジア太平洋地域において米軍のプレゼンスを確保していくという米軍独自の国益もあり、米軍駐留経費も年間6000億円を越える支出をするなど、日本が一方的に米軍に依存するわけではない。
(3)一方、仮に日本が武力攻撃を受けた場合、日米安全保障条約上、米国は「自国の平和及び安全を危うくする」(5条)ものとしており、米国独自の国益に資する義務でもある。
(4)民主党は、日米同盟を日本外交の基軸としている。しかし、国連憲章に反し、大義なき戦争を始めて良いということにはならない。

【北朝鮮問題とのリンク】

◎ 日米同盟は、単に条文上の義務履行の問題ではない。日本が米国の武力行使を支持しない場合、北朝鮮問題を想定すると、米国の協力が期待できず、結果として国益を損ねるのではないか。

(1)50年にわたる日米両国間の絆は強固である。わが国の立場をしっかり主張することが信頼を得る道であり、説明もなしに追従する姿勢は日米関係にも良い影響を与えない。
(2)北朝鮮が暴発した場合、日米安保条約に基づき対応することになろうが、現時点では「拉致・ミサイル・核開発」について、安保理常任理事国でもある中国、ロシアなど多国間の枠組みで北朝鮮問題の解決を図ることが重要である。
(3)米国は独自の国益判断によっても北朝鮮問題を処理する可能性もあり、それが地域の関係当事国たる日本や韓国の利害とは必ずしも一致しない恐れもある。その場合は米国を国連や多国間の枠組みに留めておくことこそ、日本の国益に資するものである。
(4)米国が国連の枠組みや多国間の協調関係に亀裂を生じさせた中で、政府のした米国の武力行使に対する支持表明は、問題の解決を困難にする可能性がある。

【先制攻撃論】

◎ 「ならず者国家」は、自国民を危機にさらし、また、テロ組織は無国籍化しているなど、抑止理論の効果が薄れてきている現状で、生物・化学兵器、大量破壊兵器の使用により、少数のテロリストが甚大な被害を及ぼすことが可能となった中では、先制攻撃を認めていくことが重要ではないか。

(1)先制攻撃は、相手国による武力攻撃が発生していない段階で、差し迫った危険が存在するとして、先制的な武力攻撃により、相手国の武力攻撃を予防の自衛措置をいい、ブッシュ・ドクトリン(2002/9/20)によって、「ならず者国家」やテロ組織に対しては先制攻撃も辞さないとされた考え方である。
(2)しかし、先制攻撃が戦争の惨禍を招いてきたことの反省から、国際連合が創設され、国連憲章第51条は、自衛権行使を「国連加盟国に対して武力攻撃が発生した場合」に限定している。
(3)仮に、51条が国家の本質的な特定権利の防衛のための反撃措置を許容する立場に立ったとしても、イラクへの国際査察が効果を上げていた中で、今回の武力行使がこの場合に該当するかどうか疑問である。唯一の超大国である米国が独自に先制攻撃の権利を行使するのは、国連の機能不全を招来しかねない。
(4)大量破壊兵器がテロリストや独裁者の手に渡ることは重大な脅威となるからこそ、イラクに対し、国連査察団が査察を行った。数ヶ月の査察の継続を拒絶し、単独主義的な武力行使を支持することはできない。

【国連中心主義、国際協調主義など憲法上の理念】

◎ 合意形成が困難な国連や多国間の枠組みより、日米同盟を主軸として国際問題に対処するのが国益に資するのではないか。合意形成の責任を放棄した国連に国家の将来を任せられるか。

(1)国際社会は、世界大戦等の厳しい反省に立って国際連合を創設し、武力の行使が是認される場合を、(i)自衛権の発動による場合と、(ii)国連安保理による武力行使容認決議が採択された場合等に限定している。
(2)今回国連安保理が合意形成に失敗したからといって、国連を強化し、国際紛争を平和的解決に努力してきた国際社会の努力を無にすることは妥当ではない。
(3)国連の現状は、加盟国の様々な思惑が交錯し、国力も大きく異なった主権国家の連合体で構成され、必ずしも法の支配が貫徹できない限界もあるが、その欠点を理由として国連を軽視することは、国際社会が続けてきた「力による支配」から「法の支配」への真摯な努力を無にするものである。
(4)将来の無秩序な武力行使を抑止していくため、国連の枠組みを強化していくことが、平和主義、国際協調を柱とした日本国憲法の理念に合致し、国益に資するものである。

【安保理決議上の根拠】

◎ アメリカ、イギリス、日本が武力行使の根拠とする国連決議1441号、678号、687号など一連の国連決議は、今回の武力行使を正当化できるか。

(1)昨年11月に採択された1441号は、湾岸戦争でイラクに対する武力行使を認めた1990年の安保理決議678号の停止条件を定めた1991年の687号をイラクが依然履行していないことを確認している。
(2)国連安保理決議1441号が、イラクに対する武力行使を認めるものか否かの有権解釈は、安保理が有することは、政府も認めるところであり、フランス・ドイツ・ロシアなどが武力行使を容認するものでないとし、アナン事務総長も、新たな安保理決議がないイラク攻撃は国連憲章違反の恐れがあるとの見解を示していることをもってすれば、同決議が武力行使を認めるものとは言えない。
(3)仮に過去の国連決議を借用しての論理的な解釈が可能であったとしても、10年以上も前の決議では、現在の状況を判断するには不十分である。だからこそ、武力行使を正当化するには、新たな国連安保理決議が必要とされ、安保理で協議が進んでいた。今回、新たな国連決議なしの武力行使を支持したことは、安保理の努力を無にするものである。

【中東における中立的な独自の地位】

◎ 戦後復興における石油資源を考えると、米国を支持することが、権益の確保に資するのではないか。

(1)武力攻撃が開始され、一般市民の犠牲が心配される時期に、復興後のあり方を議論すること自体が、人命を軽視するものである。
(2)まず、人的被害を最小化する努力を重ねた上で、日本のエネルギー資源の確保という観点からの考慮が必要な場合でも、アメリカの武力行使支持が、日本のエネルギー資源の安定供給に資するとは限らない。
(3)日本が中東地域において、アラブ諸国との友好関係を構築してきたことが、日本の独自の地位を保障している。この段階でアメリカ等を支持したことが、戦後復興を想定した日本の国益に資するものであるとは断言できない。

以上

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