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2003/07/16
『原子力の安全性に関する検討委員会』最終報告
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経済産業ネクスト大臣 小沢 鋭仁
『原子力の安全性に関する検討委員会』
座  長 大畠 章宏
事務局長 鈴木 康友


 「原子力の安全性に関する検討委員会」は、一昨年11月に発生した中部電力浜岡原子力発電所における事故に関する調査および再発防止対策検討のため、「浜岡原子力発電所事故対策委員会」として設置され、昨年7月には当該事故の調査結果の報告を行いました。その後、翌8月に発覚した東京電力における原子力発電所点検記録等不正について調査・検証を行うべく、「原子力の安全性に関する検討委員会」に衣替えし、昨年12月には、『次の内閣』にその調査・検討経過の中間報告を行ったところです。以降、本年1月の「もんじゅ」控訴審判決に関する調査(2/26調査結果報告)に取り組みつつ、昨年12月の中間報告時に了承された下記検討項目に沿って、精力的に検討を行ってきました。


<中間報告時における論点整理(今後の検討項目)>
 ◆独立した3条機関設置による安全規制体制の強化
 ◆実効性ある規制制度への抜本的見直し、科学的合理的な規制ル−ルの整備
 ◆原子力の安全性に関する情報公開の徹底と透明性の確保、内部申告制度の見直し等


 具体的には、民主党として提唱してきた独立した新たな規制機関「原子力安全規制委員会」の早期設置を実現し推進機関と規制機関の明確な分離を行うとともに、「新たに設置される規制機関が有効に機能していく為に何が必要か」、実効性ある原子力安全規制行政が実行されるための具体的提言をまとめるべく、有識者や関係団体等からのヒアリング等の場を通じ、米国NRCなど諸外国の事例等にも学びつつ、あるべき検査制度の方向性や国民に対する透明性の確保等の観点から検討を重ねてきました。

 今回、当検討委員会の設立の発端となりました浜岡原子力発電所事故現場を改めて視察し、ここに当委員会としての最終結果を報告いたします。

1. これまでの経過

1.浜岡発電所事故対策
2001年11月 7日中部電力浜岡1号機余熱除去系蒸気凝縮系配管破断事故
11月 9日  〃   〃  原子炉制御棒駆動機構下部(CRD)漏水
11月14日経済産業部門として現地調査団派遣
11月16日調査団報告、「浜岡原子力発電所事故対策委員会」設置
12月 6日「次の内閣」に中間報告
2002年 5月23日浜岡1号機事故最終報告ヒアリング(保安院、安全委、中部電)
5月24日浜岡2号機余熱除去系配管ドレン漏水
6月27日浜岡2号機最終報告ヒアリング(保安院、安全委、中部電)
7月11日「次の内閣」に最終報告


2.東電点検記録等不正問題への対応
2002年 8月30日NC経済産業大臣談話
9月 9日保安院、資エ庁、東電、電事連からヒアリング
10月 8日保安院、東電、電事連からヒアリング
10月10日「原子力の安全性に関する検討委員会」として検討再開
10月29日原子力発電所安全管理に関するヒアリング(保安院、安全委、原子力委)
11月 5日改正原子炉等規制法案等、諸外国の事例など安全規制機関の独立性等についてヒアリング(電力中央研究所)
11月13日諸外国の告発制度、我が国の課題等についてヒアリング(電力中央研究所)
11月19日諸外国の検査制度等在るべき検査制度や安全規制体制等についてヒアリング(原子力発電技術機構)
11月26日維持基準の意義等今後の検査制度の方向性等についてヒアリング(総合資源エネルギ−調査会「検査の在り方検討会」)

★ 第155臨時国会に「原子力安全規制委員会設置法案」を議員立法として提出。政府提出「電気事業法及び核原料物質及び原子炉ま規制に関する法律の一部を改正する法律案」について与党と修正協議を行い、民主党主張に沿って閣法を修正。(12/11修正案成立)

★ 第156通常国会に「原子力安全規制委員会設置法案」を再提出(6/11)。



3.「もんじゅ」行政訴訟控訴審判決への対応
2003年 1月28日検討委員会役員会
1月29日本対策委員会として談話発表
1月31日判決内容に関してヒアリング(保安院、文科省、原子力安全委、原子力委、核燃サイクル開発労組)
2月 4日検討委員会役員会
2月 5日判決内容に関しヒアリング(保安院、文科省)
2月12日判決内容に関しヒアリング(宮崎大阪大名誉教授)
2月13日判決内容に関しヒアリング(海渡原告弁護団主任弁護士)
2月14日検討委員会役員会
2月18日判決内容に関しヒアリング(海渡弁護士他、核燃サイクル機構)
2月21日検討委員会役員会
2月25日調査結果報告内容について論議
2月26日経済産業部門会議に報告、「次の内閣」に報告


4.対策委員会最終報告とりまとめ
2003年 3月19日原子力発電設備の健全性評価についてヒアリング(保安院)
6月30日中部電力浜岡原子力発電所視察
7月 9日対策委員会役員会
7月10日保安院ヒアリング、最終報告内容案について論議
7月11日対策委員会・経済産業合同部門会議にて報告、論議


2. 報告内容の概要

1.独立した3条機関設置による安全規制体制の強化

* 昨年の不正事案の根本的要因は、推進機関と規制機関を明確に区分せず、緊張感無き原子力行政を放置し続けてきたことにあり、民主党がかねてより提唱してきた独立した安全規制機関の早期設置が不可欠です。

2.実効性ある規制制度への抜本的見直し、科学的合理的な規制ル−ルの整備

(1)あるべき検査制度の方向性〜検査制度における「品質保証」の導入

* 今般の事案では、規制行政の体制問題だけでなく、現行の検査制度の実効性や規制当局側の検査能力、安全性評価における科学的合理性等も問われました。
 現行の形骸化した形式を重んずる検査制度を抜本的に改め、設備・機器の安全管理といった「ハード面」だけでなく、事業者の検査体制や法令遵守状況といった保安活動そのものの“質”を監査する“ソフト面”も考慮した「品質保証型の検査制度」を導入すべきです。このことにより、事業者が行う保安活動のハード・ソフト両面に対し、独立した規制機関が抜き打ち的に監査に入るという緊張感を与えることが不可欠です。

* また、国の検査官の資質向上の為、欧米で採用されている「技量認定制度」を導入すべきです。

(2)科学的合理的な「規制ルール」の整備

* 昨年の法改正に伴う「健全性評価」導入を契機とし、安全規制ルール全般について、国・事業者が定めるルールではなく、国際的視点や他産業の技術革新など先進的な知見を採り込んだ科学的合理的な「規制ルール」を整備すべきです。なお、民間規格の採用及び活用にあたっては、国民に対する情報公開、透明性の確保を重視すべきです。


3.原子力の安全性に関する情報公開の徹底と透明性の確保、内部申告制度の見直し等

(1)事故・トラブルの積極的な情報公開、「原子力情報公開ガイドライン」の創設

* 原子力の安全性に関し、国民に対する情報公開によって透明性を確保していくことは、事業者や国による安全確保が適切に維持されているか否かをチェックする最も重要な社会的機能です。事業者は、国民に対する情報公開、更には将来の安全リスクの早期検知の観点から、原子力施設内における事故・トラブルについて、規制の有無や安全上の軽重に関わらず、原則的に全て公開すべきです。また国においても、得られた情報を出来る限り速やかに公開し規制の透明性を担保し、規制行政に対する国民の信頼確保に努めるべきです。あわせて、現行の曖昧なトラブル等報告基準を抜本的に見直すとともに、国民、とりわけ地域住民の安心・信頼確保のため、より具体的で分かり易い情報公開に資する「原子力情報公開ガイドライン」を早期に具現化すべきです。

(2)内部告発制度について

* 昨今のように企業の不祥事や事実隠蔽等が相次ぐ中においては、申告者本人はもとより、消費者・生活者保護や公益保護の観点から、告発制度が果たすべき社会的機能は大きいと言えます。また、企業側から見た経営上のリスク管理、とりわけ原子力施設においては事態の未然解決こそが重要であり、各事業者は、告発制度を不正の未然防止の為の「安全弁」として積極的に位置付けるべきです。

* また、規制当局側においては、JCO事故や昨年の不正事案を教訓に「原子炉等規制法」において整備されてきた内部告発制度に関し、早急に講ずべき措置として、申告手続きや告発者保護の具体的内容の明確化と積極的な広報、内部告発に係る規制当局スタッフの体制強化が必要です。


3. 報告内容

1.独立した3条機関設置による安全規制体制の強化

1)昨年の不正事案の直接的原因は、原子力施設の安全確保に一義的な責任を有する事業者において、企業倫理や法令遵守意識の欠如、企業統治の不徹底など組織・企業体としての安全管理システムが有効に機能していなかったことにある。
 大きく裏切られた原子力に対する国民の信頼回復に向けては、まず事業者自身がその社会的 責任を再認識し、その閉鎖的体質を抜本的に改善した上で、社会に約束した再発防止策等の着 実な実行に真摯に取り組むべきである。

2)一方、原子力施設の建設・運転に係る許認可権限を有するとともに、こうした事業者の安全管理活動を適切に監視すべき国側においても、明確な安全規制基準・ル−ルの未整備や事業者の不正を見抜けなかったという能力不足、官民の馴れ合い体質など、多くの問題点が露呈した。

3)こうした背景には、何よりもまず、推進機関と規制機関を明確に区分せず、緊張感無き原子力行政を放置し続けてきたという本質的な問題であり、民主党がかねてより提唱してきた独立した安全規制機関の早期設置が不可欠である。

4)具体的には、原子力安全規制行政に対する国民の信頼回復の観点から、原子力に関する安全規制部門と企画・推進部門を明確に切り離し、国家行政組織法第3条による行政委員会として、強力な監視・監督機能と権限を有する、独立性を持った「原子力安全規制委員会」を設置することとし、現行の「原子力安全・保安院」と「原子力安全委員会」は「原子力安全規制委員会」の事務局下に吸収、安全規制行政を一元化しチェック体制の強化を図る。

5)昨年の不正事案では、規制当局側の質的・量的な監査能力の欠如等が指摘されたことも踏まえ、新設される規制機関の構成については、単に原子力工学だけでなく、リスク管理や人間工学、放射線医学、心理学等幅広い人材の登用や公正な判断が出来る専門的な技術・知見を有する委員を選出するなど、強力な監視機能を発揮しうる体制構築、人材の量的質的な確保を図る。また、進展する技術革新や国際化等に対応すべく、産官学の連携など原子力施設の安全性確保のための新たな知見を蓄積する体制を整備する。


2.実効性ある規制制度への抜本的見直し、科学的合理的な規制ル−ルの整備

1)今般の事案では、前述のように独立した新たな規制機関の必要性だけでなく、現行の検査制度の実効性や規制当局側の検査能力に対する疑問、安全性評価における非合理性等も明らかとなった。具体的には、安全規制のための明確なル−ルや基準が未整備のまま、規制の上に規制を重ねるだけの形式のみを重視した安全規制が繰り返されてきた。

2)今後、国においては、民主党が提唱する「原子力安全規制委員会」の早期設置に留まらず、真に実効性ある原子力安全規制が実行されるよう、これまでのように「モノ中心」「ハード面」に偏重した検査制度を抜本的に改める必要がある。

3)また、安全規制ルールについて、国や事業者が定めるルールではなく、国際的視点や他産業の技術革新など先進的な知見を採り入れた科学的合理的な規制ルールを整備するとともに、規制当局の検査体制や人的資質の向上など、官民の役割を再整理した上で、事業者と国だけでなく社会全体の中で、原子力施設の保安活動全般を適切に監視する検査制度を目指すべきである。


(1)あるべき検査制度の方向性〜検査制度における「品質保証」の導入

* 現行の検査制度は、「あらかじめ決められた施設・設備の健全性を、あらかじめ決められた通りに確認する検査手法」により実行されてきたが、そのことが検査の“形骸化”“セレモニー化”につながってきた恐れがある。
  また、科学的合理性を欠いたまま規制の上に規制を重ねていくような、規制当局の言い訳のための単なる規制強化を続けてきたことによって、原子力事業者にとっては、規制ルールに頼り切る余り、真に重要な検査に対する認識を薄めさせ、「規制さえ守ればよい」「国の要求事項さえ満たしていればよい」といった意識に走り、結果として、最も重要な“自ら安全を築き上げていく”という能動的な安全確保活動が軽視されてきた。

* こうした背景には、諸外国と比して、設備・機器管理といった「モノ中心」の検査に偏重した我が国の検査制度のあり方そのものがあると考えられる。
  数千の機器等から成り立つ巨大システムであり、かつ従事する職員も下請も含めれば数千人の多層構造にわたり、外部からの資材や役務の調達も多い原子力施設の安全確保活動において、施設の全ての機器・部位について、事業者・国の双方が同じ目線でくまなく直接検査することは現実的でなく、かえって、事業者と規制当局の閉ざされた世界における「その場しのぎ」的検査を誘発し、ひいては安全確保上、本当に重要な検査の制約にもなりかねない。
  今般の不正事案において、トラブル隠しや検査の偽装といった、むしろ事業者側の検査体制の閉鎖性や隠蔽体質が問題となったこと、昨今の各種の事象・トラブルが保守・点検作業上のミス、ヒューマンエラーに起因するものが多いことは、これまでの「ハード面」中心の検査制度のあり方に対する警鐘と受け止めるべきである。

* 以上を踏まえれば、今後の目指すべき検査制度の方向性としては、米国NRCなど諸外国の検査制度のように、「施設・機器の健全性といった『ハード面』だけでなく、下請け業者も含めた事業者側全体の安全管理プロセスのクオリティや法令遵守状況など、保安活動全般の『ソフト面』に対する監査型の検査制度(*Quality Assurance:品質保証型の検査制度)」を導入する必要があると考える。

  具体的には、ハード・ソフト両面を包含する検査を行うことにより、例えば、抜き打ち的手法も活用しながら、事業者の保安活動全般に国が検査に入る可能性を常に持たせ、規制の有無に関わらず原子力施設の潜在的リスクを最も身近で察知し管理すべき立場にある事業者に対して適切かつ十分な緊張感を与える。一方、規制当局側は、事業者がそうした責任を果たしているかどうか監査する役割を徹底・強化し、保安活動全般の実効性を高めていこうとするアプローチである。


* また欧米では、特定の機器・部位に対する検査技量を認定するシステム(PD:Performance  Demonstration)が存在し、検査官の専門的知見の維持向上に努めている。我が国においても、「人の品質保証」「検査官のクオリティ向上」の観点から、単なる資格保有で満足する現行の仕組みを改め、「技量認定制度」を早期に導入すべきである。


(2)科学的合理的な規制ル−ルの整備の必要性

* 今般の不正事案で明らかとなったのは、我が国の原子力安全規制においては、諸外国では既に整備されている「経年劣化」に対する「健全性評価」の仕組みが未整備のまま放置されてきたことである。その結果、国は「安全神話」と言われる原子力施設の無謬性を装い続け、「その場しのぎ」の安全規制が繰り返されてきた。原子力施設の安全管理において、安全上の将来リスクを科学的に検知し得るシステムを真剣に整備してこなかった国の責任も同時に問わねばならず、その結果として国民の信頼を大きく損なう事となった事を重く受け止めるべきである。
  今求められているのは、我々民主党が、かねてより主張してきた「そもそも全ての機器には寿命があり、徐々に劣化していく」「従って、安全上のリスクはゼロではあり得ない」という現実的な発想への転換であり、「原子力発電施設の経年劣化対策等の必要性」を強く指摘してきた民主党の主張の正当性が改めて立証されたものと言える。

* 今後の安全規制ル−ルの運用に関しては、今般の「健全性評価」の導入を1つの契機に、従来型の「その場しのぎ」の事後対処的な手法ではなく、諸外国では既に常識化している「リスク管理型」の安全規制(Risk Informed Regulation)、つまり、使用可能な経年劣化と安全上のリスクを科学的合理的な基準ならびに蓄積されるデ−タ・知見に基づき早期かつ的確に判定し、将来の大きな事故やトラブルを回避していくという手法に転換していくべきである。
  その際に極めて重要なことは、これまでは問題なしとされてきた安全確保上重要でない軽微な事象にこそ将来リスクを検知する為の情報が内包されているということであり、その意味で、国民に対する情報公開の徹底が強く求められるところである。
  なお、昨年の法改正を踏まえ、現在規制当局側において、米国ASMEや日本機会学会など民間規格を活用した健全性の評価基準の具体化作業が進んでいるが、国民の一部には、未だ健全性評価の導入に関し不安視する声があることを忘れてはならない。その意味で、今後明らかにされる評価基準の内容等について広く国民の意見を聞く場を設けるなど、国の真摯な説明責任が求められる。


3.原子力の安全性に関する情報公開の徹底と透明性の確保、内部申告制度の見直し等

 今般の不正事案では、事業者によるトラブル報告の怠りや事実の隠蔽、規制当局における申告調査結果の公表遅延や申告者の個人情報の漏洩など、立地地元自治体をはじめ国民に対する情報公開や説明責任の観点で大いに課題を残した。
 原子力の安全性に関し、国民に対する情報公開により透明性を確保していくことは、事業者及び国による安全確保が適切に維持されているか否かを社会全体でチェックする仕組みとして、最も重要な社会的監査機能と位置付けられるべきである。


(1)事故・トラブルの積極的な情報公開、「原子力情報公開ガイドライン」の創設

* 国民に対する情報公開の観点から、事業者においては、仮に規制の対象となっていないような機器の軽微な故障等に関わる情報についても、原則的に「全て公開していく」との姿勢が求められる。また、国においても、前述の通り、安全確保上重要でないような軽微な事象であっても、原子力施設の将来リスクを検知する貴重な情報であることも踏まえれば、単に事業者の情報公開姿勢に委ねるだけでなく、国として得られた情報を出来る限り速やかに公開し規制の透明性を担保し、規制行政に対する国民の信頼確保に努めるべきである。
 あわせて、情報公開の際の視点として、国民、とりわけ地域住民の信頼確保という観点から、単に「安全だから問題はない」とするのではなく、何らかの設備故障やトラブルが発生した場合は、それが「軽微なものであるのか」「安全確保上で重大な影響があるのか」などについて、国民に報告し正しく理解してもらうことが何よりも重要である。

* このような中、今般の事案の大きな要因の1つとして、トラブル等に関する報告基準が法令・通達など複雑・多岐に亘り、その運用ル−ルが曖昧だったことも指摘されたところであり、その意味で、昨年の法改正審議において、民主党主張に基づく法案修正により、トラブル等に関する報告について法的位置付けが明確化したことの意義は大きい。
  国は、早急に講ずべき措置として、今回法的位置づけが明確化されたトラブル等の報告基準について、現在のように複雑・多岐に亘る曖昧なル−ルを整理・一元化し、より具体的で分かり易い基準に見直しを図るべきである。また、民主党が従来より提唱してきたように、原子力関連立地地域の住民の安心と信頼を得ていく観点から、「分かり易い」情報提供や情報公開の徹底を図るための「原子力情報公開ガイドライン」の早期具現化に向けて検討を進めるべきである。


(2)内部告発制度について

* 今般の原子力安全・保安院の申告調査過程においては、申告者の個人情報保護や調査手順・期間や手法、調査内容の公表等に大きな課題を残した。特に、調査に必要でない個人のプライバシ−に関する情報を事業者に漏洩させたことは極めて不適切な対応であった。

* もとより内部告発制度については、民間企業等を中心に、「我が国の風土や国民性に馴染むか」といった消極的な姿勢も見られるが、告発制度を批判するよりむしろ自らの法令遵守体制(コンプライアンス体制)の確立を急ぐべきである。
  民主党は、「公益開示法案」を議員立法で提出するなど告発者保護制度の整備の必要性を早期より提唱してきたところであるが、昨今のように企業の不祥事や事実隠蔽等が相次ぐ中においては、申告者本人はもとより、消費者・生活者保護や公益保護の観点から、内部告発制度が果たすべき社会的チェック機能は大きく、また、企業側から見た経営上のリスク管理の観点からも、企業に与える緊張感と、それによる不正行為の未然防止といった効果も期待できる。とりわけ原子力施設など、実際にリスクが顕在化した場合の安全上の緊急性に鑑みれば、事態の未然解決こそが最も重要であり、各原子力事業者は、告発制度について、不正の未然防止の為の「安全弁」として積極的に位置付けるべきである。

* 一方、既に告発制度を整備した米国など諸外国の事例等においては、リストラや企業合併、コスト削減の加速、パート・アルバイト比率の増大や労働流動性の高まり等により、内部告発件数が多発する傾向にあり、一部には、自己目的あるいは報復目的の悪質な告発によって、民間企業にスティグマ(悪評)を与えているといった課題も指摘されている。
  今後、我が国においても、海外市場への進出と法令遵守体制を確立した外国資本との競争とも相俟って、原子力事業者に限らず、民間企業や行政機関に対する告発案件の増加が予測されることから、こうした諸外国における事例等も教訓に、企業法令遵守体制の確立、告発プログラムの明確化や告発者保護制度の整備を急ぐべきである。

* なお現在、政府において、内閣府の国民生活審議会消費者政策部会・公益通報者保護制度検討委員会における審議を踏まえ、全般的な分野に対する内部告発者保護制度に係る立法作業が進められている模様であるが、審議会答申に対しては、保護される告発内容や告発者の範囲が限定的であるなど、既にその実効性を疑問視する指摘もある。原子力に関する内部告発制度の今後のあり方については、現行の「原子炉等規制法」上の取扱との整合性を含め、党内の担当部門における論議等に委ねる事とし、「原子力の安全性を検討する委員会」としては、既にJCO事故を契機に「原子炉等規制法」において原子力に係わる内部告発制度が整備され、さらに昨年の不正事案を踏まえ内部告発制度の見直しが図られたことを踏まえ、現行の法的枠組みの中で、早急に講ずべき措置についてのみ提言した。

<申告手続き等の明確化と積極的な広報、規制当局スタッフの体制強化>

* 昨年の法案修正協議により申告窓口の複数化を行い、より円滑な申告を行う上での一定の環境整備はなされたところであるが、これらに加え、今後申告手続きや実際に不利益を被った場合の具体的救済手続きなど告発に関するルールの明確化の観点で、現行制度全般について検証すべきと考える。

* また、告発ルールを明確化し、実際に告発を行った場合に告発者がどのように保護されるか事前に明らかにされることは、告発者にとってはより安心して告発を行う為の環境作りに資するものであり、告発を受ける事業者や行政機関にとっても、法令遵守体制の確立を促すものと考える。その意味でも、内部告発に関する具体的ルールや告発者保護制度の内容について、如何に国民に広く周知していくか、国の積極的な広報が求められる。また、万一の場合発生しうる労働問題への対応の観点から、労働分野の主務官庁である厚生労働省との相互連携体制についても検討するべきと考える。

* 米国などと比較して、我が国の規制当局における申告担当スタッフの体制は余りに脆弱である。昨年の法案修正に基づく申告窓口の複数化だけでなく、告発内容を技術的・法的に検証するための申告担当スタッフの体制・資質向上を行うことが急務であると考える。

以上

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