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2000/04/18
民主党核政策〜核の恐怖のない世界を目指して
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民主党

T. はじめに
(1) 1989年ベルリンの壁が崩壊し東西冷戦が終結したとき、人々は核の恐怖から解放される時が近いことを実感した。現に,1991年には米ソ両国は STARTT(第一次戦略兵器削減条約)に署名し、両国の戦略核兵器の核弾頭数を6000発に削減することに合意した。その後のソ連邦崩壊、ゴルバチョフ大統領失脚にもかかわらず、1993年には米露両国間で、2003年までに両国の戦略核弾頭数を3000-3500発に削減するとのSTARTUの枠組みが合意された。21世紀に向かって、核兵器の削減交渉が確実に進展することが期待された。

(2)しかし今、世界が直面しているのはこのような期待とは逆に、核軍縮交渉の停滞であり、核拡散の危機である。ロシア議会では長期間にわたり STARTUの批准を行なわず、また通常兵器による攻撃に対し戦術核の先制使用によって反撃するとの戦略がロシア政府の中で唱えられている。最近のプーチン・ロシア大統領の核軍縮に向けての積極的アプローチは歓迎されるべきであるが、まだまだ不透明性を残している。米国上院はCTBT(包括的核実験禁止条約)の批准を拒否した。インド、パキスタン両国が1998年に核実験を実施したことは記憶に新しい。
これらの現象は,皮肉にも冷戦終結が超大国の全面核戦争による人類滅亡の危機に対する緊張感を失わせたこと,冷戦後の新秩序を創造するという建設的理想主義が、狭い意味での国益重視の「現実主義」に取って代わられたことに起因する。

(3)NPT(核不拡散条約)無期限延長後5年ぶりに再検討会議が開催される本年は、このような世界の核軍縮・核不拡散に対する"逆流"を、再度核の恐怖のない世界への道へと戻すための、極めて重要な年である。今後の対応を誤れば、世界が核軍縮の停滞にとどまらず、NPT体制の弱体化を通じて核の無秩序な拡散に向かう可能性すら否定できない。民主党はこのような危機意識に立って、以下のとおり政策提言を行う。


U. 核廃絶への道
(1) 核廃絶を求める理由

我々は核廃絶を究極的な目標とする。我々が核の廃絶を求める主な理由は以下の三つである。
第一に、核兵器は戦闘員と文民を区別しない無差別大量破壊兵器であり、国際人道法上認められない非人道的な兵器である。
第二に、ロバート・マクナマラ元米国防長官も述べているように、核兵器のような破壊力の大きい兵器を保有することは、人間が何らかのエラーを行なうことにより国家や人類の絶滅の危機に常にさらされていることになる。
第三に、日本は唯一の被爆国であり、核兵器使用の悲惨さを広島・長崎において現実に体験している。

(2) 核軍縮の重要性
核廃絶は究極の目標ではあるが、その目標達成のためには多大の努力を必要とする。核の軍縮と核不拡散はいずれも重要であることは言うまでもない。しかし、我々は核不拡散体制を維持していくためにも、その前提として着実な核軍縮がなされることがとりわけ重要であると考える。核保有国、とくに米露の両大国の責任は極めて重いと言える。
核保有の潜在能力を持つ国々があえて核保有を永遠に放棄し、不拡散に賛成しているのは、一部の国家の核の独占という現状を積極的に追認・肯定することを意味しているものではない。
核保有国は核軍縮を誠実に実行すべき重い責任を持つことを深く認識すべきである。冷戦末期に示された米ソ両国指導者の未来に向かっての信頼・協力関係と強力なリーダーシップが再構築され、STARTUやCTBTの速やかな発効など、目に見える形で核軍縮が進展することが強く望まれる。

(3) 核廃絶のプロセス
我々は核の廃絶は次の三つの具体的なプロセスを経て実現されるべきと考える。
即ち第一段階として、米露両大国がSTARTU、Vの速やかな批准、実施を経て、2010年までにそれぞれ1000発程度までの戦略核の削減の合意とその実行がなされることである。この間、他の核保有国は少なくとも核の保有数を増やさない義務を負うことは当然であり、とくに中国が核の削減に踏み切ることが強く求められる。
第二段階として、全核保有国が参加して、その全体の戦略核の保有数を1000発まで削減すべきである。実現の目標年度としては例えば2015年が考えられる。
核の廃絶はその後の第三段階に至り具体的目標となる。この第三段階における核の廃絶は、それまでの核の削減とは質的に異なる、より困難なプロセスであることは容易に想像できる。完全な廃絶に至るまでにはごく少数の核兵器を残すとともに、それを国際機関により管理するというプロセスも必要かも知れない。第二段階の実現が視野に入った時点で、廃絶に向かっての具体論を議論すべきであろう。
我々はいたずらに核の廃絶を唱えるだけでは問題の解決にならず、以上のような段階を経て、核廃絶という困難な目標に向かって核軍縮を着実に進めていくという姿勢が必要であると考える。なお、戦術核に関しては、その自国外配備の禁止、保有量の削減について早期に条約化するとともに、上記の第二段階の時点では全廃されることを目指すべきである。

(4) 常設機関の設置
国連は世界平和の維持・創造のための重要な機関であるが、国連のみで核の問題を扱うことにはいくつかの問題があることも事実である。とくに国連安全保障理事会の常任理事国はすべて核保有国であり、核保有国に対して核軍縮の責任を果すことを求める場としては最適とは言えない。将来的には核を保有しない国々を常任理事国に加えるとの改革をすすめることが必要であるが、直ちにこれらの安保理改革が実現するとは考えにくい。この改革が実現するまでの間、我々は常任理事国に対し、核の問題で拒否権を行使することを自制するよう求める。また国連以外に核の問題を検討する場が必要と考える。
核軍縮と核不拡散の歩みを確実にするためには多くの検討課題がある。NPTの着実な実施に加え、兵器目的の核分裂物質の生産を禁止するカットオフ条約や核の先制使用の禁止条約の締結、非核地帯の拡大、非核保有国に対して核の使用・威嚇を行なわないこと、臨界前核実験の制限、警戒態勢解除(デイ・アラーテイング)などの注目すべき多くの提案がなされている。
これらはいずれも真剣に検討すべき価値のある重要な問題であり、恒常的に検討し、提言を行ない、実施状況を監視するための常設機関が必要である。
我々はNPT再検討会議の場においてこのような常設機関の設置が決定されることを期待する。日本はこの機関実現のための財政負担の主要部分を担うとともに、日本国内への設置を歓迎する。

V 日本のなすべき事
(1) 日本の役割
日本は核の問題にどのような姿勢で取り組むべきか。まず確認されるべきは、核兵器という人類全体を滅亡に至らしめかねない非人道的兵器が廃絶に向かって確実に削減されること、核兵器を持つ国がこれ以上拡大しないことは、いずれも日本にとって重要な国益であるという事実である。
我々は核不拡散体制によって大きな安全保障上の利益を得ていることを認識すべきである。従って、日本の果すべき役割は核の拡散を防ぎ,また核軍縮を着実にすすめるためのリーダーシップを発揮することである。

(2) 核武装論について
日本が核武装することについて日本国内においても若干の議論がある。しかし日本が核不拡散条約を脱退し、核を持つことは、以下のように日本の安全にとり重大な脅威を招くこととなり明らかに国益に反する。第一に、国際的な孤立の道を選択することであり、経済制裁を招く可能性が大きいとともに、日米同盟が大きく揺らぐことも覚悟しなければならない。第二に、微妙なバランスの上にあるNPT体制を崩壊させる引き金になる可能性が高い。世界中に核保有国が存在するという悪夢を自ら招くことになる。第三に、少なくとも日本周辺国の核武装化のリスクや東アジア地域全体の緊張と軍備拡大を招くことになる。我々は偏狭なナショナリズムに基づく誤った核武装論に対し強く反対する。

(3) 非核三原則
「核は保有しない、核は製造もしない、核を持ち込まない」という非核三原則は、国の方針として何度も確認されている。政府は、核を搭載した艦船等の日本への一時的な寄港や領海通過も「持ち込まない」ことに当然含まれており、日米安保条約に基づく事前協議があれば、それを拒否するとしてきた。近年、一部において日米間でこれらの場合には事前協議の対象としないとの秘密合意があるのではないかとの指摘がなされている。政府はこのような秘密合意の存在を否定しているが、仮にも安全保障上の基本政策について国民が事実を知らされていないとすれば、問題は極めて重大である。我々はこの問題についてまず日米両国政府がこのような秘密合意が存在するのか否かについて責任をもって明確にすべきと考える。
今後の「持ち込み」の問題については、現時点において「持ち込み」の対象となるような核即ち米軍の戦術核は、アジアには存在しないとされており、また将来については、我々は戦術核の早期全廃を求める立場である。従って戦術核の寄港・通過が今後問題となるのは、極めて限られたケースであると思われる。しかしこのような限られたケースにおいてであれ、我々は米国政府との間で、核を搭載した艦船等の寄港・通過が日米安保条約に基づく事前協議の対象となることを改めて協議・確認することが重要であると考える。このような事前協議がもたれる場合においても、これを拒否することを原則とすべきである。


(4) 核の傘
日米同盟のもとで日本は米国の核の傘の下にあるとされている。言葉をかえれば、日本が国家存亡の危機にあるときに、米国が日本を守るために核兵器を使用するという選択肢がある、ということである。このことが、自らは米国の核で守られている日本に核不拡散を言う資格はないとの議論を生んでいる。
我々は現実に核を持つことと核保有国との間に同盟関係を持つことは質的にまったく異なることであると考える。ただし、どのような状況において米軍が核を使用する可能性があるのか、そしてその際に日本はあらかじめ協議を受けることが可能なのかといった点についての議論が、今までなされてこなかったことは問題である。日本を守るために核が使用されることは、その核使用の結果として日本が核の攻撃を受ける可能性がある以上、日本の意向を無視して決定されるべきことではないと考える。
核兵器による威嚇や核兵器の使用のない世界を目指す以上、我々は米国が日本を守るために、米軍の保有する核を他国の日本に対する核攻撃に先立って使用することはないこと(核の先制不使用)を日米間で合意すべきと考える。この合意は核の先制不使用を唱える中国を含めた三国間の合意とすることも考えられ、また将来の北東アジア非核地帯構想への発展の第一歩となることが期待される。

(5) 北東アジア非核地帯構想
我々は北東アジア非核地帯構想を提案する。即ち日本、韓国、北朝鮮が核兵器を開発、製造、保有、配置、使用しないことを約束するとともに、核エネルギーの平和利用を検証するための相互査察を行なうこととする条約の締結である。また米国、中国、ロシア等の核保有国にも、この地域における核の使用や核の威嚇を行わないことを認める旨議定書の締結を求めることとすべきである。
これらの考え方の基礎となるものとして、既に1991年に「朝鮮半島の非核化に関する南北朝鮮の共同宣言」が確認された。また1994年の米朝合意においても、米国は北朝鮮に対して核兵器で威嚇したり核兵器の使用を行わず、北朝鮮は朝鮮半島の非核化を推進する、との方向での確認がなされている。
これらの合意を基礎としつつ、日本も含めた北東アジア非核地帯構想を実現することは、この地域の安定に極めて大きな貢献をなす。具体的な手順としては、正式の条約とするためには日朝間の国交正常化が前提となるので、先ず日韓両国が中心となって、北朝鮮、米国、中国、ロシアを加えた六カ国で、北東アジア非核地帯に関する共同宣言を行なうことを目指すべきである。この共同宣言がなされることは、日朝両国間の国交正常化交渉を推進する役割を果すことも期待される。

(6) 新たな協力関係の構築
以上の提案を実現するためには、国際的な協力が極めて重要である。まずスウェーデン、ニュージーランドなど「新アジェンダ連合」を中心とする非核保有国との緊密な協力が必要である。また、サミット構成国であり、核を持たないドイツ、カナダ、イタリアとの連携を重視しつつ、7月に予定される沖縄サミットにおいても、核軍縮・核不拡散の問題を積極的に議論すべきである。
核問題についてNGOの果す役割には非常の大きいものが期待される。とりわけ、「中堅国家構想(Middle Powers Initiative)」は対人地雷禁止条約実現と同様に、中堅国家とNGOとの連携による核軍縮を目指している。日本としても、また民主党としても核廃絶を展望しつつ、核不拡散・核軍縮を進める内外のNGOとの確かな協力関係を構築することが重要である。
日本は唯一の被爆国としての反核運動の歴史を持つが、現時点においては、核廃絶に向けての国民のエネルギーは分散し大きなうねりとなっていない。我々民主党は、核問題に関する内外の議論を更に深めることと日本国民が核問題により大きな関心を持つことを期待しつつ、内外のNGOや核廃絶に向けての様々な運動との連携の場としての「核の恐怖のない世界を実現するための国民会議」の設置を目指す。

以上

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