民主党 外交・安全保障部門
日米地位協定は、1960年の締結後40年が経過し、米軍基地や駐留軍の存在をめぐり様々な問題が生起した。同協定は1951年のNATO軍地位一般協定の諸原則に準拠し、冷戦が最も厳しい時代背景の下で作成されたが、東西対立構造の終焉により、内外情勢は大きく変わっている。このため、民主党は折に触れ、地位協定の抜本的見直しの必要性を指摘してきたが、政府は極めて消極的な姿勢をとり続け運用面での改善措置に終始してきている。
本来、条約は国会の承認を得た後も「外交の民主的統制」の下で、その運用等について厳格にチェックされるべきものであるが、実際には行政府の判断に白紙委任されているのが現状である。地位協定の見直しは、米軍基地の過重な負担を強いられている沖縄県だけの問題でなく、全国民にとって喫緊の課題であるとの観点から、同問題に主体性を持って取り組み、これを制度的に解決し、日米安全保体制下で派生している懸案事項を是正しつつ、その安定的な運用を図るため、以下の事項について日米間で協議すべきである。
1 第2条関係(施設・区域の提供・返還)
【要点】:基地の提供に係る取り決めを定期的に見直し、その際、基地所在地の自治体などの意見を聴取する。日本政府が施設・区域の返還を要求したときは、米国政府は好意的な考慮を払う。
[1]施設・区域の許与、返還に関する第2条に、次の規定を加える。
(1) 個々の施設及び区域に関する協定は、日本国の法令上の手続きに従って締結される。
(2)当該協定は、定期的に再検討される。
(3) 日本国政府が特定の施設及び区域に関し重大な民生上の必要性のために返還要求をしたときは、米国政府は、これに対し好意的な考慮を払う。
[2]合意議事録で、次のことを取り決める。
(1)「民生上の必要性」には、国土整備、都市計画、環境保全、産業上、教育・学術研究上の要請及び関係住民の生活に及ぼす影響が含まれる。
(2) 「返還要求」には、協定第2条第4項(b)に基づく共同使用施設への変更及び共同使用施設の使用条件の変更(使用協定がある場合はその改定)に係る要求が含まれる。
[3]国内法を整備して、施設・区域の提供や定期的再検討に際し、関係地方公共団体、学識経験者、行政オンブズマンの意見聴取などの手続を踏むこと、政府がそのような意見聴取の結果を尊重しなければならないことを規定する。
2 第3条関係(施設・区域の管理)
【要点】:米軍の施設・区域使用には原則として日本法令が適用される。また、地方自治体の関係者が施設・区域への立入りを要請した場合に、米軍が協力するものとする。
[1] 施設及び区域内外の管理に関する第3条の3項に、合衆国軍隊による施設及び区域の使用に対しては、この協定及び他の国際条約に別段の定めがある場合を除き、原則として日本国の法令が適用される旨の規定を加える。
[2] 4項を加えて、日米両国政府は1項から3項の規定の円滑な実施を確保するため互いに協力しなければならないこと、日本国の法令の適用に伴う許認可事務につき日本国政府が申請等の手続を代行することを規定する。
[3]合意議事録で、前記3及び4の規定を実施するため、合衆国軍隊は、日本国の所轄機関及び地方公共団体に対し、施設及び区域への立入りを含め、当該所轄機関等が公務を遂行する上で必要なあらゆる適切な援助を与えるべきこと、ただし、所轄機関による施設及び区域への立入りは、合衆国軍隊の所轄当局への事前の通知を要し、かつ、機密扱いの区域、設備及び文書への不可侵を含む軍事上の安全が考慮されなくてはならない旨を取り決める。
3 第3条Aの新設(環境保全条項)
【要点】:環境保全条項を設ける。
環境保全に関する条項を新設し、次のことを規定する。
[1] 合衆国は、日本国における合衆国軍隊のあらゆる活動について、環境保全が重要であることを認める。
[2]合衆国軍隊は、施設及び区域における活動計画に関し、環境への影響(人、動植物、土壌、水質、大気、文化財への影響を含む。)を最小限にするとともに不可避の環境被害に対して適切な回復措置をとる目的で、計画の実施前に、及び実施後にあつては定期的に、当該計画が環境に与える影響を日本側と共同して調査し、分析し、及び評価する。
[3] 合衆国軍隊は、(2)の規定に基づく調査・分析・評価の結果、活動計画が環境に重大な影響を与えると判定された場合は、当該活動計画を中止する。
[4]合衆国軍隊の施設・区域における活動により生じた環境への被害に対しては、合衆国が自国の責任において適切な回復措置をとるものとし、これに要した費用は、その原因となつた合衆国軍隊の活動が日本国の法令上の環境基準を満たしていたときには日本国政府が、基準を満たしていなかった場合は合衆国政府が負担する。施設・区域の返還後に汚染が判明したときも同様とする。
[5] (4)にかかわらず、特に合衆国軍隊の演習、訓練により生じた環境破壊及び不発弾の処理については、当該施設の返還にあたり、事前に日米共同で調査し、原状回復計画を策定する。原状回復の費用負担については、日米間で協議決定する。
4 第4条関係(原状回復・補償)
【要点】:環境被害について米軍の原状回復・補償義務免除の例外とする。
施設及び区域の返還、原状回復、補償に関する第4条1に、新設の第3条A(環境保全条項)を受けて、合衆国の返還に当たっての原状回復・補償義務の不存在につき「この協定に別段の定めがある場合を除くほか」との規定を加える。
5 第5条関係(航空機等の出入・移動)
【要点】:緊急時以外の民間空港等の使用を禁止するとともに、「移動」の名目で飛行訓練などが行われないようにする。
[1]船舶及び航空機の出入及び移動に関する第5条に、第4項を加えて、合衆国軍隊、軍隊の構成員、軍属及び家族が道路交通及び航空に関する日本国の法令を遵守すべきことを規定する。なお、公務外での軍隊構成員および軍属並びにそれらの家族による道路交通・海上交通・航空法違反行為に対して日本国に裁判権があることを、日米間で確定しておく。
[2] 合意議事録で、次のことを規定する。
(1) 民間飛行場など合衆国軍隊の専用に供されていない飛行場への軍用機の着陸は、合衆国軍隊の安全のため必要とされる例外的な場合に限られる。
(2)この条で合衆国軍隊に許される「出入」、「移動」には、行軍訓練、航空訓練など演習・訓練を主たる目的とするものは含まれない。
6 第5条Aの新設(演習・訓練)
第5条の出入り及び移動に訓練が含まれない旨を明確化することに伴い、第5条Aを新設し、施設及び区域において訓練の目的が達成されない場合に、日本国政府の承認を条件に施設及び区域以外の日本国の領域において演習及び訓練を実施することができること、ただし、演習及び訓練のための日本国の領域の使用には、航空、航行及び道路交通に関する日本国の法令が適用されることを規定する。
なお、演習・訓練のための領域使用が一時的なものであること、当該領域に対し米軍の管理権を認めるものではないこと、及び当該領域の設定に関する手続を日米間で確定しておく。
7 第9条関連(軍人・軍属等の出入国)
【要点】:「検疫」について日本法令の適用を明記する。
米軍人軍属及びその家族の出入国に関する第9条に、第7項を加えて次の事項を規定する。
[1]人の検疫及び船舶、航空機・動植物の検疫について日本国の法令が適用されること。
[2]実施のための取極を合同委員会を通じて締結すること。
8 第13条関係(公租公課)
合衆国軍隊の構成員、軍属、家族の私有車輌に対する自動車税及び軽自動車税については、日本国民と同じ税率で課税されることを合意議事録で明確に規定する。
9 第16条関係(日本法令の尊重義務)
日本法令の尊重義務に関する第16条を次のように改め、「合衆国軍隊」を義務の主体に加える。
「日本国内において、日本国の法令を尊重し、及びこの協定の精神に反する活動、特に政治的活動を慎むことは、合衆国軍隊並びに軍隊の構成員、軍属及びそれらの家族の義務である。」
10 第17条関連(刑事裁判権・被疑者の拘禁)
【要点】:凶悪犯罪の場合に、起訴前であっても日本が被疑者の拘禁を行えるようにする。
日本国が裁判権を行使すべき合衆国軍隊の構成員又は軍属たる被疑者の拘禁について、次のとおり改める。
[1] 刑事裁判権に関する第17条の第5項に、(d)として、(c)の規定にかかわらず、合衆国は、凶悪な犯罪など特定の場合に日本国が要請したときは、被疑者の拘禁を起訴前に移転することに同意する旨の規定を加える。
[2] 合意議事録で、次のことを規定する。
(1) (c)の規定に従い合衆国が拘禁を行う場合においても、合衆国は、日本国の同意なしに被疑者を釈放し、日本国外へ移送し、又は被疑者に旅行を許すなど、日本国の裁判権行使を困難にする措置を執らない。
(2) 「兇悪な犯罪」は、殺人、強盗及び強姦をいう。ただし、合衆国は、その他の特定の場合について日本国が合同委員会において提示することのある特別の見解を十分に考慮する。
11 第18条関連(民事請求権)
【要点】:合衆国軍隊の構成員・軍属・家族、被用者の不法行為により被害を受けた場合は、公務中か公務外かを問わず、速やかに、日本国政府から見舞金を受けられるようにする。
[1] 民事請求権に関する第18条に関し、駐留軍関係事件(公務上、公務外)の被害者に対し、第18条の規定に従って民事請求権が最終的に処理されるまでの間、国が見舞金を支給する制度を、協定及び国内立法により設ける。その制度は、次のとおりとする。
(1) 国は、被害者に対し、速やかに相当額の見舞金を支給する。
(2) 公務中の合衆国軍隊の構成員又は被用者の行為から生じた請求権について地位協定第18条第5項の規定により被害者に支払れるc奄ォ金額が確定した場合、(1)の見舞金は、当該確定した損害賠償の一部に充当される。
(3) 合衆国軍隊の構成員・被用者による公務外の不法行為から生じた請求権について地位協定第18条第6項の規定により合衆国の当局又は軍隊構成員から被害者に支払われるべき金額が確定した場合、(1)の見舞金は、当該確定した損害賠償額についての国による立替払いとみなし、国は合衆国政府に求償する。
(4) 国は、見舞金の金額が地位協定第18条第5項又は同条第6項の規定により確定した損害賠償額を超過した場合であっても、被害者に対し、当該超過した金額の返還を求めることができない。
[2] 第18条第6項の規定により処理される請求権に、合衆国軍隊の構成員又は被用者による公務外の不法行為から生ずるもののほか、それらの者の家族による不法行為から生ずるものも加える。
12 第25条関連(合同委員会)
【要点】:日米合同委員会の場で関係自治体の意見を聴取する。また、合同委員会で合意された事項については、速やかに公表すべきものとする。
合同委員会について規定する第25条に、次の条項を加える。
(1) 合同委員会は、関係住民の生活に重大な影響を及ぼす問題の協議に当たっては、関係のある都道府県及び市町村の長の意見を聴取するものとする。
(2)合同委員会の合意事項は、両国政府により速やかに公表される。
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