民主党 ネクスト・キャビネット
1.わが国におけるPKO論議の経緯
わが国において、国際貢献、特に国際社会における人的貢献の在り方が議論されるようになったのは、いわゆる湾岸危機(1990年8月〜1991年2月)を契機としてである。わが国はこの危機に際して、結果的に総額130億ドルもの資金を拠出しながら、平和の回復に対するわが国の貢献は国際社会から必ずしも高く評価されなかった。
この湾岸危機以降、わが国に対して国際社会からも応分の貢献が求められるようになり、1992年、わが国要員の国連PKOへの参加を定める「国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律」(PKO協力法)が成立し、日本の「顔が見える貢献」への道が開かれた。しかしながら、国際平和への貢献とはいえ、自衛隊の海外派遣に対しては、当初現場の混乱や国民の不安等が考慮され、その結果、PKF本体業務は凍結され、PKO5原則が付されるなど、国際的なPKOの任務実態から見ると、制約された形でのスタートとなった。
PKO協力法の成立から9年間、わが国は同法に基づき、6つのPKO、2つの人道的な国際救援活動、2つの国際的な選挙監視活動に要員を派遣し、制約がある中でも、着実に実績を積み上げてきた。 その結果、自衛隊のPKO参加に対する国民及び国際社会の理解も進んできたと思われる。
しかしながら、冷戦終結後、地域紛争等の様相は大きく変化しつつあり、国際社会の平和と安定を構築・維持していく上で、予防外交やPKO等の国際的な対応においても、さらなる改革が求められている。このように国際環境が変化する中で、国際貢献におけるわが国のさらに積極的な役割が国内外で期待されるようになり、世論の関心も高まっている。
21世紀におけるわが国の国際貢献のあり方を考えると、国際社会の一員として、わが国は、平和憲法との整合性をはかりつつ、国際社会の平和と安定を目的とする国連PKOなどの活動について、これまで以上に貢献をしていく必要があると考える。
このような認識に基づき、民主党ではPKOのあり方について議論を重ね、以下の改革案をまとめた。
2.冷戦後におけるPKOの変化
冷戦終結後、地域紛争が増大し、それまで停戦監視や兵力引き離しなどを任務としてきた伝統的なPKO(第1世代のPKO)では対応しきれない複雑な状況が生まれ、PKOは数や規模の拡大のみならず、質的転換を迫られてきた。
冷戦後には、停戦監視等「平和維持」を目的とする任務のPKOだけでなく、紛争終結後から平和への移行期における準政府的な権限を持ち、選挙監視、人権監視、立法・行政・司法部門の管理など多岐に渡る任務を担うPKOが多数設置されてきている。こうしたPKOは「第2世代のPKO」と呼ばれるが、第2世代PKOの基本原則は、第1世代と質的に異なるものではなく、紛争当事者の受入同意、国連の中立性、自衛目的に限った武器使用という3つが柱となっている。
また、1992年にガリ事務総長が『平和への課題』において示した「平和強制(執行)」の考え方に基づき、安保理決議で「あらゆる必要な措置」をとる権限を付与されたPKOが93年ソマリアにおいて実行されたが(第2次国連ソマリア活動)、多数の犠牲者を出す中、結局目的を達成することなく任務を終了した。この時の失敗の経験から、国連自体は第1、第2世代のPKOに徹することとし、それ以外の任務は多国籍軍や地域機構に任せるという考え方が支配的になっている。
その後、PKOをめぐって、94年のルワンダ、95年の旧ユーゴスラビアのボスニアでの大量虐殺を防げなかったことに対し、国連の責任論が噴出した。これを受け、2000年3月、アナン事務総長は国連が時代の要請に十分応えていないとして、国連PKOの機能強化を図るため、PKO全体を見直す作業部会(国連平和活動委員会)を設置した。同委員会は、同年8月に、PKOの機能強化策をまとめた「国連平和活動検討パネル報告書」(ブラヒミ・レポート)をアナン事務総長に提出した。同報告書の中で特に注目されるのは、武器使用について強力な交戦規定(ROE)の必要性や、自衛のための装備の充実、武器使用権限の明確化の必要性などを指摘しており、全体的にこれまでのPKOよりも強力な部隊の創設に向けてさらに踏み込んだ内容を提起している。
国連PKOは、対応すべき状況に応じて常に見直されていくものであり、わが国におけるPKO見直しに当たっては、こうした国際社会の現実を踏まえる必要がある。
3.21世紀におけるわが国の国際貢献のあり方
わが国は憲法の前文において恒久の平和を念願するとともに、国際社会において名誉ある地位を占めることを希求し、これまでにも国際社会の平和と繁栄のために責任を果たしていきたいとの考えを国連の場などを通じて表明してきている。わが国が憲法前文の趣旨を踏まえ、国際社会において名誉ある地位を確立していくには、わが国が如何に国際社会の平和と安定に貢献し、その信頼を得ることができるかにかかっている。
特に、天然資源に恵まれず、国際貿易に依存して高度の経済水準を維持しているわが国は、他国にも増して国際社会の安定が自国の生存上重要である。冷戦終結後の新たな国際秩序が模索されつづけている今日、国際社会は未だ非暴力的な説得や話し合いのみで秩序維持が図られるまでには成熟していないのが現実である。各国は国際社会の平和と安定のため、それぞれが犠牲を払い、リスクを分かち合い、相互の信頼関係を構築するため努力している。わが国は、こういった国際社会の現実を直視し、国際社会の平和と安定に貢献していく決意を新たにする必要がある。
わが国としては、これまで以上に予防外交の役割が重要であることを認識し、紛争の発生を未然に防ぐ外交努力に全力を尽くすべきである。また、これまでの資金援助や物的協力といった国際貢献に加えて、わが国の顔の見える人的貢献を充実させていくことが必要不可欠と考える。
この人的貢献のひとつの柱として、国連重視を外交の基本方針の一つに掲げるわが国が、国連PKOに積極的に参加・協力し、国際社会の平和と安定の維持に寄与していくことは、国際社会の一員としての役割でもあり、わが国憲法の崇高な目標の実現にもつながるのである。これまでPKOへの自衛隊の参加に対して懸念を表明していたアジア諸国からも、わが国に対して地域の平和と安定のために適切な役割を果たしてほしいという声さえ聞かれるようになってきている。アジア地域において重要な位置を占めるわが国としては、このような地域の声を真摯に受け止め、わが国に期待される役割を誠実に果たしていかなければならない。
よって、PKOの現状を踏まえ、日本として、わが国の得意分野を生かして、多様な新しい分野の国連PKOに積極的に参加できるようにするため、以下の点について見直しを行う必要があると考える。
4.PKO協力法について
今後のPKOのあり方については、タリバーン政権崩壊後のアフガン復興支援策等も視野に入れて、しっかりと検討していくべきである。しかしながら、政府提出のPKO協力法改正案は、来年の東ティモールへのPKO派遣を控え、これまでのPKOにおいて課題とされてきた点について、最小限の改正を目指したものとなっている。
よって、将来のあるべきPKO改革については、民主党として今後とも積極的に議論を深めていくこととしたい。
(1)「PKF本体業務の凍結解除」及び「要員等の警護」について
1. 以下のPKF本体業務の凍結を解除する。
イ. 停戦・武装解除等監視
ロ.駐留・巡回
ハ.武器の搬入・搬出の検査・確認
ニ.放棄武器の収集・保管・処分
ホ.停戦線等設定の援助
ヘ.捕虜交換の援助
2. 上記業務に加え、憲法との整合性を図りながら、自ら守るべきすべを持たないPKO要員等(選挙監視要員、NGO要員、国際機関要員、避難民など)について、その生命・身体を、必要に応じて警護できるようにすることについて、さらには一般的警護業務についても検討する必要がある。
(2)「新」PKO参加5原則
従来のPKO参加5原則を、以下のように見直すことが望ましい。
《 新 旧 対 照 表 》 ※添付ファイルを参照
(3)武器等の防護について
自衛隊法第95条(武器等防護のための武器使用)は適用する。
5.新たなPKOに積極的参加するための提案
新しい分野において、わが国の特性を生かし、日本が積極的にPKOに貢献するために、以下の具体案の実現を図る。
1. 「PKO訓練センター」の設立
新たなPKOには、自衛のための様々な訓練のほか、専門分野に応じて法的、技術的な知識や経験が求められる。日本として、PKOの新たな活動分野に対応し、積極的に参加するために、派遣要員を従来以上に訓練する必要がある。
主に、(a)PKF本体業務を含めたPKO、(b)文民警察官等による警察/司法活動、(c)平和再建に向けて復興・開発・民主化等を支援するための開発援助活動のための訓練を集中的・総合的に行う「PKO訓練センター」を設立する。
なお、同センターでは、カナダのピアソンPKO訓練センター、ドイツの文民要員訓練ユニットなどとの連携・協力を行う。また、アジア各国の教官(<例>フィリピンの文民警察、ネパールのPKO部隊等)を招聘し、英語による教育、訓練等を行う。研修員は、国内はもとよりアジア各国からも受け入れる。
2. 文民警察官等の積極的派遣による警察・司法活動分野での参加促進
* 紛争終結後、当該地域での警察・司法活動が重要になっている。
* 経験豊かな警察官及び定年後5年以内のOB警察官より志願者を募り、PKOにおける警察・司法活動に際しての知識、語学、各国文民警察要員との共同訓練などを上記訓練センターでおこなう。
* また、司法制度構築や指導に従事するため、司法専門家のPKO参加も図る。
3. 平和再建に向けての復興支援・開発援助活動への参加促進
* 国際協力事業団(JICA)、(財)国際開発高等教育機構(FASID)、予防外交センター、NGO、学者・研究者、開発・援助関係者等から志願者を募り、上記センターを中心にPKO参加のための訓練や研修などを行う。
4. PKF本体業務を含めたPKO参加のための自衛隊の態勢整備
* PKF本体業務は、より軍事的な知識や活動を要するものであるため、必要性、適性に応じて自衛隊から志願者を求め、PKO参加への訓練を行う。
* 一定期間の任務終了後は、原隊への復帰を認める。
* 任務の性質上、この分野に警察やNGOが参加することは認めない。
5. 非武装軍事監視員(ミリタリー・オブザーバー)の派遣
* 経験豊かな自衛官及び専門家を選抜し、一定の研修・訓練の後、非武装の軍事監視要員(ミリタリー・オブザーバー)として各地に派遣する。
6. PKOに備え、緊急物資・機材等を備蓄・輸送できるシステムの構築
* イタリアの「国連補給基地<仮訳> (UNLB)」や国際協力事業団の国際緊急救援隊等の備蓄兵站基地を参考に、緊急支援物資・機材を備蓄し、紛争地に緊急輸送するシステムを構築する。
7. PKOに関する調査・研究の促進
* PKOに関する総合的な調査・研究を促進する。そのために上記訓練センターに「PKO情報・研究センター」(仮称)を設置する。
* 同センターでは、関係の国連事務局等と密接な連携をとり、PKOの状況、当該派遣地域の状況分析等を行う。また、その成果を研修・訓練にも活用する。
* また、紛争当事者を招聘してラウンド・テーブル設営を行うなど、予防外交、平和再建活動を支援し、紛争再発予防外交を行う。
6.今後の検討課題
わが国のPKOへの参加は、1992年のPKO協力法の成立によって可能となり、これまでに同法に基づき6つのPKOと2つの人道的な国際救援活動、2つの国際的な選挙監視活動に自衛隊の部隊を含むわが国要員を派遣してきた。しかし、依然、憲法上の制約等によりわが国が行える活動はその範囲が限られているのが現状である。
一方、国連PKOや人道的な国際救援活動はそれ自体、冷戦後の激動する国際情勢の中で様々な影響を受けて変貌しつつあり、国連においてはPKOの機能強化を盛り込んだブラヒミ・レポートが安保理に提出され、先の国連ミレニアムサミットにはPKOの機能強化を促す決議等が採択されるなど、国連もPKO改革に乗り出している。このように変貌するPKOに対するわが国の協力も、その変化に対応して改革していくことが必要である。わが国は先のブラヒミ・レポートを重要な問題提起と受け止め、以下に挙げる新たなPKOへの対応を検討しておくことが必要と考える。
(1) 同レポートはPKOの迅速且つ効果的な展開能力の必要性や平和維持活動の幹部、軍事要員、文民警察及び文民専門家の効果的な活用という内容を盛り込んでおり、これまで以上にPKOの専門性、特殊性が要求されていると推察できる。
そのためわが国においても国際平和協力業務を行うための組織を別途、創設する必要性等について検討することも今後の課題の一つであると思われる。
(2)また、同レポートは強力な交戦規定の必要性を求めている。現行法上、わが国の武器使用は国連の武器使用基準よりも更に限定された場合のみの使用に限られており、参加各国が準拠している国際基準をわが国だけが受け入れず、しかも目的を同じくする組織活動を行うことは、いたずらに混乱を招きかねない。わが国が引き続き国連PKOに積極的に参加する方針を維持するのであれば、こうした懸念は解消していくために国内法も含め、今後検討していく必要がある。
(3)更に、国際情勢の変化を機敏に捉え、その時々におけるわが国の国際貢献の在り方を模索し具体化していく前提として、わが国が引き続き国際社会で名誉ある地位を求め、国連の一員としてその責任と役割を果たしていく方針を堅持するのであれば、わが国が為すべき国際貢献が如何なるものであるかについて、21世紀におけるわが国の在り方を含め真剣に検討し、明確に打ち出していく必要がある。
その際には、わが国において何ができるのかではなく、何を為すべきなのかという視点からも議論していくべきと考える。
以 上
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