第一 総則
1 目的
この法律は、人間の尊厳に由来する不可侵の権利としてすべての国民に基本的人権の享有を保障する日本国憲法の理念に照らし、歴史的社会的理由により生活環境等の安定向上が阻害されている地域に係る差別をはじめとする社会的身分、門地、人種、信条、性別又は障害による不当な差別その他の人権侵害を解消することが緊要であることにかんがみ、人権に関する教育及び啓発に関し、基本理念を定め、並びに国、地方公共団体及び国民の責務を明らかにするとともに、人権に関する教育及び啓発に関する施策の基本となる事項を定めること等により、人権に関する教育及び啓発に関する施策を総合的かつ計画的に推進し、もって人権の擁護に資することを目的とするものとすること。
2 定義
「人権に関する教育及び啓発」とは、人権尊重の理念について理解を深め、自ら実践することができるようにすることを目的として行われる教育活動並びに人権尊重の理念の普及及び人権意識の高揚を目的として行われる研修、情報提供、広報その他の活動をいうものとすること。
3 基本理念
* 人権に関する教育及び啓発は、不当な差別その他の人権侵害を解消し、人権尊重の理念を社会に定着させることを旨として、積極的に行われなければならないものとすること。
* 人権に関する教育及び啓発は、学校、職域、地域、家庭等においてあらゆる機会を通じて行われなければならないものとすること。
4 国の責務
国は、3の基本理念にのっとり、人権に関する教育及び啓発に関する施策を総合的に策定し、及び実施する責務を有するものとすること。
5 地方公共団体の責務
地方公共団体は、3の基本理念にのっとり、人権に関する教育及び啓発に関し、国の施策に準じた施策及びその地方公共団体の区域の特性に応じた自主的な施策を策定し、及び実施する責務を有するものとすること。
6 国民の責務
国民は、自ら人権尊重の理念についての理解を深めるよう努めるとともに、国又は地方公共団体が実施する人権に関する教育及び啓発に関する施策に協力するように努めなければならないものとすること。
7 法制上の措置等
政府は、人権に関する教育及び啓発に関する施策を実施するため必要な法制上又は財政上の措置その他の措置を講じなければならないものとすること。
8 年次報告等
政府は、毎年、国会に、政府が人権に関する教育及び啓発に関して講じた施策に関する報告書及び講じようとする施策を明らかにした文書を提出しなければならないものとすること。
第二 人権教育・啓発基本計画
1. 政府は、人権に関する教育及び啓発に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、人権に関する教育及び啓発に関する基本的な計画(以下「人権教育・啓発基本計画」という。)を定めなければならないものとすること。
2. 人権教育・啓発基本計画は、次の事項について定めるものとすること。
1. 総合的かつ長期的に講ずべき人権に関する教育及び啓発に関する施策の大綱
2. 1のほか、人権に関する教育及び啓発に関する施策を総合的かつ計画的に推進するために必要な事項
3. 政府は、人権教育・啓発基本計画を定めるに当たっては、あらかじめ、人権教育・啓発推進会議の議を経なければならないものとすること。
4. 政府は、人権教育・啓発基本計画を定めたときは、遅滞なく、これを国会に報告するとともに、公表しなければならないものとすること。
5. 3及び4は、人権教育・啓発基本計画の変更について準用するものとすること。
第三 人権に関する教育及び啓発に関する基本的施策
1 情報の収集及び提供等
国は、人権に関する教育及び啓発の有効かつ適切な実施に資するため、人権に関する教育及び啓発に関し、情報の収集及び提供を行うとともに、調査研究並びに教材及び手法の開発を推進するものとすること。
2 指導員の確保
1. 国は、人権に関する教育及び啓発の有効かつ適切な実施に資するため、事業所等に人権に関する教育及び啓発に関する指導員が配置されるよう必要な措置を講ずるものとすること。
2. 国は、1の指導員を養成するため、必要な措置を講ずるものとすること。
3 施設及び設備の整備
国は、1及び2の施策を実施するために必要な施設及び設備を整備するよう必要な措置を講ずるものとすること。
4 人権にかかわりの深い特定の業務に従事する者に対する措置
国は、人権にかかわりの深い特定の業務に従事する者に対し、人権に関する教育及び啓発がその業務の性質に応じて適切かつ十分に行われるよう必要な措置を講ずるものとすること。
5 事業者に対する措置
国は、事業者に対し、その事業所における人権に関する教育及び啓発が適切に行われるよう必要な措置を講ずるものとすること。
6 民間団体の活動を促進するための措置
国は、人権に関する教育及び啓発に関する活動を行う民間の団体に対し、当該活動が促進されるよう必要な措置を講ずるものとすること。
7 国民の意見の反映
国は、人権に関する教育及び啓発に関する施策の適正な策定及び実施に資するため、人権に関する教育及び啓発に関する活動を行う民間の団体の意見その他国民の意見を国の施策に反映させるための制度を整備するものとすること。
8 地方公共団体の施策
地方公共団体は、1から7までの施策に準じた施策及びその地方公共団体の区域の特性に応じた自主的な施策を策定し、及び実施するものとするものとすること。
9 地方公共団体に対する支援
国は、地方公共団体が実施する人権に関する教育及び啓発に関する施策を支援するため、必要な財政上の措置その他の措置を講ずるものとすること。
10 国及び地方公共団体の協力等
国及び地方公共団体は、人権に関する教育及び啓発に関する施策を講ずるにつき、相協力するとともに、人権に関する教育及び啓発に関する活動を行う民間の団体との連携協力体制の整備を図るものとすること。
第四 人権教育・啓発推進会議
1. 内閣府に、人権教育・啓発推進会議(以下「会議」という。)を置くものとすること。
2. 会議は、次の事務をつかさどるものとすること。
1. 人権教育・啓発基本計画に関し、第二の3の事項を処理すること。
2. 1のほか、人権に関する教育及び啓発に関する基本的かつ総合的な政策及び重要事項を調査審議し、並びに人権に関する教育及び啓発に関する施策の実施を推進すること。
3. 会議は、議長及び議員二十人以内をもって組織するものとすること。
4. 議長は、内閣総理大臣をもって充てるものとすること。
5. 議長は、会務を総理するものとすること。
6. 議長に事故があるときは、内閣官房長官が、その職務を代理するものとすること。
7. 議員は、次の者をもって充てるものとすること。
1. 内閣官房長官
2. 国務大臣のうちから、内閣総理大臣が指定する者
3. 2のもののほか、関係行政機関の長のうちから、内閣総理大臣が指定する者
4. 学識経験のある者のうちから、内閣総理大臣が任命する者
8. 会議に、専門の事項を調査させるため必要があるときは、専門委員を置くことができるものとすること。
9. 会議は、その所掌事務を遂行するため必要があると認めるときは、関係行政機関の長に対し、資料の提出、意見の開陳、説明その他必要な協力を求めることができるものとすること。
10. 1から9のほか、会議に関し必要な事項は、政令で定めるものとすること。
第五 施行期日等
1. この法律は、平成十三年一月六日から施行するものとすること。
2. 内閣府設置法及び法務省設置法の一部を改正するものとすること。
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