第一章 総則
(この法律の目的)
第一条
この法律は、避妊、不妊手術および人工妊娠中絶を選択できることが個人の基本的人権であることを確認する。これらの選択が、国の人口政策(及び優生政策)の対象としてではなく、個人の意思にもとづいて行えるための措置を講ずることを目的とする。
(定義)
第二条
この法律で避妊とは、妊娠を防止するための可逆的な方法をいう。
2
この法律で不妊手術とは、生殖腺を除去することなしに、生殖を不能にする手術のことをいう。
3
この法律で人工妊娠中絶とは、妊娠した女性が妊娠の中絶によって妊娠前の状態に回復するための医療的措置をいう。
第二章 避妊
(本人の意思による避妊)
第三条
個人は、本人の意思によって避妊することができる。
2
個人は、そのための情報、相談、サービスの提供を国及び地方自治体に求める権利を有する。
3
個人は、より安全で効果があり、安価で受入れられやすい避妊法の幅広い選択肢を保障するよう国及び地方自治体に求める権利を有する。
4
国及び地方自治体は、第三条の2、3の権利を保障する義務を負う。
(避妊の指導)
第四条
避妊の指導員は、厚生大臣の定める基準に従って都道府県知事の認定する講習を
修了し、性と生殖に関する健康と権利の分野に関して経験と熱意のある者で、助産婦、保健婦/士、看護婦/士、その他とする。
2
厚生大臣が指定する避妊用の器具を使用する避妊の指導、及び厚生大臣が指定する避妊のために必要な医薬品の販売は、医師の他は上記の指導員が行うことができる。ただし、子宮腔内に避妊用の器具を挿入する行為は、医師のみが行うことができる。
第三章 不妊手術
(本人の意思による不妊手術)
第五条
個人は、本人の意思によって不妊手術を受けることができる。
2
不妊手術を希望する者は、その意思を書面で表明し、医師による不妊手術を受けることができる。医師は、不妊手術を希望する者に、公正で十分な情報を提供しなければならない。
第四章 人工妊娠中絶
(本人の意思による人工妊娠中絶)
第六条
個人は、本人の意思によって人工妊娠中絶を受けることができる。
2
人工妊娠中絶を希望する者は、その意思を書面で表明し、医師による人工妊娠中絶を受けることができる。医師は、人工妊娠中絶を希望する者に、公正で十分な情報を提供しなければならない。
3
個人の権利に基づく人工妊娠中絶は、妊娠22週未満まで認める。
第五章 情報、サービスなどを提供する体制
第七条
国、地方自治体は、個人の性と生殖に関する問題の解決のために、情報、教育、カウンセリング、サービスを提供する相談所を設置しなければならない。相談所は、性、生殖及び避妊に関する知識の提供にあたって、作用、副作用を含めたあらゆる情報を提供しなければならない。
2
国及び地方自治体は、相談所を、保健所その他保健・医療関連施設、女性センター、民間機関などに設置しなければならない。民間機関が相談所を設置及び運営する場合は、それに要する費用について、国及び地方自治体は、政令で定めるところにより、その経費の一部を補助する。
3
国及び地方自治体は、個人が性と生殖に関して情報、教育、カウンセリング、サービスの提供を受ける権利を保障する義務を負う。
4
相談所は、職員のなかに第四条に定めた指導員を配置しなければならない。
第六章 性と生殖に関する健康を守る教育
第八条
個人が、性と生殖に関する教育を受けられるよう、国、地方公共団体は努めなければならない。
2
性と生殖に関する健康を守る教育は、学校教育、社会教育等、様々な場で行うものとする。
3
性と生殖に関する健康を守る教育を行うにあたって、市民・NGO等の協力を得るよう努め、また、こうした活動を行っている市民・NGOを支援すること。
第七章 医師、医療従事者等の義務
第九条
医師は、第五条、第六条の規定によって不妊手術または人工妊娠中絶を行った場合は、その月中の手術の結果を取りまとめて翌月10日までに都道府県知事に届け出なければならない。
第十条
不妊手術または人工妊娠中絶の施行に従事した者、及びからだと性の相談所の職員は、職務上知り得た個人情報を他者に漏らしてはならない。その職を退いたあとにおいても同様とする。
第十一条
何人も、本人の意思に反し、第五条、第六条で定める不妊手術または人工妊娠 中絶を行ってはならない。
第八章 罰則
第十二条
第十条の規定に違反して、本人の意思に反する不妊手術及び人工妊娠中絶を行った場合は*刑法の傷害罪(二〇四条)によって処罰されるものとする。ただし、本人が意思を表明できない場合、妊娠の継続または分娩が本人の生命または健康を著しく害するおそれがあるときは、その限りではない。その場合の不妊手術及び人工妊娠中絶の実施にあたっては、公正な第三者機関による審議を経なければならない。
2
第九条の規定に違反して、職員が個人情報を漏らした場合は、**刑法の秘密漏示罪(一三四条)を準用する。
*刑法の傷害罪
第二○四条
人の身体を傷害した者は、十年以下の懲役又は三十万円以下の罰金若しくは科料に処する。(平七法九一・全改)
**刑法の秘密漏示罪
第一三四条
医師、薬剤師、医薬品販売業者、助産婦、弁護士、弁護人、公証人又はこれらの職にあった者が、正当な理由がないのに、その業務上取り扱ったことについて、知り得た人の秘密を漏らしたときは、六月以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。
2
宗教、祈祷若しくは祭祀の職にある者又はこれらの職にあった者が、正当な理由がないのに、その業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏らしたときも、前項と同様とする。(平七法九一・全改)
付則
(関連法律の廃止)
第十三条
本法の成立により、刑法第二十九章堕胎の罪と母体保護法を廃止する。
2
この法律は、公布の日から起算して1ヶ月を経過した日から施行する。
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