ニュース
ニュース
2000/03/10
「高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律案」に対する本会議質問
衆議院本会議

「高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律案」に対する本会議質問

民主党 石毛 えい子

 私は、ただいま議題となりました政府案、「高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律案」に対して、民主党を代表して質問をさせていただきます。

 本題に入ります前に、3月8日、日比谷線中目黒駅構内で多くの死傷者を出す脱線事故が発生しました。亡くなられた方々のご冥福をお祈りし、ご遺族に哀悼の意を表しますとともに、けがを負われた方々の一日も早いご回復を心よりお祈りいたします。事故原因の究明と今後の安全対策の一日も早い確立を望みます。

(一)さて、政府案は、これまで移動環境の整備が不十分なために社会参加をあきらめざるを得なかった人たちに、遅ればせながらも必要な移動環境を整備し、一九八一年の国際障害者年以来の世界的な潮流に沿うものと評価するものであります。これまで障害者に代表される移動に制約をもつ人たちは、当然にもつべき移動の自由、社会参加の権利を侵害されてきていました。障害者の社会参加と平等、自立した生活を営むための支援を進め、すべての人たちがともに暮らせるバリアフリー社会を着実に創り上げなければなりません。

 そのためにも、「誰もが、いつでも、どこへでも、分け隔てなく、安心して」移動できる公共交通システムの整備は、社会参加の前提条件として必要不可欠です。不平等な移動手段しか提供できない環境下では、日本の社会が目指す公正で平等な参加と競争が実現できません。世界的潮流が障害者の権利の実現という方向ですすみ、日本での高齢化が急速なスピードですすむなか、政府案のもつ歴史的意義はとても大きいといえます。

 そこで運輸大臣に改めてお伺いします。この法案の基本的理念は何であるか、これまでの日本の高齢者施策・障害者施策との関連でおきかせ願います。また民主党案は「移動制約者の移動の自由を確保」することを法の目的としていますが、政府案では「高齢者・障害者等の移動の利便性の向上」としています。ここで「等」とはどのような人を意味しているのでしょうか。また、「移動の利便性」とはどのような内容を指しているのでしょうか。私は移動に制約を受けている人たちが制約を受けていない人と実質的に同等の行動を行えることが大切であると考えますが、この点についてもおたずねします。

(二)バリアフリー化を成功させるかどうかの鍵を握るのは、障害者や高齢者の当事者が、バリアフリーの基本整備方針などすべての計画の初期段階から参画できるかどうかです。たとえば、阪急伊丹駅に関する「阪急伊丹駅アメニティーターミナル整備検討委員会」には、事業者も障害者も入った形で検討が行なわれ、エレベーターの位置変更や動線を大きく変更して完成しました。事業者の大英断のみならず当事者参画が大きく寄与した成功例です。民主党のパブリックコメントでいただいた話の中には、ノンステップバスは駅の東口に到着するのに東口には段差があり、エレベーターは西口にあるという笑えない失敗例もありました。

 このような失敗例を防ぎ、ムダをなくすには、法律案や事業計画への初期段階からの当事者参画が不可欠です。当事者は、情報と体験の宝庫、バリアフリーの専門家ともいえます。小渕政権には、日本で最初の車椅子の郵政大臣八代英太議員もいらっしゃいます。この法案を成立させる前に、私たち議員は選挙区に戻り、障害のある当事者の方々といっしょに町に出てバリアをチェックする必要があると思います。

 介護保険制度では、ニーズを熟知した市民自身が策定計画に参画することを位置付け、これは、今後の市民社会を形成するうえで非常に意義あるものと評価しています。
ぜひこの法律が成立する前に、当事者とともにバリアチェックを行っていただき、より実効性のある法にしていただきたい願います。
そこでおたずねします。政府案では、初期段階からの政策参画、主務大臣による基本方針の策定、公共交通事業者が作成する移動円滑化基準、市町村が立案する移動円滑化基本構想の策定など、そしてバリアフリー化の事後的な評価に、どのように当事者参画を位置付けるおつもりなのか、運輸大臣にお伺いしたいと思います。

(三)バリアフリー推進においては、公共交通機関のみではなく町全体つまり「面」のバリアを除去する発想が必須です。乗降客の多い拠点交通機関のバリアフリー推進化はもちろんそのスタートとして大変大きな意味をもちますが、その先には点と点を結ぶ線、線の集合体である面、つまり町全体のバリアフリー化が視野になければなりません。

 今話題の木村拓也主演「ビューティフル・ライフ」というテレビドラマを大臣はご覧になったことがありますか?常盤貴子演じる主人公は車椅子利用者ですが、彼女は、道路のバリアによって目的地に約束どおりにたどりつけなかったり、怪我をする場面など、いかに障害者の日常生活でのバリアが大きいかが表されています。また、バリアを経験する障害者自身が後ろめたさや負い目を感じなければいけないという様子も描かれ、これはいかに障害者の権利が社会に保障されていないかの反映であるともうかがえます。

 政府案では公共交通機関のみでなく旅客施設を中心とした一定地区での道路、駅前広場、通路その他の施設の整備等について重点整備地区を指定するとしています。そしてこれらの地区において移動円滑化の意義、位置、区域に関する基本事項を基本方針に定めるとしています。

 そこで建設大臣におたずねします。この指定にも当事者参画を求めるべきだと考えますがいかがでしょうか。また近い将来、ハートビル法を義務化し、全面的なバリアフリーのまちづくりへとすすめるお考えがあるかどうかをおたずね致します。

(四)アメリカの「障害を持つアメリカ人に関する法律」(いわゆるADA法)では、公共交通がすべての障害者にとってアクセス可能となるよう、既存の交通機関を使えない障害者にスペシャル・トランスポート・サービス(いわゆるSTS)を提供し、スウェーデンの「社会サービス法」においてもコミューンにSTSの提供を義務づけるなど、STSは交通バリアフリーの重要な役割を果たすものであることは明らかです。政府案においてはSTSについてどのような考え方をもっているのかうかがいます。

 政府案は重点整備策が中心になっていますが、障害者の基本的権利を実現するバリアフリー化のためには、拠点である駅やターミナルだけでなく、町中の道路などの、点と点を結ぶ線、さらには面、出発地から目的地までの全面的バリアフリー化の総合計画が必要です。STSの他にも、道路の段差等について定めた道路構造令や、駅のプラットホームと電車のギャップと段差についての普通鉄道構造規則などの改正も必要ですが、法案が成立した場合に、これらを見直すつもりがあるかおうかがいいたします。こうしたことを含めて総合的視野にたったバリアフリーを政府案ではどのように位置付けられようとなさっているのでしょうか、あわせておきかせください。

(五)先日の日比谷線脱線事故に思いを馳せるとき、私は、あの車両の中に車椅子の障害者や視覚障害者、ろう者や知的障害者、精神障害者がいらっしゃったのではないか。こう自問せざるをえませんでした。今何が起きたのか?安全確保のためにどうしたらよいのか?現場での職員や他の乗客の対応、わかりやすい表示、情報提供など、ハード・ソフト両面でのバリアフリー化は、とりわけ緊急時には、人の大切な命にかかわることです。

 また、緊急時でなくても、全盲の三分の二の方々が駅のプラットホームから転落した経験があるとも言われています。視覚障害者に対応した券売機が特定の駅にあるという情報だけではなく、具体的にどこにあるのか何口の何番目の券売機がそれに該当するのかということがわからなければ、結局立ち往生してしまうという例も聞きます。転落防止柵設置など日常における障害者の安全確保と、情報提供のしくみを早急に整備を行うべきです。

 政府は今後、安全確保をふまえて、どのように障害者がある人たちへの情報提供をすすめようとしているのでしょうか?また、世界的に広まっているユニバーサルデザインという考え方によれば、障害の各種別に的確に呼応した環境整備を充実させ広範化することが、障害をもたない人にも使いやすい設備や安全で暮らしやすい生活の実現につながることになります。こんご障害者関連の施策に、ユニバーサルデザインの考え方をどのように反映されようとなさっているのでしょうか? うかがいます。

(六)政府案は、新駅のバリアフリー化は義務化していますが、既存の駅を網羅するものではないとしています。既存の駅があまりにたくさんある都市圏で、バリアフリー化がはばまれています。出発地から目的地まで、途切れないバリアフリー化を推進するには、事業者負担は軽くはありません。国が十分に予算措置を講ずる必要があると考えますが、どのような措置を考えているのか大臣にうかがいます。

 私たち民主党も政府も目指す方向性は同じではないかと考えます。目指すべきバリアフリー社会に向けてどのような方策を進めることが最も効率的であるか、国会の中で真剣に議論し、お互いのよい部分を合わせて成立させるべきであると考えますがいかがでしょうか。

 省庁縦割りでも官主導でもない、政治主導による交通バリアフリーの法律を国会の力で成立させるよう、与党も野党も知恵を出し合って作りましょう。当事者の意見も十分に聞き、現場も体験した上で、実効性のある法律をしっかりと作り上げるために私たち政治家がイニシアチブをとるべきです。私もそのために全力を尽くす覚悟であることを申し上げて、私の質問を終わります。
記事を印刷する