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1999/08/05
自然災害対策
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民主党災害対策部会

わが国は、自然条件、国土利用の面いずれも、災害に対して脆弱な状態に置かれ、これまでの幾多の取組みにかかわらず、その基礎条件の改善は遅々として進まない。自然条件としては、1.温帯モンスーン地帯に位置し台風の経路に当たっていること、2.環太平洋火山帯に属していること、3.山地・丘陵地から急勾配の河川が海に注いでいることなどにより、土砂崩れ、洪水、地震などが発生しやすい。国土利用の面からは、1.都市部への一極集中が是正されていないこと、2.無秩序・無計画な宅地開発や工場立地により天然の防災機能が低下していること、3.都市圏における危険施設と居住地域の混在などへの歯止めが十分でないことなど、改善策の実効性があがっているとは言えない。

さまざまな災害から国民の生命、財産を守り、災害発生時の社会的、経済的混乱を最小限に食い止めていくことは、政治に課せられた最重要課題であり、そのような見地から民主党は、結党時にまとめた基本政策において「大規模災害に対する公的支援の枠組みを整備し、首相や首長のもとで有効に機能する危機管理体制を早急に確立する」と宣言した。その具体策として、ここに新たに様々な災害に迅速・機動的に対応できる危機管理体制の確立、地方の実情に密着した防災対策の拡充及び実効ある被災者救済制度の充実をめざすものである。


一、自然災害に対する危機管理体制の確立

1.政 府 案 の 問 題 点

今般成立した中央省庁再編関連法案において、国土庁防災局の事務を内閣府に移管、局長級分掌職を設置し、大規模災害発生時に内閣官房の内閣危機管理監をサポートすることになった。阪神淡路大震災で批判された初動態勢の不備について政府は、自然災害発生直後において内閣危機管理監が主導し、その後、所定の災害対策本部が設置され、移管した防災局が政府部内において総合調整を行うという業務処理で改善を図ったとしている。

しかしながら、阪神・淡路大震災における対応を省みると、自然災害発生直後の危機管理体制の構築には、一元的な指揮命令系統の確立が必須であるにもかかわらず、今回の改正においては、批判の多かった国土庁の防災行政機能を、単に新設の内閣府に移管するという機構いじりに終始している。災害対策基本法があっても機能不全に陥った経緯をみても、これでは確固たる危機管理体制の構築を実現できる改正というには程遠い内容と言わざるを得ない。


2.「情報・危機管理室」(仮称)の設置

危機管理における内閣機能強化を図る観点から大胆な組織改編を進め、アメリカのFEMA(連邦緊急事態管理庁)を参考に、内閣総理大臣の権限強化、緊急即応組織を整備する。今回の中央省庁再編関連法案に対する対案において民主党は、「情報・危機管理室」(仮称)の設置を提唱し、「情報・危機管理は、情報収集処理並びに災害時の対応を含めた危機管理能力を飛躍的に高めるため、現行の組織を改組し、関係権限を集中的に担当」すべきものとした。その機能として、災害対策基本法を始め、一連の災害救済関連法を一括管理するなど、災害等の危機における権限強化を図るとともに、気象庁の防災情報機能を総理官邸に移管し、災害を生じさせる恐れのある気象庁の収集した気象情報を官邸がリアルタイムで主導的に分析・活用できる組織改編に着手する。

また、総合的な災害対策の検討課題として、原子力防災、コンピュータ西暦2000年問題、エネルギー・セキュリティの確立、各種テロ・ゲリラ対策等様々な緊急事態に対する対処方策に対して検討を進める。


3.政府の意思決定の改善

緊急時の対応、特に初動態勢においては、煩瑣な手続を簡素化し一元的な指示ができる態勢の整備を念頭に機構改革及び関係省庁間の指揮命令系統を改善する。予め決められた危機管理マニュアルによって、災害発生時には「情報・危機管理室長」(仮称)が総理を補佐して直接関係省庁等に対し必要な対策の実施を命令できることとする。

また、著しく激甚な非常災害が発生した場合など緊急時においては、災害現場や政府部内が混乱し、情報等が錯綜することも予想され、政府において必要な対策を講じる際に、全員出席が前提の閣議や持ち回り閣議などという迂遠な手続の終了を待っている暇がない場合も予想される。法制上の制約によって総理以下国務大臣全員の合意が必要ならば、組閣時に予め想定できる事態を列挙し、災害時の判断を了承しておくなど、内閣における意思決定の仕組みについて検討を進める。


4.情報伝達機能・関係機関等の協力体制の確立

阪神淡路大震災で最も批判された災害発生後の救援活動や情報伝達、交通規制や応急復旧などを円滑に進めるため、横の連絡が不足しがちな国、地方公共団体、警察、消防、自衛隊等の連携を強化し、企業、地域住民、ボランティア、NPOなどとの役割分担、協力体制、情報伝達システムを確立し、民間の諸活動を強力に支援する。

特に、海外から災害支援を受ける場合、検疫処理、出入国管理手続の迅速化、医師免許等の有効性の認定の柔軟な運用など、緊急時における事務処理の円滑化を促進し、国際的な災害救助態勢を整備する。また、国際的な自然災害防止活動に積極的に参加し、国連、各国政府、NGO等と連携しつつ、緊急援助、災害予防、研究開発の充実を図る。


5.自衛隊の活動支援

阪神淡路大震災において課題となった自衛隊の災害派遣については、自衛隊法第83条及び83条の2に定める自衛隊の「災害派遣」及び「地震防災派遣」がある。同法83条第2項において、いわゆる「自主派遣」として防衛庁長官等は、「事態に照らし特に緊急を要し、都道府県知事などの要請を待ついとまがないときは、要請を待たずに部隊などを派遣できる」にもかかわらず、その運用に当たってはなかなか発動しにくい現状が批判された。派遣要件の明確化と緊急時のみの適用であることを厳守することを前提とした上で、自治体首長と自衛隊との日常的な情報交換や合同訓練等を通じた信頼関係を構築していくことで、いちはやく災害派遣ができることとするなど、災害直後の救援態勢のあり方を検討する。



二、地方の実情に密着した防災対策

1.災害と地方分権

従来から地方の自治事務であった防災行政が、地方分権推進一括法において、地方自治の本旨に基づく地方の自治事務としての位置づけがより明確になった。その性質上防災事務は常に当該地方における災害現場に直結すべきであることから、災害現場の地理に明るく、被災状況を最も知りうる立場にある地方公共団体が主体となって第一義的に対策を講じ、必要に応じて国等の関係機関が迅速・機動的に地方をサポートしていくことを原則とせざるを得ない。

その上で、指令塔たる地方自治体そのものが被災し、機能不全に陥った場合に備え、国、周辺自治体等が相互に協力して防災事務に当たる態勢を構築すべきである。
特に既存の防災関係法令で地方分権にかかわる部分に関し、現行法においては知事の権限が多かったことから、阪神淡路大震災の折り、災害の現場に最も熟知している市町村の意向が、法制上の要請により知事の許可を受けてからでないと対応ができなかったという批判も寄せられたが、少なくとも政令市の長に対しては、災害に係る知事の権限を降ろすべきである。

また、地方分権と称することによって、かえって本来国が責任を負うべき課題が曖昧にされ、災害が生じた際に、機動的かつ速やかに国が実効性のある権限行使をできない恐れがないのかなど、引き続き慎重な検証を継続すべきである。


2.各種防災対策の拡充

予想される様々な災害を未然に防止するため、全国各地の特性に配慮した総合的な防災・国土保全を進めるため、災害に強い都市計画の策定、防災関連の科学技術の向上、防災訓練の徹底、防災施設の拡充などを重点的に進める。

(1) 災害に強い都市計画の立案・実施

地域の特性に応じた防災計画を立案するため、住民の安全を第一に都市計画に関する自治体の権限を強化し、災害に強いまちづくりの促進をはかる。都市再開発法などを強化し、立体換地などの再開発事業を強力に推進するとともに、公園・緑地等のオープン・スペースの確保を進め、災害時の避難・緊急車両が迅速に動けるよう、街路などの思い切った拡幅、高規格道路網やサイレン・防災無線等を整備を進め、災害時における交通・通信手段の確保を図る。

各種建築物や危険施設、交通施設などに関する安全基準の見直し、電柱の地下埋設を進めるとともに、液状化現象防止のため、地盤施設の定期点検や土砂崩れ防止事業を計画的な実施を進める。


(2) 防災訓練の実施

地方公共団体は、住民に対して避難場所や誘導路、災害時の対処方法等の周知徹底を図り、町等を単位として防災組織の結成を進め、できるだけ多くの家庭を対象とした定期的な防災訓練を実施するなど、地域住民の協力を求め、防災意識の高揚を図る。また、警察、消防、自衛隊等が連携し、広域派遣を伴う災害対策訓練を積極的に実施し、円滑な救助活動の充実を図る。


(3) 防災関連の科学技術の向上支援

災害から国民の生命・財産を守り、社会経済的混乱を防止するため、地震予知、災害の現状把握のための情報衛星、各種センサー等の開発・利用、気象観測技術の向上、特定観測地域の指定・強化、国際的な観測、研究交流体制の確立をめざす。特に災害時の通信を確保するため、携帯電話、防災無線等の積極的な利用を想定し、通信技術の向上、中継基地等の整備を進める。


(4) 噴 火 災 害 対 策

火山活動の研究、観測体制を強化するとともに、ひとたび噴火、被害を生じさせた場合、活火山対策特別措置法を積極的に活用し、特に降灰除去事業に対する補助率引き上げ、公民館等の降灰防除施設整備に対する助成措置を講じる。


(5) 台風・豪雨による洪水、地滑り被害等対する治山・治水対策

森林の水資源を涵養し、国土保全に貢献する機能に着目し、山地、森林の保全・保護政策を重点的に推進する。風水害対策のため、河川改修事業における氾濫防御区域の整備を進める。

都市周辺の中小河川の改修に対する国庫補助の引き上げ調整池や多目的遊水池の整備等、治水機能の抜本的強化を図る。土砂崩れの発生防止のため、急傾斜地崩壊対策事業の一層の推進、危険箇所の点検、急傾斜地崩壊危険区域の迅速な指定と住民への周知徹底を進める。



三、 実効ある被災者救済制度の充実

手厚い被災者救済策の実施は、自己責任を基調とする現行法制下においても、災害時の民心の安定、秩序の維持を図り、住民から信頼される行政を確立していくうえで必須である。

1.被災者生活再建支援法に基づく支援業務・地震保険制度

被災者生活再建支援法については、その施行状況を勘案し、責任ある財源措置を検討しつつ国が被災者生活再建支援基金に対して行う補助交付金の額を増額するとももに、支給対象者の拡大、支給上限額の引き上げ、災害規模、所得制限等の支給条件を緩和する。災害時の申請事務に当たっては、本法の立法趣旨に基づき、迅速な審査と支給に努めるものとする。また、現行地震保険制度の抜本的な見直しに着手するととともに、住宅再建にかかる兵庫県等の各種提案を参考に住宅再建支援策を構築する。

2.災害時ボランティア、NPO支援

阪神淡路大震災の例からも、災害時には、硬直しがちな役所の支援策より、ボランティアの活躍の方がフットワークが軽く、柔軟に機能することがある。これらのボランティアやその活動を支えるNPOを積極的に支援することは、内部手続に忙殺され、初動活動が滞りがちな役所の活動の間隙をうめるものとして、実現が待たれる国、地方における税制上の優遇措置や育成措置の充実、各団体間の情報提供、拠点確保、連携強化など、強力な支援体制を確立する。

また、罹災後の被災者は、心身ともに健康を害する場合が多いことから、ボランティアの協力を得つつ、いわゆる災害弱者の医療・保健、精神的ケアを充実させるともに、善意のボランティアの受入・配置、義援金等の自発的支援の円滑な受入・使途目的の弾力的運用を促進する。

3.防災関係法令の積極活用

激甚災害法に基づく激甚災害指定基準の緩和を図り、その指定及び実施の迅速化を図る。また、被災者に対する税の減免額の引き下げ、政府系金融機関からの災害融資の充実、災害弔慰金の引き上げや支給対象の拡大など、災害の都度設置されてきた各種の復興基金等の拡充と併せて、個人に対する災害救済対策の強化を図る。また、災害遺児の高校進学等を助成する育英制度の拡充を図る。


4.災害救助法の見直し

災害救助法等の災害対策に係る規定に定める支給条件等を緩和し、被災世帯に対する応急仮設住宅等の収容施設の供与、食品・飲料水の供給、生活必需品の供給等の充実と迅速化を図る。また、警戒区域の設定により、収入が途絶えた世帯に対して、避難手当(生活手当)を支給できることとし、これらの措置の延長も可能とする改善を図る。

5.被災者への融資等の拡充

農林漁業者、中小企業者等の被災者、住宅を滅失・損傷した者、及び自然災害の結果、集団移転の必要が生じた者等に対し、復旧に要する資金の融資等を積極的に行うとともに、租税等の減免、二重ローン対策、地域経済活性化のための税制面の支援策の充実を図る。

6.避難場所の確保

避難場所の適否を再検討し、適正な避難場所や誘導路の指定・整備を図り、避難場所に水・食糧、医療品・救急器材等の常備を進める。また、水道・電気・ガス等のライフラインの管理者が、災害終息後速やかに供給を再開できるよう必要な助成措置を講じる。

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