民主党
第一 総則
一 目的
この法律は、特定化学物質の環境への排出量等の把握及び公表に関する措置を講ずること等により、化学物質による環境の汚染の状況等に関する事業者及び国民の的確な理解の下に、事業者の自主的な努力等を通じて、化学物質の環境への排出の削減を図り、もって化学物質による環境の汚染により生ずる人の健康に係る被害及び生態系への影響を未然に防止することを目的とするものとすること。
二 定義
1 この法律において「化学物質」とは、元素及び化合物(それぞれ放射性物質を除く。)をいうものとすること。
2 この法律において「特定化学物質」とは、次のイ、ロ若しくはハに該当し、かつ、環境に排出されていると認められるか、又は環境に排出されることとなることが見込まれる化学物質で政令で定めるものをいうものとすること。
イ 当該化学物質が人の健康を損なうおそれ又は生態系に影響を及ぼすおそれがあるものであること。
ロ 当該化学物質がイに該当しない場合には、当該化学物質の自然的作用による化学的変化により容易に生成する化学物質がイに該当するものであること。
ハ 当該化学物質がオゾン層を破壊し、太陽紫外放射の地表に到達する量を増加させること等により間接に人の健康を損なうおそれ又は生態系に影響を及ぼすおそれがあるものであること。
3 この法律において「特定化学物質等取扱事業者」とは、次のイ又はロに該当する事業者(政令で定める業種に属する事業を営む者を除く。)のうち、当該事業者により取り扱われる特定化学物質の量等を勘案して政令で定める要件に該当するものをいうものとすること。
イ 特定化学物質の製造の事業を営む者、業として特定化学物質又は特定化学物質を含有する製品であって政令で定める要件に該当するもの(以下「特定化学物質等」という。)を使用する者その他業として特定化学物質等を取り扱う者
ロ イに掲げる者以外の者であって、事業活動に伴って付随的に特定化学物質を生成させ、又は排出することが見込まれる者
4 この法律において「電子情報処理組織」とは、市町村、都道府県又は環境庁長官の指定する電子計算機(入出力装置を含む。以下同じ。)と、第二の一の1の届出をしようとする者、第二の二の1の請求をしようとする者又は第二の四、同五若しくは同六の2若しくは同3による公表に係る情報を入手しようとする者の使用に係る入出力装置とを電気通信回線で接続した電子情報処理組織をいうものとすること。
三 基本的理念
1 化学物質による環境の汚染により生ずる人の健康に係る被害及び生態系への影響について国民が正しく認識することが現在及び将来の国民の健康かつ安全で文化的な生活の確保を図る上で不可欠であることにかんがみ、国民は、化学物質の環境への排出量その他化学物質による環境の汚染の状況等に係る十分な情報の提供を保障されるものとすること。
2 国民は、化学物質による環境の汚染により生ずる人の健康に係る被害及び生態系への影響について理解を深めるよう努めるものとすること。
四 特定化学物質等取扱事業者の責務
特定化学物質等取扱事業者は、特定化学物質が人の健康を損なうおそれがあるものであること等二の2のイ、ロ又はハに該当し、環境への排出を削減する必要があるものであることを認識して、特定化学物質等の製造、使用その他の取扱い等に係る管理を行うとともに、その管理の状況に関する国民の理解を深めるよう努めなければならないものとすること。
第二 特定化学物質の排出量等の公開
一 特定化学物質の排出量等の把握等
1 特定化学物質等取扱事業者は、その事業活動に伴う特定化学物質の排出量、移動量、貯蔵量、取扱量及び最大貯蔵量(以下「特定化学物質排出量等」という。)を総理府令で定めるところにより把握し、特定化学物質及び事業所ごとに、毎年度、前年度の特定化学物質排出量等に関する事項を、当該事業所の所在地の属する市町村に届け出なければならないものとすること。
2 特定化学物質等取扱事業者は、帳簿を備え、特定化学物質排出量等その他総理府令で定める事項を記載しなければならないものとすること。当該帳簿は、総理府令で定めるところにより、その関係資料とともに保存しなければならないものとすること。
二 対応化学物質分類名への変更
1 特定化学物質等取扱事業者は、一の1の届出に係る特定化学物質の使用その他の取扱いに関する情報が企業秘密に係る情報(法人その他の団体(国及び地方公共団体を除く。以下「法人等」という。)に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、公表することにより、当該法人等又は当該個人の基本的な権利、その競争上又は事業運営上の地位その他正当な利益を害することが明らかであるものをいい、公表しないことにより保護される当該法人等又は当該個人の正当な利益よりも当該法人等又は当該個人の事業活動によって生ずる危害又は侵害から人の生命、身体又は健康を保護するため、公表することが必要であると認められるものを除く。)に該当するものであるとして、当該特定化学物質の名称に代えて、当該特定化学物質の属する分類のうち総理府令で定める分類の名称(以下「対応化学物質分類名」という。)をもって四の1による公表を行うよう市町村に請求を行うことができるものとすること。
2 市町村は、1の請求があったときは、政令で定める基準に従い審査を行い、請求を受理した日から三十日以内に、1の請求を認める場合には、その旨の決定をし、当該請求を行った特定化学物質等取扱事業者に対し、その旨を通知しなければならないものとするとともに、1の請求を認めない場合には、その旨の決定をし、当該決定後直ちに、当該請求を行った特定化学物質等取扱事業者に対し、その旨及びその理由を通知しなければならないものとすること。
三 届出事項の集計等
1 市町村は、一の1により届出を受けた事項について、電子計算機に備えられたファイルに記録するものとすること。
2 市町村は、1の記録をしたときは、遅滞なく、1のファイルに記録された事項(以下「市町村ファイル記録事項」という。)を集計し、その結果及び六の2の集計の結果(当該市町村の区域に係る部分に限る。)を表示した図面を作成するものとすること。
四 市町村による公表
1 市町村ファイル記録事項等の公表
市町村は、遅滞なく、市町村ファイル記録事項及び三の2の図面を公表するものとすること。ただし、二の1の請求が認められたときは、当該特定化学物質の名称に代えて、対応化学物質分類名をもって公表を行うものとすること。
2 市町村は、二の1の請求を認めない旨の決定をしたときは、当該決定に係る特定化学物質の名称を公表するものとすること。
五 環境庁長官及び都道府県による公表等
1 市町村は、ファイル記録事項等を当該市町村をその区域に含む都道府県を経由して環境庁長官に報告するものとすること。
2 環境庁長官及び都道府県は、1の場合においては、当該報告に係る事項について、電子計算機に備えられたファイルに記録するとともに、遅滞なく、当該ファイルに記録された事項について集計し、その結果を公表するものとすること。ただし、二の1の請求が認められたときは、当該特定化学物質の名称に代えて、対応化学物質分類名をもって公表するものとすること。
六 届け出られた排出量以外の排出量等の算出等
1 都道府県は、総理府令で定めるところにより、一の1により届け出られた特定化学物質の排出量及び移動量以外の当該都道府県の区域において環境に排出され、又は廃棄物の処理に伴い移動していると見込まれる特定化学物質の量を総理府令で定める事項ごとに算出するものとすること。
2 都道府県は1により算出された結果を集計し、その結果を当該都道府県の区域内の市町村及び環境庁長官に通知するとともに、五の2の公表の際に併せて公表するものとすること。
3 環境庁長官は、2の通知があったときは、当該通知に係る事項について集計し、その結果を五の2の公表の際に併せて公表するものとすること。
4 都道府県は、1の算出を行うため必要があると認めるときは、国若しくは地方公共団体又は事業者に対し、資料の提供その他必要な協力を求めることができるものとすること。
七 調査の実施等
1 環境庁長官は、五の2及び六の3の結果並びに特定化学物質の安全性の評価に関する内外の動向を勘案して、環境の状況の把握に関する調査のうち特定化学物質に係るもの及び特定化学物質による人の健康又は生態系への影響に関する科学的知見を得るための調査を総合的かつ効果的に行うとともに、その成果を公表するものとすること。
2 都道府県は、当該都道府県の区域において行われる1の調査に関し、環境庁長官に対し、必要な資料の提供を求め、又は意見を述べることができるものとすること。
第三 不服申立て
一 審査請求及び再審査請求
対応化学物質分類名への変更に関する処分に不服がある者は、都道府県化学物質情報公表審査会に対して審査請求をし、その裁決に不服がある者は、さらに中央化学物質情報公表審査会に対して再審査請求をすることができるものとすること。
二 その他
審査会の設置及び組織、審査請求の手続等に関し所要の規定を設けるものとすること。
第四 雑則
一 国及び地方公共団体の措置
1 国は、化学物質の安全性の評価に関する国際的動向に十分配慮しつつ、化学物質の性状に関する科学的知見の充実に努めるとともに、化学物質の安全性の評価に関する試験方法の開発その他の技術的手法の開発に努めるものとすること。
2 国は、化学物質の性状及び取扱いに関する情報に係るデータベース(論文、数値、図形その他の情報の集合物であって、それらの情報を電子計算機を用いて検索することができるように体系的に構成したものをいう。)の整備及びその利用の促進に努めるものとすること。
3 国及び地方公共団体は、教育活動、広報活動等を通じて特定化学物質等の性状及び管理並びに特定化学物質の排出の状況に関し国民に分かりやすく説明するよう努めるものとすること。
4 国及び地方公共団体は、3の責務を果たすために必要な人材を育成するよう努めるものとすること。
二 事業者の措置
1 事業者は、その事業活動に係る化学物質の有害性その他の性状に関する基礎的な情報の整理、収集及び提供を行うよう努めるものとすること。
2 事業者は、その事業活動に係る化学物質による環境の汚染により生ずる人の健康に係る被害及び生態系への影響について、地域住民に分かりやすく説明するよう努めるものとすること。
三 意見の交換の促進
国及び地方公共団体は、化学物質を取り扱う事業者と地域住民との間の化学物質による環境の保全上の支障に関する円滑な意見の交換を促進するよう努めるものとすること。
四 化学物質による環境の保全上の支障の防止に関する計画
1 市町村は、市町村ファイル記録事項、第二の三の2により作成した図面等の検討を行い、その結果、必要があると認めるときは、当該市町村における化学物質による環境の保全上の支障の防止に関する計画を策定することができるものとすること。
2 市町村は、1の計画を実施するため必要があると認めるときは、化学物質を取り扱う事業者が自主的に行う化学物質による環境の保全上の支障の防止に関する措置に関し必要な助言及び指導を行うことができるものとすること。
五 立入検査等
市町村は、この法律の施行に必要な限度において、その職員に、第二の一の1による届出をした者の事務所その他の事業所に立ち入り、帳簿、書類その他の物件を検査させ、又は関係者に質問させることができるものとすること。
六 政令の制定
1 第一の二の2及び同3の政令は、環境の保全に係る化学物質の管理についての国際的動向、化学物質に関する科学的知見、化学物質の製造、使用その他の取扱いに関する状況等を踏まえ、化学物質による環境の汚染により生ずる人の健康に係る被害及び生態系への影響が未然に防止されることとなるよう十分配慮して定めるものとすること。
2 環境庁長官は、第一の二の2及び同3の政令の制定又は改廃の立案をしようとするときは、あらかじめ、総理府令で定めるところにより、その旨を公告し、当該政令の案を、当該公告の日から三十日間公衆の縦覧に供しなければならないものとすること。
3 2による公告があったときは、当該縦覧に供された政令の案に意見がある者は、2の縦覧期間満了の日までに、環境庁長官に対し、理由を付した文書をもって、意見を申し立てることができるものとすること。
4 環境庁長官は、2の縦覧期間満了後、当該政令の案について、3により申立てがあった意見の要旨を付して、中央環境審議会の意見を聴かなければならないものとすること。
七 電子情報処理組織の使用等に関する事項
1 市町村は、第二の一の1による届出又は同二の1の請求については、総理府令で定めるところにより、電子情報処理組織を使用して又は磁気ディスク(これに準ずる方法により一定の事項を確実に記録しておくことができる物を含む。以下同じ。)により行わせることができるものとすること。
2 市町村は、第二の二の2による通知については、総理府令で定めるところにより、電子情報処理組織を使用して又は磁気ディスクにより行うことができるものとすること。
3 環境庁長官及び地方公共団体が第二の四、同五の2又は同六の2若しくは同3の公表を行うに当たっては、インターネットによる情報の提供等誰もが容易に入手することができる方法を併用しなければならないものとすること。
第五 罰則
一 第二の一の1による届出をせず、又は虚偽の届出をした者は、五十万円以下の罰金に処するものとすること。
二 次のイ又はロのいずれかに該当する者は、二十万円以下の罰金に処するものとすること。
イ 第二の一の2に違反して帳簿を備えず、帳簿に記載せず、若しくは虚偽の記載をし、又は帳簿を保存しなかった者
ロ 第四の五による検査を拒み、妨げ、若しくは忌避し、又は質問に対して答弁をせず、若しくは虚偽の答弁をした者
三 両罰規定を設けるものとすること。
第六 附則
一 施行期日
この法律は、公布の日から起算して九月を超えない範囲内において政令で定める日から施行するものとすること。ただし、第四の六は公布の日から、第二、第四の七及び第五は公布の日から起算して一年六月を超えない範囲内において政令で定めるから施行するものとすること。
二 検討
政府は、この法律の施行後七年を目途として、化学物質による環境の汚染の状況等を勘案し、この法律による制度全般について検討を加え、その結果を公表するものとすること。
三 その他
その他所要の規定を設けるものとすること。
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