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1999/02/09
基本農政についての考え方
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基本農政についての考え方
〜「新しい食料・農業・農村基本法」(仮称)に関連して〜

民主党

1、 はじめに

【現行農基法とわが国農業・農村】

今日、わが国農業・農村は、過疎・高齢化や農業後継者不足、食料自給率の低下、農産物価格の低迷、耕作放棄地の増大、集落の減少などにより、極めて厳しい環境におかれている。食料自給率については、現行農業基本法の制定から4年後の昭和40年には73%(カロリーベース)あったものが、平成9年段階で41%まで落ち込んでいる。また、農地面積は農基法制定時(昭和36年)の609万haから、平成9年には495万haまで減少している。


現行農基法は、第2条第一項で、「需要が増加する農産物の生産の増進、需要が減少する農産物の生産の転換、外国農産物と競争関係にある農産物の合理化等農業生産の選択的拡大」と明記されているように、「選択的拡大」路線による食料生産構造の転換を旨とし、農業者に伝統的農産物生産からの撤退と収益性の高い農業への変更を迫った。これが、結果的に食料自給率の低下や農地の減少、日本型食生活の変化や農村社会の衰退につながったことをみるならば、現行農基法は本来の目的である「農業の発展」には結びつかなかったと言わざるをえない。


民主党は、わが国農業政策の抜本改革にむけ、現行農業基本法に変わる新たな「食料・農業・農村基本法」を制定し、21世紀を展望する農政を確立する。



【世界の食料需給と食料安全保障】

世界人口は、国連の推計によれば2020年には80億5千万人に達するといわれ、今後、地球規模での深刻な食料不足が懸念されている。特に、途上国では現在でも約8億人が飢餓状態にあるといわれている。世界の穀物在庫は、FAOが最低安全水準としている基準値をここ数年下回っているが、今後、世界の食料需給が逼迫基調で推移し農産物価格が高騰すれば、累積債務で苦しむ途上国には食料調達はますます困難になることが予想される。食料が足りなければ外国から買えばよいという発想は、わが国の農業・農村の衰退を招くだけでなく、途上国の飢餓・食料不足をさらに進めかねない。


今日、世界の農産物貿易は、事実上、一部の巨大食料輸出国によって支配されている。現在のWTO農業協定もこれら輸出国の利害が強く反映されており、わが国のような食料輸入国は、食料自給率向上のための有効な政策を打ち出しにくい状況にある。しかし、一方で世界の食料安全保障を求める国際世論は高まっており、「食料自給権」は各国が有する普遍的権利という認識も広がりつつある。




【わが国農政の役割】

1996年、ローマで開催されたFAO世界食料サミットで、参加各国は飢餓人口の救済と世界の食料安全保障の確保という共通目標に合意した(ローマ宣言)。また、宣言の具体化に向けた「行動計画」では、伝統的な作物の生産拡大と、輸入・備蓄との効果的な組み合わせが食料安保を強化するとしている。民主党は、基本的にこの考え方を支持しており、各国の農業政策の役割は一国の農業・食料政策にとどまらず、世界食料安保の一翼を担うことであると考える。


また、これからの農政に農業・農村の持つ多面的・公益的機能の維持・増進を位置づけることも重要である。農業・農村は食料供給機能のほかに、治山・治水や自然景観維持といった国土・環境保全機能、保健休養や教育的機能、地域経済・社会の維持機能といった広範囲の公益的機能を有している。これらの機能の維持・増進は都市と農村を結ぶうえでも重要な視点である。


このような考えに立ち、新しい基本法では、まず世界食料安保の達成と国内生産を基本とするわが国の食料自給についての政策を明確にする。そして、これまでの農政に明確に位置づけられてこなかった環境保全等の多面的・公益的機能の視点、消費者の視点、地方分権の視点、国際協力の視点を新基本法においてはっきりと位置づけていく考えである。



2、 食料政策

【国連食料需給機関の創設等】

世界食料安保の確立に向けては、まず食料の需給調整が可能な新しい国連機関の設置もしくは既存機関(FAO等)の機能強化が必要である。このような機関が、食料不足時における買い占め、価格の暴騰、飢餓の増大などを未然に防ぎ、食料安保の確立に寄与すると考える。併せて、国際的な食料備蓄機関の設置も検討する。


同時に、わが国独自の食料支援体制の確立や農業技術支援政策を充実する。



【国内農業の位置づけと食料自給率の向上】

世界食料安保の確立の観点からも、わが国は食料自給率の向上をはかり、国内生産を基本としつつ輸入・備蓄の効果的な組み合わせで国民への安定的供給を行なう。


食料自給率については、政策目標として当面、カロリーベースで50%とする。それに基づき、必要な農地総量〔最低でも500万ha〕を明示するとともに、品目別の目標を設定する。特に、麦、大豆、甘味資源などは食料自給率向上に向けた戦略作物として位置づける。食料備蓄については、食料安保の視点を明確にし、現在の回転備蓄制度から棚上げ備蓄制度へ切り換え、一定期間備蓄後、食料援助など多用途に活用する。



【食料の流通と安全対策】

現行「農基法」には食料の安全性確保という視点はない。新しい基本法では、農業生産者だけではなく消費者の利益を柱の一つとし、食料の安全性対策の確立や食品流通の改革を行なう。


生産者の顔の見える供給を促進し、有機・無農薬・低農薬農業の振興をはかる一方で、輸入農産物のポストハーベスト農薬規制、表示の徹底(使用農薬、遺伝子組換え食品等)や検査・認証制度を確立する。


農業が果たす食品・外食産業への供給源としての役割を明確にし、新製品の開発、販路の拡大、地域内流通などの促進に向け、食品産業と農業者の連携を強化する。また、食品流通のコスト削減に向け、生産から加工・流通・消費にいたる各段階での流通合理化を進める。



3、 農業政策

【所得政策】

戦後農政の柱の一つであった価格支持政策は、今日では農業者の経営安定や消費者の生活安定にとって、必ずしも効果的なものとは言えなくなって来た。今後の農産物価格決定についてはできるだけ市場に委ね、農業経営安定対策については、別途、所得保障政策を確立する必要がある。直接的所得補償政策の導入については、WTO農業協定の「緑の政策」に留意しながら、平地農業、中山間地などの条件不利地域農業それぞれの実態に即した形で検討する。併せて「収入保険制度」の導入についても検討する。



【農地保全政策】

確保すべき農地総量の保全のために公的規制を強化する。わが国の農地政策は、これまで「都市計画法」と「農地法」・「農振法」が優良農地を奪い合う形で進められてきた。そのため、なし崩し的な転用による農地の減少や、都市と農村が入り混じるスプロール現象が全国的に進んでいる。ヨーロッパでは都市計画のなかに農地保全が明確に位置づけられているが、わが国でも農地保全政策の確立に向け、現行制度の抜本改革が必要である。


特に、農地転用の厳格な規制に向けて、市町村の行なうゾーニング(土地利用区分)の実効性を確保する具体的な土地利用計画の策定を行なう。農地の非農地への転用については、土地利用計画を変更するに足る、十分な公共的理由がある場合にのみ認める。



【平地農業政策】

意欲ある農家・自立を目指す農業者を積極的に支援する。このため、農業基盤整備事業については、意欲ある農業者にとって効果的なものに限定し、計画立案段階から地域農業者が主体的に参画するシステムに改める。


市場原理に対応しうる大規模農業経営体の育成に向けては、平地における規模拡大・農地流動政策の確立が不可欠である。このため、非農地への転用を厳格に規制しつつ、農地として活用するための売買や賃借については規制緩和を進める。なお、競争力の強化については規模拡大だけでなく、併せて品質向上やマーケット拡大など農業者自身の努力も求められる。


価格支持政策の見直しによりもっとも影響を受けるのは専業などの平地農業である。このため、@所得減少に対する助成、A農地流動化助成、B若年就農助成、C負債対策助成、D環境保全型農業助成などを検討する。



【担い手・後継者対策】

担い手の確保に向けては、今後も家族農業経営の果たす役割が重要であると考えられる。同時に、意欲ある農業生産法人の育成も進める必要がある。そのために生産法人の設立要件の緩和、設立への支援策の確立などを進め、一般企業並みの社会保障制度を整え、農外からの新規参入を促進する。


中山間地等の小規模兼業農家については、集落維持の役割を積極的に評価し、集落営農の法人化など地域に適した担い手対策を進める。


近年、離農や耕作放棄が増大する一方で、農業を希望する若年者や中高年齢者の数が増加する傾向にある。しかし、現実には就農のノウハウや農地の確保など困難な問題も多く、就農がスムーズに進んではいない。就農促進に向けては、農業経営開始までの各段階に応じた支援が必要である。そのため、就農準備金など助成制度を充実するとともに、就農情報サービスの充実や技術研修への助成、農地・住宅の斡旋など総合的な支援策を確立する。


いわゆる株式会社の農地取得については、明確な農地保全政策が確立しない限り、農地の投機的利用の懸念は払拭できないため、拙速に解禁すべきではない。ただし、農業生産法人のあり方については、今後あらゆる可能性を検討する必要がある。その中で、生産法人の株式会社化のメリット・デメリットについても検討していく考えである。



【女性農業者政策】

女性農業者への支援策の確立も重要な課題である。農業従事者全体に占める女性の割合は6割近いが、その働きに見合う適正な評価(報酬)を受けている女性の割合は低い。女性農業者の支援に向けて、家族農業経営内での役割分担や適正な報酬の配分などを進めるとともに、農業者年金への加入を促進する。また、農協や農業委員会役員への女性の登用を促進し、政策・方針決定過程への女性の参画を進める。



【環境保全型農業の推進】

農業・農村は、洪水防止機能や水の涵養機能など、国土環境保全という公益的機能を有する一方で、農薬や化学肥料など環境に負荷を与えるという側面もある。公益的側面を増進させ、環境負荷を抑えることは、今後の持続可能な農業を展望する上での重要課題であり、環境保全型農業は、これからの農業政策の基本として位置づけるべきである。


有機・無農薬・低農薬農業など、環境負荷の低減と消費者ニーズに応えうる農法への転換に対する助成等の支援策を確立する。また、畜産については農家におけるリサイクル型ふん尿処理システム確立支援策、堆肥リサイクルビジネスの育成支援策、中山間地対策とリンクした「日本型放牧」の普及支援策などを確立する。


自然生態系の維持や復元を、ほ場整備や用排水路整備などの「基盤整備計画」に盛り込む農業者への助成策を確立する。


生ゴミ処理対策として、一般家庭や食品産業などからでる生ゴミの堆肥化促進支援策を確立する。



【国境措置】

食料自給率向上に向けては、国内対策と同時に国境措置も重要である。特に、自給率向上の戦略作物と位置づける麦・大豆・甘味資源などの生産については、所得政策のみでの農業経営安定は困難であり、国内振興策と併せて一定の国境措置が必要である。


4、 農村政策

【条件不利地域農業・農村政策】

わが国の国土の7割を占める中山間地域は、自然・環境・景観や治山・治水など多くの公益的機能を有しているが、今日、集落の消滅や過疎化の進行、耕作放棄地の増大などにより活力低下が著しい。これも、現行農基法路線による必然的帰結と言わざるをえない。


条件不利地域農業・農村政策は、地域社会の維持、集落の維持を主眼に置き、産業としての農業を前提とする政策から、これらの地域の農業・農村のもつ公益的・多面的機能(国土や資源の維持管理、自然環境保全、水源涵養、保健休養など)の維持・増進に重点を移すべきである。


もちろん、中山間地域でも集落営農や地場・域内流通を通じた安定的経営の展開が可能な地域もあり、一概に産業的側面を否定するものではない。条件不利地域にも、立地条件などで差異があるため、地域の状況に応じた政策展開が必要である。




【条件不利地域へのデカップリング制度の導入】


前述の平地農業への所得保障政策は、食料の安定的供給や優良農地保全を目的としているため、助成の内容も具体的だが、中山間地や離島などの条件不利地域は各地域ごとに取組む課題が様々である。


そのため、これらの地域にデカップリング制度を導入するにあたっては、法律の中で助成内容を列挙するよりも、一定基準の条件不利地域を抱える対象自治体に対して交付金を交付する形が望ましい。交付金は自治体が作成する農業・農村振興計画に基づいて使用する限りは、その使用内容および対象者(個人、グループ、3セクなど)については原則的に自治体の判断に任せる方式をとる。これは地方分権推進の考えにも合致すると考える。




【都市と農村の交流】


ヨーロッパでは都市住民と農村との交流が活発に行われ、都市住民の農業・農村政策への理解も高いと言われている。これに比べ、わが国では都市と農村の交流が希薄であり、都市部の人々の農業・農村への関心は低い。 これは、農村側の受入体制が不十分であることが大きな理由と考えられる。このような現状を変えていくために、都市と農村の活発な交流を促す政策誘導が必要である。そのため、市民農園・いきがい農業や観光農業、水田オーナー制度の充実やグリーンツーリズムの推進など、自治体や農業者の主体的取組みへの支援を行なう。


また、公教育における「農業・農村教育」の充実、都市部青少年の農村でのホームステイ、自治体等での農業学習の振興などを通じて農業・農村の持つ公益的機能の啓発を進める。




5、 関連する重要政策について

【地方分権型農政の確立】


新たな基本法で打ちだすべき重要な基本理念の一つが、地方分権である。今後の農政を展開するにあたり、国の役割と地方の役割を明確にしなければならない。そのために、これまでの通達行政や細分化された補助金行政を見直し、分権型農政を確立する。




【農業関係予算の再編成と公共事業の見直し】


農業関係予算に占める価格・所得関係費はEUの90、8%、米国の12、0%(いずれも95年)に比べ、わが国は8、3%にすぎない。その一方で、わが国農業予算に占める公共事業関係費は50%を超えている。所得政策など非公共事業分野に重点を置く農業予算への再編成のために、現在の公共事業中心の予算を見直す必要がある。また、他省庁にまたがる農業・農村関係予算を整理・統合したうえで、地方自治体の自主的な取り組みを支援する予算措置を行なう。


公共事業についてはその必要性は認めるが、それが農業者への利益をもたらさないものであってはならない。今後の事業の進め方については地域の意見を尊重し、農業者にとって効果的な事業(前述の「農業基盤整備事業」等)や、農村の自然・景観の再生といった都市住民にとっても利益となる事業に重点的に予算措置を行う。




【林業・漁業との関係】


前述したように、わが国農業は多くの多面的・公益的機能を有している。特に中山間地域農業は林業と不可分の関係にあるため、中山間地域の振興は林業振興を伴ない、その結果、森林・国土保全につながる。また、森林の保全により下流域に栄養豊富な水を供給するため、沿岸漁業の振興にもつながるといった側面も持っている。今後の農政に、このような林業・漁業との有機的な関係を位置づけることも重要である。




【農業団体のあり方について】


地域農業の振興や農地の保全に向けて、農協や農業委員会といった団体の果たす役割は極めて大きい。しかし、これらの団体が本来の目的を果たしていくためには、組識の維持を自己目的化せず、わが国農業・農村の発展に寄与するという意識改革が必要である。このため、今後の新たな農政の展開におけるこれら農業団体の位置づけと役割について再検討を行い、組識改革を誘導する。


【WTO次期農業交渉について】


以上述べてきた政策を推進するために、WTO農業協定において各国の食料安全保障政策の尊重を強く主張する。民主党は、WTO体制を尊重するが、それが不変のものだとは考えない。WTO協定があるから、何がなんでもその枠内で基本法を制定するというのではなく、基本法があるからその精神に則ってWTO協議の場で新たな貿易ルールづくりを主張するというのが民主党の基本的立場である。


焦点のコメの関税化問題については、さらなるコメの輸入拡大はわが国農業の存立に関わる問題であり、わが国の食料安全保障を確保する観点から交渉を進める。これは、冒頭で述べたFAO世界食料サミット合意にも合致するものであると考える。

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