目次
第一章 総則(第一条―第三条)
第二章 ヒト胚の作成等に係る規制(第四条―第十二条)
第三章 人の属性を有する胚の作成等に係る規制(第十三条―第二十一条)
第四章 人の配偶子等の提供に関する規制(第二十二条―第二十四条)
第五章 ヒト胚等の作成及び利用に関する審査委員会(第二十五条―第三十三条)
第六章 雑則(第三十四条―第四十一条)
第七章 罰則(第四十二条―第四十六条)
附則
第一章 総則
(目的)
第一条
この法律は、人の生命の芽であるヒト胚の人為による作成及び利用が人の尊厳の保持並びに人の生命及び身体の安全の確保に重大な影響を及ぼすおそれがあること並びに人の属性を有する胚が人の尊厳の保持並びに人の生命及び身体の安全の確保に重大な影響を及ぼす個体の人為による生成をもたらすおそれがあるものであることにかんがみ、ヒト胚の作成及び利用について必要な規制を行うとともに、人の属性を有する胚の人又は動物の胎内への移植を禁止するほか、その作成及び利用について必要な規制を行うことにより、人の尊厳の保持並びに人の生命及び身体の安全の確保を図ることを目的とする。
(定義)
第二条
この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
一 胚 一の細胞(配偶子であるものを除く。)又は細胞群であって、そのまま人又は動物の胎内において発生の過程を経ることにより一の個体に成長する可能性のあるもののうち、胎盤の形成を開始する前のものをいう。
二 配偶子 精子(その染色体の数が精子の染色体の数に等しい精細胞を含む。以下同じ。)及び卵子をいう。
三 卵子 未受精の卵細胞及びその染色体の数が未受精の卵細胞の染色体の数に等しい卵母細胞をいう。
四 ヒト胚 ヒトの精子とヒトの卵子との受精により生ずる胚(当該胚が一回以上分割されることにより順次生ずるそれぞれの胚であって、その分割が人の胎外においてされたものでないものを含む。)をいう。
五 人の属性を有する胚 次のいずれかに掲げる胚(当該胚が一回以上分割されることにより順次生ずるそれぞれの胚を含む。)をいう。
イ その細胞の核の遺伝情報の総体が、人、人の胎児又は他のヒト胚の細胞の核の遺伝情報の総体と同一である胚(ヒト胚及びロに掲げるものを除く。)
ロ ヒトの細胞の核と動物の卵子又は一の細胞である動物の胚を融合させることにより作成される胚
ハ 動物の細胞の核とヒトの卵子又は一の細胞であるヒト胚を融合させることにより作成される胚
ニ ヒトの配偶子と動物の配偶子を受精させることにより作成される胚
ホ ヒト胚に、その胚と一体となって分裂成長することが可能なヒトの細胞又は動物の細胞を集合させることにより作成される胚
ヘ 動物の胚に、その胚と一体となって分裂成長することが可能なヒトの細胞を集合させることにより作成される胚
六 動物 乳綱に属する種の個体(ヒトを除く。)をいう。
七 胎児 人又は動物の胎内にある細胞群であって、そのまま胎内において発生の過程を経ることにより一の個体に成長する可能性のあるもののうち、胎盤の形成の開始以後のものをいい、胎盤その他の附属物を含むものとする。
八 ヒトの細胞 ヒト(死体を含む。)、ヒトの胎児(死胎を含む。)若しくはヒト胚から採取された細胞(配偶子を除く。)若しくは一の細胞であるヒト胚又は当該細胞の分裂により生ずる細胞をいう。
九 動物の細胞 動物(死体を含む。)、動物の胎児(死胎を含む。)若しくは動物の胚から採取された細胞(配偶子を除く。)若しくは一の細胞である動物の胚又は当該細胞の分裂により生ずる細胞をいう。
十 人の属性を有する胚の細胞 人の属性を有する胚から採取された細胞若しくは一の細胞である人の属性を有する胚又は当該細胞の分裂により生ずる細胞をいう。
十一 融合 受精以外の方法により複数の細胞が合体して一の細胞を生ずることをいい、一の細胞の核が他の除核された細胞に移植されることを含む。
十二 除核 細胞から核を取り除き、又は細胞の核を破壊することをいう。
十三 生殖補助医療 医療法(昭和二十三年法律第二百五号)第一条の二第二項に規定する医療提供施設において医業として行われる人の生殖の補助をいう。
十四 余剰胚 生殖補助医療として作成されたヒト胚であって、生殖補助医療に使用されないこととされたものをいう。
十五 ヒト胚性幹細胞 ヒトの生体を構成するあらゆる種類の細胞に分化する能力をもつ細胞として初期のヒト胚又はヒトの始原生殖細胞から作成される細胞であって、胚でないものをいう。
2 次の表の上欄に掲げる規定の適用については、同表の中欄に掲げる胚又は細胞は、当該規定中の同表の下欄に掲げる胚又は細胞に含まれるものとする。
上 欄 中 欄 下 欄
一 前項第五号ロ 人の属性を有する胚の細胞 ヒトの細胞
人の属性を有する胚 動物の胚
二 前項第五号ハ 人の属性を有する胚の細胞 動物の細胞
人の属性を有する胚 ヒト胚
三 前項第五号ホ 人の属性を有する胚 ヒト胚
人の属性を有する胚の細胞 ヒトの細胞
四 前項第五号ヘ 人の属性を有する胚の細胞 ヒトの細胞
(基本的理念)
第三条
ヒト胚は、人の生命の萌芽であって、何人も、みだりにこれを作成し、又は利用してはならない。
2 ヒト胚を取り扱うに当たっては、いやしくも人の尊厳を冒すことがないよう特に誠実かつ慎重に行わなければならない。
3 人の属性を有する胚の作成又は利用は、その胚からの個体の生成につながるものであってはならない。
第二章 ヒト胚の作成等に係る規制
(ヒト胚の作成等の禁止)
第四条
何人も、人の胎外においてヒト胚を作成してはならない。ただし、生殖補助医療又は生殖補助医療に係る医学研究(以下「生殖補助医学研究」という。)として作成する場合は、この限りでない。
2 何人も、ヒト胚を使用してはならない。ただし、生殖補助医療として作成されたヒト胚を生殖補助医療として使用する場合、生殖補助医学研究として作成されたヒト胚を生殖補助医学研究として使用する場合又は余剰胚を生殖補助医学研究として使用し、若しくは次条第一項の許可を受けて使用する場合は、この限りでない。
3 生殖補助医療又は生殖補助医学研究としてヒト胚を使用する者及び次条第一項の許可を受けて余剰胚を使用する者は、ヒト胚を動物の胎内に移植してはならない。
4 何人も、次条第一項の許可を受けた者(以下「許可ヒト胚使用者」という。)以外の者に、生殖補助医療及び生殖補助医学研究以外に使用するためヒト胚を譲り渡してはならない。
5 許可ヒト胚使用者でなければ、生殖補助医療及び生殖補助医学研究以外に使用するためヒト胚を譲り受け、又は輸入してはならない。
(使用の許可)
第五条
余剰胚を生殖補助医学研究以外に使用しようとする者は、文部科学大臣の許可を受けなければならない。
2 前項の許可を受けようとする者は、文部科学省令で定めるところにより、次に掲げる事項を記載した申請書を文部科学大臣に提出しなければならない。
一 氏名又は名称及び住所並びに法人にあっては、その代表者の氏名
二 使用の目的及び方法並びにヒト胚の使用を必要とする理由
三 使用する余剰胚の数及び入手の方法
四 余剰胚の入手の予定日及び使用の期間
五 余剰胚の使用後の取扱いの方法
六 前各号に定めるもののほか、文部科学省令で定める事項
(欠格事由)
第六条
次の各号のいずれかに該当する者は、前条第一項の許可を受けることができない。
一 この法律又はこの法律に基づく命令の規定に違反し、罰金以上の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から三年を経過しない者
二 第九条の規定により前条第一項の許可を取り消され、その取消しの日から三年を経過しない者
三 他の法令の規定に違反し、罰金以上の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から三年を経過しない者で、その情状が余剰胚を使用する者として不適当なもの
四 成年被後見人
五 法人であって、その業務を行う役員のうちに前各号のいずれかに該当する者があるもの
(許可の基準等)
第七条
文部科学大臣は、第五条第一項の許可の申請があった場合においては、その申請が次の各号に適合していると認めるときでなければ、同項の許可をしてはならない。
一 使用の目的がヒト胚性幹細胞の樹立に係る研究であって、ヒト胚を使用することが当該研究において科学的な合理性及び必要性を有するものと認められるものであること。
二 使用及び使用後の取扱いが第十条第一項のヒト胚の使用に関する指針に適合するものであること。
2 文部科学大臣は、第五条第一項の許可をしようとする場合においては、あらかじめ、厚生労働大臣その他関係行政機関の長及びヒト胚等の作成及び利用に関する審査委員会の意見を聴かなければならない。
3 文部科学大臣は、第五条第一項の許可をした場合においては、遅滞なく、その旨及び文部科学省令で定める事項を公表するものとする。
(変更の許可等)
第八条
許可ヒト胚使用者は、第五条第二項第二号に掲げる事項を変更しようとするときは、文部科学大臣の許可を受けなければならない。ただし、同号に掲げる事項の変更であって文部科学省令で定める軽微なものをしようとするときは、この限りでない。
2 許可ヒト胚使用者は、第五条第二項第三号から第六号までに掲げる事項を変更しようとするときは、文部科学省令で定めるところにより、その旨を文部科学大臣に届け出なければならない。
3 許可ヒト胚使用者は、次に掲げる場合には、遅滞なく、その旨を文部科学大臣に届け出なければならない。
一 第五条第二項第一号に掲げる事項に変更があったとき。
二 第一項ただし書の文部科学省令で定める軽微な変更をしたとき。
4 前条の規定は、第一項の許可に準用する。
(許可の取消し)
第九条
文部科学大臣は、許可ヒト胚使用者が次の各号のいずれかに該当するときは、第五条第一項の許可を取り消すことができる。
一 第六条各号のいずれかに該当するに至ったとき。
二 不正の手段により第五条第一項又は前条第一項の許可を受けたとき。
三 前条第一項の規定により許可を受けなければならない事項を同項の許可を受けないで変更したとき。
四 第十二条の規定による命令に違反したとき。
(ヒト胚の使用に関する指針)
第十条
文部科学大臣は、ヒト胚の使用に関する指針を定めなければならない。
2 前項のヒト胚の使用に関する指針においては、次に掲げる事項について定めるものとする。
一 ヒト胚の使用及び使用後の取扱いの要件に関する事項
二 前号に掲げるもののほか、ヒト胚の使用及び使用後の取扱いに関して配慮すべき手続その他の事項
3 文部科学大臣は、第一項のヒト胚の使用に関する指針を定め、又はこれを変更しようとするときは、あらかじめ、関係行政機関の長に協議するとともに、総合科学技術会議の意見を聴かなければならない。
4 文部科学大臣は、第一項のヒト胚の使用に関する指針を定め、又はこれを変更したときは、遅滞なく、これを公表しなければならない。
(遵守義務)
第十一条
許可ヒト胚使用者は、その余剰胚の使用及び使用後の取扱いを、前条第一項のヒト胚の使用に関する指針に従って行わなければならない。
(措置命令)
第十二条
文部科学大臣は、許可ヒト胚使用者の余剰胚の使用又は使用後の取扱いが第十条第一項のヒト胚の使用に関する指針に適合しないものであると認めるときは、その許可ヒト胚使用者に対し、余剰胚の使用の中止又は使用後の取扱いの方法の改善その他必要な措置をとるべきことを命ずることができる。
第三章 人の属性を有する胚の作成等に係る規制
(禁止行為)
第十三条
何人も、人の属性を有する胚を人又は動物の胎内へ移植してはならない。
2 何人も、次条第一項の許可を受けた者(以下「人属性胚作成使用者」という。)以外の者に人の属性を有する胚を譲り渡してはならない。
3 人属性胚作成使用者でなければ、人の属性を有する胚を譲り受け、又は輸入してはならない。
(作成又は使用の許可)
第十四条
人の属性を有する胚を作成し、又は使用しようとする者は、文部科学大臣の許可を受けなければならない。
2 前項の許可を受けようとする者は、文部科学省令で定めるところにより、その者が人の属性を有する胚を作成しようとする者である場合にあっては第一号から第五号まで及び第十号に掲げる事項を、人の属性を有する胚を使用しようとする者である場合にあっては第一号及び第六号から第十号までに掲げる事項を、人の属性を有する胚を作成し、及び使用しようとする者である場合にあっては次の各号に掲げる事項を記載した申請書を文部科学大臣に提出しなければならない。
一 氏名又は名称及び住所並びに法人にあっては、その代表者の氏名
二 作成しようとする人の属性を有する胚の種類、作成の目的及び方法並びに人の属性を有する胚の作成を必要とする理由
三 作成しようとする人の属性を有する胚の数
四 作成の予定日
五 作成後の取扱いの方法
六 使用しようとする人の属性を有する胚の種類、使用の目的及び方法並びに人の属性を有する胚の使用を必要とする理由
七 使用しようとする人の属性を有する胚の数及び入手の方法
八 使用しようとする人の属性を有する胚の入手の予定日及び使用の期間
九 使用後の取扱いの方法
十 前各号に定めるもののほか、文部科学省令で定める事項
(欠格事由)
第十五条
次の各号のいずれかに該当する者は、前条第一項の許可を受けることができない。
一 この法律又はこの法律に基づく命令の規定に違反し、罰金以上の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から三年を経過しない者
二 第十八条の規定により前条第一項の許可を取り消され、その取消しの日から三年を経過しない者
三 他の法令の規定に違反し、罰金以上の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から三年を経過しない者で、その情状が人の属性を有する胚を作成し、又は使用する者として不適当なもの
四 成年被後見人
五 法人であって、その業務を行う役員のうちに前各号のいずれかに該当する者があるもの
(許可の基準等)
第十六条
文部科学大臣は、第十四条第一項の許可の申請があった場合においては、その申請が次の各号に適合していると認めるときでなければ、同項の許可をしてはならない。
一 作成又は使用の目的が人の属性を有する胚を作成し、又は使用する方法以外の方法では行うことのできない研究であって、人の属性を有する胚を作成し、又は使用することが当該研究において科学的な合理性及び必要性を有するものと認められるものであること。
二 作成及び使用並びに作成後及び使用後の取扱いが第十九条第一項の人の属性を有する胚の作成及び使用に関する指針に適合するものであること。
2 文部科学大臣は、第十四条第一項の許可をしようとする場合においては、あらかじめ、関係行政機関の長及びヒト胚等の作成及び利用に関する審査委員会の意見を聴かなければならない。
3 文部科学大臣は、第十四条第一項の許可をした場合においては、遅滞なく、その旨及び文部科学省令で定める事項を公表するものとする。
(変更の許可等)
第十七条
人属性胚作成使用者は、第十四条第二項第二号又は第六号に掲げる事項を変更しようとするときは、文部科学大臣の許可を受けなければならない。ただし、これらの号に掲げる事項の変更であって文部科学省令で定める軽微なものをしようとするときは、この限りでない。
2 人属性胚作成使用者は、第十四条第二項第三号から第五号まで又は第七号から第十号までに掲げる事項を変更しようとするときは、文部科学省令で定めるところにより、その旨を文部科学大臣に届け出なければならない。
3 人属性胚作成使用者は、次に掲げる場合には、遅滞なく、その旨を文部科学大臣に届け出なければならない。
一 第十四条第二項第一号に掲げる事項に変更があったとき。
二 第一項ただし書の文部科学省令で定める軽微な変更をしたとき。
4 前条の規定は、第一項の許可に準用する。
(許可の取消し)
第十八条
文部科学大臣は、人属性胚作成使用者が次の各号のいずれかに該当するときは、第十四条第一項の許可を取り消すことができる。
一 第十五条各号のいずれかに該当するに至ったとき。
二 不正の手段により第十四条第一項又は前条第一項の許可を受けたとき。
三 前条第一項の規定により許可を受けなければならない事項を同項の許可を受けないで変更したとき。
四 第二十一条の規定による命令に違反したとき。
(人の属性を有する胚の作成及び使用に関する指針)
第十九条
文部科学大臣は、人の属性を有する胚の作成及び使用に関する指針を定めなければならない。
2 前項の人の属性を有する胚の作成及び使用に関する指針においては、次に掲げる事項について定めるものとする。
一 人の属性を有する胚の作成及び使用並びにその作成後及び使用後の取扱いの要件に関する事項
二 前号に掲げるもののほか、人の属性を有する胚の作成及び使用並びにその作成後及び使用後の取扱いに関して配慮すべき手続その他の事項
3 文部科学大臣は、第一項の人の属性を有する胚の作成及び使用に関する指針を定め、又はこれを変更しようとするときは、あらかじめ、関係行政機関の長に協議するとともに、総合科学技術会議の意見を聴かなければならない。
4 文部科学大臣は、第一項の人の属性を有する胚の作成及び使用に関する指針を定め、又はこれを変更したときは、遅滞なく、これを公表しなければならない。
(遵守義務)
第二十条
人属性胚作成使用者は、その人の属性を有する胚の作成及び使用並びにその作成後及び使用後の取扱いを、前条第一項の人の属性を有する胚の作成及び使用に関する指針に従って行わなければならない。
(措置命令)
第二十一条
文部科学大臣は、人属性胚作成使用者の人の属性を有する胚の作成若しくは使用又はその作成後若しくは使用後の取扱いが第十九条第一項の人の属性を有する胚の作成及び使用に関する指針に適合しないものであると認めるときは、その人属性胚作成使用者に対し、人の属性を有する胚の作成若しくは使用の中止又はその作成後若しくは使用後の取扱いの方法の改善その他必要な措置をとるべきことを命ずることができる。
第四章 人の配偶子等の提供に関する規制
(提供者の同意)
第二十二条
ヒト胚を作成し、又は使用しようとする者は、当該ヒト胚に係る人の配偶子の提供者に対し、事前に、その作成又は使用の目的及び方法その他の政令で定める事項を説明し、その同意を得なければならない。
2 人の属性を有する胚を作成し、又は使用しようとする者は、当該人の属性を有する胚に係る人の配偶子その他の人の細胞(以下「人の配偶子等」という。)の提供者に対し、事前に、その作成又は使用の目的及び方法その他の政令で定める事項を説明し、その同意を得なければならない。
(財産上の利益の供与の禁止)
第二十三条
何人も、ヒト胚又は人の属性を有する胚の授受の対価として財産上の利益を供与し、又はその供与を受けてはならない。
2 何人も、ヒト胚又は人の属性を有する胚を作成する場合において、人の配偶子等の授受の対価として財産上の利益を供与し、又はその供与を受けてはならない。
(提供者の個人情報の保護)
第二十四条
ヒト胚又は人の属性を有する胚を作成し、又は使用する者は、当該胚の作成に用いられた人の配偶子等又は胚の提供者の個人情報(個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することにより、特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)をいう。以下同じ。)の漏えいの防止その他の個人情報の適切な管理のために必要な措置を講じなければならない。
2 ヒト胚又は人の属性を有する胚を作成し、又は使用する者は、正当な理由がなく、当該胚の作成に用いられた人の配偶子等又は胚の提供者の個人情報を漏らしてはならない。
第五章 ヒト胚等の作成及び利用に関する審査委員会
(設置)
第二十五条
文部科学省に、ヒト胚等の作成及び利用に関する審査委員会(以下「審査委員会」という。)を置く。
(所掌事務)
第二十六条
審査委員会は、この法律の規定によりその権限に属させられた事項を処理する。
(組織)
第二十七条
審査委員会は、委員十一人をもって組織する。
2 委員は、非常勤とする。
(委員長)
第二十八条
審査委員会に、委員長を置き、委員の互選によって選任する。
2 委員長は、会務を総理し、審査委員会を代表する。
3 審査委員会は、あらかじめ、委員長に事故があるときにその職務を代理する委員を定めておかなければならない。
(委員の任命)
第二十九条
委員は、学識経験のある者のうちから、両議院の同意を得て、文部科学大臣が任命する。
2 委員の任期が満了し、又は欠員が生じた場合において、国会の閉会又は衆議院の解散のために両議院の同意を得ることができないときは、文部科学大臣は、前項の規定にかかわらず、委員を任命することができる。
3 前項の場合においては、任命後最初の国会で両議院の承認を得なければならない。この場合において、両議院の事後の承認が得られないときは、文部科学大臣は、直ちにその委員を罷免しなければならない。
(任期)
第三十条
委員の任期は、三年とする。ただし、補欠の委員の任期は、前任者の残任期間とする。
2 委員は、再任されることができる。
(委員の罷免)
第三十一条
文部科学大臣は、委員が心身の故障のため職務の遂行ができないと認める場合又は委員に職務上の義務違反その他委員たるに適しない非行があると認める場合においては、両議院の同意を得て、これを罷免することができる。
(委員の服務)
第三十二条
委員は、職務上知ることのできた秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後も同様とする。
(政令への委任)
第三十三条
この章に定めるもののほか、審査委員会の組織、運営その他審査委員会に関し必要な事項については、政令で定める。
第六章 雑則
(記録)
第三十四条
許可ヒト胚使用者は、文部科学省令で定めるところにより、その許可に係る余剰胚について、次に掲げる事項に関する記録を作成しなければならない。
一 使用した余剰胚の数及び入手の方法
二 使用した余剰胚を入手した日及び使用の期間
三 使用の経過
四 余剰胚の使用後の取扱いの経過
五 前各号に掲げるもののほか、文部科学省令で定める事項
2 人属性胚作成使用者は、文部科学省令で定めるところにより、その許可に係る人の属性を有する胚について、次に掲げる事項に関する記録を作成しなければならない。
一 作成した人の属性を有する胚の種類及び数又は使用した人の属性を有する胚の種類、数及び入手の方法
二 作成した日又は使用した人の属性を有する胚を入手した日及び使用の期間
三 作成又は使用の経過
四 人の属性を有する胚の作成後又は使用後の取扱いの経過
五 前各号に掲げるもののほか、文部科学省令で定める事項
3 第一項又は前項の記録は、文部科学省令で定めるところにより、保存しなければならない。
(譲渡等の届出)
第三十五条
許可ヒト胚使用者又は人属性胚作成使用者は、その許可に係る余剰胚又は人の属性を有する胚を譲り渡し、輸出し、滅失し、又は廃棄したときは、文部科学省令で定めるところにより、遅滞なく、次に掲げる事項を文部科学大臣に届け出なければならない。
一 氏名又は名称及び住所並びに法人にあっては、その代表者の氏名
二 譲り渡し、輸出し、滅失し、又は廃棄した胚の種類及び数
三 譲渡、輸出、滅失又は廃棄の期日及び滅失又は廃棄の場合にあっては、その態様
四 前三号に掲げるもののほか、文部科学省令で定める事項
(偶然の事由による人の属性を有する胚の生成の届出)
第三十六条
許可ヒト胚使用者又は人属性胚作成使用者は、偶然の事由によりその許可に係る余剰胚又は人の属性を有する胚から当該許可に係る胚以外の人の属性を有する胚が生じたときは、文部科学省令で定めるところにより、直ちに、次に掲げる事項を文部科学大臣に届け出なければならない。
一 氏名又は名称及び住所並びに法人にあっては、その代表者の氏名
二 生じた胚の種類及び数
三 生成の期日
四 前三号に掲げるもののほか、文部科学省令で定める事項
(作成又は使用の廃止の届出)
第三十七条
許可ヒト胚使用者又は人属性胚作成使用者は、その許可に係る作成又は使用を廃止したときは、遅滞なく、その旨を文部科学大臣に届け出なければならない。
2 前項の規定による届出があったときは、第五条第一項又は第十四条第一項の許可は、その効力を失う。
(許可の取消し、作成又は使用の廃止等に伴う措置)
第三十八条
次の各号のいずれかに該当する場合において、当該各号に掲げる者が余剰胚又は人の属性を有する胚(第三号に該当する場合にあっては、その偶然の事由により生じた胚に限る。)を所持しているときは、その者は、遅滞なく、その余剰胚又は人の属性を有する胚を譲り渡し、廃棄する等の措置を講じなければならない。
一 許可ヒト胚使用者が、第九条の規定によりその許可を取り消されたとき。
二 人属性胚作成使用者が、第十八条の規定によりその許可を取り消されたとき。
三 許可ヒト胚使用者又は人属性胚作成使用者が、第三十六条の規定による届出をしたとき。
四 許可ヒト胚使用者又は人属性胚作成使用者が、前条第一項の規定による届出をしたとき。
2 前項の規定によりヒト胚又は人の属性を有する胚を譲り渡し、廃棄する等の措置を講じなければならない者(以下「措置義務者」という。)は、文部科学省令で定めるところにより、当該措置を講ずる胚の種類及び数並びにその方法を文部科学大臣に届け出なければならない。
3 第十一条又は第二十条の規定は、措置義務者が第一項の規定によりヒト胚等を譲り渡し、廃棄する等の措置を講ずる場合について準用する。
4 文部科学大臣は、第二項の規定による届出に係る措置が適当でないと認めるときは、その変更をすべきことを命ずることができる。
(報告徴収)
第三十九条
文部科学大臣は、この法律の施行に必要な限度において、許可ヒト胚使用者若しくは人属性胚作成使用者又は措置義務者に対し、その許可に係る余剰胚若しくは人の属性を有する胚又は前条第一項に規定する措置を講ずる胚の取扱いの状況その他必要な事項について報告を求めることができる。
(立入検査)
第四十条
文部科学大臣は、この法律の施行に必要な限度において、その職員に、許可ヒト胚使用者、人属性胚作成使用者又は措置義務者の事務所又は研究施設に立ち入り、その者の書類その他必要な物件を検査させ、又は関係者に質問させることができる。
2 前項の規定により職員が事務所又は研究施設に立ち入るときは、その身分を示す証明書を携帯し、かつ、関係者の請求があるときは、これを提示しなければならない。
3 第一項の規定による権限は、犯罪捜査のために認められたものと解してはならない。
(国会への報告)
第四十一条
政府は、毎年、この法律の施行の状況を国会に報告しなければならない。
第七章 罰則
第四十二条
第十三条第一項の規定に違反した者は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
第四十三条
次の各号のいずれかに該当する者は、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
一 第四条第一項から第三項までの規定に違反した者
二 第八条第一項の規定に違反して第五条第二項第二号に掲げる事項を変更した者
三 第十四条第一項の許可を受けないで人の属性を有する胚を作成し、又は使用した者
四 第十七条第一項の規定に違反して第十四条第二項第二号又は第六号に掲げる事項を変更した者
第四十四条
次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
一 第四条第四項又は第五項の規定に違反した者
二 第十二条の規定による命令に違反した者
三 第十三条第二項又は第三項の規定に違反した者
四 第二十一条の規定による命令に違反した者
五 第二十二条第一項の規定に違反してヒト胚を作成し、又は使用した者
六 第二十二条第二項の規定に違反して人の属性を有する胚を作成し、又は使用した者
七 第二十三条の規定に違反した者
八 第二十四条第二項の規定に違反して個人情報を漏らした者
九 第三十二条の規定に違反して秘密を漏らした者
十 第三十八条第一項の規定に違反した者
十一 第三十八条第四項の規定による命令に違反して余剰胚又は人の属性を有する胚を譲り渡し、廃棄する等の措置を講じた者
第四十五条
次の各号のいずれかに該当する者は、五十万円以下の罰金に処する。
一 第八条第二項若しくは第三項又は第十七条第二項若しくは第三項の規定による届出をせず、又は虚偽の届出をした者
二 第三十四条第一項又は第二項の規定による記録を作成せず、又は虚偽の記録を作成した者
三 第三十四条第三項の規定に違反した者
四 第三十五条、第三十六条、第三十七条第一項又は第三十八条第二項の規定による届出をせず、又は虚偽の届出をした者
五 第三十九条の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をした者
六 第四十条第一項の規定による立入り若しくは検査を拒み、妨げ、若しくは忌避し、又は質問に対して陳述せず、若しくは虚偽の陳述をした者
第四十六条
法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、第四十二条から前条までの違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても、各本条の罰金刑を科する。
附 則
(施行期日)
第一条
この法律は、公布の日から起算して六月を経過した日から施行する。ただし、次の各号に掲げる規定は、当該各号に定める日から施行する。
一 第十条第三項、第十九条第三項及び附則第三条の規定 公布の日
二 第五条第二項、第七第二項、第十条第一項、第二項及び第四項、第十四条第二項、第十六条第二項、第十九条第一項、第二項及び第四項並びに第五章の規定 公布の日から起算して三月を超えない範囲内において政令で定める日
(生殖補助医療及び生殖補助医学研究におけるヒト胚の作成及び利用の規制についての検討等)
第二条
政府は、この法律の施行後三年以内に、総合科学技術会議における検討を踏まえ、生殖補助医療及び生殖補助医学研究におけるヒト胚の作成及び利用の規制について法制上の措置その他必要な措置を講ずるものとする。
2 政府は、前項に定めるものを除くほか、この法律の施行後三年以内に、この法律の施行の状況等を勘案し、ヒト胚等の作成及び利用の規制の在り方全般について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。
(経過措置)
第三条
第十条第三項及び第十九条第三項の規定の適用については、公布の日から内閣法の一部を改正する法律(平成十一年法律第八十八号)の施行の日の前日までの間は、これらの項中「文部科学大臣」とあるのは「内閣総理大臣」と、「総合科学技術会議」とあるのは「科学技術会議」とする。
第四条
この法律の施行の日前に第五条第二項の規定により余剰胚の使用に係る許可の申請を行った者は、当該申請について許可又は不許可の処分があるまでの間は、当該申請に係る余剰胚を使用することができる。
2
第四条第三項から第五項まで、第十一条、第十二条、第三十四条から第三十六条まで、第三十七条第一項、第三十八条第一項(第三号及び第四号に係る部分に限る。)及び第二項から第四項まで、第三十九条並びに第四十条の規定(これらの規定に係る罰則を含む。)の規定の適用については、前項の規定により余剰胚を使用する者は、許可ヒト胚使用者とみなす。
第五条
この法律の施行の日前に第十四条第二項の規定により人の属性を有する胚の作成又は使用に係る許可の申請を行った者は、当該申請について許可又は不許可の処分があるまでの間は、当該申請に係る人の属性を有する胚を作成し、又は使用することができる。
2
第十三条第二項及び第三項、第二十条、第二十一条、第三十四条から第三十六条まで、第三十七条第一項、第三十八条第一項(第三号及び第四号に係る部分に限る。)及び第二項から第四項まで、第三十九条並びに第四十条の規定(これらの規定に係る罰則を含む。)の適用については、前項の規定により人の属性を有する胚を作成し、又は使用する者は、人属性胚作成使用者とみなす。
第六条
この法律の施行の際現に余剰胚又は人の属性を有する胚を所持している者(当該余剰胚を生殖補助医学研究として使用する者又は附則第四条第一項若しくは前条第一項の規定の適用を受ける者を除く。)は、遅滞なく、その余剰胚又は人の属性を有する胚を譲り渡し、廃棄する等の措置を講じなければならない。
2 次の各号のいずれかに該当する場合において、当該各号に掲げる者が余剰胚又は人の属性を有する胚を所持しているときは、その者は、遅滞なく、その余剰胚又は人の属性を有する胚を譲り渡し、廃棄する等の措置を講じなければならない。
一 附則第四条第一項の規定により余剰胚を使用する者が、当該余剰胚の使用に係る許可の申請について不許可の処分を受けたとき。
二 前条第一項の規定により人の属性を有する胚を作成し、又は使用する者が、当該人の属性を有する胚の作成又は使用に係る許可の申請について不許可の処分を受けたとき。
3 第一項又は前項の規定により余剰胚又は人の属性を有する胚を譲り渡し、廃棄する等の措置を講じなければならない者については、その者を措置義務者とみなして、第三十八条第二項から第四項まで、第三十九条及び第四十条の規定(これらの規定に係る罰則を含む。)を適用する。
第七条
前条第一項又は第二項の規定に違反した者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
(特別職の職員の給与に関する法律の一部改正)
第八条
特別職の職員の給与に関する法律(昭和二十四年法律第二百五十二号)の一部を次のように改正する。
第一条第二十二号の次に次の一号を加える。
二十二の二 ヒト胚等の作成及び利用に関する審査委員会の委員
第九条
文部科学省設置法(平成十一年法律第九十六号)の一部を次のように改正する。
「第四款 ヒト胚等の作成及び利用に関する審査委員
目次中「第四款 放射線審議会(第十八条)」を
第五款 放射線審議会(第十八条)
会(第十七条の二)
に、「第五款 独立行政法人評価委員会」を「第六款 独立行政法人評価委員会」
」
に改める。
「ヒト胚等の作成及び利用に関する審査委員会
第六条第二項中「放射線審議会」を に改める。
放射線審議会 」
第三章第二節中第五款を第六款とし、第四款を第五款とし、第三款の次に次の一款を加える。
第四款 ヒト胚等の作成及び利用に関する審査委員会
第十七条の二 ヒト胚等の作成及び利用に関する審査委員会については、ヒト胚等の作成及び利用の規制に関する法律(平成十二年法律第 号。これに基づく命令を含む。)の定めるところによる。
(組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律の一部改正)
第十条 組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(平成十一年法律第百三十六号)の一部を次のように改正する。
別表に次の一号を加える。
六十一 ヒト胚等の作成及び利用の規制に関する法律(平成十二年法律第 号)第四十二条(人の属性を有する胚の人又は動物の胎内への移植)又は第四十四条第七号(ヒト胚等の授受に係る財産上の利益の供与)の罪
理 由
人の生命の萌芽であるヒト胚の人為による作成及び利用が人の尊厳の保持並びに人の生命及び身体の安全の確保に重大な影響を及ぼすおそれがあること並びに人の属性を有する胚が人の尊厳の保持並びに人の生命及び身体の安全の確保に重大な影響を及ぼす個体の人為による生成をもたらすおそれがあるものであることにかんがみ、人の尊厳の保持並びに人の生命及び身体の安全の確保を図るため、ヒト胚の作成及び利用について必要な規制を行うとともに、人の属性を有する胚の人又は動物の胎内への移植を禁止するほか、その作成及び利用について必要な規制を行う必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。
本案施行に要する経費
本案施行に要する経費としては、平年度約二千三百万円の見込みである。
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