「ヒト胚等の作成及び利用の規制に関する法律案」(仮称)骨子案
一 目的
この法律は、人の生命の萌芽であるヒト胚の人為による作成及び利用が人の尊厳の保持並びに人の生命及び身体の安全の確保に重大な影響を及ぼすおそれがあること並びに人為により作成された人の属性を有する胚が人の尊厳の保持並びに人の生命及び身体の安全の確保に重大な影響を及ぼす個体を生じさせるおそれがあることにかんがみ、ヒト胚の適正な取扱いを確保するために必要な規制を行うとともに、人の属性を有する胚の人又は動物の胎内への移植を禁止するほか、その適正な取扱いを確保するために必要な規制を行うことにより、人の尊厳の保持並びに人の生命及び身体の安全の確保を図ることを目的とするものとすること。
二 基本的理念
1. ヒト胚は、人の生命の萌芽であって、何人も、みだりにこれを作成し、又は利用してはならないものとすること。
2. ヒト胚を取り扱うに当たっては、いやしくも人の尊厳を冒すことがないよう特に誠実かつ慎重に行わなければならないものとすること。
3. 人の属性を有する胚の作成又は利用は、その胚からの個体の生成につながるものであってはならないものとすること。
三 ヒト胚の作成又は利用に係る規制
1. 何人も、ヒト胚を作成してはならないものとすること。ただし、医療提供施設において医業として行われる生殖補助(以下「生殖補助医療」という。)として作成する場合はこの限りでないものとすること。
2. 何人も、ヒト胚を利用してはならないものとすること。ただし、生殖補助医療として利用する場合及び生殖補助医療として作成されたヒト胚であって生殖補助に使用されないことが決定されたもの(以下「余剰胚」という。)を利用する場合は、この限りでないものとすること。
3. 余剰胚を利用しようとする者は、文部科学大臣の許可を受けなければならないものとすること。
4. 3の許可を受けようとする者は、文部科学省令の定めるところにより、一定の事項を記載した申請書を文部科学大臣に提出しなければならないものとすること。
5. 文部科学大臣は、3の許可の申請が次のいずれかに該当する場合であって、ヒト胚を利用することが当該研究にとって科学的な合理性及び必要性を有するものと認められ、かつ、七1のヒト胚等の取扱いに関する指針に適合する場合でなければ許可をしてはならないものとすること。
1.ヒト胚を利用する以外の方法では行うことのできない生殖医学研究であること。
2.ヒト胚性幹細胞を樹立するための研究であること。
6. 文部科学大臣は、3の許可をしようとする場合においては、あらかじめ、厚生労働大臣及び関係大臣並びに審査委員会の意見を聴かなければならないものとすること。
7. 文部科学大臣は、3の許可をした場合においては、これを公表するものとすること。
8. 何人も、ヒト胚を動物の胎内に移植してはならないものとすること。
(注) 「動物」については定義を置き、「人」と区別する。
四 人の属性を有する胚の作成又は利用に係る規制
(注)「人の属性を有する胚」とは、「・他の胚、胎児又は人と同じ遺伝情報総体をもつ胚、・人の配偶子と動物の配偶子を受精させることにより作成される胚、・人の細胞核を、脱核した動物の卵子に移植することにより作成される胚、・人の胚に、その胚と一体となって分裂成長することが可能な動物の細胞を結合させることにより作成される胚、・動物の細胞核を、脱核した人の卵子に移植することにより作成される胚、・動物の胚に、その胚と一体となって分裂成長することが可能な人の細胞を結合させることにより作成される胚、・人の胚に、その胚と一体となって分裂成長することが可能な人の細胞を結合させることにより作成される胚」をいう。
(「動物」については定義を置き、「人」と区別する。)
1. 人の属性を有する胚を作成し、又は利用しようとする者は、文部科学大臣の許可を受けなければならないものとすること。
2. 1の許可を受けようとする者は、文部科学省令の定めるところにより、次に掲げる事項を記載した申請書を文部科学大臣に提出しなければならないものとすること。
3. 文部科学大臣は、1の許可の申請が人の属性を有する胚を作成又は利用する以外の方法では行うことのできない研究であって、人の属性を有する胚を作成又は利用することが当該研究にとって科学的な合理性及び必要性を有するものと認められ、かつ、七1のヒト胚等の取扱いに関する指針に適合する場合でなければ許可をしてはならないものとすること。
4. 文部科学大臣は、1の許可をしようとする場合においては、あらかじめ、関係大臣及び審査委員会の意見を聴かなければならないものとすること。
5. 文部科学大臣は、1の許可をした場合においては、これを公表するものとすること。
五 人の属性を有する胚に係る禁止行為
何人も、人の属性を有する胚を人又は動物の胎内へ移植してはならないものとすること。
(注)「動物」については定義を置き、「人」と区別する。
六 ヒト胚、人の配偶子及び人の細胞の授受に係る規制
1. ヒト胚の提供を受けようとする者は、提供者に対し、事前に、研究目的、利用方法等を十分に説明し、提供者の自由な意思決定による同意を得なければならないものとすること。(人の属性を有する胚を作成する場合において、人の配偶子又は人の細胞の提供を受けようとする者についても同様)
2. 何人も、ヒト胚の授受の対価として財産上の利益を供与し、又は供与を受けてはならないものとすること。(人の属性を有する胚を作成する場合における人の配偶子又は人の細胞の授受についても同様)
3. ヒト胚の提供を受けた者は、当該提供者の個人情報の保護のため必要な措置を講じるとともに、正当な理由なく当該個人情報を漏らしてはならないものとすること。(人の属性を有する胚を作成する場合において、人の配偶子又は人の細胞の提供を受けた者についても同様)
七 ヒト胚等の取扱いに関する指針
1. 文部科学大臣は、ヒト胚等の取扱いに関する指針(以下「指針」という。)を定めるものとすること。
2. 文部科学大臣は、指針を定め、又はこれを変更しようとするときは、あらかじめ、総合科学技術会議の意見を聴かなければならないものとすること。
八 ヒト胚等の作成及び利用に関する審査委員会
1. 文部科学省に「ヒト胚等の作成及び利用に関する審査委員会」(以下「審査委員会」という。)を置くものとすること。
2. 審査委員会は、ヒト胚等の作成及び利用に関する事項について文部科学大臣の諮問に答申し、かつ、必要に応じ、文部科学大臣に意見を申し出ることができるものとすること。
3. 審査委員会は、学識経験のある者のうちから、両議院の同意を得て、文部科学大臣が任命する委員〇〇名をもって組織するものとすること。
九 監督(検討中)
1. 文部科学大臣は、三3の許可を受けた者又は四1の許可を受けた者のヒト胚等の取扱いが、文部科学大臣の定める実施基準に適合しないものと認めるときは、胚の取扱いの中止又はその方法の改善を命ずることができるものとすること。
2. 文部科学大臣は、1の命令に違反した者に対し、許可の取消を行うことができるものとすること。この場合においては、関係大臣の意見を聴かなければならないものとすること。
3. 文部科学大臣は、この法律の施行に必要な限度において、三3の許可を受けた者及び四1の許可を受けた者に対し、その許可に係るヒト胚等の取扱いの状況その他必要な事項について報告を求めることができるものとすること。
4. 文部科学大臣は、この法律の施行に必要な限度において、その職員に、三3の許可を受けた者及び四1の許可を受けた者の事務所若しくは研究施設に立ち入り、その者の書類その他必要な物件を検査させ、又は関係者に質問させることができるものとすること。
十 国会への報告
政府は、毎年、この法律に基づく事務の処理の状況を国会に報告しなければならないものとすること。
十一 罰則
1 10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金
・五(人の属性を有する胚の胎内移植)違反
2 年以下の懲役若しくは 万円以下の罰金
・三1(ヒト胚の作成)違反
・三2(余剰胚でないヒト胚の利用)違反
・三3(余剰胚の無許可利用)違反
・四1(人の属性を有する胚の無許可作成、利用)違反
3 年以下の懲役若しくは 万円以下の罰金
・三8(ヒト胚の動物の胎内への移植)違反
・六1(同意なくヒト胚又は人の配偶子の提供を受けること)違反
・六2(有償でのヒト胚又は人の配偶子授受)違反
・六3(ヒト胚又は人の配偶子の提供を受けた者の守秘義務)違反
・九1(中止命令、改善命令)違反
4 罰金のみ
・九3(報告義務)違反
・九4(立入検査受忍義務)違反
十二 見直し
政府は、この法律の施行後3年以内に、総合科学技術会議における検討を踏まえ、生殖補助医療におけるヒト胚の作成及び利用の規制についての法制上の措置その他の必要な措置を講ずるほか、ヒト胚等の作成及び利用の規制のありかた全般について必要な見直しを行うものとすること。
※ 必要な用語について、明確な定義規定を置く
|