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2002/05/28
「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の一部を改正する法律案」及び「裁判所法の一部を改正する法律案」及び「検察庁法の一部を改正する法律案」提案理由説明/衆議院議員 水島広子
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民主党 衆議院議員 水島広子

ただいま議題となりました「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の一部を改正する法律案」並びに「裁判所法の一部を改正する法律案」及び「検察庁法の一部を改正する法律案」の趣旨を説明いたします。
 昨年6月8日に大阪教育大学付属池田小学校で起こった児童殺傷事件は、思い出すだけでも胸が締め付けられるような、大変痛ましい事件です。この事件を精神障害によるものと早合点した小泉首相は、事件の翌日にはすでに「刑法の見直し」に言及し、日本の各地で精神障害者が様々な攻撃を受け、さらなる偏見にさらされる原因を作りました。
池田小学校の事件は、ふたを開けてみれば、心神喪失とは関係がなく、犯人は起訴されています。それなのに、政府は自らの誤解と偏見に満ちた決めつけを反省することもなく、さらにその勢いにのって短期間のうちに新たな法案まで作成してしまいました。
私たちは、池田小学校事件の直後から、政府の対応を見て、危機感を強めてまいりました。当事者、そして、当事者を支える人たちの努力の積み重ねによって、少しずつ社会がノーマライゼーションの方向に向かいつつあるときに、全ての努力をぶちこわしにしかねない政府の対応に強く抗議します。
また、いつまでたっても日本社会が精神障害者への差別意識を克服できないのは、精神医療の遅れを度々指摘されながら積極的に何も取り組んでこなかった行政の遅れが根本的な原因であるのに、あたかも精神障害者その人に責任があるかのような風潮を作り出したことにも、大きな憤りを感じます。

もちろん、私も、精神科医療の現場にいた者として、現状のままで良いと思っているわけではありません。特に、従来から指摘されているように、司法手続きにおける精神鑑定のあり方、中でも、起訴前の安易な鑑定が多いことは大きな問題です。今回の池田小学校事件の犯人が、過去に軽微な犯罪行為を繰り返していたときに、きちんとした精神鑑定を受けていたならば、その時点で何らかの刑事処分がなされることによって、今回のような重大な犯罪は防ぎ得たでしょう。また、現行の措置入院制度が必ずしもきちんと運用されていないこと、地域における精神保健福祉体制が不十分なため、精神科受診が困難であったり、通院治療を中断するケースが少なくないこと、刑事施設等における精神医学的治療・援助が不十分かつ不適切であること、司法関係者と精神医療関係者の相互の連携・協力が不十分であること、などが改善を必要とする問題点です。
政府案は、鑑定の問題にも全く触れていませんし、これらの要求にとうてい応えられないばかりか、精神障害者に対する差別や偏見を助長するものとして有害ですらあります。以上の認識に基づき、新たな立法をするのではなく、現行制度の改善という観点から対案を作成いたしました。
 以下、本法案の内容を簡単にご説明いたします。

第一に、起訴前・起訴後の精神鑑定の適正な実施を目的として、最高裁判所と最高検察庁に、それぞれ、「司法精神鑑定センター」を設置し、鑑定人の選定事務、個別の精神鑑定に係る情報または資料の調査研究及び分析等を行います。
これにより、鑑定人の選任に関して裁判官や検察官の負担を軽減することができると共に、鑑定精神科医の偏りや、鑑定結果のバラツキなどを防ぐことができると考えます。また、情報の収集や分析によって、より高度の精神鑑定技能を開発していく道を開くことも期待できます。

第二は、判定委員会の設置です。
 都道府県に判定委員会を置くものとし、精神保健指定医のうちから都道府県知事が任命する委員で構成します。委員2名の合議体で、措置の入退院、措置解除の判定を行い、委員の意見一致が条件になっております。

第三に、現行の措置診察が、極めて限られた情報の中で慌ただしく行われているという現状を踏まえ、精神保健福祉調査員を新設し、措置診察の必要性を判定するための調査、および、判定委員会の求めに応じた様々な調査を専門的な立場から行い、より厳格な措置入院の判定をサポートします。

第四に、人員配置基準の低い精神科の病棟では、人手の少なさゆえに十分な医療を施すことができないため、精神科集中治療センターを指定します。
これは、政府案にあるような、収容を目的としたものではなく、あくまでも、通過施設として位置づけられます。また政府案のように重大な犯罪行為の有無や、再犯のおそれを要件とするものでなく、あくまでも治療上の必要から手厚いマンパワーで医療を提供する精神科ICUです。

第五に、社会復帰支援体制の強化として、精神障害者の保健および福祉に関する業務を行う者の相互連携をはかります。政府案と異なり、この仕組みが機能すればするほど、地域の各職種の連携が密になり、措置退院患者以外の方たちにもプラスに作用するというのが民主党案の特徴です。
政府案では、保護観察所を軸にした通院継続の仕組みが他の精神障害者に恩恵をもたらすことはありません。

以上が、提案理由及び概要です。

 政府案にある「再犯のおそれ」の判定は、多くの専門家が指摘しているように、そもそも科学的に不可能です。そんな基準を根幹に据えた政府案は、日本の精神障害者施策の中で永遠の汚点となるでしょう。
私たちは、本改正案の他にも、精神保健福祉改善10カ年戦略を提案しており、ノーマライゼーションの実現に向けて全力で取り組んでおります。
精神障害は、どこにでも起こり得ます。自分の子ども、あるいは孫が精神障害を持っていたら、という想像力を働かせて、議員の皆さまが政府案に反対し本法案を成立させてくださることを心よりお願い申し上げ、趣旨の説明とさせていただきます。ありがとうございました。

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