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2002/05/28
「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律案」並びに「裁判所法の一部を改正する法律案及び検察庁法の一部を改正する法律案」並びに「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の一部を改正する法律案」に対する本会議質問
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衆議院議員 中村哲治

民主党・無所属クラブの中村哲治です。
 ただいま議題となりました4法案について、質問をさせていただきます。
具体的な質問に入ります前に、この4法案は、国民のこころの健康と深く関係しています。そこで、国民のこころと国家のあり方の関係をまず議論させていただきます。

 20世紀は、モノ・カネの世紀でした。明治以来の中央集権化、工業化、経済発展によって、私たち日本人は、豊かな生活を手に入れることができました。しかし、代わりに、何か大切なものを失ってしまったのではないでしょうか。
 私は、1971年、昭和46年生まれです。豊かな時代に育った世代だからこそ、いまの行き過ぎた物質文明の弊害を実感しています。
日本社会は、古く、私の出身地である奈良に都があった時から、自分たちとは違う異質な人や文化を受け容れて発展してきました。律令制も中国から受け容れた文化です。その豊かな精神性を、今、取り戻さなくてはならないのではないでしょうか。

国家は、国民のこころの健康を、最重要の課題としなくてはならない。21世紀を、こころの世紀にしなくてはならない。かつて、この演壇で、自由民主党の幹事長は「何としても21世紀は心を取り戻す世紀にしなければならない」とおっしゃいました。また、公明党の綱領には、人間主義が掲げられております。私たちだけでなく、与党の皆様も含めて、ここにいらっしゃる皆様の全てが、物質文明の限界を認識し、21世紀はこころの世紀にしなくてはならないとお感じになっているのではないでしょうか。

このたび議題となっております4法案についても、そういう認識の下で、きちんと議論する必要があります。
ここで改めて、皆さんに確認させていただきたいことがあります。一般的に、精神障害者は、犯罪を行いやすいと思われています。しかし、それは偏見です。実は、精神障害者の再犯率は、一般人よりも低いのです。例えば、殺人事件の再犯率は、一般人は28%です。それに比べて精神障害者は7%に過ぎません。つまり、精神障害者の再犯率は、一般人の四分の一以下なのです。改めて、このことを強く認識していただきたいわけでございます。

精神障害者は、日本社会から差別の目、偏見の目にさらされています。先日、私は、ハンセン病の患者・元患者の追悼式に参列させていただきました。そこで感じたことは、国家の政策により隔離された人たちの人生の重さでした。私たち国会議員は、差別や偏見に対して理性で闘わなくてはならない。安易に隔離政策をとることにより、らい予防法やエイズ予防法で犯した過ちを、再び繰り返してはなりません。誰だって、社会の中で生き生きと生きていきたいものです。

こころの健康を害するということは、議員の皆様にとっては、自分とは関係の無いことだとお考えになるかも知れません。しかし、複雑な現代社会においては、誰もがなり得ることです。精神医療を受けている方は全国で300万人、10家族に1人です。体の健康を害すると同じように、皆様すべてに可能性があることです。どうか、わが身の問題だと思って、審議をしてください。

 以下、具体的な質問をさせていただきます。
 政府案についてお伺いいたします。
 昨年6月の池田小学校事件の後、小泉総理は「再発防止にむけ、今回は法律の整備をきちんとしていきたい」とおっしゃっていました。政府の事前の説明によりますと、この政府案は、そもそも、法務省と厚生労働省で長年取り組んできた課題であり、直接には池田小学校事件とは関係がないとしています。しかし、マスコミの報道や一般国民には、池田小学校事件がきっかけだと認識されています。そのズレをどのように考えているのか、政府の見解を伺います。

私は、以下の2つの理由で、政府案では、池田小学校事件の再発防止にはならないと考えています。
第一に、池田小学校事件の被告人は、起訴前の本鑑定により、責任能力を認められています。心神喪失でも心神耗弱でもありません。つまり、判決後でも、心神喪失等を理由として無罪となる可能性は低く、その場合には、この政府案の対象にはならないのです。
第二に、池田小学校事件の被告人は、事件前に13回の逮捕歴がありました。しかし、政府案が対象とする重大な犯罪行為は行っていませんでした。つまり、今後、同様のケースがあったとしても、政府案では防げません。政府案により、池田小学校事件の再発が防げるとお考えになっているのか、法務大臣に伺います。

また、民主党対案は、なぜ、政府案と違い、現行制度の見直しなのか。池田小学校事件のケースもカバーできるのか。あわせて伺います。

私が、政府案で最大の問題だと考えるのが、「再び対象行為を行うおそれ」いわゆる「再犯のおそれ」の要件です。まず、そもそも、再び対象行為を行う予測ということが、現在の科学で可能なのかどうか。わが国の精神医学において最も歴史と権威をもつ「日本精神神経学会」が、5月11日に公式に、再犯の予測は不可能だと表明しています。再び対象行為を行うおそれの予測が科学的に可能であるという根拠を政府に伺います。

また、「おそれ」という要件はどの程度なのか、はっきりしません。もし、再犯のおそれ無しとして、再犯が起こってしまった場合、判断をした裁判官や精神科医は、社会的に批判を浴びかねません。つまり、再犯の可能性が全く無いと確信できなければ、再犯のおそれ無しと判断はしにくいでしょう。そうすると、ほとんどのケースにおいて、再犯のおそれがあると判断せざるを得なくなります。再犯のおそれが無いと判断する基準は何なのか、政府に伺います。

私が懸念するのは、このはっきりしない要件によって、結局、長期間の入院をさせられることになってしまうということです。10年、20年入院していた人は、社会性を失い、病院の外で生活できなくなります。実際、今、精神病院に入院している人の43%は、5年以上入院している人たちです。結局、一生退院できなくて、実質的な終身刑になってしまう。形を変えた「保安処分」になってしまう、そういう懸念があります。その点についての政府の見解を伺います。

 私は、二つのポイントがあると考えています。一つは、精神医療・精神福祉の問題。もう一つは、精神鑑定の問題です。

現在の精神病院の状況は劣悪です。おととし10月25日の厚生委員会において、山井和則議員の質問に対して、当時の津島厚生大臣がお認めになっています。自分がその立場になったら、精神的にも打撃を受けるだろうなと思います、という趣旨のことをおっしゃっています。このように、精神医療・精神福祉の現状は、非常に不十分です。例えば、精神障害者は、精神福祉が不十分なため、社会的入院を強いられています。精神病院の入院患者33万人のうち2割の人は、ほかに受け入れ先さえあれば、退院が可能なのです。
私は、こころの健康を害した国民をしっかりケアするのが近代国家の役割であり、そういうケアがきちんとできていることを前提として初めて、政府案を議論する余地もできてくるのではないかと考えます。精神医療・精神福祉は、近代国家・近代立憲主義国家としての最重要の課題であると考えますが、厚生労働大臣のお考えをお聞かせください。

また、提出者案では、精神科集中治療センター、いわゆる精神科ICUを創設することとしています。政府案の指定入院医療機関との違いをお聞きいたします。

次に、精神鑑定の問題です。池田小学校事件のケースでも、被告人が過去、数々の犯罪行為を行ったにもかかわらず、安易な簡易鑑定により起訴されませんでした。現行の精神鑑定制度に問題はないのか、政府の認識を伺うとともに、提出者には、対案にある「司法精神鑑定センター」の設置もあわせてご認識を伺います。

最後に、ここにいらっしゃる皆さんに改めてお願いいたします。
言うまでもなく、近代立憲国家にとって第一の使命は、国民一人ひとりの自由と人格の尊厳を守ること、つまり人権を守ることです。安全保障も民主主義も、究極的には、人権保障の手段と位置づけられます。

また、21世紀が国際化の時代であることは言うまでもありません。異質な文化を受け容れずして、国際社会は成り立ち得ません。日本社会は、異質なものを受け容れて発展してまいりました。しかし、物質文明に走ってしまった20世紀には、異質なものを排除するという政策をとり、様々な問題を引き起こしてしまいました。いま一度、日本社会に異質なものを受け容れる柔軟性を取り戻す必要があると私は考えます。

国民のこころの健康なくして、健全な国家の再生はあり得ません。繰り返しになりますが、立憲民主主義国家にとって、国民のこころの健康は、国家の最重要の課題にすべきことです。議員の皆様には、改めてこの問題が、21世紀の日本という国家の、新しい関係を築いていく、その問題となるというご認識いただいて、私の質問を終わります。ありがとうございました。

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