民主党・新緑風会 木俣佳丈
私は、民主党・新緑風会を代表して、ただいま議題となりました二法律案について、関係大臣に質問をいたします。
東京電力の原子力発電所におけるニ九件の事案をはじめとして、今回明らかとなった原子力発電所の点検・検査をめぐる一連のトラブル隠し、記録の改ざん、検査のごまかしなどの不正事案の発生は、立地地域の住民をはじめ国民の原子力に対する信頼を著しく失墜させ、我が国の原子力政策並びにエネルギー政策の根幹を揺るがす極めて深刻な事態を招いております。
ウラン燃料加工施設ジェー・シー・オーにおける臨界事故の発生など、一連の原子力事故の発生のみならず、平成7年のもんじゅ事故における事故情報の隠ぺい、平成十年の使用済燃料輸送容器のデータ改ざん問題、平成十一年のMOX燃料のデータ改ざん問題など、これまでも同種の不祥事が続いてきた中で、今回の問題が発生したことは極めて遺憾であり、国民の原子力事業者さらには国の原子力安全行政に対する信頼は、まさに地に落ちたと言っても過言ではありません。
そうした中で、民主党は、本年八月、京都議定書の第一約束期間の最終年をターゲットとした「エネルギー基本政策」を策定し、その中では、原子力の安全確保に関し、安全規制機能の強化・充実を図るため、いわゆる八条機関である現在の原子力安全委員会を改組して国の原子力安全規制部門を一体化し、独立性を確保した、国家行政組織法第3条に基づく「原子力安全規制委員会」を設置することを提唱しております。
民主党では、そのため、ジェー・シー・オーの臨界事故の発生を受けた二○○○年三月に続き、今国会にも「原子力安全規制委員会設置法案」を国会に提出し、政府に改革を迫ってまいりました。
「規制だけを行う組織を作ることは、原子力の推進にそぐわない」と後ろ向きに捉えられるきらいもありますが、例えば、米国のファインケミカルは、世界一厳しい規制の下で、これを克服していったからこそ、今日の世界に冠たる競争力を有する品質の高い産業へと発展することができたのであります。
同様に、原子力の分野でも、米国の原子力規制委員会(NRC)は、90年代以降、安全確保技術の革新と併せ規制緩和を進めたことで、電力自由化の下でさえ、米国の原子力発電の競争力を高め、産業を蘇らせました。一見、対立しているように見える安全規制と原子力の推進は、実は非常に密接に関係しているのであります。
折りしも、今般、青森県知事をはじめとして原子力立地自治体の関係者からも、原子力安全・保安院の経済産業省からの明確な分離・独立が強く求められております。政府は、こうした地元自治体からの要請にどのように応えていこうと考えておられるのか、また、我々が提案している「原子力安全規制委員会設置法案」に対する考え方を含め、今後の我が国の安全規制行政の在り方、在るべき姿について、所管大臣としてどのように考えられるか、平沼経済産業大臣及び細田科学技術担当大臣それぞれの率直な御見解をまず伺います。
次に、安全規制の在り方について、伺います。
去る十月二十八日、原子力安全委員会は、一九七八年の設置以来初めて、経済産業省に対し検査実施体制の抜本的見直し等を求める勧告を行いました。この勧告は、遅きに失したとの感も無きにしもあらずではありますが、その重みは重視されるべきであると考えます。
私は、原子力に係る事業者と安全規制当局の関係は、野球の選手と審判の関係に譬えられると思います。ある時には、審判がバッターとなったり、またある時には、アウト、セーフも分からないで選手の言うとおり判断していたのでは、チェックどころではないはずです。
よく言われるように、原子力においては、専門的な知見・能力の高さは、一にメーカー、二に電力会社、三、四はなくて五に規制当局と言われています。このような現状では、実効的な安全規制、検査の実施は、到底望むべくもありません。
今回の一連の不正問題の発生では、規制当局である原子力安全・保安院が、事業者の不正、不適切な対応を適時適切にチェックを行い、専門的知見をもって適正にこれを判定し指導することができなかった、換言すれば、プロとして持つべき資質に欠けているという実態が明らかになりました。
また、ルールの上でも、大変硬直的で、判断のつかないものが多かったようです。例えば、原子力発電所の設備について、「常に運転開始時と同じ状態を維持しながら運転している」という、素人が考えても常識的にあり得ない技術基準が存在し続けてきております。
こうした硬直的規制が、今回の不正事案の大きな要因となったことは明らかですが、原子力安全・保安院並びに原子力安全委員会においては、なぜもっと早く合理的な規制制度の検討を行えなかったのでしょうか。
さらに加えて、今回の一連の事案に関する原子力安全・保安院の評価では、ひび割れの兆候等について国に報告する方が「望ましい」旨の指摘がなされておりますが、「望ましい」とは、何をどうすればいいのか、事業者が、国に報告すべきなのか、報告しなくてよいのかが全く不明確でありました。
不合理で硬直的な規制とコスト度外視の総括原価主義の中では、規制当局の知見、能力は必要ありませんでした。簡単に言えば、全く何もやっていなかったと言えます。同時に、事業者は、安全確保技術と効率性の向上努力もする必要がなかったと考えますが、経済産業大臣は、どのように考えますか。
私は、科学的・技術的知見に基づいて、安全規制の革新とその合理化を行わない限り、今後の電力自由化の進展の下で、原子力発電の存続は非常に厳しいものと考えます。古い技術基準で規制をすることは、コスト的にも、安全確保技術の進歩という意味でも、その両面で弊害を生じさせます。
安全規制は、原子力発電を事業として行う上で、守られるべきルールであり、ただし、このルールは、あくまでも原子力発電の競争力という経営上の必須条件の上に成立しています。
規制当局としては、安全規制というルールの遵守について、客観的基準の下に、国民に対し説明責任を負う審判であり、最新の技術成果を採り入れて原子力安全の向上に向けて事業者を誘導するべく、高い技術的知見と自己責任性を持つ専門家集団たることが求められます。
また一方、事業者は、事業の効率化を図りつつ、安全規制のルールの下で、安全確保技術の更なる革新に向けて常に努力が求められるプレーヤーであります。その中で、原子力発電の競争力・事業性と安全技術の革新を整合させられない事業者は、原子力ビジネスの市場から退場させなければなりません。
原子力の安全規制について、規制の当局側と事業者側で、こうした厳しい緊張関係を築いてこそ、安全規制は真に国民の信頼を得られるものとなるのではないですか。
安全規制改革及び検査制度の見直しに関する今後の取組方針について、平沼経済産業大臣の明確な所見を伺います。
次に、原子力安全行政に対する国民の信頼を崩壊させた今回の不正問題に対する行政責任に関して伺います。
原子力安全・保安院の調査は、「今回の不正を具体的に、誰が、いつ、どのように指示したのか」、「事業の現場で、不正に反対する声は全くなかったのか」等々の国民の疑問に答えるものとはなっていません。さらに、原子力安全規制当局として、「こうした不正をなぜ見抜けなかったのか」、「見抜く機会はなかったのか」という分析も、また、その行政責任の有無も全く明らかではありません。
これらの疑問に対し、経済産業大臣はどのような所見をお持ちであるか、また、今後、事案の更なる徹底究明を行う考えがあるのかどうか、まず、経済産業大臣の御所見を伺います。
そもそも原子力は、国家としての安全保障という側面を有しております。しかし、我が国では、そうした原子力について国家として責任を持った戦略は存在しません。そうした中で、事業者は、国策としての原子力の推進を執行している立場でありますが、その一方で執行において生じた問題はすべて事業者の責任とすることには、かなり無理があるのではないでしょうか。
思うに、原子力施設は、これまで自衛隊と同様に、国民にその意義や重要性を十分に理解されない存在であり、ある意味では迷惑施設として取り扱われてきました。
そうした中で、事業者においては、我が国のエネルギー問題の解決という国家的使命を担っていることを自負しつつ、その多くの職員は、我が国のため、国民のために、立地対策、原子力広報などのつらい仕事、地味な仕事に汗を流してきたことは忘れてはなりません。
続いて、今後の原子力政策に関連して何点か伺います。
我々民主党としては、先の「エネルギー基本政策」において、原子力発電について、安全確保を最優先とした上で、京都議定書の国際公約達成のために重要なエネルギー供給源であり、代替エネルギーの開発・実用化までの橋渡しの役目を担うエネルギーと位置付けておりますが、今こそ国が、国家としてのエネルギー政策の見地から、原子力に対する国民の理解に向けて、その責任を果たすべき時ではないでしょうか。
我々国会議員もまた、国会の場において我が国としての原子力政策をはじめとしてエネルギー政策の在り方について大いに議論していく必要があると考えますが、この点で、政府の責任者としての経済産業大臣の御決意を伺います。
昨年7月に策定された政府の長期エネルギー需給見通しでは、京都議定書の目標達成に向けて、今後の原子力発電所の増設がなければ、二酸化炭素排出量は更に2千万t-C増加して4千万t-Cの超過することが示されておりますが、このように、原子力発電は、実質的に、我が国の地球温暖化対策の約半分のウエイトを占めております。
今後、原子力立地の更なる困難化が見込まれる中で、京都議定書の国際公約を達成するため、我が国の長期エネルギー需給見通し、さらには政府の地球温暖化対策推進大綱について、その見直しを経済産業大臣は考えておられるのでしょうか。
加えて、今回の不正問題の発生等により、現在、運転停止中の原子力発電所は東京電力だけでも9基に上っています。これにより、冬場、夏場の需要期における電力供給に不安を生じる恐れのあることが伝えられておりますが、国として具体的に今後の原子力発電所の運転再開の条件、見通しについてどのように考えておられるのか、経済産業大臣の見解を求めます。
また、政府は、原子力発電所で発生する使用済燃料を再処理し回収されるプルトニウムを再び燃料として利用するという核燃料サイクル政策を基本政策としています。当面のプルトニウムの最も確実な利用方法である軽水炉でのプルトニウム利用、すなわちプルサーマルについては、二○一○年度までに累計で一六基から十八基の原子力発電所で実施することが計画されておりますが、今回の不正問題の発生により、プルサーマル計画の実施は更に困難な状況に立ち至っています。
核燃料サイクルについては、その経済性の面からも問題点が指摘されており、プルサーマル計画も実施が見込めない現状では、使用済燃料の再処理政策を見直し、当面、中間貯蔵の拡大を図っていくことも一つの選択肢であると考えますが、経済産業大臣の所見はいかがでしょうか。
他方、政府は、これまで原子力発電のコストについて、kwh(キロワットアワー)当たり5.9円とし、例えば石油火力の10.2円など他の電源と比較して最も経済性があるとの試算を公表しています。しかし、この試算自体について、バックエンド費用等が過少に見積もられているという指摘があるほかに、今後の電力自由化の進展の中で、原子力事業者自身からも、原子力発電は初期投資が非常に大きいこと、バックエンド事業が超長期にわたることなどにより、電力自由化と原子力発電の推進の両立策を求める見解も示されています。
そこで、政府として、原子力発電の経済性をどのように考えているのか、また、今後の電力自由化の取組の中で原子力発電推進のため新たな支援策を検討していく考えがあるのか、経済産業大臣の答弁を求めます。
約2年前に情報提供がなされていたにもかかわらず、今日まで対応が遅れた原子力安全行政、八○年代後半以降長年にわたり不正の事実を見逃してきた原子力安全行政に対する国民の不信と怒りは今や頂点に達しております。
今回の法律案については、衆議院において、我が党の主張もあり、内部告発を受け、調査する機関に、原子力安全委員会を加えるなど、ダブルチェック体制の強化を図った修正が行われており、一定の評価に値するものと考えますが、今求められておりますのは、小手先の制度見直しのみでなく、国民が信頼するに足る原子力安全行政の確立に向けた政府の強い意志と抜本的な改革の実行であります。
これまでのような、おざなりの反省やその場しのぎの制度見直しでは原子力に対する国民の信頼・安心は決して回復できないということを、この際、政府はしっかりと肝に銘じるべきであると考えます。
最後に、国家の危機管理を、つまり国の平安のリスクを考えることは、国民の平和と安全を考えることであり、それこそが真の「リーダー」を要請し、鍛えることとなります。すなわち、危機管理は国の礎の人材を養成するのであり、その意味で、今回の事案発生に見られるように、他者依存で通した戦後の我が国の環境は、本物のリーダーが出現することを阻んだのではないかと思われます。
次の総理と言われている平沼大臣におかれては、今後の我が国のエネルギー政策の方向性を明示して、改革への強いリーダーシップを発揮されますことを強く希望いたしまして、私の質問を終わります。
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