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2002/11/15
「知的財産基本法案」に対する本会議質問
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民主党・新緑風会  簗瀬 進

 私は、民主党・新緑風会を代表して、知的財産基本法案について質問させていただきます。以下、知的財産を知財と略すこともありますのでお許しいただきたいと思います。
 民主党は、一九九九年の六月に知的財産権戦略プロジェクトチームを立ち上げ、ほぼ一年掛けて多くの識者のヒアリングを行い、「はばたけ 知的冒険者たち」という知的財産権の総合的な戦略をまとめ、二〇〇〇年の六月に発表いたしました。様々な提案をいたしておりますけれども、既にその中に、知財基本法そして知財戦略本部の設置についての提案はしっかりと明言されているということをこの席で確認をさせていただきたいと思います。
 私自身も、プロジェクトの責任者として知財戦略の重要性を本院でも再三訴えてまいりました。三年前、当時の小渕総理にカミオカンデについての質問をいたしました。そして、その研究者の小柴先生が、御案内のとおり、今年、ノーベル物理学賞を受賞いたしました。その年にこうして知財基本法案が提出されたのでありますから、私にとっても大変感慨深いものを感じます。
 本来なら、もろ手を挙げて喜びたいところですが、どうもそうはまいりません。なぜなら、今回も与党お得意の小出し先送り、そして各省の縦割りの中で、国家戦略という看板があっという間に泥まみれにされ、簡単に葬り去られてしまいそうで心配でならないからであります。
 私は、二十一世紀の日本の幸せは、正に我が国の知的創造力を高めていく以外にないと確信をいたしております。知的創造革命こそ、情報革命と車の両輪になって我が国の未来を切り開く正に国家戦略でなければなりません。そんな観点に立ちながら質問させていただきます。
 まず第一は、国家戦略とは何かということであります。
 知財戦略本部の置かれる内閣府の責任者、福田官房長官に質問をさせていただきたいと思いますが、確かに小泉総理は、今国会冒頭の所信表明演説で、このことについて国家戦略であるということを明言をいたしました。しかし、議事録ではたった一行であります。後にも先にもこれだけ。私は、この演説を聞いて正直大変がっかりいたしました。知財の持つ重要性の認識が総理には全く欠けているのではないか。また、実に手軽に国家戦略という言葉を使っている。これでは国家戦略が泣くというものであります。
 昨日、日経平均株価、八千三百三円三十九銭。バブル崩壊後、最安値を更新し続けております。BIS規制は八%というこういう基準を置いている。八%の逆数は一二・五%であります。すなわち、銀行にとって株価発行総額が一億円減れば、それの十二・五倍、十二億五千万円の債務を貸しはがしをしなければならない。正に、株価が下がるということは大変な貸しはがし、信用収縮をこの国に招来をしているということについての認識を私たちはしっかりと持たなければなりません。
 小泉改革は、基本的には後ろ向きの改革であります。今までの日本のツケを直す改革でしかない。未来への展望がない。未来へのビジョンがない。正に、そこに大変大きな国民は不安を感じているわけであります。国民が自信を失い、将来への大きな不安を持っている。そんなときに語られる未来像こそ国家戦略でなければならない。国民一人一人に必死で呼び掛け、政治、経済、行政を統合しながら、国家国民の力をすべて投入して取り組む、そんな大きなテーマこそ国家戦略でなければならないのです。
 そこで、知財戦略を国家戦略と断言した総理の真意、やる気を官房長官から御説明願いたいと思います。
 第二の質問は、この法案の言う知的財産権の概念は何かということであります。法案は、まず、人間の創造的活動により生み出される情報なら、事業活動に有用な限り、すべて知的財産であると規定しました。そしてその上で、特許権や著作権を始めとする法律によって定められた権利をすべて知的財産権であると規定してあります。
 言うまでもなく、コンピューターのすさまじい発展は二十一世紀を無限に続く技術革新の時代にしてしまいました。こうした中で、従来の特許権あるいは著作権等の個別的な範疇ではとらえ切れないような新たな科学、技術、これが続々と誕生しています。
 例えば、金融ビジネスモデル特許のように、著作権と特許権の双方にまたがる問題が出ている。あるいは、ポストゲノム、これは遺伝子の解析技術と応用技術が絡み合っているわけでありますから、発見と発明の境界がはっきりとしなくなっている例であります。今までの個別概念では捕捉できなくなっている。そして、従来の権利概念を前提にした法的な保護あるいは活用も不十分となる。こんな事態を踏まえて、この法案は、人間の創造的活動の成果物を知的財産といたしました。この点は確かに前進かもしれません。
 しかし、よくよく見ると、権利としての知的財産権は、個別法で既に付与された権利を集めただけでしかない。言わば、従来の特許権とか著作権とか、その中身を全く変えず、審査体制もそのままで、知的財産権という大ぶろしきで包んで一くくりにしただけであります。これでは余り意味がないんじゃないのか。
 第一に、知的財産権の権利としての具体的な中身は一体何なのか。また、第二に、特許権や著作権などの個別の権利の統合を考える必要があるのではないのか。この二点について、経済産業大臣の明瞭な答弁を求めます。
 第三の質問は、知財戦略の推進体制の脆弱さであります。
 今指摘したように、法案は、知的財産という人類の創造活動のすべてを網羅するような大変巨大な間口を与えました。また、法案の列挙している十一の基本的施策の実施主体も、経済産業省はもちろんのこと、文部科学省、大学、農水省、厚生労働省、法務省、外務省、財務省、そして裁判所など、実に広範であります。しかし、戦略の推進体制が実にひ弱なのは極めて問題であります。
 すなわち、この法案は、知財戦略の推進機関として、内閣に知的財産戦略本部を置くといたしております。そして、その本部長は内閣総理大臣、本部員は国務大臣と総理任命の有識者、そしてその事務は内閣官房が処理するとしております。確かに権威はあるかもしれない、しかし頭でっかちですよ。そして、その所管事項の巨大さと比較すれば、その事務処理能力たるや余りにも貧弱であります。正に、張り子のトラか吹き流しのコイのような非力な存在でしかない。恐らく、特許は特許庁、著作権は文化庁、種苗は農水省、新薬は厚生労働省といった昔ながらの割拠主義、その実態を変えることは不可能なのではないのか。
 先ほど触れた民主党の「はばたけ 知的冒険者たち」では、知財戦略本部を置くと同時に、そこが決定した大方針を実施する具体的なセクションとして、知財庁という独自の官庁を置くことを提案し、各省に散在している個別知的財産権の審査や管理、それらの関連行政、あるいは今後の企画等を一元化するといった、そういう力強い機構改革を提案いたしております。
 そこで、以下の三点について、経済産業大臣の御所見をお伺いしたい。
 まず第一に、戦略の強力な推進体制を作るためには、法案の戦略本部のみでは大変不十分であると考えるが、どうでありましょうか。また、民主党提案のような豊富なスタッフと強い調整機能を持った知財庁を新設する必要があると考えるが、どうでありましょうか。第三に、特許審査期間の速やかな迅速化が必要であります。資本の少ないベンチャー企業にとっては、審査の遅れは直ちに企業の生き死ににかかわってくる。一刻も早い審査体制の整備が必要。現状を見ると、特許の審査請求から回答までの平均期間、日本が二十二か月、アメリカは十四か月です。日本の審査官はたった千九十六人、これに対してアメリカは三千百六十五人と三倍。早急に審査官の数を増強する等、審査体制の強化を図る必要があると考えますが、以上三点について、経済産業大臣の積極的な答弁をいただきたいと思います。
 第四の質問は、知財のための教育戦略であります。
 私は、知財戦略の中で最も力を入れなければならないのは、我が国の知的創造力の徹底的な強化だと思います。知的創造革命こそ二十一世紀の日本が取り組むべき国家目標であると思います。
 そして、知的創造力の源は、正に子供たちの知的創造力であります。最近行われた調査によれば、子供たちの数学、理科の成績は依然、世界的に見ても上位ではありますけれども、急速に、理科が嫌い、数学が嫌いという子供たちが増えている。正に暗記中心になって、子供たちは本当に考える力を失おうとしているのではないのか。正に知的創造力、その活力は子供たち、低下しているのではないのかなということを心配します。
 この際、子供たちの知的創造力を徹底して高め、やがてこれを高等教育機関につなげていくといった、知的創造力活性化あるいは強化の一貫したサイクルを教育の中にしっかりと確立すべきではないかと考えますが、文部科学大臣の御所見を伺いたいと思います。
 さて、先日、ヒトゲノム研究の第一人者、東京大学の生命研究所の所長、新井賢一さんのお話をお伺いいたしました。彼が最も憂えていたのは、知的創造力をむしばむ日本の大学の研究体制であります。
 彼は、日本とアメリカの研究体制を比較して、アメリカは水平的で任期を持った個人独立型、日本は垂直的で終身雇用の階層型、このように指摘しております。そして、このような日本の縦型システムの中では、予算を教授が握る、その中から助教授が分配を受ける、さらに助手が分配を待つ、こんな垂直関係が生まれてしまう。これでは、自由で独立心旺盛な若い研究者はどんどん海外に逃亡します。我が国のこの大学の研究体制、この厳しい批判にこたえて、遠山文部大臣、どんな改革の方向を打ち出されるか、私どもは期待しております。
 日本では教授になるまで二十年掛かる。アメリカでは博士号を取った研究者、いわゆるポスドクと言われている人たちは数年で独立できると言われています。いかに大学に大量の予算をつぎ込んでも、このような上命下服の研究体制では知的創造の活力は大学からは生まれてきません。この新井さんの指摘を真剣に受け止めて、大学の研究体制の改革に是非とも尽力をいたしていただきたい。文部科学大臣の御所見を伺いたいと思います。
 第五、知財のための司法戦略について質問いたします。
 特許権や著作権をめぐる争いは急激に増えていますが、我が国の知財関係の法曹人口の少なさ、審理期間の長さ、損害賠償の認定額の低さ、もろもろの要因が重なって、日本の裁判所の係属件数は年々減少傾向にある。
 そこで、まず、特許権の場合、我が国の紛争処理は二元体制になっているんです。特許の有効性についての特許審判、そしてそれを前提にした上での損害賠償、それは裁判所、特許審判は行政庁。こういうふうな二元的な処理がなされている。これは大陸法系の伝統であるかもしれませんけれども、その結果、紛争解決をいたずらに長引かせているということになったら、正に本末転倒じゃありませんか。この際、私は双方を一元化した方がよいと考えますが、法務大臣のお考えを聞かせていただきたいと思います。
 また、知財専門弁護士の数を日米比較してみると、日本は二百七十一人、アメリカは一万六千人。アメリカは日本の約五十倍あります。また、理科系出身者がこの二百七十一人の中でたった二十七人。専門的知識を持った法曹の比較ということでは、正にアメリカと日本の差は五百倍ということになってしまう。これではとても勝負になりません。
 最近、弁理士法の改正が行われ、不完全ながら弁理士にも訴訟代理権の一部が認められましたが、焼け石に水の感があります。知財専門弁護士の急速な養成、弁理士の更なる活用、知財専門家の早急な増強が求められておりますが、これについて、法務大臣の考えをお聞かせいただきたい。
 そして、知財のための外交戦略、最後に聞かせていただきたいと思います。
 知財については、その開発状況が世界の他国に先行しますと、必ずグローバルスタンダードに恵まれる、そういうリーダーシップを取る機会に恵まれることになります。そういう意味では、知財はこれからの外交上欠かせない重要な戦略テーマであります。しかし、これまでの我が国は、グローバルチャンス確立の主導権を握るチャンスに大変恵まれておりながら、それを生かし切っていないのが実情であります。
 例えば、イネゲノムのコンピューター解析では、実は日本は世界に先行して、その結果得られたゲノム地図をホームページで全世界に公開しました。世界の共有財産にするといったある意味でのグローバルスタンダードを作ったのは実は日本であります。正に先進的なリーダーシップをこの点で取るチャンスに恵まれていながら、現実にはどうなったかといえば、このことについていち早くアピールしたのは実はクリントンとブレアの二人でありました。正に彼らによって、この部分についてのグローバルスタンダードは、日本発でありながら、英米が作った形になってしまった。こういうことは非常に残念であります。
 正に、これからは外交戦略の中心に我が国の知財における国際的なリーダーシップを確立するということ、それを大きな柱として位置付けるべきであると考えるが、どうか。外務大臣の御所見を伺いたい。
 また、コンピューターはコピー可能性を飛躍的に高めました。精度の高い模倣品を作ることを簡単にできるようにしてしまった。そこから模倣品、海賊版、こういう対策が大変重要性を持ってくることになっております。この問題に迅速な対応ができるよう、我が国の在外公館の体制を早急に作り上げるべきだと考えますが、外務大臣の御所見を伺いたいと思います。
 知的創造力を正に革命的に飛躍させることによって、皆さんとともに二十一世紀のすばらしい未来を切り開いていきたい。我々は、与野党を超えてそのために全力を挙げるべきだと思っております。
 御清聴ありがとうございました。

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