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2000/07/11
市民が主役の司法へ〜新・民主主義確立の時代の司法改革
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民主党・司法ネクスト大臣 江田 五月


1 はじめに――理念と目標


(1) 今、司法制度改革審議会の精力的な活動を軸に、新しい時代の司法に向けた改   革の努力が進んでいる。
    訴訟事件の数の増加や質の変化が著しいのに、裁判所がこれに適応できていな   い。そのため審理に時間がかかるなど、きびしい国際競争に直面した経済界の要   請に応えられない。また国民にとっても、司法の敷居が高く、司法サービスが縁   の遠いものになっている。このように、改革すべき課題は山積している。
    私たち民主党は、これらの現実的課題の解決にも取り組む。しかし解決の実効   を上げるためにも、目に見える現象的なことだけでなく、もっと根本にさかのぼ   って、今回の司法改革の理念と目標は何かを問うところから、改革努力を始める   ことが必要である。

(2) わが国は戦後、体制を一新して「民主主義」のもとに再出発した。以来半世紀   を経て、これをさらに発展させ、その可能性を大きく開花させるため、「新・民   主主義」を確立する時代が到来している。今回の司法改革は、この「新・民主主   義」時代の司法、すなわち「市民が主役の司法」の実現が、その理念と目標でな   ければならない。

(3) わが国の憲法は、基本原理である民主主義の具体的内容として、国民主権、基   本的人権の尊重とともに、三権分立を掲げ、国家の権能の一つとして、独立した   司法を設けた。そのうえで、行政裁判所により行政統制を行政部内で完結させる   制度をとることことを禁止し、司法による行政チェックの機能を裁判所に付与し   た。これは、行政に対する司法の優位、すなわち「法の支配」の原理を採用した   ものである。
    しかしわが国の現実は、行政の肥大化と司法消極主義とが相まって、「法の支   配」の理念が うまく機能せず、むしろ現実は行政優位となっている。
    また、立法に対する司法の優位の原理を採用し、違憲立法審査権を司法に付与   したが、これもうまく機能しているとは言い難い。

(4) 司法による行政や立法のチェックが充分に機能しない理由は、第一に司法が民   主主義の基盤を欠いており(憲法上の制度的保障として最高裁判所裁判官に対す   る国民審査制度があるが、機能していない。)、その結果、裁判所が行政や立法   への介入について自ら消極的姿勢をとってきたこと、第二に、諸外国に比べて裁   判所の容量が小さく、また法曹人口も極めて少なく、「小さな司法」であったこ   とが考えられる。
    以上の制度的要因のほかに、より根本的な原因として、国民の意識改革の不十   分さがある。すなわち、現実の場面では、長く続いた制度や慣行の改革は不十分   で、国民の中にある明治以来の「お上」意識が十分に払拭できていないことであ   る。司法においても、その制度を国民が自ら担うという意識を十分確立できてい   ない。
    21世紀を目前にして、今般の司法改革の中心的課題は、明治以来の行政優位   の国のかたちに対し、国民に基盤を有する身近かで充実した司法を創出し、その   司法制度のもと、公平で、公正な法のルールが行き渡り、国民の人権が保障さ    れ、すべての国民が安心して暮らせる社会を作り出すことにある。

(5) 改革の基盤は整いつつある。まず、行政優位のしくみは制度疲労を起こし、老   朽化して閉塞状況に立ち至り、司法もその例外ではない。このことは、例えば金   融失政の司法的解決につき、実効的手段がなかったことなど、多くの実例で国民   の共通認識となっており、他の改革と併せて、司法改革も不可避であることが、   国内はもとより国際的にも指摘されている。
    さらにこの10年、世界の政治の大変化と一党政治の終焉を経験し、多くの国   民が、閉塞状況から脱却し、新たな「国のかたち」に思いを馳せ、そこに国民自   らが参加する意識と意欲を確実に増大させつつある。
    今こそ、市民が主役の司法への転換期であり、状況は整いつつある。私たち民   主党は、多くの国民と共に新たな司法制度を創出するため、その方向性を提案    し、その早期の実現のため全力を尽くす。


2 「身近で充実した司法」へ

(1) 現憲法では、司法制度も国民主権の下におかれる。その点で、旧憲法時の天皇   の下におかれた司法制度から、理念的には大改革が図られた。しかし、その理念   の大改革が実際に制度改革として現れたのは、最高裁判所裁判官の国民審査と、   裁判官の指名、任命方法と弾劾裁判制度のみであり、これらはいずれも現実に   は,名目的なものに過ぎず、威力を発揮する機会は極めて例外的にしか想定できな  い。

(2) 裁判官の任命は、司法官僚制度(キャリアシステム)が旧憲法時代から継続   し、在朝、在野の法曹の接点は、司法修習生の採用と研修の場面にしか存在しな   い。在野法曹も、弁護士自治が与えられ、その役割は目覚ましいものがあるが、国  民から見ると、その数は少なく執務体制も不透明のため、国民には敷居の高いも   のとなり、総じて国民主権の下での司法と言い難い状況となっている。

(3) 「市民が主役の司法」を理念に掲げる司法改革の具体的処方箋の第一は、その   質もさることながら、容量の点で貧弱な現状を改めるところから始まる。
    質の改革はもとより重要である。しかし、質のみならず量的にも、飛躍的に拡   大された機能を担うことが求められているこれからの司法にとって、まず司法に   携わる者の数自体の飛躍的拡大をやり抜く道筋が示されなければ、司法改革に説   得力が伴うことにならない。
    量的拡大により、何よりもまず「身近で充実した司法」実現の基盤が整う。そ   の先には、事件量の増大により、裁判所の規模拡大も不可避となる。

(4) わが国の法曹人口は、裁判官、検察官、弁護士を合わせても、今日わずか約    21,000である。小さな司法を脱却し、21世紀の激動の時代に紛争の予防と解決   を司法が担っていくには、この容量では到底不可能である。
    早急に制度改革を推し進め、10年後には、少なくとも法曹人口5万人を実現す   る。その段階で、そこまでの成果を検証し、濫訴型社会の弊害の防止と国民の権   利擁護に必要な法曹人口の供給という二つの課題を適正に実現するための、新た   な制度設計を行う。そして将来は、現在の法曹人口のほぼ5倍程度に当たる10万   人体制を目指す。
    10年後に5万人という目標は、諸外国に比して決して大きいとは言えないが、法   曹の質の確保も考慮すれば、この程度が現実に可能な政策となる。

(5) さらにこの10年の改革の間に、知的財産権、税務、登記、会計等の分野におけ   る専門隣接職種の資格制度、業務分野等を含めてその検討を行い、国際的に通用   し、世界に誇り得る充実した力強い司法を実現するための制度設計を行う。


3 官僚司法から市民の司法へ――法曹一元

(1) 現在ほとんどの裁判官は、司法試験合格後、二年間(今後は一年半)の研修を   経て直ちに判事補に任官し、10年間の経験を経て判事に任官する。人を裁く裁判   官として、法律実務的にも人生経験の面でも、この程度の経験では充分とはいえ   ないことは明らかである。そのうえ、特例法により、判事補5年の経験で判事と   同じ職権が与えられ、単独で法廷を任される。仮に22才で司法試験合格した場   合、24才で判事補任官、29才で単独で法廷を主宰し、判決を言い渡すことに   なる。しかも、最高裁は判事補に若手を採用し、「特例」は「常態」となってい   る。これは世界的にも極めて例外的な制度である。
    しかも、その多くの裁判官は、中央集権的司法行政の下で、全国各地を2〜3年   の期間で転勤し、その間赴任した地域において市民と接する機会は極めて乏し    い。任地の決定や人事考課が最高裁事務総局において、非公開で中央集権的に行   われることが、法と良心のみに基づくべき裁判官の司法判断に影響を与える可能   性が指摘されている。司法行政の中央集権化は、裁判官会議の形骸化と裁判官の   官僚化をもたらし、最高裁判所の判例統一機能と相まって、裁判官の司法判断を   市民の感覚と遊離し硬直したものとさせている。常に上を向いた「ひらめ裁判    官」との揶揄も、見当違いではない。

(2) しかし、「市民が主役の司法」を実現するには、裁判所が市民生活に密着した   存在にならなければならない。そのための提案が、「法曹一元」の実現である。
    「法曹一元」制度は、その地域の市民生活に直接関わり、市民の中で業務に携   わり、市民生活に密着した経験を持った法律家の中から、厳しい推薦過程を経て   裁判官が選ばれていく制度である。
    こうして選ばれた裁判官が多数となることによって、社会の隅々の生活の現場   で発生する様々な紛争について、具体的事案に即した市民感覚豊かな柔軟な判断   による解決が導かれる。
    なお、「法曹一元」という用語は、国民にはなじみが薄い。民主党がめざす裁   判官選任制度は、別の表現をすれば、「市民による推薦・選任制度」であるが、   これも分かりやすい表現とは言えない。「法曹一元」は、法曹界では歴史的に定   着した用語なので、国民に馴染んでいただくため、「法曹一元」を使用する。

(3) 具体的には、全ての裁判官は、弁護士、検察官等の法曹経験を10年以上持った   者の中から、その地域の市民も加わった裁判官推薦システムを経て選ばれる制度   とする。地域としては、例えば高等裁判所管内を一地域とすることが考えられ    る。党派的な偏りの排除やジェンダーバランスの確保もこの過程で図られる。
    また、下級裁判所の司法行政は、地方分権とし、転勤も全国規模でなく、ある   地域から選ばれた裁判官をその地域で移動させるものとし、例えば地裁判事、高   裁判事といった一定の職の任期中は、報酬も一律として人事考課から解放し、自   らの良心のみによって判断が下せる制度とする。その反面、不適格者を排除する   ために、選任過程は厳格に行うほか、日常の職務内容を詳細に公開する制度や、   裁判官弾劾制度も充実させる。

(4) 法曹一元制度を導入し、国民から信頼される裁判官を適切に選任して行くため   には、法曹人口の飛躍的増加が必要である。そこで、まず早急に年間3000人   規模の法曹養成を実現し、さらに段階的にこれを拡大する。そのため、司法試験   制度のあり方を含めた法曹養成制度の抜本的な見直しを行う。そして、養成過程   に理論教育だけでなく、一定の実務や倫理教育を組み込むなど、市民の目線をも   った、良質の法律実務家が多数輩出する法曹養成制度を構築する。こうした視点   をふまえて、現在議論されているロースクールの制度設計を行う。

(5) こうした制度改革の開始と合わせ、その早急な実現のため、判事補の新規採用   は2005年から廃止する。現行の判事補制度は10年間は残存する。2015年で判事補   がいなくなる。その後も一定期間制度は併存するが、2045年ころには全ての裁判   官が法曹一元制度により選任された裁判官となる。
 
(6) 最高裁判所裁判官のジェンダーインバランスは、深刻である。年齢バランスの   欠如も著しい。これらは内閣の指名権、任命権の適切な行使により、容易に改善   しうる。民主党政権が最初に着手する課題のひとつである。


4 市民が参加する市民の司法へ――陪審制・参審制

(1) わが国では、昭和3年から18年までの15年間にわたり陪審制が実施されて   いたが、現在は停止状態にある。市民が主役の「市民の司法」を実現するため、   市民が陪審員として裁判に参加する制度、陪審制を復活させる。また、事案に応   じて市民が裁判官と共に審理に参加する参審制を導入する。
    陪審制を定着させるためには、陪審員の選任手続き、陪審法廷での適正な審理   が重要である。選挙人名簿から陪審員数の数倍の者を無作為で選び、そこから、   厳格な選任手続きにより不適格者を排除し、精選された者によって、陪審員を構   成する。

(2) ちなみに陪審が行うのは、事実の認定であって、法の適用ではないから、陪審   員には専門的な法律知識は求められない。陪審制は、事実の有無の判断を一般市   民に委ねるが、事実の法律的評価は裁判官が行う。陪審制のもとでは、審理期間   中、陪審員の参加が必要となるから、集中審理を行わざるを得ず、審理期間も短   縮される。これに応じて徹底した証拠開示制度など、訴訟手続きの改善も不可欠   となる。
    陪審制が採用されると、法律専門家でない陪審員や一般市民にも理解しやすい   よう、裁判手続が説明され、裁判が市民に身近になる。あわせて市民が、陪審員   として裁判への関与の形で、司法についても公的な職責を果たし、新しい民主主   義の発展に寄与することになる。

(3) 具体的な実現のプロセスとしては、当面は刑事重罪事件に限定してスタートさ   せる。全国の地方裁判所の本庁で、陪審制度を実施する体制をすみやかに整え    る。施設整備上の困難を理由にその実現を遅らせてはならない。裁判所内の陪審   法廷に固執することなく、関係法令の改正により、裁判所管轄地域内の他の公的   施設を活用するなど、制度の運用を工夫する。従来どおりの裁判も、当事者の選   択により可能な併存システムとする。

(4) 行政事件については、陪審制の早期の導入を検討する。民事事件については、   陪審制の導入を視野に入れつつ、まずは市民が裁判官と共に裁判に加わる参審制   を導入する。専門家を裁判に加える「専門参審」は、必ずしも市民の司法参加と   はいえず、一般市民の司法への参加を予定した本来の参審制とは異なる。裁判官   が安易に専門家の判断に頼ったり、また例えば医療過誤訴訟で、病院側に与する   ような医師のみを専門参審員とするようなことのないよう、専門参審の導入に際   しては、運用上の注意が必要である。特定領域の専門知識を有する法曹を育成    し、そのようなものを裁判官に登用する制度の導入もあわせて検討する。

(5) 陪審制、参審制により市民が参加することで、司法は常に市民の日常の話題と   なり、そのことで常に原点から試され、制度に新しい風が吹き込まれることにな   る。ジャーナリズムによる司法についての実り多い議論も期待される。市民の司   法への参加意識の高揚も重要である。
    陪審制も参審制も、多くの国々で現に行われており、わが国のみが行い得ない   はずがない。司法制度改革の重要課題として、早期の実現をめざす。


5 司法の行政チェック機能の強化――行政訴訟手続の改革

(1) 規制緩和により、事前規制から、透明なルールによる事後規制へと、時代は動   きつつある。しかし肥大化したわが国の行政の改革は、まだ緒についたばかりで   あり、行政国家の様相は未だ色濃い。さらに司法は、行政を法的にチェックする   機能を担っているが、現在の行政訴訟制度はその役割を果たしていない。
    行政訴訟事件は、諸外国に比較して件数が少ない。これは決して国民が行政に   満足しているからではない。救済システムが整備されておらず、不満を自ら押し   殺しているからに過ぎない。

(2) 行政訴訟が機能しない原因は、行政事件訴訟法がきわめて制約の多い制度で、   市民が救済制度として使いこなせない等、手続法的な欠陥に存する。さらに第二   の原因は、官僚裁判官が行政に強い親和性を有し、行政に対し司法消極主義をと   ってきたことがある。
    国民主権を実質化し、行政と市民の関係を、市民を統治の客体とする思考か    ら、市民を主体とする行政へと転換させるには、先進国では抜きんでて容量の小   さな司法と肥大化した行政との関係を抜本的に見直し、市民が行政をチェック    し、司法がその手段として機能するよう、司法の行政チェック機能を抜本的に改   革し強化しなければならない。そのため、行政改革と並んで、行政事件訴訟の手   続を、市民に利用しやすいように改善することが、緊急に達成すべき課題であ    る。
    行政事件への陪審制の導入により、官僚裁判官の行政親和性が是正される。

(3) 具体的には、情報公開法の実効性ある運用とともに、行政不服審査法と行政事   件訴訟法を改正し、法の目的を明示し、訴えの利益や当事者適格の緩和、不服対   象の拡大など抗告訴訟制度を抜本的に見直し、手数料、管轄、出訴期間などを改   善する。同時に、個々の行政実体法についても、行政の恣意的裁量を排し、国民   の利益を守る方向での改正に取り組む。


6 司法の後見的機能の充実――家庭裁判所の飛躍的充実強化

(1) 法を硬直的に適用して、強権的・機械的に争いを裁くだけでは、司法は市民に   身近なものにはならない。ある分野、ある場面においては司法が積極的に後見的   な役割をも果たすべきことが必要である。

(2) 少年事件処理については、家庭裁判所の機能が弱体化しているという指摘があ  り、少年事件の動向と社会の関心の増大に鑑みれば、対応は急務である。民主党   は、先に18歳成人制を提唱したが、これに対応した少年法制の改革に取り組む。  さらに、少年の育成機能の拡充の観点から、家庭裁判所調査官の倍増をはじめ、少  年育成諸機関の人的物的充実を図るなど、少年育成の環境整備を行う。少年非行   防止のためには、教育機関と、少年警察、保護観察所、児童相談所など各種行政機  関、民間団体、個人の地域での協力ネットワークを構築するなどの総合的な施策が  必要である。

(3) 離婚・相続・子の養育・高齢者の介護など多岐にわたる家事問題についても、   家庭裁判所の相談窓口を充実させ、その解決へ向けたアクセスポイントとして一   層機能するような運用を図る。さらに成年後見制度の積極的、適正な運用等、安   心して暮らせる国となるよう法曹の協力によるきめ細かな制度への改善を行う。   そのための人的物的充実を図る。


7 法律扶助・犯罪被害者保護の充実

(1) わが国の法律扶助制度は諸外国に比して著しく遅れており、司法の広範な利用   を妨げる大きな一因となっている。民事法律扶助法の成立と関係予算の飛躍的増   大は、画期的なことではあるが、それでもなお予算規模は先進諸国に比してまだ  少額であり、扶助規模の抜本的な拡充を図る。併せて、被疑者弁護についても、公  費による弁護制度を速やかに導入し、適正な刑事司法の実現をめざす。

(2) 犯罪被害者保護は近時ようやく取り上げられたとはいえ、その規模、制度内容   ともに、極めて貧弱である。極めて明白な人権侵害である犯罪に対してその被害   者に精神的、物質的に十分な保護が及ぶよう、先に提出した「犯罪被害者基本    法」の実現をはじめとする立法措置を含めた制度改革を行う。


8 裁判の適正・迅速化等

(1) 裁判の迅速化が叫ばれて久しい。現行の裁判に時間がかかりすぎることは、司   法制度に対する国民の一致した批判であり、それを改善することは当面の急務で   ある。しかし、裁判の迅速化にあたっては、「適正」な審理・判断を犠牲とする   ことのないよう留意するべきである。

(2) 裁判において、真実を発見し適正な判断がなされるためには、証拠の偏在を是   正し、証拠の隠蔽を許さないよう、証拠開示を徹底し、集中審理前の準備手続き   において全ての証拠が提出されることが重要である。そのためにもディスカバリ   ー制度を導入し、両当事者が対等な訴訟上の武器を得ることを保証すること等を   検討する。そのうえで、裁判所と当事者の打ち合わせにより、それぞれの訴訟の   個性に応じた審理計画の策定を制度化する。

(3) 現行の訴訟手続きは、民事、刑事ともに、障害者や外国人のアクセスへの配慮   に乏しい。
    現に刑事事件では、円滑な手続きの進行が妨げられ、深刻な事態となるケース   も見られる。裁判所内の移動のバリアフリー化はもとより、通訳人の充実等によ   り、これらのアクセス改善を図る。


9 裁判外紛争処理機関(ADR)の充実、隣接士業の活用

(1) 法律上の紛争解決は、裁判手続きのみで実現されるものではない。これまでも   様々な裁判外紛争処理機関(ADR)は存在した。しかし、今後の紛争の国際化、複   雑化、専門化に対応して、司法サービスを多様化し、迅速に紛争処理を行うため   に、ADRの充実を図る。

(2) 弁護士以外の隣接士業については、税理士の税務訴訟出廷陳述権、弁理士の侵   害訴訟代理権、司法書士の簡易裁判所手続きへの関与と法律相談業務、社会保険   労務士の労働関係事件への関与など、司法制度の中での適正な役割分担に加え、   ADRの中での活用を検討し、多様な法的サービスが適切に提供される制度改革を図   る。


10 おわりに――21世紀の司法のために

(1) 医療サービスの充実が、国民の健康にとって不可欠なように、司法サービスの   充実は、国民の権利や自由の確保と財産の保障にとって不可欠である。健康の確   保と権利の保障は、どちらが欠けても「幸福追求権」の実現は万全といえない。   医師の人口増と保険制度の普及により、国民医療が確保されたように、法律家の   量的充実と司法制度の市民化により、国民の司法を実現しなければならない。

(2) いかなる法律的紛争についても、いつでもどこでも法律専門家の法的サービス   を充分に受けられるよう、弁護士制度を質量ともに充実させる。そのため、法律   扶助制度と権利保護保険の充実を図る。弁護士の適正配置のため公設事務所を充   実させ、多様な規模や展開形態の事務所を育成する。そのため、地方公共団体や   弁護士会にも新たな役割を求める。

(3) 私たち民主党は、現在の貧弱な官僚司法に代えて、容量・質ともに充実した市   民が主役の司法を実現する。そして、社会のあらゆる分野、あらゆる地域で、迅   速で適正な裁判が行われ、国民の権利が実質的に保障され、国民が質の高い法的   サービスをうけられる国をめざす。そのための具体的活動に、直ちに着手する。



民主党の司法政策

 1. 法曹人口を10年後には、5万人とし国民に対し法的サービスが行き渡るようにする。

 2. 民主的な推薦委員会の選任手続きにより、法曹経験の豊かなものから裁判官を選ぶ法曹一元制度を、21世紀初頭の遅くない時期までに実現する。

 3. 市民の司法参加である陪審制・参審制を実現する。

 4. 行政訴訟手続を改革し、行政に対する国民の権利保障を行いやすい制度を実現する。

 5. 少年の健全育成、家事紛争の解決や豊かな後見制度のために、家庭裁判所の機能を飛躍的に充実させる。

 6. 法律扶助制度を充実させ、実効ある支援制度を実現する。

 7. 犯罪被害者基本法を成立させ、被害者の権利を確立する。

 8. 裁判の迅速化と証拠開示や証拠の早期提出等の適正化をはかる。

 9. 仲裁制度等裁判外紛争処理制度(ADR)を充実させ、隣接士業を活用する。
 
10. 最高裁判所のジェンダ−バランスを実現する。

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