民主党衆議院議員 奥田 建
私は民主党を代表して、ただいま議題となりました 内閣提出の「犯罪被害者等の保護を図るための刑事手続に付随する措置に関する法律案」について質問いたします。
犯罪行為によって命を奪われ、あるいは心身に傷を受けた被害者の人権に焦点をあてた法案が国会に提出され、こうして審議されるというのは、わが国法制史上画期的なことであり、意義深いことだと評価いたします。 犯罪被害者はこれまで法的に明確な位置を与えられてきませんでした。 犯罪を裁く手続を定めた刑事訴訟法の世界にも、一方の当事者である犯罪被害者の居場所はなかったのです。
いかなる犯罪にも加害者と被害者が存在します。 加害者の人権については、憲法や刑事訴訟法に規定されています。 同様に、被害者の人権も保障されるべきであります。
憲法第十三条は「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」と謳っています。 103条に及ぶ日本国憲法の条文のなかで、基本中の基本ともいわれる条文ですが、犯罪被害者にとっては、 どこの国の憲法かと思えるほど無権利状態におかれているのです。
そこで、まず、犯罪被害者の人権保障についてどう考えているのか、臼井法務大臣の基本的認識をお尋ねいたします。
民主党の犯罪被害者基本法案は、被害者の権利を明確にした上で、被害回復、社会復帰を支援するための総合的施策の実施を規定しています。 同案については、先に法務委員会で行われた参考人の意見聴取でも、被害者の立場から早期の制定を望む意見が出されていますが、政府は、基本法を制定する意思はおありでしょうか。 前向きのご答弁をお願いします。
犯罪被害者が放置される社会は、「明日はわが身」 ということで、すべての国民に不安をもたらします。 事件が起きて被害にあったときから、被害の回復や社会復帰に至る過程のすべての段階で被害者に適切な配慮 と支援をすることが不可欠です。
以下、政府案と犯罪被害者行政について、具体的項目に沿って質問をいたします。
政府案は、一連のプロセスのごく一部分である刑事手続における被害者の取扱いを規定しています。待ち望まれていたものとはいえ、これだけでは不十分と言わざるをえません。 まず、事件が起き110番をすると警察官が駆けつけますが、同時に、場合によっては、警察よりも先に公的機関の相談員や支援ボランティアが駆けつけ、被害者や家族のケアに当たるという仕組みができないものでしょうか。 被害者や家族は心身にダメージを受けながら、さまざまなことを処理しなければなりません。 相談員やボランティアが病院や警察に付き添い、あるときは遺体の確認、葬式の手配などを援助できるようにする。 法的援助が必要な時は弁護士と連絡をとり、 マスコミへの対応もしてくれる。 こうした仕組みについて、法務大臣のお考えはいかかでしょうか。
池袋の通り魔事件で娘さんを殺された遺族は、救急救命費として174万円を請求されたそうです。 「凶器も死因もはっきりしているのに司法解剖された。 解剖の場所は汚くて、被害者への哀悼の意がまったく感じられなかった」 という遺族の言葉に、胸がふさがる思いであります。 加害者が負傷した時は、きちんとした医療施設で公費による治療を受けられるのと比べると、何という違いでしょうか。 せめて、被害者の医療費は公費負担にすべきではないでしょうか。 また、1981年に施行された犯罪被害者等給付金支給制度は適用対象も金額も不十分であり、ぜひ見直していただきたい。 法務大臣の見解をお聞かせください。
次に、被害者の知る権利に関連して法務大臣に伺います。
法務省は被害者等通知制度を昨年の四月からスタートさせ、被害者に対し、通知を希望するかどうか確認し、事件の処理結果、公判期日、裁判の結果など刑事事件の情報提供をすることになっています。 しかし、不起訴裁定の主文や理由の骨子、拘留・保釈等の身柄の状況は、希望の有無を確認されることもなく、被害者が検察官に対し情報の提供を申し出た時に「通知することができる」とされています。 これは、通知しないこともあるということでしょうか。 どういう場合に、通知しないのでしょうか。 ご説明をお願いします。 あわせて、この一年間の通知制度の実施状況についてご報告下さい。
被害者は、当事者である自分に何も知らされずに刑事手続が進んでいくことで、ますます疎外感を強めてしまいます。 ふつうの市民が、このような法務省の実施要領を知ることなど不可能です。 被害者を置き去りにしないために、まずは、被害者はどのような情報を知ることができるかを知らせるシステムが必要ではないでしょうか。 とくに、自分に犯罪行為を働いた加害者が不起訴になったとき、その理由を知りたいと思うのは当然であります。 また、加害者が保釈されるとなると、被害者としては不安でたまりません。 性犯罪などは再犯性が高いことから、具体的な身の危険もあります。 これらの情報が他の情報とくらべて、アクセスしにくくなっているのはなぜでしょうか、納得できません。
続いて、犯罪被害者等保護法案に規定された被害者の優先傍聴について伺います。 マスコミが注目する裁判は、傍聴者も多く、抽選で外れたら被害者も傍聴できなくなりますが、本法案はそうした事態に配慮しようというもので、率直に評価したいと思います。 しかし、その対象は、「被害者又はその配偶者、直系の親族若しくは兄弟姉妹」となっています。 人によっては叔父さんや叔母さん、あるいは友人などが家族同様の親密な人かもしれません。 わざわざ、このような限定をする必要があるのでしょうか。 ちなみに被害者等通知実施制度要領では、通知の対象を「被害者、その親族若しくはそれに準ずる者」としています。 これで良いのではないですか。 ぜひ第二条の対象を拡大するよう見直していただきたい。
これらの点について、法務大臣の明快な答弁を求めます。
最後に、警察の犯罪被害者への対応についてお尋ねします。 これまで、警察がどの機関よりも犯罪被害者対策を実施してきたことは承知しております。 しかし、(埼玉県)桶川のストーカーによる女子大生殺人事件にみられるように、被害者への配慮どころか、被害者を死に追いやったケースが起きており、いったい一線ではどのような被害者対策が行われているのか、疑念を抱かずにはいられません。
98年8月に警察庁が作成した「警察の犯罪被害者対策」という冊子には、こうあります。「――些細な事件でも犯罪であることに変わりはありません。――警察では、まずは被害者の話に親身になって耳を傾け、誠実な対応をするよう体制が整えられています」と。 さらに、昨年6月に改正された犯罪捜査規範には、被害者対策の一層の推進が盛り込まれています。 この通りに警察の対応が行われていたら、桶川の事件は起きなかったはずです。 告訴までして保護を求めたのに、警察は、保護するどころかその告訴さえないものにして虚偽の公文書を作成しました。
全く同じようなことが兵庫県警でも起きています。 愛知県警では少年の恐喝事件の被害届が適切に処理されず、被害を拡大させました。 警察業務は適切に運営されているのでしょうか。 新人警官には被害者への対応について研修が行われているようですが、厳しい階級制の警察では幹部警官の意識が変わらなければ、被害者対策も進まないのではないですか。 この際、犯罪被害者対策の実施状況について業務監察を行ってはいかがでしょうか。
森内閣は早々に警察法改正案の出し直しを見送ったようですが、いったい警察改革を進める気があるのでしょうか。
保利国家公安委員長の見解を求め、私の質問を終わります。
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